12/23 東か西かそれが問題だ 甑島・鹿島


東磯 コミタレ

kamataさん、釣りのことばってんが。よかな。」

Uenoさんからの突然の電話。当然、釣りの誘いだと条件反射的に理解した。



Uenoさんも私と同じでずっと釣りに行けなかったらしく、天候が落ち着きそうな1223日になんとか釣りに行きたいとの算段だったようだ。ここで問題は、行先である。

 

「日帰りだけんなあ。宇治とか硫黄島はやめとこい。あそこは12日釣りで行くとこやもん」

早くも牽制球を投げてきたuenoさん。


硫黄島で久しぶりにシマアジ釣りを楽しみたいという内なる野望は封印だ。

「どこにする?あのね。今めちゃめちゃ釣れているところのあるげな。」

「おっ、そこはどこですか。」

「ほら、あのどこていうとったかな。」

釣りナビの情報であらかじめ久志が釣れているという情報をもっていたが、そのことを言いたいんだろう。

「もしかして、久志ですか。」

「じゃっじゃ(そうそう)、久志タイ。早速連絡ば入れてみるけん。」

数分後、uenoさんから連絡が入った。

「やっぱ、いっぱいやったバイ。(やっぱり、予約でいっぱいだった)1番船は空いとらんげな。いくら釣れとっても多かなら釣れん磯にのせらるるかもしれんもんなあ。」

久志は初めての場所でもあるし、おそらく常連さんでよい釣り場はうまってしまっているはずと考えた私は、はっきり言って全く気がのらなかったので助かった。


「やっぱ甑かなあ。ああ、あそこがよかバイ。太かクロの釣れとんもん。」


「それはどこですか。」ととぼけてみせながら、心の中では自分が得意とする瀬々野浦だろうと思っていた。ところが意外な答えが返ってきた。


「鹿島は太かとの釣れるけん、鹿島にしょい。」


甑島鹿島地区は、南西から北東に連なる甑島列島の中央部に位置する。北西の季節風に強い東磯と藺牟田水道付近、そして、数型ともに爆発力を秘めた西磯とがある。


古今東西、東西南北という言葉がある通り、東と西は二つの領域を分けるときに使われる便利な言葉だ。


相撲の番付の東と西。明治以降の日本は、首都が東京に置かれるようになって、どちらかと言えば東に優位性があった。



日いづる処の天子は大陸から見て東にいたし、黄金の国ジパングとたたえたマルコポーロは、「東方見聞録」という書物を書いた。



宮沢賢治は「雨ニモマケズ」の中で、「東ニ病気ノ子ドモアレバイッテカンビョウシテヤリ 西にツカレタ・・・」と西よりも東が初めに出てくる。


つまり自分にとって東という言葉のイメージは、西よりも先にもしくは優位にある。


ところが、これが磯釣りとなると、東西の立場は逆転する。


寒グロ釣りが始まる南九州地方では、北西の季節風の影響で西側の磯に渡礁できない日が多い。それに対して、東側は比較的渡礁できる可能性が高い。ということは、釣り人が多く渡礁するのが東側だということが言える。


魚の立場になってみよう。釣り人の多いところを活動場所にするだろうか。



当然、釣り人の少ない西側に生息場所を求めるはずだ。また、西側は、季節風などの様々な要因により、クロが好むサラシが発生しやすい条件が整っている。



東側はその逆である。手打西磯も寒グロの時期に一般の釣り人の参入を認めていない。


こういう様々な理由により、自分は、甑島において東より西の方が釣り人目線では優位にあると考える。

「ばってん、鹿島の東磯は好かんたいなあ。2回も坊主喰らったもん。」

Uenoさんは鹿島の西磯は大好きだが、東磯は大の苦手らしい。まだ一度も鹿島東磯で魚を見ていないという。

「しょんなかなあ。Kamataさん電話して。」

いろいろ迷ったあげく、今回のクリスマスイヴの食材確保の旅は、甑島鹿島に決定したのだった。

そこで問題は天気。今シーズンは暖冬だという予報とは裏腹に、寒波が次々とやってきた日本列島。23日の予報も薩摩地方の波予報では、1.5mだが、西側は時化かもしれない。

天候の不安を抱えながらも、我々二人は釣りに行ける喜びを隠しきれず、今回お世話になる渡船誠豊丸の待つ串木野港へと車を走らせた。

閑散とした静かな漁港に到着。しかし、次々と自動車が入ってくる。総勢25,6人の釣り人が集結した。


しばらくすると、きらびやかなLEDライトをともなった渡船誠豊丸が港の岸壁に接岸。釣り人の動きが静から動に変わった。


釣り人の熱気は、船を予定よりも早く午前4時前に出港させた。漆黒の東シナ海を走る。甑島と九州の水道では、大きな揺れに見舞われた。この揺れで、西磯へのチャレンジは潰えたと認知した。

船の大揺れからしばらく走ると徐々に船の揺れが収まり快適な船旅に変わった。


そして、エンジンがスローになった。

名前が呼ばれるまでしばらく一番下のキャビン内に留まる。

次々に渡礁が行われている。

uenoさん東磯かもですね。」

Uenoさんはしばらくすると、じっとしていられなくなったようでデッキへと出ていった。おいらも外に出てみる。ここはどこだろう。わずかな灯りを頼りにここが東磯であることを確認した。

北西の風が吹いているはずだが、風は穏やかだ。そこへ切り立った巌がいくつもライトに照らされては消えていく。

kamataさん、次ですよ」

中村船長が渡礁を知らせてくれた。

サーチライトを向け先に三角錐の形状をした縞模様の巌を確認。今回お世話になる磯との対面だ。


磯の名は、後で聞いたが「コミタレ」という。階段状に海底まで続いているドン深の磯だ。船に乗っていると、切り立った壁としか思えない、そしてどこに渡礁すればいいかわからない巌にホースヘッドが接岸した。


一気に渡礁し船長のアドバイスを。どうやら正面を釣りなさいということらしい。

さあ、久しぶりの磯釣り。ここは風裏で心地いい冷たいそよ風がほおをなでていく。


甑島のおいしい空気を胸一杯に吸い込み。はやる気持ちを抑えて、uenoさんと交代で撒き餌と仕掛け作りに入った。

パン粉2kgにV10と高そうな集魚材を半袋ずつ。オキアミ1角を混ぜ合わせる。タックルはメガドライM21.5―53に道糸2号。ハリスは取りあえず2号から様子を見ることに。この風と波なら大丈夫とG2の全遊動で攻めることにした。


1時間以上撒き餌をしたところで、夜明けを迎えた。晴れの予報とは裏腹に、どんよりとした曇り空が現れた。



仕掛けを入れる前に海の中を観察すると、何も見えない。いつもなら餌取りでもちらほら見えるはずなのに。

さて、午前7時過ぎに第1投を。左から振りかぶって竿1本先に投入。潮はゆっくりと沖に向かって右に流れている。



朝からいい感じの潮だ。仕掛けを回収しチェック。餌はとられていない。


2投も餌がとられない。第3投でも同じだ。

魚影が濃いはずの甑で、餌が全くとられない事態に少し焦る気持ちが出てきた。

「えさ盗らるんね」

Uenoさんもこの状況に首をひねっている。不安なスタートだ。

00号の全遊動にしたが、馴染みが今一なので、G2の半遊動2ヒロに設定して釣り始めるとようやく餌がとられ始めた。釣り開始から30分。

「よかった。魚はいるみたですよ。」

ただ、餌のとられ方がよくない。頭だけを少しかじった状態だ。これは明らかに食い渋りの状況とみた。ガン玉を足して、やや沈め気味にしながら仕掛けを流した。

釣りに集中しているところで、右横から強い釣り人のオーラを感じて、視線を向けると魚とやりとりをしているuenoさんが見えた。すごい。この状況でかけるとは。

玉網をかけて手元に引き寄せたクロは、40cmに少し足りないサイズ。

「よかったあ。ボウズ脱出バイ。」

喜びを隠しきれないuenoさん。なんたって、この魚がこの鹿島東磯での初めての釣果となったからだ。

「ハリスは1.8バイ。ハリも4号まで落としたバイ。」

この言葉を聞くやいなや、道糸に小さな違和感を感じ合わせてみた。よし、乗ったぞ。だが、思いの外魚の引きは軽かった。手のひらサイズの子尾長がやってきた。時合いかもしれないのにこの魚は痛かった。

更に、続けて同じサイズの尾長グレが。そして、uenoさんは、また37,8cmの口太をゲット。1匹目は、瀬際で喰わせたが、2匹目は沖目で喰ったらしい。

「タナはそがん深くなかバイ。2ヒロ半くらいやった。」

ありがたい情報だ。タナを2ヒロに設定し、ハリスは1.7号にハリも4号に落とした。瀬際には子尾長がいると判断し、遠投して見えないハリ根に潜むクロをねらうことにした。

結果はすぐにでた。張り気味にしていた道糸が不自然な動き。反射的に合わせると、乗った。乗ったぞ。

あまり強い引きではなかったが、浮かせるとまずまずの型の口太が浮いていた。


慎重に玉網で手元に引き寄せる。よっしゃあ。右手で軽くガッツポーズ。ボウズ脱出だ。


エメラルドグリーンの瞳を持つ37cmの地グロは、神々しい光を放っていた。時計を見ると午前820分。

さあこれからだというところで、uenoさんの悔しいバラしの後、突然魚からの反応が途絶えた。


満潮の潮止まりを迎えて、下げに入ったら状況が変わるかもと期待したが、更に反応がなくなった。帰ってくる付け餌がこんなにも冷たいのは初めてだ。


しばらくして、船長が見回りに。

kamataさ〜ん、どうですか。」

瀬替わりするかどうか思案のしどころ。通常なら変わりたいところだが、

「ここでねばろい。ここよりいいところに乗らるることはなかもん。」

Uenoさんの言うとおりだ。

1時に回収にきますねえ。」

という言葉の残し、誠豊丸は去って行った。

さあ、ここで粘ると言ったからには、なんとしても釣らなくては。

しかし、

「魚がおる気配もなかなあ」

Uenoさんとの会話も歯切れが悪い。やはり、餌がそのままの状態で帰ってくる時間が続いた。

ハリスを1.2号、ハリは最小の2号まで落とした。竿2本くらいまで仕掛けを入れたのに、付け餌がそのまま帰ってきたり、2ヒロくらいで餌をわずかにかじったりと、どうしても魚の居場所がわからない。

 釣行時間もあと2時間。とにかく、クロの居場所を遠投した先のハエ根周りと決めて、そこに流していくことにした。すると、やはり道糸に不自然な張りが現れた。合わせると乗った。よっしゃあ久しぶりに魚を喰わせたぞ。竿が美しい弧を描いたところで、急に竿が天を仰いだ。そして、自分も天を仰いだ。

「やっとこさ喰わせたと思ったのに」

30分後にも同じようなアタリがあったが、やはり同じようなバラし。ハリやハリスを上げることも考えたが、この渋さでは今度は魚を喰わせることさえできないと考えた。(1.8号ハリスとハリ4号のuenoさんにはアタリすらなかった。)

時間は刻々と過ぎ、12時前になった頃、

「もうやめよう。もう釣れんバイ。はよ迎えにきてほしかなあ。」

Uenoさん、ため息をつきながら竿をたたみ始めた。今日の状況は、いつもは最後の最後まであきらめない釣りスタイルのuenoを、回収の1時間前に竿をたたませた。

わたしも、参りましたと独り言をつぶやき、回収30分前に竿をたたむことにした。

午後1時、回収に来た船に飛び乗り、惨敗したことを報告。回収を手伝いながら、他の釣り人の釣果を確認する。鹿島港以南の場所は軽いクーラーばかり。藺牟田水道近くの磯では、3人くらい重いクーラーがあった。

しかたがない。自然相手だもの。でもいろいろ工夫させられて楽しかったよ。

「やっぱ、鹿島は西磯バイ。次は西に行かれたらよかなあ。」

Uenoさんも今回の惨敗で、再び鹿島への釣行を決意。東か西かでどきどきするこの魅力たっぷりの鹿島に年明けの釣りの命運を託すことを決め、帰路に着くのであった。



甑島・鹿島東側




甑島の海岸には砂浜も見られます















午後から晴れて気持ちのよい日に




















釣りができる磯がたくさん

















雄大な甑島


























あちらは風が当たっています























夜が明けて 釣り開始























最初の訪問者は 子尾長


手前にはこの魚がいるようです






釣れンフルエンザに感染中






ようやく釣れました^^;


将来大物になる予定のアカハタ


仕掛けは何度も変えました


離島でこれは厳しいっすね


釣れんなあ 飯でも食おい


ウキはむなしく漂うだけ



この体制になるとだめかも


魚の釣れる気がせんなあ



1時に迎えに来てくれました


ありがとうコミタレ


次々と釣り人を回収


こんなに砂浜に近いところに磯が



釣り人に元気がありません


やっぱ東磯は苦手やもん


ありがとう 鹿島 また来るよ


大切にいただきました


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