10/18 謎の未確認浮遊物体 一辺島


魚の宝庫 一辺島

「あのちょっと腹が痛いんだよ。」

M中さんが苦痛で顔をゆがめていた。医師であるM中さんが腹痛を訴えている。一体どうしたというんだ。

「大丈夫ですか?」

と心配して声をかける。

「うん、ティッシュ持ってない?」

いつもは磯バッグにティッシュを持ち込んでいるはずが、こんなときに限って入れてなかった。出血でもあるのだろうか。

青ざめた顔で一辺島の釣り座とは反対方向にごつごつした岩場を手をつきながら歩いて行くM中さん。心配だが、急病ならすぐに船頭さんを呼ばなければならない。もしかして、朝から体の異変があったのに、私にかくして我慢していたのであろうか。たかが釣りである。釣りのために、大事があってはならない。心配だが、取りあえずM中さんの様子を見守ろう。

ここは鹿児島県錦江湾奥にある一辺島。台風一過のあと数日経った秋晴れの1018日(土)、私はM中さんとともにこの磯に朝から乗っていた。目的はもちろん魚釣り。10月に入ってようやくもらった土日の休みの1日。この虎の子の休日を逃す手はない。同じく休みが中々取れないM中さんをさそって錦江湾奥の1級磯に冬場のトレーニングにと磯釣りに出かけることにした。

 M中さんは、多彩な趣味を持ち、公私ともに多忙である。アウトドアを中心に特に自転車に力を入れている。暇があれば自転車に乗ってトレーニングをしている。だから、冬の尾長、口太釣りに向けて、一辺島で自主トレをするという考えにすぐに飛びついたのもわかる気がする。

 一辺島でのねらいはチヌとマダイ。クロもいるがサイズが今一ということで、ねらいがそのように決まった。ただ、前回もそうだったが、数万匹という単位で放流されたマダイの稚魚(チャリコ)が一辺島に居付いており、本命に付け餌を届けることが難しい。状況によっては、クロ釣りの仕掛けや撒き餌も準備しておくことにした。

 午前6時に隼人港に到着し準備を始める。しばらくすると、船頭さんがやってきて、まだ薄暗い中、亀丸は港を出た。

「昨日は、クロがよく釣れていましたよ。それから、マダイの子が多いですねえ。70cmクラスのボラがじゃまするよ。」

と船頭さんから、最近の状況を確認する。

 瀬上がりして、準備を終えて早速実釣に入った。

「チャリコが第一投から釣れますよ。」

と軽く釣果予告をする。そして、

「ほらっ、釣れた。」

苦笑いしながら、M中さんに状況の厳しさを知らせた。

釣り初めて1時間、2時間、3時間と経過する。しかし、状況は好転しない。前回と同じパターンの釣りが繰り返されるだけだった。

そのときだった。M中さんが体の異変を訴えたのは。

ところが、不思議なことにしばらくするとM中さんは何もなかったかのような涼しい顔で戻ってきた。心配して声をかける。

「大丈夫ですか。」

「うん、もう大丈夫。」

よかった。心配することはなさそうだ。こちらの取り越し苦労だったようだ。すぐに、2人は釣りに集中した。

前回惨敗しているためか、本命を何とか釣りたいと、海を凝視する。毎年、おびただしいほどいるキンギョ(ネンブツダイ)は、一辺島の瀬に張り付いている。おそらく、青物が時々にらみをきかせているのだろう。また、あまり警戒心がないのか、トウゴロウイワシはやや沖を群れで悠々と泳ぐと思いきや、何かに追われるようにナブラを立てて逃げ惑っている。また、船頭さんが言うとおり、6,70cmクラスのトド(ボラの老成魚)が表層を撒き餌に群がっては釣り人の仕掛けをくちゃくちゃにしてくれる。いつもののどかな一辺島の釣り風景だ。ところがそんな釣りに集中している時間帯に、おもしろいものを観た。

 それは、どうもこの場所には似つかわしくない物体だった。形はドーナツの輪を切ったような形で色は黄色と茶色が混ざったものだ。高速道路などで販売されている薩摩の焼きドーナツのような形と色だった。この黄色い未確認浮遊物体は、潮に乗ってぷかぷかこちらに近づいてきた。一体何だこの物体は。

 キザクラも釣研もこんな新種のウキを開発したという話は聞いていない。いやウキであるはずはない。あんな大きなウキはあり得ない。(視認性は抜群だが)3号ほどの浮力のようだし。

 ところがしばらくすると、その未確認浮遊物体(UFO)が何であるかを推測するに難くない場面に遭遇した。それは、トドの動きである。かれらはとにかくさっきから水面に浮いているものを片っ端からつついたりして、この一辺島で存在感を見せてつけていた。とにかく、水面に浮いているものなら何でも近づいてはつついた。

 そして、ついにそのトドが未確認浮遊物体を視認する。見つけるやいなや、彼らの行動は速かった。5,6匹の群れでその黄色いドーナツに突進していった。これは、この謎の物体の集魚力を図る絶好の場面になると反射的に思った。

ドーナツに突進するトドの面々。一体彼らはそのドーナツにどのような判定を下すのか。判定は思いの外速かった。3mほど近づいたところで、突然、反転し逃げるように去っていった。未確認物体は集魚力があるどころか、全く逆で、散魚力(こんな言葉があるはずもないのだが、今回の場合こういう言葉でしか表現できなかった。)に優れていることがわかった。人間もそうだが、彼らもこの色と臭いと形に違和感を覚えるらしい。

そうとわかれば、中々仕掛けを入れる気持ちになれなかった。なぜって、その未確認浮遊物体は、丁度チヌのポイントとしてねらっているところに悠々と浮いているからだった。

このとき、私は全てを悟った。そして、横に向いて、

M中さん、いい感じのドーナツが流れてきましたよ。」

と、声をかける。M中さんバツが悪そうに、

「さっせん(すみません)」

と返してきた。M中さんの腹痛が治まった理由がよくわかった。

 

その後、M中さんは、なぜか持ってきていたエギングの道具で500gほどのミズイカ1杯をゲット。そして、交通事故的に釣れた40cmクラスのヤズを釣った以外はさしたるドラマもなく、時計は正午を迎えようとしていた。

 

昼過ぎから、海の状況が変わり始めた。潮が当たり気味にきていたのが、沖に向かって流れるようになってきたのだ。

そして、ウキに今までとは違う当たりが出始めたのだ。これが、今までの青物やマダイ、チヌなどの当たりと違い、ゆっくりもどかしいスピードでウキが沈んでゆく。この当たりはどこかなつかしい感じがした。あわせるが乗らない。2投目も同じ当たりがきた。3つ目も同じだった。そして、あわせても喰わせることができなかった。

これは、もしかして・・・。

撒き餌に持ってきていたパン粉を今まで使っていた撒き餌に混ぜて撒いてみた。そして、さっき当たりの出た地点に撒き餌をしてみる。予想どおりだった。午前中には見えなかったしっぽの白い魚が、下から撒き餌に群がっているのが見えた。しっぽの白い魚とは、そうクロである。

「M中さん、観てください。クロが湧いてますよ。」

釣具店に保険としてかっておいたパン粉が役に立つとは。もうチヌ釣りはあきらめた。釣りの締めくくりは、クロちゃんに遊んでもらうとするか。

仕掛けを極力軽いものに変えた。付け餌もオキアミ生のSにした。

ウキは0号の全遊動にし、付け餌と撒き餌が同調するようにゆっくり沈む設定にした。だって、あれだけ見えるところに乱舞するんだもん。他の餌取りに横取りされる確率は低いと思ったので。

案の定、ウキがゆっくりと沈み始める。間違いないクロの当たりだ。そして、ある一線を越えると一気にウキが消し込み、道糸が走った。まるで前半は甑島のクロで後半は硫黄島のクロのような当たりだ。抜き上げた魚は手のひらサイズのコッパグロ。

おそらく、コッパグロの中から、足裏サイズを拾う釣りなんだろうな。

しかし、30cmオーバーの魚も喰わせたが浮かせたのにオートリリース。残念。

こうして、手のひら、足裏サイズを数釣る楽しい釣りとなり、時間が来たので納竿とした。

これだけクロが釣れたのは、もちろんパン粉の集魚力もあるが、謎の未確認浮遊物体によるボラの撃退も大いに貢献したことは言うまでもない。あのなぞの黄金色の浮遊物がだれにものであるかは依然謎のままであった。




とても親切な船頭さんです


M中さん一辺島初渡礁

穏やかな錦江湾

さあ 今日の魚の機嫌はいかに

M中さん 磯の全体像をつかむ

水産高校の実習かな?


やはりマダイが湧いていました

M中さん 中々引きです


ヤズでした^^;


こちらは こんなのばっかり><


M中さんエギでアオリちゃんゲット

パン粉を撒くと クロが湧いてきました

トドが1匹 ご用だ


ソルブレの桜匠グレ0号でクロ釣りに変更


30cmクラスもいました


ぼくにも釣れました^^

ありがとう 一辺島

今度はクロ釣り専門でお願いしたいですね

本日の釣果 太刀魚とハガツオは船頭さんから

太刀魚のフライ

ハガツオの刺身 最高!

ハガツオのサラダ

太刀魚の骨せんべい

ハガツオのお茶漬け


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