9/26 秋の使者を求めて 別府湾の半夜釣り


大分臨海工業地域とは目と鼻の先

「トカラへ行こう」

こういきなり電話でM中さんが切り出した。

トカラ列島。鹿児島県三島村と奄美大島に挟まれた日本最後の楽園と言われる島々。

そりゃだれだって、そんな釣りのメッカと言われる場所に行ってみたいと思う。

しかし、鹿児島港からフェリーで6時間以上かかるこの場所は容易に人を寄せ付けない。

高速船でも5時間ほどかかる上に、チャーターという非現実的な方法でしかなく、トカラの釣りはサラリーマンにとって正に砂上の楼閣と言うべき場所。

それがトカラなのだ。

M中さんの提案は無謀に思えた。

「あのね、金曜の夜からフェリーが出て、行けるみたいよ」

ところがM中さんは、あっさりこちらの心配を吹き飛ばした。

そうだ、確かに金曜日の深夜から出航したフェリーは、土曜日の早朝にトカラ列島に着く。そして、日曜日の午後の帰りの便にのれば、夕方には鹿児島港に戻れる。そうトカラでやろうと思えば釣りができるではないか。この瞬間、理性は吹き飛んでしまった。

「わかりました。行きましょう。トカラへ」

それからというもの、生活の中心は、Lord toトカラになった。

トカラに行くことが決まってからは、仕事に準備にフル回転。台車を買ったり、背負子を買ったり、情報を集めたり、バラ色の黄金の時間があっという間に過ぎていった。

kamata、フェリーと民宿を予約したよ。平島にした。そこは、民宿やっているご主人が瀬渡しもするんだって。」

いよいよ憧憬のトカラ釣行まであと1週間と迫った日、YAHOO天気予報を見て愕然とした。

なんと台風が発生しているではありませんか。

しかも、釣行帰還日である27日に沖縄本島に近づくという。

たとえ、フェリーが出たとしても、帰ることができるという保証はない。ましてやこの台風接近では、沖磯で釣りをするなんてとんでもない話だ。

M中さんとのトカラ釣行は、こうしてあえなく中止となったのだった。

このトカラ釣行のために、周到な準備をしていたM中さんのショックは大きかった。
仕事柄、土日ともに休みを取ることがとても難しい中での釣行だっただけに、M中さんにとって、受け入れることができない現実だったもよう。せっかく休みが取れたM中さん。
何とか釣りができるところはないか探した。一度はやなちゃんが利用したことのある五島行きのレインボー渡船と連絡が取れたものの、最小携行人数が8人ということでお客さんが集まらず、最後の望みを絶たれた格好に。

磯に行く望みを絶たれ、ただぼーっとwebサイトを覗いていたら、べっぷ丸のサイトに土曜日の半夜釣りで空きがあることを視界にとらえた。

「どうせ磯に行けないなら、船釣りでも楽しもうじゃないか。太刀魚はあまり経験がないけど。」

こんななんだで、夢のトカラ釣行が、別府湾の太刀魚釣りに切り替わったのだった。

「いいですよ。4時半に来てください。5時出航です。」

客があまり集まらなかったようで、船長の声はwelcomeに聞こえた。

幸いM中さんもこの釣りを歓迎してくれ、二人は別府若草港へと向かった。

台風接近のニュースで客足が途絶え、台風の進路が日本列島に向かわないとわかっても予約人数は7名のままだったそうだ。


午後4時半に、船長が登場。結局、集まったのは6人だった。くじ引きで釣り座を決め、船の最前にM中さん、となりにおいらが入った。

「ポイントまで30分くらいです。今のうちに仕掛けを作っておいてください」

船釣り師はベテランが多い。6人の釣り人と船長とポーターを乗せたべっぷ丸はどんよりとした鉛色の空の中、ゆっくりと沖へ進んでいった。
 

別府湾の太刀魚釣りは、底から5m〜10m付近の水深50m位をねらう。

太刀魚専用の仕掛けに、サンマの切り身を縛り付け、仕掛けをタナまで落として、2回ほどしゃくりながら、アタリを待つ。


「アタリはもぞもぞっとした小さな当たりなので、それをどう見極めるかが大切ですよ。」

ポーターさんの解説を聞きながら少しずつモチベーションが高まってきた。

右手に、大分臨海工業地帯の工場が並んでいるのが見える。だんだん暗くなって夜へと向かっている。あかりがぼんやり灯るようになってきた。

ほどなくエンジンがスローになって、いよいよ眠れる獅子である船釣り師たちがごそごそと動き出した。

アンカーを打ち、いよいよ釣りが始まった。

「昨日は、初心者の方がドラゴンサイズを上げています。がんばってください。」

マイクで船長がさりげなく釣り人のモチベーションを高めている。

まだだれの仕掛けにもアタリがないようだが、静寂の中だからこそどきどきするもの。

いつ魚が喰い出すかわからない緊張感は磯も船も同じだ。

と突然、となりの釣り人が魚を喰わせたようだ。

「太刀魚は、途中手応えがなくなったからといって安心してはいけません。どんどん巻いてください。巻くのをやめてしまうとばれてしまいます。」

船長がすかさずアドバイスを。

釣り人は太刀魚を抜きあげる。指3本サイズだ。銀色に輝くその体色はサーベルフィッシュにふさわしい美しさだった。

これで、釣り人のやる気が一気に高まる。

「さあ、どんどん誘って喰わせてくださいよ。餌を動かしてアピールして」

船長がここで更に釣り人をあおっている。

ふと、何か気の圧力を感じ右に視線を向ける。すると、M中さんが魚とのやりとりをはじめているではありませんか。

根掛かりしたようにその獲物は初動動かなかった。

何とかリールを巻きはじめて水面まで引き寄せる。ポーターさんが抜きあげる。お〜〜〜〜っと思わず声を上げてしまった。

M中さんが第1投で釣った1尾は、指5本サイズのいわゆるドラゴンサイズと呼ばれる太刀魚だった。

おめでとうございます。

「ありがとうござんす」

興奮してか、まるで時代劇のような台詞を吐きながら、笑顔で船長の向けるカメラに収まった。

「昨日も初心者の方が釣ったんですよ。やりましたね。いきなりのドラゴンサイズですよ」

周りの釣り人もこの釣果を見せられてはタマラナイ。

みな釣りに没頭した。

わたしもようやく指3本サイズを釣りあげようやくボウズ脱出。

太刀魚は入れ食いとは鳴ならなかったが、ポツポツと竿を曲げてくれた。

「タナが40mあたりで出始めましたよ。タナをいろいろ変えてみてください。」

5,6本太刀魚を抜きあげ、満潮の潮止まりを迎えた。

今日の潮はよさそうだ。PEラインがストレートに伸びている。

下げの時間帯に入った。さあ、なんとかドラゴンを釣らなくちゃ。

ここで太刀魚の習性を思い出してみた。

たしか太刀魚は、一度ねらったターゲットを最後まで追っかけてくるという習性を持っている。

だから、活性が上がれば、浅いところまで浮いてくるはずだ。

だんだん時間がたつと、太刀魚のわずかなアタリがわかるようになってきた。

ぐっぐっと小さな当たりが出た。しかし、食い込みには至らない。

しゃくってアタリを待つ。これまた小さなアタリがあるが、また食い込みには至らない。

だんだん、タナが浅くなっていく。それでもやはりわずかなアタリがある。

これは追ってきているに違いない。

案の定、次のアタリは一気に喰った。

竿が激しくつの字に曲がっている。まるで根掛かりしたようなアタリだ。

強い引きは初めだけで、あとはそれほど力を感じることなく、巻き上げることができた。

さあ、フィニッシュだ。

抜きあげた魚はこの釣り一番のサイズ。指6本サイズの太刀魚だった。

美しい魚体に見とれながらも、どう猛な性格の彼にケガを負わないように慎重に持ち上げた。

太刀魚なのにずしりと重い魚体だった。

はじめて釣ったドラゴンサイズ。こんなにも簡単に釣れるものなのか。

時計をみると、下げが走り出した午後9時過ぎのことであった。

その後もぽつりぽつりと太刀魚を抜きあげ、14本になったところで納竿となった。

二人ともドラゴンを釣り上げ、大満足だった今回の釣行。

ビギナーズラックってこんなもん?

トカラに行けなかった二人をポセイドンが慰めてくれたんだろうと考えることにした。

帰港するとすでに午後11時になっていた。

二人は、予約してたホテルに急いで滑り込み、居酒屋でささやかな打ち上げをした。

そして、そこので酒の肴は太刀魚のことではなく、もっぱらトカラの釣りのことに終始。




ああ、いつ行けるのだろう。あこがれのトカラ。

二人で固くトカラ行きを誓いホテルのベッドで死んだように眠るのだった。







別府丸さんお世話になります









M中さんやる気モードっす




港のすぐ後ろは小学校でした



眠れる獅子たち






工場をみながらの撮影






M中さんいきなりのドラゴン





しばらくすると釣れました



おいらにもドラゴンが訪問してくれました



今回の釣果 ドラゴンを含め14本


釣りを終えて居酒屋で反省会


ドラゴンが釣れて良かったね



大分名物りゅうきゅうを頼んだらこれが・・・



以下は自作太刀魚料理


太刀魚の刺身


太刀魚のフライ


太刀魚とニラのテンプラ


太刀魚の骨せんべい


太刀魚の握り寿司



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