1/27 風と雲と虹と 船間初釣行


初の船間釣行

黒潮が走る太平洋に開いている南九州。磯釣りに魅了されて早10年。思えば、いろんなところへ釣りに行ったものだ。離島の磯であれ、半島周りであれ、堤防であれ、その場所ならではの面白さがある。そんな中でも一度も足を踏み入れていない場所がある。鹿児島県大隅半島船間である。



船間とは、船の入港が途絶えていて物資が入らない状態を指す。地名と言葉の意味にどのような関係があるかは分からないが、少なくとも大きな港があるような感じがしないのは確か。ところが、その言葉とは裏腹に、船間では昨シーズンと今シーズンと好調が続いているそうだ。ブログでお世話になっている黒石会会長さんから発信される釣果情報に連日くぎ付けになっていた。最近の甑島や離島でも中々でない口太のデカバンが数上がっているとのこと。いつかはこの磯に立ちたいと思いながらも、交通の便などを考えるとどうしても躊躇してしまっていた。



今回の釣りは、船間をHGとする黒石会会長さんからの申し出により実現した。会長さんの方から、「27日に釣りに行きませんか?」という有難いお誘いが。27日は、空いていたので断る理由は見当たらない。「ぜひお願いします」ということで、船間への初めての挑戦が実現したのだ。



心配していた天気も北西の季節風が吹くものの、そこは大隅半島の船間。全くの風裏で波予報では、大隅半島の佐多、辺塚、船間、内之浦あたりは1.5mで造作もないものだった。


長距離ドライブを案じてuenoさんに連絡を取ってみる。「ずっと行かれんもんなあ。2日(2月)しかあいとらんとタイ。」このところの時化と土日の仕事やらなんやらで、uenoさんもどうやら宇治での惨敗以来出撃できていないようだ。これはチャンスかも。「明日は空いてますか。」「うんあいとるばってん。どけ(どこへ)行くとな。」「船間ですよ。」「えっ船間なそこは釣るっとな。」「この前も50オーバーが上がっているみたいですよ。」いつものように、十倍くらいに膨らまして釣況を伝えた。「ほんとな。そんなら行ってみよか。」ほら、予定通りやる気になったuenoさん。こうして、初めての船間挑戦にuenoさんをまんまと巻き添えにして準備を進めることにした。



午後7時過ぎに、携帯が鳴った。「予定通り出ます。630分出港です。でも、早めに着きたいので、私の自宅で待ち合わせましょう。」有難い申し出を発するだけでなく、こちらの道案内までしてくれるという。そのお言葉に甘えて、とりあえず、会長さんの自宅にお邪魔することにした。



午前1時半ごろにuenoさんと待ち合わせ人吉を出発。九州自動車道を南へ下り、えびのJCから宮崎自動車道をしばらく走る。都城ICで降りて一般道へ。鹿屋まで走り、そこで会長と待ち合わせて船間へレッツラゴー。初めての釣り場に行くのは本当にドキドキするものだ。しかし、その興奮は、釣り人としてあり得ない失態を演じさせた。

「あれっ、でたー。忘れたバイ」

どういうわけだか、会長さん宅につくなりuenoさんが叫び声をあげた。

「一体どうしたんですか。」

中々その理由を言わないuenoさん。かなり落胆している模様。もしかして、竿とかリールを忘れたとか。

「いいや、そんなんじゃなかバイ。ライフジャケットばわすれたったい。」

なんだ、ライジャケか。釣りができないわけじゃないから。

「あのなあ、ライジャケにウキやらハリスやら、小物やらなんやらはいっとったっバイ。」

「だいじょうぶですよ。わてが貸しますから。」

「こがんこつは初めてバイ。」

相当動揺しているようだ。まじめなuenoさん、今までなかった失態を演じた自分に腹が立っている模様。

 でも、嘆いていても仕方がない。なんとかなだめて車に乗せてきたのだった。船間港は思ったより小じんまりした小さな港だ。普段は静かで人の気配も少ない感じだが、午前540分過ぎの今、驚くべき人たちでごったがえしている。彼らは、気温2度の寒さの中でも、目をキラキラさせながらそれぞれ熱いアクターとなっていた。煙草をくゆらせながら今日の天気を予想する者あり、にぎやかに今日の釣りの展開をシュミレーションする者あり、荷物をあわただしく積み込む者あり、釣り人の行動は様々だが、自分の釣りたい魚に向かっていることはみんな同じだ。


kamataさん、今日乗る瀬ですけど、よく釣れるけど足場が悪いところとまあまあで足場がよいところではどちらがいいですか。」


荷物を乗せようとするころ、会長さんがこんな提案をしてくれた。この話をuenoさんが聞き逃すはずはなく、「やっぱ足場がよかところがよかなあ。」と軽くジャブが来た。そうuenoさんは、釣れるという情報よりもまずは足場がいいかどうかが気になる人だ。



 今回お世話になる啓千丸さんは、6隻ある渡船の中でも大きい部類に入る船だ。それぞれ14,5人の釣り客を乗せて走るので、90名近くいるのではなかろうか。船間という釣り場にこれだけの人数が集まるなんて。1月後半ということで寒グロの最盛期と考えれば納得の状況ではあるかもしれないが、このところ釣り人が激減している離島の渡船と比べると本当に活気にあふれた釣りへの出発風景だと感じた。



 午前6時20分頃、啓千丸はにぎやかな船間港をゆっくりと離れた。おどろくほど狭い港内をゆっくりと進み、自然が造ったとは思えないがきちんと並んでいる巌と人類の英知を集めたコンクリートの延べ棒とがアウフヘーベンされた不思議な堤防を抜けると、そこには漆黒の太平洋が待っていた。暗闇の中でもわかるほど予報通り全く問題ない凪。その堤防の出口に6隻の船が出そろったと思いきや、船は全速力で走りだした。それぞれの船は離島便の船に比べると小さいが圧倒的な速さで走っている。まるで競争しているようだ。釣り人の竿ケースを海に落とすほどスピードを出す門川の渡船以来久しぶりに高速の船に乗った感じがする。



右手にうっすらと姿を現し始めた断崖が見えてきた。太陽のスペクトルが暗闇のベールを少しずつはがしにかかっている。夜明けが近づいてきているのだ。刺すような冷たい風に当たりながら、みな静かに渡礁の時を待っていた。このエンジン音と驚異的な速さのスクリュープロペラの音はどこかで聞いたことがある。小学生低学年の頃、父親に連れられて競艇場に行ったとき聞いた音と同じだ。ベレー帽をかぶり、赤鉛筆をなめなめしながらスポーツ新聞らしき紙に羅列してあるわけのわからない記号にしるしをつけている父親の姿がふと思い出された。その顔は普段家では絶対見ることのできない少年のように目をキラキラさせた顔だった。すでに故人となっているので、なぜ小さなわが子を競艇場に連れていったのかは今となってはわからないが、なぜか今その時の大脳皮質の記憶が40年の時を超えて今まさにシナプスによって結ばれた。あの時、見ていた船に今私は乗っているのだ。そして、あの時の競艇に興じる父親の喜びが今私の期待と重なったのだった。




 帽子を飛ばされないように手で頭を押さえながら、右手に目を向けると、すっかり明るくなったことで断崖の形や色が目視できるようになってきた。



 その断崖は硫黄島のそれとは違い、白く丸みを帯びている。主に溶岩で形成されたごつごつした黒い硫黄島の断崖は男性的で力強い。しかし、船間の白く丸みを帯びた巌は温かみがあり女性的な魅力を持つ。時折、岩の間から海に淡水を供給する滝がいいアクセントを醸し出している。船はかなり走り続けたが、まだまだ到着しない。100名近くを収容しなければならないこの釣り場は、当然のことながら広大だ。





15分ほど走り続けてようやくエンジンがスローになった。最初の渡礁が始まった。黒石会の会長さんと一緒に来られたA達さんがポーター役をかって出ておられた。

「船間はもともと石鯛場なんですよ。だから、水深が結構深いです。」と会長が教えてくれた通り、シズミ瀬はあるが、基本的にはドン深が多いように見える。5か所ほど渡礁させた後、A達さんから船首部分に来るように合図された。いよいよ我々の番だな。

船首部分に荷物を運んでいると、会長さんがおもむろに近づいてきた。「kamataさん、3番(よく釣れる方の磯)にしませんか。足場もそれほどわるくないですよ。」会長さんは、よほど3番を進めたいらしい。これほど進めるのだからきっとかなりの実績があるのだろう。会長さんの言葉に従いトビ瀬の3番に乗ることにした。

船がつけられた。すばやくその磯に飛び乗る。荷物を受け取る。船長からと会長さんからのアドバイスがとぶ。「右の方(ワンド)で釣ってください。潮が引けば左の方に下りて釣ってください。」我々を渡礁させると船はあわただしく去っていた。

すっかり明るくなった磯場で、大きく深呼吸してみる。上を見上げるとオレンジ色を帯びた雲があわただしく空を滑っている。上空ではかなりの風が吹いているようだ。しかし、ここでは刺すように冷たいがそよ風だ。大隅半島全体がこの強烈な季節風をがっちりと受け止めてくれているからだろう。会長さんが足場が悪いと言っていたトビ瀬3番は、ごつごつしており硫黄島の新島にそっくりの足場だが、新島よりは全然足場がよかった。

kamataさん、一式貸して。ほら、ライフジャケット忘れてきたけん。」

そうだった。自分のタックルを準備しながら、uenoさんに仕掛けを渡した。

 竿は、メガドライM2の1.5−53.道糸とハリスは2号で、とりあえず、魚のタナを探らなきゃと半遊導G2のウキの沈め釣りでタナは竿1本くらいから始めた。




 まずは、ワンドを攻めてみる。潮は速く左の岸に向かって流れている。これでは釣りにならないと、ポイントを瀬際にもっていった。このような形の磯では足下からぬうっとクロが出てくることがある。朝寝坊のクロをねらうことにした。3投目のことだった。ウキにわずかな変化が現れたと思ったら、一気に消し込んだ。よっしゃあ、早速釣れたか。少々強引に勝負した魚は初動の引きのわりにあっさり水面を割った。色は申し分なかったが、魚体が残念だった。とがった口に尾ヒレの根元に三本のいやな班点が。船間初釣果は以外にもあまり釣ったことのないサンノジ(ニザダイ)だった。外道だったので残念だが、とりあえず、魚の活性はあることがわかり、本命をめざして釣り続けた。Uenoさんも針結び器がないと大騒ぎしていたが、私の結び方を見ながら自分で結ぶ方法を体得し釣り始めていた。


 さて、釣り始めから1時間弱が経った。ところが餌が全くもたない。どうも仕掛けがなじむ前に活発な餌盗りが餌を喰っている模様。厳寒期のクロ釣りなのに、この餌取りの量は半端なかった。海を見ると、しばし唖然となった。コガネスズメダイが縦横無尽に餌を拾って水面にまで浮いてくる始末。ほどなくキタマクラを釣ることで今日の餌盗りは、コガネスズメダイとキタマクラということが判明した。


kamataさん、アタリあるね。餌取りのすごかなあ。」



もう十年以上も一緒に釣りをしているuenoさん。こんなセリフを吐き始めるときは大抵ダメなときだ。この1月にこの餌取りの元気の良さは経験がなかった。水汲みバケツで水を触ってみるが、なんとぬるい感じがした。そう言えば、釣ったキタマクラはまるで使い捨てカイロのような温かさだったな。何か海で異変が起こっているのだろうか。それともこれが船間の本来の姿なのだろうか。


とにかく、餌取りの層を突破しなくては、クロの口元に餌を運ぶことができない。そこで、まずは瀬際に餌取りを集めて沖を釣る作戦に出た。ところが、コガネスズメダイは数で勝負してくる。ウキの近くに撒き餌をかぶせようものならあっという間につけ餌をついばんでしまう。あっちむいてほい釣法、居眠り釣法、そして、餌取りを撒き餌で沖へ追い出して瀬際を釣る作戦も試したが、つけ餌は瀬際で張っていたサンノジの餌食になるのだった。

「こら釣れる気せんなあ。」

やはくもuenoさんはあきらめムード。昼食を食べてからは、二人ともいつの間にか休憩が多くなっていった。でも、休憩もいいものだ。初めてやってきた磯場で、釣り場の情景をじっくりと楽しむのも悪くない。じっと耳を澄ませていると鳥の鳴き声が聞こえてくる。冷たい風に心地よい鳥の声。加えてマイナスイオンのさわやかさ。海のセラピーにはもってこいの状況。仕事で疲れ切った体が少しずつ癒されていく。ここには、わけのわからない人間界の権力闘争も妬み嫉みもない自由な世界だ。自然の中で自分のやりたいことに没頭できるこの瞬間こそが、最も贅沢な時間ではないか。昼食をとった後急に眠たくなったおいらは、おやじギャグを飛ばしたりして、ちょっとしたことでも笑ってしまう。ランナーズハイいや寝不足ハイテンションのようだ。学生時代、徹マンをしていた時に、夜明け前に突然ちょっとした一言で笑いが止まらなくなることがあるが、正に今がその状況のようだ。


瀬際に撒き餌につられてやってきたイワシゴの群れをねらって一羽の鳥が何と口を開けて泳いでいるではないか。カメかなと思ったその魚はウミガラスのように水中を泳ぎながら魚を捕食している。そのユーモラスな情景は見ていて本当に楽しくなってきた。さあ、あと3時間悔いのないように釣るかな。釣り座をあちこち変え、仕掛けもいろいろ変えながらもどうしてもクロを喰わせられなかった。納竿の30分前に渾身のアタリをとらえたが、浮いてきた魚は全く期待外れのサンノジだった。この釣果を合図に初めての船間釣行を終えることにした。


午後4時前に船は回収にやってきた。

「どうでしたか。」会長さんたちが心配して釣果を聞いてくる。

「餌の入れ食いでした。」

こう言うのが精いっぱい。初めて訪れた船間のクロに完敗だった。会長さんが申し訳なさそうに

「潮の動きがよくなかったですからねえ」

と言ってくれた。魚は釣れなかったが、十分に楽しませてもらった。釣らなかったからこそ、また次の船間釣行をリベンジと銘打って計画することができるではないか。こちらこそせっかく会長さんによい瀬を選んでいただいたのに申し訳なく思ってしまった。


 回収の船の速度は、行きの速度とはあきらかに遅いスピードで滑っている。左手に女性的な断崖を見ながら回収風景を眺めていた。今日は、瀬ムラが結構あったようで、釣れたところと釣れなかったところに分かれたようだった。大隅半島のクルージングを楽しんだ後、港に近づくと、だれかが、こうつぶやいた。

「虹だ」

 今日の釣りの後半は、雨雲がやってきて強い風が吹いたと思えば、予報ではありえない雨やみぞれが降って釣り人を困惑させていた。そんな風と雲が見事な虹を演出してくれた。目の前で見る虹の美しさは格別だった。初めてこの船間にやってきた我々に歓迎の意を表していると勝手に意味づけながら、必ずこの船間に再びやってきて魚のとの知恵比べをするぞと虹に誓うのだった。 

  港に帰って反省会の後、帰りのドライブを心配して、黒石会会長さんたちが途中まで着いてくれた。このお二人の真心に本当に感謝感激だった。おかげで、帰りのドライブはドリンクを飲むことなく一度も眠くならずに無事に自宅を帰りつくことができたのだった。

黒石会会長さん、A達さん、楽しい釣りをありがとうございました。いつか必ず船間に再挑戦したいと思います。そのときはまたよろしくお願いしま〜〜〜〜す。


鹿児島は24時間営業が多い気がします

活気あふれる船間港

めっちゃ速い船でした

黒石会の方々がポーター役を

啓千丸さんお世話になります

美しい船間の夜明け

とび瀬3番船着け

硫黄島新島より断然足場がいいです

ライジャケを忘れたuenoさんようやくやる気に

贅沢なビールで気合を入れます

最初の訪問客はサンちゃん

船つけで勝負するuenoさん

ワンドを攻めてみました

さわやかな鳥の鳴き声が

餌盗りがすごいです

こいつが餌盗りでした

船つけでがんばるuenoさん

瀬際をねらうとこいつが

釣れんなあ

最後の渾身のアタリもサンちゃんでした

ありがとう とび瀬3番

会長さんからいただきました

刺身と白子まいう〜〜〜

マーボーの素を入れて炒めてみました


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