2/11 磯釣りの魅力再発見 硫黄島


硫黄島 鵜瀬から硫黄岳を望む


2015年、新しい年が明けた13日、運営しているHPの掲示板に次のような書き込みがあった。

 

ところで、釣行記を炬燵の中で、幾度も熟読するあまり、脳内で尾長やシブダイが湧き始めた結果、私も5号の遠投竿がどーしても欲しくなり、先ほど釣具屋へ衝動的に走り、シマノのを購入して参りました。

 

どうやら、おいらの釣行記を読んでいただき、それに感化されわけのわからぬまま竿を買ってしまったという内容と読み取った。

 

自分の書いた文章がだれかの人生になにかしら変化をもたらそうとしていることに驚きを感じながらも、ある種の責任感が芽生えてきた。

 

それは、磯釣りに興味をもった人をそのままほっとくわけにはいかないという独りよがりの感情だった。

 

すぐさま、その書き込みの主に磯釣りに必要なアイテムを紹介しながら、いっしょに釣行する算段を立てた。

 

そして、その彼と211日に硫黄島へ釣行することを決定した。このスピード感はこれまでにないものだった。

 

彼の名をたっちゃんという。

 

この版にカキコをするくらいだもの、ただ者ではないはず。

 

案の定、交流を続ける中で、彼が幼い頃から釣りに親しみ、かつては八丈島で大物釣りに興じていたことを知った。

 

その彼の記念すべき磯デビュー戦を彩りある楽しいものにしてほしいと、「もっている」医師M中さんも誘った。

 

厳寒のこの時期、天候を心配していたが、奇跡的に波予報は1mと問題なし。

 

一つ気になっていた釣り人の集まり具合だが、最初4人しか集まらず釣行が危ぶまれたが、幸運なことに、日曜日の時化でその客がスライドしてきたため最低航行人数を余裕で上回った。

 

211日、小潮2日目。硫黄島の満潮は午前11時過ぎ。ほぼ上げ潮で釣るという潮回りでは、下げ潮のポイントであるみゆきや浅瀬などは使えない。鵜瀬か新島がいいけどなと思っていたら、「鵜瀬に乗せてあげるよ」と船長からうれしいお言葉が。

 

九州自動車道を南へ下り、AZ川辺店で買い物をして、港へ着いたのが午前2時前だった。枕崎港でたっちゃんと待ち合わせをすることになった。

 

それにしてもおいらのHPを見ただけで5号竿を買うとは一体どんな人物なんだろう。

 

うとうととし始めた頃、携帯が鳴った。たっちゃんからだ。近くに来ているという。

 

車から降りて、初めての対面。

 

たっちゃんは極めて普通の人だった。とても、5号竿を衝動買いするとは思えないような誠実そうな外見。しかし、その内なるところでは、離島への憧憬がめらめらと燃えているに違いない。

 

見た感じ、「魔法使いサリー」を語れそうな同じ世代とみた。

 

インターネットが普及し始める前は、こんな見ず知らずの人とあたかも友人であるかのように釣りに行くことは考えることすらできなかった。

 

インターネットは、人々の距離感を大いに縮めると同時に、同じ趣向をもつ同士の結びつきをより強固にした。

 

そして、これから楽しい釣りが待っていそうなそんな予感がした。

 

ほどなくいつもの軽トラックで船長が登場。

 

kamataさん、鵜瀬に乗せるから荷物は最後に乗せて」

 

鵜瀬に乗りたいと思っていただけに、願ったり叶ったりである。

「ぶるん、ぶるん」

 

船に命の鼓動が吹き込まれる。にわかに釣り人の動きが速くなる。上げ潮で釣る潮回りということで、港には底物師が多かった。

 

もう10年以上も黒潮丸で硫黄島に通っていると、顔見知りの釣り人も増えていく。釣りは出会いだ。魚だけでなく、釣り人との一期一会も大切にしたいと、船に乗り込み乗船名簿に名前を記入。

 

しばらくすると、船はゆっくりと港を離れた。沖堤防を過ぎる。そこから、船は一気に高速回転になる。さて、今日の海況はいかに。いい釣りができるといいけどと考えながら尾長を釣る姿を想像していると、いつの間にか眠りに落ちていた。

 

目が覚めるとエンジンがいつの間にかスローになっていた。

 

さあ、我々から渡礁かとあわててデッキに出てみる。ところが思いの外時化ていた。大きく揺れる船。吹き付ける風。どう考えても凪の予報は外れていた。

 

平瀬からの渡礁。小潮の最干潮だから乗れるが、平瀬もかなり波に翻弄されている。

 

潮の流れが速く、瀬付けは本当に難儀している。揺れながら何度も瀬付けを繰り返し、平瀬の2カ所に無事渡礁完了。

 

つぎは、ピン底物師を鵜瀬の底物場に瀬付け。今度は我々の番だ。

 

すばやく、磯に乗り移り、アドバイスを待つ。

 

「手前は、尾長。昼は裏のワンドで」

 

といういつもの内容だった。

 

ここのところ、鵜瀬はよく釣れているようで、この前も3.5kgの尾長グレがここで型見されているそうだ。

 

時計をみると、午前5時半。これから夜明けまでの約1時間と少し、ドキドキの尾長グレねらいの夜釣りが楽しめる。

 

竿はダイワブレイゾン遠投5号に道糸12号、ハリスは10号で針はヒラス青物9号を結んだ。

 

15分でタックルと撒き餌の準備を済ませ、一番西側の釣り座を確保し、釣り始めた。妖しく光る3Bの電気ウキが瀬際で揺らめいている。

 

さて、第一投の反応はいかに。付け餌がそのまま返ってきた。このポイントは、魚種も豊富なところで、尾長グレ以外では、口太や石鯛、シブダイ、サバ、そして、この磯の歩兵軍団であるイスズミなどが竿を曲げてくれる。

 

ところが全く反応がない。撒き餌が効いていないのだなと、気にせずに第2投。もうすでに、上げ潮の時間帯になっているはずなのだが、潮が動かない。

 

このポイントは、上げ潮が緩くこの釣り座にあたって左右に分かれたり、斜めから当たってきて横に流れる時がいい。

 

ところが、今回は潮が全く動かない。上げ潮は、この瀬からかなり離れた地点を流れているようだ。

 

しばらくすると、M中さんやたっちゃんが夜釣りに参戦。M中さんは、東側に釣り座を構え、たっちゃんはなんと昼釣りのポイントである裏のワンドで釣り始めた。初めての磯釣りは、たっちゃんにセオリーを無視した行動に向かわせた。

 

しかし、一番先に答えを出したのは、磯釣り1回目のたっちゃんだった。裏のワンドで40cmクラスのクロをゲット。釣りに絶対的正義はない。結果が全て。釣った結果がセオリーとなるのだ。そして、遠くから参戦してくれた客人がまず釣ってくれてほっとするのだった。

 

水平線が白々と明るくなり始めた。いよいよ尾長グレの黄金の時間を迎えようとしていた。この時間最大級の集中力で仕掛けを打ち返していたが、餌が盗られたり、盗られなかったり。

 

そして、次に沈黙を破ったのは、M中さんだった。キター。かなり強烈な引きを磯釣り師があまり使わないタマン竿で応戦している。

 

7号クラスのタマン竿との勝負は意外に速かった。慎重に振り上げるM中さん。M中さんのやりとりに気づき近づいてきたたっちゃんが声を発した。

 

「タカノハダイだ。」

 

タカノハダイは、磯釣り師にはあまり歓迎されない訪問者だ。なぜなら、彼らは潮が釣れないときでも仕掛けに食い付いてくれるという。そんな魚がこのタイミングで釣れるなんて。

 

ところがそのたっちゃんの見解は、誤解であることが判明した。M中さんが釣った魚はシブダイあった。たっちゃんは、これまでシブダイを見たことがなかったらしい。

 

45cmを超える良型。夏の夜釣りでも中々釣れないサイズだ。何か異変がこの硫黄島で起こっているのではないか。この釣果は確かにM中さんにとって喜ばしいことには違いないが、これからの釣りに不安がよぎった。

 

さらにその不安を助長するかのごとく、M中さんは、再び魚をかける。しかし、このやりとりの最中、信頼を寄せていたタマン竿が音を立てて折れてしまった。この予想外のトラブルで、つかまった魚は命からがら逃げていった。

 

私も一度良型と思える魚を掛けたが、取り逃がしてしまった。たぶんイスズミだろう。

 

こうして、短いが内容の濃い尾長グレをねらった釣りは終演を迎えた。

 

尾長グレに今年も会えなかったか。

 

さて、気持ちを切り替えて昼釣りの仕掛けを作らなくちゃ。がま磯アテンダー2.5―53、道糸4号、ハリス3号。ウキはサラシにも負けずにクロの当たりを知らせてくれるウキ3Bをチョイス。

 

仕掛けを作って、裏のワンドに向かうと、そこには、たっちゃんがいた。たっちゃんは朝まずめの釣りを夜釣りの仕掛けのままで続けていた。ハリスは16号。明るい時間帯に、この号数のハリスで釣る釣り師はおそらくいないと思うが、もうすでに4枚ものクロをゲットしていた。

 

ワンドは朝日が当たらないためか、しばらくの間はハリスの号数を上げなくても釣れることをたっちゃんから教えてもらったような気がする。

 

M中さんはワンドの奥で勝負。おいらは下げ潮のポイントである先端に出て釣り始めた。ここはとにかくサラシが出ている瀬際に根掛かり覚悟で仕掛けを入れてクロを抜き上げることが大切だ。

 

西からのうねりで、洗濯機状態。仕掛けを落ち着かせてもどっかーんと波が仕掛けを吹っ飛ばしていく。

 

重たい錘をつけて、ミャク釣りでねらいたいところだが、ここからの垂らし釣りは距離的に難しい。

 

サラシから沖へ仕掛けが流されれば、そこには、血に飢えたハイエナのごとく待ち構えているイスズミ歩兵軍団の餌食になってしまう。そして、一日中イスズミと遊ぶことになるだろう。

 

さて、仕掛けを整えて第1投。根掛かり覚悟で瀬際に仕掛けを落とす。案の定、仕掛けをどっかーんと波にもって行かれる。そこで道糸を張りながら、仕掛けを送り込む。

 

すると、ククッという魚の食い付いた感覚が手元に伝わった。反射的に合わせを入れるとハリ掛かり。第1投から魚をかけたが、飛んできた魚はイスズミだった。

 

リリースして、第2投。今度は直線的なシャープな引きだ。白いサラシの中から黒い影が跳ねた。

 

クロだ。クロ。

 

慎重に抜き上げようとすると、魚が反転し、クロは逃げていった。うまくハリ掛かりしていなかったらしい。

 

気を取り直して、釣り続けるが、釣れてくるのはイスズミだらけ。しかも、34、5cmくらいのが版で押したようにかかってくる。こんなにイスズミの活性が高いのも久しぶりだ。まあ、イスズミ7,8匹にクロが1枚釣れたらいいか。

 

それでもようやくクロを掛けたがこれもバラした。

 

そして、釣り開始30分後ようやく最初のクロを抜き上げた。時計を見ると午前7時40分。

 

ああこんなことやっていちゃ、魚に見放されてしまうよ。

 

自嘲気味にこんなネガティブな独り言をつぶやく。しかし、これが現実になるのにそう時間はかからなかった。

 

釣っても釣ってもイスズミばかり。瀬際に仕掛けを入れるが、やはりイスズミ。遠投してももちろんイスズミ。潮流に流してもイスズミ。根掛かり覚悟でガン玉を段打ちにし、ミャク釣りを試みてもイスズミだ。この磯はもはやイスズミの大軍に取り囲まれていたのだった。

 

イスズミが多いのは承知の上だが、ここまで多いとは。

 

M中さんはそれでもワンドの奥でクロを4枚ゲット。

 

たっちゃんも表の夜尾長のポイントでミャク釣りでメガネハギ、モンガラカワハギなどを釣り楽しんでいた。

 

 

イスズミの引きに腕筋トレ状態になり、腕に乳酸がたまりだした。バナナをほおばりしばし休憩しながら、景色を眺めている。なんという美しい自然。硫黄岳が噴煙を上げながら、釣り人を俯瞰している。

 

「いいですねえ。この風景。これ(硫黄島)を見るだけでもここに来た甲斐がありましたよ。」

 

硫黄岳や磯の情景をカメラに納めながら、たっちゃんが話しかけてくる。そして、釣ったイスズミを大切に締めて持ち帰ろうとしていた。

 

「うちの田舎ではイスズミは普通に食べてましたよ。母親が、イスズミをなつかしがるので送ってあげようかと思って。」

 

たっちゃんの純粋な気持ちから出る言葉は、自分の心に突き刺さる。

 

いいじゃないか。イスズミだって本命ではないか、竿を曲げてくれる。釣りを楽しいものにしてくれる魚には変わりはない。

 

それからというものイスズミの波状攻撃を楽しみながら、何度も何度も釣ってはリリースを繰り返した。粘っていればいつかはクロが釣れるかも。この磯で釣りができる瞬間を大事にしようじゃないか。

 

40匹以上イスズミを釣った後、魚がクロに変わったのは、回収30分前だった。この1匹は本当にうれしかった。入れ食いの10匹以上の価値がある。そう思えた。

 

やったぞ〜と思わず叫んでしまった。これで満足だ。たっちゃんのように魚を大切にクーラーに入れた。

 

あ〜あ、今回は惨敗だったね。せっかく遠方から来てくれたのに、クロ4枚しか釣らせてあげられなかったたっちゃんに申し訳ないと思っているが、たっちゃん当人は大満足だったようで、回収の船が来るまで、硫黄島の絶景に見とれていた。

 

回収の船に乗り込み、惨敗だったことを船長に告げた。なんかいつものように清々しい回収シーンだ。たっちゃんは、キャビン内に入ることなく、デッキの外にいた。そして、遠ざかる硫黄島をいつまでも眺め続けていた。

 

さあ、港に返って反省会だ。

 

kamataさん、クロは他の場所では1匹も釣れなかったよ。平瀬も新島の必ずクロが釣れるところもね。オキアミがそのままで戻ってきたよ。今日のようなことは珍しいよ。年に1回あるかないかだね。」

 

なんと、我々の場所はクロが唯一釣れた場所だったようだ。3人でクロ10枚が竿頭という何とも残念な結果となった。

 

「石鯛も全滅だった。土産があるからよかったね。」

 

この釣果で船長からねぎらいの言葉がでるほど今回の状況は厳しかったらしい。

 

でも、もうそんなことはどうでもよかった。家の家族には十分な2匹のおみやげができたんだもの。活火山での釣りという非日常を体験させてもらったし、たっちゃんという釣り仲間もできた。船長に感謝しよう。

 

たっちゃんはこれから枕崎駅から新幹線に乗って帰るそうだ。大変だね。

 

「駅まで送っていこうか」

 

船長がたっちゃんを駅まで送ってくれるという。気の毒がっていたたっちゃんも船長のありがたい申し出に甘えることに。

 

そして、次の釣りもいっしょにという約束を交わしてたっちゃんとは別れた。

 

こうして、船長の真心、たっちゃん、もっている男M中さんとの出会いがあり、そして、憧憬の島硫黄島の存在。釣りは本当にすばらしい道楽だとつくづく感じさせられるのであった。






今回も黒潮丸で

































































今回の舞台は硫黄島 鵜瀬

















































































M中さんがシブダイを釣ったポイント



たっちゃん ハリス16号で釣ってます





M中さん45cmのシブダイ




竹島と新島の間から朝日が








朝焼けの鵜瀬



鵜瀬 下げ潮のポイントで勝負








イスズミの活性が高かったです








ようやく1尾ゲット










M中さんの釣り座











たっちゃんがんばってます




外道も気にせず釣りを楽しみます






M中さん 4枚のクロをゲット


ナイスな釣果でした




久しぶりの1尾 うれしかったなあ






ありがとう 鵜瀬



釣り仲間 3人と


本日の料理 まずは刺身


クロのサラダ


クロの腹身焼き


クロのかき揚げ


クロのみそ汁


TOP      BACK