11/03 禁断の釣り 大分鶴見


鶴見の鰤釣り

釣りは最高の道楽です。そして、この道楽を知った幸せな人は、それ以上の趣味は考えられなくなると。

 

なぜって、それは第一に釣りに行って、自然に癒された後に、釣り人しか味わえない新鮮な、めずらしい、そして価値ある魚を料理できるという最高のアフターフィッシングが待っているからです。

 

ゴルフ、競馬、パチンコなどには、もちろんそんなアフターは存在しません。

 

もちろん、釣りの実現には、

 

費用×天候×××自由な時間

 

というように様々な壁が立ちはだかります。

 

そして、その中で最大の乗り越えなければならない壁は家族の理解です。

 

特に、妻の理解を得るためには、考えられる対策はすべてなげうってでも乗り越えなければなりません。

 

その牙城をすこしでもくずしやすくするためには、どんなに釣りに行って肉体的に疲れていようが、寝不足ですぐに横になりたかろうが、即座に料理に取り掛からなければなりません。

 

長い間家を空ける迷惑をいかに感じさせないようにするかを、あらゆる手段を使って成就しなければなりません。

 

そのスリリングなアフターフィッシングができることが大きな魅力なのです。

 

二つ目の理由は、釣りに対する一般的な誤解から述べたいと思います。私は釣りを知らない時期、釣りという業をかなり誤解していました。

 

堤防などで釣りをしている人を見かけると、のんびり釣りをしていていいなあ。ゆっくりと流れる時間を楽しんでいるんだ、と思っていました。ところが実際自分が釣りを始めてみると、今までの釣りに対するイメージが間違っていたことに気づいたのです。

 

それはどういうことかというと、釣り人は限られた時間の中で、潮を読み、撒き餌を打ち、タナをこまめに変え、エサ取りの状況を観察し、付けエサを変えたり、仕掛けを変えたり、ハリスを落としたり、針を変えたり、とにかく、忙しく釣りに没頭していることがわかったことです。

 

のんびりしているように見えて、ぎらぎらとした目でひたすら対象魚を求めて試行錯誤を繰り返していたのです。

 

2001年831日。今でも鮮明に覚えています。初めて、釣りをした時のことでした。私は、水俣百間港の岸壁に来ていました。メイタ釣りをuenoさんから教えてもらいながらチヌ狙いのウキふかせ釣りに興じていました。

 

とにかく、のんびり釣り糸をたれることが釣りだと思っていたのですから、釣れることはあまり期待していません。

 

釣り道具を操り、釣りをしていることだけで満足していました。

 

ところが、事件が起こりました。灼熱の太陽が少し穏やかになった午後3時半ごろだったと思います。隣で釣っていたuenoさんが突如として25cmクラスのメイタの入れ食いを演じ始めたのです。

 

「釣れだしたバイ。Kamataさんはよ(早く)釣らんね。」

 

ところが、私は何でuenoさんに魚が突然釣れだしたのか、まったく理解できませんでした。自分には全くと言っていいほど魚からの反応がなかったからです。

 

さっきまで周りの釣り人のだれの竿も曲がっていなかったので、釣れようが釣れまいが全く気にならかなったのですが、こうuenoさんに隣で入れ食いを見せつけられてはたまりません。

 

焦りが全身を支配し始めます。そして、何とか魚を釣りたいという願いが心の底から湧き上がってきました。「どうすればいいんだ。」とにかく、釣れているuenoさんを観察します。しかし、自分との差がどこにあるのか理解できませんでした。

 

そのうち、自分の方がタナが浅いのかもしれないと感じた私は、タナを少し深くしてみました。すると、不思議なことにさっきから何の反応もなかった棒ウキが一気に海中に消えていきました。

 

それから、何をどうしたか覚えていません。気がつくと、釣りたくてたまらなかった25cmほどのメイタがピチピチコンクリートの上で跳ねていました。

 

「これが釣りというものか。」

 

なぜ、3時半過ぎから突然釣れるようになったのか不思議でたまらなかったのですが、それよりも自分が工夫して初めて釣ったこの1尾は釣り人生の中でも忘れられない1尾となりました。

 

それからというもの、のんびりするために釣りに行くのではなく、大自然を味わいながら魚との知恵比べをする面白さを体験しに行くようになりました。釣りをしているときは、へたすると仕事よりも集中して釣りに没頭するのですから、寒さなどの厳しい気象条件は全く気にならなくなりました。

 

そうです。2つ目の釣りの醍醐味は、大自然を満喫しながら自分の能力を最大限に発揮し魚を手にするという試行錯誤の面白さです。

 

私は、職場の上司からよく言われることがあります。PDCAサイクルが大事だと。これは、簡単に言うと、Plan(計画)Do(実行)Check(評価)Act(改善)の4つのサイクルを繰り返していくことで、事業活動を円滑に進めることができるというものです。このPDCAが確立している組織は生産性が高いと言われます。つまりいい仕事してるねということになります。

 

最近、釣りをしていると、釣りはこのPDCAサイクルを具現化したものではないかと思うことが多々あります。

 

釣りに行くには、釣行計画が大切です。潮は、天候は、船長からの事前情報やネットでの情報など様々な情報をもとに釣行計画を立てます。そして、対象魚に合わせて、仕掛けを決め、実際にどのように釣るか、シュミレーションします。これはいわゆるP(Plan=計画)にあたります。優れた釣り師ほど、ここでしっかりと準備を進めます。

 

次に、計画したら実行あるのみです。計画に基づいて、釣りを実行します。これがD(Do=実行)です。

 

そして、そのまま計画通りに釣れればいいのですが、魚釣りは自然相手。そう簡単ではありません。刻々と変わる自然条件を相手にしながら、当初の目標と釣りをした結果を比較し、問題点を洗い出し、適切に状況を分析します。これがCCheck=評価)です。どうも最初のタナが合っていないようだ。この仕掛けは魚に違和感を感じさせるようだなどと考えるのです。

 

最後に、釣れない原因を分析したならば、改善し再び釣りを実行することになります。A(Act=改善)そして、また、改善した結果を分析し、計画を練り直して釣りを実行する。このサイクルは正にPDCAという名の釣りなのです。

 

釣りがうまい人は、仕事もできる人が多いのもこの理論ならうなづけます。釣りバカ日誌の浜ちゃんはもはや昔物語。PDCAを趣味の世界でも実行している釣り人こそ、仕事ができる人と言えるのではないでしょうか。

 

さて、釣りの醍醐味について2つのことを紹介しましたが、最近、3つ目の釣りの醍醐味があることに気がつきました。それは、なかなかお目にかかれないことでありますが、確実に釣り人の心をとらえています。

 

それは、入れ食いです。とめどもなく続く魚信に、釣り人の脳細胞はドーパミンまみれとなり、一度味わったら最後、まるで麻薬常習者のように更なる入れ食いを味わいたくなります。この3つ目の醍醐味には、PDCAサイクルはありえません。Do(実行)Do Do Doと実行あるのみです。

 

先日、携帯に次のような文字が飛び込んできました。送り主は、佐伯港発の遊漁船「松風」の船長からでした。「kamataさん、鰤釣れ始めました。3〜7kg 釣る人10本」この画面を見た瞬間、理性は吹き飛んでしまった。

 

そして、次の瞬間、鰤が食べたいとつぶやいていたM中さんに誘いの電話を掛けていた。この情報を3倍にふくらまして伝えた。すぐにやる気モードに変わったM中さん。「行きます。行きます。」

 

かくして、113日(月)文化の日に釣行が決まった。仕掛けを調達すべく、船長に電話を入れる。Plan(計画)を実行にうつすためだ。

 

「ハリスはね、20号の1ヒロでいいですよ。ハリはムツの20号。」

「道糸はPE6号巻いてるんですけど。」

「PEの8号から10号でお願いしているんですよ。とにかく、バラシが多いから太仕掛けで。」

 

船長から情報を集めていてよかった。それから、取り込みの際に鰤の強烈な引きで手が切れるので、天秤の上に直径5mmのクッションゴムを、天秤の下に4mmのクッションゴムが必要という情報もゲットした。

 

M中さんもこの日のために、船釣り用のライジャケと長めのクーラートランク大将を買って万全の体制。おいらも負けじと、付けエサは、魚屋さんから買った丸々と太った対馬産の鯖の塩漬けを用意した。これでPは大丈夫かな。

 

午後10時に八代市を出発。九州自動車道を北へ進み、益城ICで降り、57号線に出て阿蘇を越えて大分県に入る。竹田、犬飼と過ぎ、川野釣具店に立ち寄って必要なものを手に入れた。

そして、佐伯港に午前2時前に到着。まだ釣り人は1組しか到着しておらず、夜中の港は静寂そのものだった。

 

「M中さん、クーラーのでかいのを持ってきたときは釣れたためしがないんですよね。」

「かっ、かっ、かっ」

缶ビールで出撃前の景気づけを行い、車中で1時間ほど仮眠タイム。

 

外が騒がしくなり、目が覚めると、まるで魚市場のセリのような情景が目に飛び込んできた。鰤釣りに出撃する釣り人でごったがえしているのだ。

 

「これは釣れているな」

 

直感でそう思った。前日、船長に電話で尋ねた時も、「今日も釣れましたよ。7時はやめました。」

こちらもぼやぼやしていられない。あわてて魚のセリに参加すべく準備を始めた。

 

kamataさん、こっちの船です。」

 

船長が声をかけてくれた。4年ぶりだというのに、覚えてくれているなんてうれしいね。準備が終わると、恒例の釣り座決めのくじを引いた。割りばしには番号が書いてあり、4番をひく。1番の人から好きな釣り座を選ぶというシステム。

 

1番の釣り人から順番に船の右側の釣り座をゲット。はは〜〜ん、どうやら、生簀側の釣り座からとっていっているようだな。

 

そう悟った私は、右側の一番後ろの釣り座をとった。M中さんは、私と反対側の最後尾だ。荷物の積み込みが終わると、午前350分、松風は佐伯港を出港した。

 

気圧の谷が通過した後、全国的に大荒れの天気。錦江湾でも瀬渡しは船止めという状況の中で、船は漆黒の海を沖への向かって走り出した。

 

天草沖は4mという状況だが、こちらは風裏になるのかそれほど揺れない。鰤釣りへの期待と不安で心臓が張り裂けそうだ。

 

40分ほど走ると、エンジンがスローになった。この鰤釣りは、船を養殖いかだにロープで固定し、秋の訪れとともにエサをもとめた養殖いかだに回遊してきた鰤を釣るという禁断の釣りである。船頭さんが船を固定する作業を済ませた。時計を見ると午前5時過ぎ。いよいよ数日前から練っていた計画(Plan)を実行(Do)する時が来た。

 

冷凍イワシなどの撒き餌を専用のかごに詰め、サバの塩漬けを縫い刺しにして、仕掛けを海中に落とす。シマノの電動リールからPE6号が出ていく、船長の指示する20mのタナに仕掛けを落ち着かせる。

 

そして、事件は起こった。竿をしゃくって撒き餌を効かせようとした瞬間だった。

ボキッ。鈍い音と共に、愛竿D社の120号が並継部分から真っ二つ。船長から事前情報として、「竿が折れます」とは聞いていたが、魚をかける前に折れるなんて・・・。

 

「この竿は、折れやすいんですよ。並継でない方がいいよ。この竿なら大丈夫。3900円くらいだよ。」

 

近くの釣り人も

 

「5時半ごろから魚が食いだすからね。」

 

船長からこのようにアドバイスをもらいながら、あらかじめ貸していただくことになっていた竿を借りることにした。

 

また、竿を折ったことは残念だったが、これが入れ食いの時間でなくて本当によかった。

 

新しい竿で仕掛けを作り直し、釣り始めてしばらくすると、とうとう漆黒の海の中から、眠れる鰤が目を覚ましたようだ。

 

あっちこっちで鰤が当たりだした。M中さんの竿にも鰤の強烈な当たりが。タナを聞くと20mとのこと。

 

こちらは少しでもでかい魚をねらってタナを深めにしていたが、20mに調整した。M中さんと自分の釣り方を比較し、タナという問題点を見つけ、状況を冷静に分析した(Check=評価)。

 

そして、釣りを再開する。タナを変えた後、魚の当たりを待った。(Act=改善)

 

すると、竿がこつんといった前あたりの後、竿先が一気にお辞儀した。

 

よっしゃあ。

高速で巻き上げる。おいらのリールのパワーは500だから、心もとない。モーターがリールを巻き上げることができず。静止している。Planの段階で準備不足を痛感させられた。しかし、魚が根負けすると、徐々にうい〜んと巻き上げることができるようになった。

 

浮いてきたのは、3kgクラスの鰤だった。船長に玉網をかけてもらって、坊主脱出。ほっと胸をなでおろす。

 

「これから、忙しくなりますよ。鰤が喰ったら、知らせてください。」

 

船長の予言通り、あっちで、来たあ、こっちで来たあという鰤が次々にあたってくる入れ食い状態となってしまった。

 

魚との知恵比べというより、手返しをいかに早くするかが問われるといううれしい悲鳴。玉網かけに、魚の生き締めにと忙しくなる船長。

 

鰤は船内にぬき上げられると、暴れまくり、船長の締めが入っても暴れまくる。血がそこらへんに飛び散る。船内には常時2,3匹の鰤が暴れる状態になり、船内が血だらけに。あたかも戦場のような情景となった。

 

仕掛けを入れると、魚が必ずあたるという産業ロボットのような釣り。もう時間の感覚がなくなった。脳からはドーパミンが出続けているのがわかる。

 

「もうクーラーにはいりませんよ。」

 

船長が苦笑い。M中さんも夢中で釣りに没頭。もちろん、飯を食う時間はない。飲み物さえもとる時間もなかった。

 

そして、11本目の鰤を抜き上げたところで、

 

「そろそろ終わりにしましょうか。」

 

と、一言。その言葉に異を唱える釣り人は皆無だった。なぜなら、彼らは、十分すぎるくらい鰤釣りを堪能したからだ。

 

12本目を釣ってクーラーに入れたが、これがふたが閉まらない。鰤の尾が3尾ほど外にでる始末。時計を見ると、まだ午前6時50分を指していた。

 

今まで味わったことのない最強の入れ食いは、わずか1時間40分という短い釣りを演出した。

 

船中でおそらく鰤が100本ほど釣れたのではないか。仕掛けを入れてもまだまだ喰いは続く状況だったが、もうおなかいっぱいだ。血だらけのM中さんのトランク大将からも当然のごとく、鰤の尾が何匹かはみ出していた。

 

「すごいねえ。クーラーが閉まらん。どがんしょうか。」

M中さんもこの途方もない入れ食いを体験して、興奮気味だ。

 

こうして、とてつもなく長い時間にも、一瞬の出来事のようにも感じる、鰤釣りは終わったのだった。沖では、うさぎが跳ねていた。船が揺れ減速を余儀なくされた。2.5〜3mの波だ。何かにつかまっていないと立っていられない波。

 

入れ食いの余韻により、この船の揺れを快適な船旅に変えてくれた。

 

ああ、豊の国よ。海の恵みをありがとう。PDCAサイクルを吹き飛ばしたDDDDの釣り。たまには、こんな癒しもいいなと笑顔で佐伯港を後にするのだった。



圧倒的な品ぞろえ かわの釣具店



























40分で釣り場に到着

M中さん やる気モード全開です



いよいよ入れ食いが始まりました




船長が締めてくれます



風は爆風 沖は大波


この下に無数の鰤が潜んでいます


入れ食いで 忙しい釣り人たち



M中さん 絶好調


となりもめちゃめちゃ釣れてます


そろそろ終わりにしましょう


もうクーラーに入りましぇん


クーラーの蓋が閉まらない^^


M中さんのトランク大将もおかわり


豊の国よ 海の恵みをありがとう


笑顔で港へ凱旋です


お疲れ様でした



釣った鰤が重くて大変


本日の釣果



M中さん 初鰤釣りで 爆釣


佐伯漁港さんには お世話になりました


刺身 脂のりのり


2日目はさらにうまみが増幅



鰤カマは期待を裏切りません


新鮮だから 味わえる鰤しゃぶ


魚の旨みが凝縮


鰤茶漬けも最高!


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