3/4 見える魚は釣れません? 宇治群島


春の宇治群島へ

2013年冬。いつものようにシベリアからやってきた寒気団は、日本列島に記録的な大雪を降らせた。青森県では、561センチもの雪が降ったという。これも地球温暖化影響か。


早く冬が終わってほしいと願う人の中で、冬が終わらないでほしいと意味不明な願いを抱く輩がいる。ご存じ磯釣り師である。


彼らは、この寒いのに磯に上がり、釣れもしないのに寒空の中で釣りを楽しむという恐るべし輩たちである。特に、尾長という魚に思わず熱くなるというたちの悪い性格も持ち合わせている。かく言う私もその一人である。

尾長シーズンに入り終盤を迎えている3月、ようやく釣りに行けることになった。ぼやぼやしているとお魚さんは産休に入ってしまう。


焦る気持ちを内に秘めながらサザンクロス上宮田船長に連絡をとる。「いいですよ。12時出港です。」今回はuenoさんは都合で行けず、単独での釣行。

手早く準備を済ませ、自宅を9時半に出発。九州自動車道を南へ下り、鹿児島で南九州自動車道を通るルート。


午後11時半に串木野港に無事到着。すでに、サザンクロスはきらびやかなサーチライトの光を放っていた。


すでに荷物の積み込みは終わってしまったようで、私がどうやら一番最後の登場のようだ。

「昨日は水温が急に上がって18度だったんですよ。口太の喰いが悪かったですね。」

無口な方もいるが、渡船屋の船長は総じて話し好きな人が多い。上宮田船長はもともと釣り師らしくポイント解説は鹿児島の渡船屋の中でも最も親切だ。釣り師の気持ちを限りなく汲んでくれる便りになる船長だ。

 船長にあいさつを済ませ、キャビン内に滑り込む。今日は、かなりの人数だ。何とか後ろにスペースを見つけ、毛布にくるまった。乗船名簿を書き、横になって出航を待った。


「今日大丈夫かな」「大丈夫って」釣り師の会話を聞いていると、船酔いを心配しているようだ。今日の波予報では、1.5mのち2mと造作もない展開のはずだが。しばらくすると、キャビン内にあるB寝台車のベッドのようなところに寝ていた釣り師が話しかけてきた。


「こちらに寝ませんか。私はトイレに行きやすいところがいいので」下の床に寝ていたおいらに上の段のベッドを譲るという提案だ。有難い申し出だ。これは素直に従おう。こんな感じでベッドの上の段をゲット。何と親切なお方何だろう。その時は、そう思った。

 ぶるんぶるん。午前0時、離島の渡船としては最大規模の高速船サザンクロスは、14,5人の釣り人を呑みこんで対馬暖流に逆らいながら漆黒の東シナ海へと旅立った。


沖堤防を過ぎてからしばらくすると異変に気付いた。どすんどすん。うねりがサザンクロスを襲った。「こらえらい揺れるな。大丈夫かな。」その揺れは、だんだん激しくなっていく。仰向けに寝ていたのだが、こらたまらんと船酔い防止の胃カメラポーズで船の振動に耐える。

 揺れは益々激しくなり、ついには体が宙に浮いてしまった。おそらく3mくらいはある波だろう。そんな中でもサザンクロスは、躊躇することなく高速で飛ばしている。船の構造上、一番高いところが揺れる。実は譲ってもらったB寝台のこの場所が一番揺れた。


だんだん気持ち悪くなってきた。体はこのところの激務で疲労困憊のはずだが、全く眠ることができない。硫黄島なら90分ですぐに渡礁というところだが、ここは宇治。3時間以上の船旅が待っている。


ひたすら耐えること3時間余りでようやくサザンクロスはエンジンをスローにした。キャビンの外に出て状況を確認する。風がビュービュー。うねりは結構なサイズだ。最初の渡礁が始まる。


何度経験しても緊張する瞬間だ。ホースヘッドの先には尾長グレの宝庫「鮫島」が圧倒的な存在感を醸し出しながら堂々と鎮座。サメの壁、水道の壁、ヒナダン、小ザメなどに次々に釣り人を渡礁させていく。

kamataさんいますか。」

声がかかって、船長の声に耳を傾ける。「口太の40cmクラスが釣れて、尾長も当たってくるところに行きますが、サメの方がいいですか。」

せっかくの船長の申し出だ。断る理由はない。

船は反転し、波多江岬方面へと走り出した。しばらく走って、エンジンがスローに。名礁「南のハナレ」に3人組みが渡礁。


そしていよいよ船の中は自分一人が取り残された。向島の最南端波多江岬のやや東側の地よりの小さな磯に船は近付いている。見たところ、とても好調の磯とは思えない。


kamataさん、ここは口太が一番釣れたところです。尾長も釣れましたよ。ほとんど40cmクラスがそろったそうです。他の場所がだめでもここだけは釣れました。夜釣りは、右の低いところで釣ってください。明るくなったら裏にポイントがありますから、そこで釣ってください。」


船長は、何とかおいらに釣らせたいようだ。ここは丁度風裏になり、風の影響はほとんどない。無事渡礁を済ませ。一息つく。風裏だし、一番釣れた瀬に乗せられて船長に感謝しながら、撒き餌の調合を始めた。


まてよ。一番釣れた瀬?そう言えば、このセリフは、何かどこかで聞いたことがあるぞ。「昨日までは釣れたんだけどね。」港に帰って、船長から何度も言われたこのセリフ。撃沈した後に浴びせられるこの言葉は、かなり心に堪える。


今まで、手打でも北浦でも水島でも、もちろん硫黄島でも同じようなセリフを聞いたっけ。一番釣れた瀬に乗せられたことが今はプレッシャーとなって重く背中にのしかかってくる。

さあ、そんなネガティブなことをいってもしょうがない。折角来たんだから、思い切り楽しもう。赤アミ1角オキアミ生1角とパン粉2kgをまぜて撒き餌を調合。


タックルは、竿ダイワブレイゾン遠投5号に道糸、ハリスとも10号。船長が教えてくれたポイントは、ワンドになっていて、潮の流れも緩く撒き餌がたまりやすい。ウキは3Bの浮力にして3ヒロから竿1本半ほどをさぐった。


時は午前5時。下弦の月が妖しく海面を照らしている。赤い電気ウキがゆらゆらと漂っている。潮は沖に向かって右から手前にあたってきて左へと抜けていく。


その潮に乗せて流していけば、尾長が居れば喰ってきそうな雰囲気。撒き餌をたっぷり間断なく撒いて魚のアタリを待った。


しかし、釣り師の期待とは裏腹に電気ウキはマツカサの小さなあたりを表現するにとどまった。この潮なら、ウキ釣りにしなくてもいいかも。10号錘をつけ、硫黄島の尾長釣りのように完全に宙釣りの仕掛けにして瀬際を探ることにした。


すると、フエフキの子、オジサンなどが喰ってきたが、明るくなるまで残念なことに尾長らしき雰囲気を感じることなく期待の夜釣りは終わるのだった。

 朝になって、しばらくは尾長ねらいで太仕掛けをあやつるも全く魚の気配がせず、心が折れてしまい、8時前くらいから、口太釣りの仕掛けを作って裏のポイントに移動することにした。

 撒き餌の入った思いバッカンを持って裏の水道に移動して、眼前に広がる情景に思わず足が止まってしまった。40cmクラスの口太が水面に浮いて、餌らしきものをついばんでばしゃばしゃやっているではありませんか。


「浮きグロだ」これが船長の言う口太の40cmクラスなのか。あわてて釣り座らしき場所を見つけて、ふるえる手で餌をつけ第1投。ところが「見える魚は釣れない」の格言通り、仕掛けどころか、撒き餌にも見向きもしない。


極上のアミ、オキアミ生、パン粉という最高のブレンドなのに。ハリスを切って、矢引きにしてみる。餌を動かしてみる。また、浮きグロの周辺をねらってみる。いろいろ試したが、どうしても喰わせられない。


見えているのに釣れないというのは本当に悔しいものだ。意地でも魚をかけるぞと何度もトライするが、どうしても喰わせられないのだ。時間は刻々と過ぎていく。


ここは、浮きグロはあきらめて無理をせずに、右に行く潮に流して釣ることにした。すると、前アタリの後、離島の磯釣りらしくウキが一気に海中に突き刺さる。道糸が走る。


心地よい魚の感触が竿を伝って腕に届く。腕の神経は、脳に伝わり中枢神経から噴出されるドーパミンで釣りという極上の快楽の波が押し寄せてくる。


アテンダー2.5号の相手としては、やや役不足な32cmくらいの口太が空を舞った。なるほど、このパターンで昨日釣れたんだな。


もう仕掛けの届かなくなったウキグロは無視して、やる気のある魚を釣ることにしよう。タナは極端に浅く、1ヒロぐらいだ。船長から2ヒロぐらいと聞いていたが、1ヒロとは驚きだ。

 こうして、4匹ほど釣って仕掛けを作り直していると、サザンクロスが見回りにやってきた。


kamataさん、どうですか。尾長は。」


だめ〜のサインを送る。「口太は釣れてますか」の声にうんうんととりあえずうなずく。「ここでねばりますね」サザンクロスは去っていった。

 さあ、これからだと気合をいれるが、ここから魚の反応がシブくなった。そして、太陽の光が差し込む頃になると、完全に魚の姿は消えてしまった。


日が差し込んでわかったことだが、ここはかなり浅い釣り場だ。底が丸見えだ。魚は当然見えないし、つけ餌がそのまま帰ってくるようになった。餌をさわってもだんだん冷たくなるにつれて、まったりとした時間がやってきた。


釣れないとどうしても集中力が途切れてしまう。ついには眠りこけてしまった。そんな時に限って道糸が走る。こりゃいかん。あわてて応戦するものの相手のパワーとスピードが一枚上手だった。チモトが切られて万事休す。この後、交通事故的に1尾追加した後はさしたるドラマもなく、回収の1時間前には片付けに入った。

 バッカンなどの道具類をていねいに洗い、回収の船を待った。1時ごろサザンクロスはやってきた。

kamataさんどうでしたか。」


ダメのサインを送ると。船長信じられないという表情。


「釣れたのは昨日ですからねえ。」


「船長、お魚は出張でいないみたいです。」


とこう言うのが精いっぱい。いつもより重く感じる釣り道具を運び、キャビン内へと滑り込んだ。あ〜〜あ、宇治まで来てこれじゃあしょうがないなあ。惨敗すると不思議とおかしさがこみあげてくる。釣れた場所よりも、なぜか自分は釣れなかった場所に魅力を感じる。


今回もまた、釣りに行きたい場所が増えてしまったか。ため息をつきながら、振り返ると宇治向島の断崖が見送ってくれている。これからまた3時間の船旅が待っている。また来るからな、今度こそ待ってろよ。そんな捨て台詞を吐きながら、3時間の船旅で港に帰るのだった。

 今回の宇治の水温は、18.1度。昨日急に水温が上がって魚の動きがあまり良くなかったということだが、今日は強風とうねりでかなり釣りづらい状況で、鮫島周りは夜釣りから朝方にかけて尾長のアタリがなかったそうだが、11時ごろから突然各所で尾長が喰ってきたとのこと。1人だけ60cmの尾長を仕留められたそうだ。口太釣りも釣れたところと釣れなかったところのムラが激しかった。

 惨敗した時の港での反省会はつらいものがあるが、1つうれしいことがあった。去年の津倉瀬の3番でご一緒させていただいたやんちゃグレさんに再び会うことができたことだ。


「お久しぶりです」


あいさつをすると、堅く握手をしてくれた。やんちゃグレさんのブログはとても面白く、もちろんいつもすごい釣果を叩きだしているお方だ。更に、やんちゃグレさんのすごいところは、コスプレーヤー磯師という新しいジャンルを打ちたてたところである。また、再びサザンクロスでお会いしたいものだ。

 さて、今回の釣行記のタイトルを苦し紛れに「見える魚は釣れない」としたが、正確には「見える魚も釣れない」だなと、自分で自分に突っ込みを入れながら、やさしい陽ざしが差し込む串木野港を後にするのだった。


早くも出船準備が整っていました

活気あふれる船間港

めっちゃ速い船でした

黒石会の方々がポーター役を

最近ウツボばかり釣ります(汗)

尾ヒレが大きいねえ

夜が明けてしまいました

めちゃ浅いポイントでした

ウキグロはこっち方面に行ってしまいました

とりあえず4匹は釣りましたけど

浅いです 何も見えませんTT

そこで粘りますね〜〜はいっ

居眠り釣法をやらかしました

5匹目は交通事故的でした

でるか 撃沈のポーズ

ありがとう無名瀬

惨敗!

クロのムニエル マスタードソース和え

貴重な白子です

真子の塩焼きは絶品でした

潮汁も最高!


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