12/12 縄文人のDNAを呼び覚ませ 甑島鹿島


鹿島東磯 ミタレ平瀬

kamataさん、甑に行こい。やっぱ鹿島バイ」

いつもポジティブなuenoさんが、さらに饒舌に携帯の向こうから語り出した。

Uenoさんの話によると、今年は自分の釣果がすこぶる調子がよいとのこと。11月の3連休の中日、息子さんと二人で出撃した鹿島東磯弁慶2番で、型には恵まれなかったもののクロの数釣りを堪能したそうだ。

「今年は、クロが早めに釣れ始めとるバイ。だけん、はよ行こい。」

釣りの携帯サイト釣ナビからは確かに甑島が好調であることを物語る情報が電波に乗ってアジテーションしている。Uenoさんがこう言うのもわかる気がする。

9月にね。硫黄島に行ったよ。西磯のほらタテガミと島の間にある小さな磯のあったい。」

「ミジメ瀬ですか。」

「そうそう、そこでな。シブば12枚釣ったバイ。おもしろかったバイ」

Uenoさんは、おいらのモティべーションを高めようとしているようだが、それは無用の策略だ。なぜなら、おいらもこの12月に出撃を心待ちにしていたからだ。

12日はどげんね。潮もよかごたるけん」

何の根拠もないこの潮がよいという情報を飲み込んで2つ返事でuenoさんの策略に乗ることにした。

1212日、大潮3日目。

このところ、12月とは思えない陽気。寒気の入り込みは少なく、一雨ごとに寒くなる例年のパターンとは違った天候。

対流圏の気候は、クロの活性化にはほど遠い状況だったが、水温は徐々に下がり始め、クロの釣果が聞かれるようになった。Uenoさんがターゲットにしている鹿島でも10月後半から釣れだしている。

「食いは渋かったバイ。ハリスば1.75号まで落としたもん。ハリは4号より、3号の方が食いがよかったバイ」

早速、釣行に向けて情報を流すuenoさん。さすがだ。同行者に対して、決して情報操作することなく、正直に状況を教えてくれる誠実さは相変わらずだ。

そのuenoさんはおいらの釣りの師匠でもある。

これといった道楽のないおいらに、釣りという人生で出会った最高の道楽を教えてくれた恩人だ。

そのuenoさんが豪語することがある。

それは、12月は釣り師にとって1年のうちで最も喜ばしい季節であるということだ。

Uenoさん曰く、

クロ釣りでは、乗っ込みの準備をするこの時期が良く釣れるし、食べてもおいしい。

寒チヌはこの時期が脂がノってうまいっしょ。

カワハギの肝パンが大きくなる。

マダイもよく釣れるし、食べてもおいしい。

ブリもこの時期脂がノって最高にうまい。

メバルも釣れ始める。

アジやサバも身が締まり脂ノリもまずまず。

アオリイカは良型が釣れてくる時期だし。

など、こんな具合だ。12月は季節は冬だが、海中では秋と冬が入れ替わる時期。

つまり、秋の魚も冬の魚も両方狙える時期で、対象魚が増えること。

また、魚影も濃くなり、釣り自体もおもしろくなること。

これらのことを根拠に、uenoさんは12月を歓迎すべき月だと主張しているのだ。

秋と冬が交錯する海の中、その生物たちは、我々の釣りに一体どんな答えを用意してくれるのだろう。

釣行日の前々日から日本列島に前線が近づき、冬の稲妻が人々を驚かせた。その雨は釣行前日まで続いた。雨のあとはお決まりの北向きの強い季節風が吹く予報。出航するか心配していたが。

「4時出航げな。1時に出発しようか」

このuenoさんの連絡で、通常より1時間遅れだが、出航が決定。小さくガッツポーズをし、仕事を終えると猛ダッシュで準備を始めた。

アテンダーは入院中なので、竿は、ダイワメガドライ1.5号、ダイコーの強豪1号のラインナップ。この天候なら東磯かもしれないと、ハリも3号を購入して準備を終えた。

Uenoさん宅に着いたのが、午前0時45分。荷物をおいらの車に積み、午前1時前に人吉ICから一路誠豊丸の待つ串木野港へと車を走らせた。

いちき串木野市内に入ると、uenoさんの息子さんyoshiくんと待ち合わせた。彼は、鹿児島を代表する有名企業に勤務している好青年だ。海上保安庁の船が停泊している港へ到着したのが、出港1時間前の午前3時。12月と言えば、寒グロの本格シーズンに入る時期。釣り人でごった返すかと思いきや、港は閑散としていた。

出港20分前、天文館のネオンサインよりはるかに眩しいLEDライトを伴った誠豊丸が岸壁に近づいても、出てくる釣り人はまばら。

後で知ることになるのだが、この日の釣り客はわずか10名。本格シーズンに近いこの時期にしては大変少ない人数だ。首をかしげながらも、程なく荷物の積み込みが始まった。その作業の中で、船長がこうつぶやいた。

「今日は、西磯にはいけないですね」

実際に行ってみないと、甑島の海の状況はわからないと思うのだが、この時点でのこの船長の判断は、かなり時化気味であることを示唆していた。

「東磯バイ。弁慶に乗らるっとよかばってん。」

このuenoさんの言葉に思わず同調した。なぜって、2人とも東磯の熊ヶ瀬以南の釣り場でまともな魚を釣っていないのだ。それは腕が悪いのか、魚が悪いのかわからないが、とにかく、魚の型すらお目にかかった記憶がない。

おいらは、コミタレに一度行ったことがあるだけだが、uenoさんは何度もこの東磯の南に出撃し、そのたびに撃沈を喰らっているらしい。

「あそこは好かんタイなあ。魚のおる気がせんもん。」

しかし、贅沢を言っている場合ではない。おいらたちはサラリーマン釣り師。潮や釣り場を選ぶことはできない。仕事が休みの日が釣行日なのだ。

乗船名簿に記入し、キャビン内の電気が消され、誠豊丸は、午前4時ごろ港を離れた。

串木野港を離れると、対馬暖流を横切って船は走る。

九州と甑島との水道はいつも揺れるところだ。船はほどよく揺れ、やや時化気味であることを感じた。宇治や草垣に比べたらあまりにも早く到着しやや拍子抜け。この時間での到着なら東磯だろう。

キャビンの外に出て状況を確認する。

午前5時過ぎ、まだ外は真っ暗だった。サーチライトに照射された磯。いびつな三角錐の形をした巌がぬうっと出現した。その巌には、すでに先客が一組。海蛍のようにキャップライトを照らし返している。ここはおいらの縄張りだぞ。他船で渡礁した釣り人のオーラを感じた。弁慶1番である。心配していた風と波はそれほど気になるものではなく安堵する。

「〇〇さん、行きましょうか」

鹿児島弁で中村船長が釣り人を誘う。ぶるんぶるん。船は、隣に鎮座する弁慶2番への向かった。これでuenoさんの希望は敢えなく撃沈。

「平瀬崎やろか。」

Uenoさん、今度は、鹿島港近くの好ポイント平瀬崎へと照準を合わせていた。渡礁は船長任せで考えても仕方がないことだが、Uenoさんは渡礁に向けて興奮状態なのか、船長の意識と重なっている。

ところが、平瀬崎は何とスルー。船は沖を走り続けた。デカ版の実績の高い熊ヶ瀬も見送って、船は我々が最も苦手とするミタレ方面へと走っている。

「やっぱ、あっちへ(鹿島東磯南)バイ。」

となりでuenoさんが落胆のつぶやきを。船は、uenoさんの嘆きをよそに快走に飛ばし続け、この鹿島地区でも最大級の大きさを誇る一枚岩の周辺でエンジンをスローにした。巨大な巌はミタレと呼ばれている。

船はその隣にあるお一人用の小さなハナレ磯にピン釣り人を無事渡礁させた。

uenoさん、行きますよ。」

船長から声が掛かる。3人一緒に釣りができる磯があるのだろうか。船は、鹿島の海岸線に限りなく近づいている。サーチライトを向けた先には低くて階段状の広く平らな磯が忽然と現れた。これなら3人でも問題なさそうだ。

良型口太の実績が高い「ミタレ平瀬」である。ホースヘッドのタイヤが無事岩に接岸した。

「今だ。」

3人は素早く渡礁を済ませ、船長のアドバイスを待った。

「上げ潮はこの船着けで。下げは、右の先端に移動して釣ってください。タナは深いですよ。」

船は、静かに去って行った。さあ、久しぶりの磯だ。1年ぶりの冬磯だ。少しの感慨とわずかな落胆を味わいながら半解凍のオキアミを足でつぶす作業に入った。

「ああ、この辺りは釣れんところやもん。」

釣りを始める前から、得意の嘆き節を語り始めたuenoさん。このミタレ周辺でまともな釣果に巡り会ったことのない経験が、uenoさんをネガティブにさせている。

「終わりましたね。」

と自虐的な反応で返したが、実は心の中は違っていた。冬磯開幕なんだもの。何としても夕食のおかずに必要な魚を持ちかえらなければ。闘志で体が熱くなっていた。もちろん、自分たちの腕の悪さを棚に上げていることはいうまでもない。

「まだ暗かけんゆっくり準備しよい。あら、もうこんな時間バイ。」

そう言いながら、Uenoさんはもう既に餌を自宅で混ぜてきていて、タックルの準備に取りかかった。

しばらくして、暗闇からuenoさんの断末魔の叫び声が突然聞こえてきた。

「ありゃあああああ、折れとったバイ。なんでや。」

Uenoさんの寵愛を受け続けていたダイワの本命竿の竿先が折れていたのだ。不本意な磯に乗せられて更に竿までもトラブってしまったuenoさん、ますますネガティブに。予備竿で仕掛け作りに入るしかなかった。

気の毒だが、こればかりはどうしようもない。Uenoさんに同情しつつも自分もタックルの準備に入った。

竿は、ダイワメガドライM21.5号。尾長はいないだろうから、道糸は風の影響を少なくする意図で1.7号にハリス1.75号。ウキは、タナが深めということで、取りあえずSサイズの2Bをチョイス。ハリは事前情報からグレの3号を結んだ。タナは竿1本弱から始めることにした。Yoshiくんも準備完了。3人釣り座に並んだ。

明るくなるまで、足下に撒き餌を入れる。ここは甑島だからもちろんパン粉主体だ。

水平線が白々とし始めた。夜と昼が入れ替わるこの時間。紫色からオレンジ色のグラデーションから白い朝に落ち着くまでの展開に、つい撒き餌を撒く動きを止めてしまう。ああ、この地球という夢舞台で、マイナスイオンを浴びながら釣りができる喜びが味わえるというのは何と贅沢なことであろう。

そろそろウキが視認できる明るさになってきた。

「もう釣ろい。」

このuenoさんのつぶやきで、3人仲良く実釣開始。3つのウキが紫紺の波間に漂った。第1投を回収。餌をチェック。餌は盗られていない。タナをすぐさま竿1本と1ヒロに深く設定。竿1本先に仕掛けを投入。仕掛けがなじむのを確認し、アタリを待つ。仕掛けを回収。今度は餌がかじられていた。これは、クロではないかな。第3投、これも餌がかじられていた。

潮はいい感じでとろとろと北へ流れている。これまでの経験では、この潮は釣れる潮だ。それでも喰わないということは、仕掛けに違和感を感じていると判断。すぐさまウキを最も信頼のおけるプロ山元ウキG2に変更することにした。

「餌盗らるんね。おらぜんぜん餌盗られんバイ。」

へえ場所が違うからかな。いやタナが浅いのでは。と突然釣り人のオーラを感じて釣り座に目をやると、何とuenoさんの息子yoshiくんが魚を喰わせているではありませんか。何度も磯の足下に突っ込む輩は、本命かと期待されたが、ギンギラギンと残念な現れ方だった。イスズミである。

外道の登場は残念だったが、生命反応があることで2人は安堵した。確かに生命反応はある。ウキを途中までは持っていくようになった。ウキは消し込まないが、魚が餌をくわえているのは確実だ。また、餌をかじってはいる。クロはいる。クロは確かにいる。そう信じて仕掛けを打ち返す。

釣り始めて30分が経過したところだった。あともう少しで満潮というところで潮が少し沖目に走り出した時だった。ウキがゆらゆらした前アタリを知らせ、ゆっくりと消し込み始めた。また、お化けだろうと、半信半疑で見つめていると、赤朱色ドングリは、一気に海中に吸い込まれていった。

さっき同じようなウキの消し込みでハリ外れをやらかしてしまったので、慎重に喰わせてから、一気に合わせを入れた。

「よっしゃあ、乗った!」

メガドライが美しい弧を描いている。足下に向かって突っ込むシャープな引きは、明らかにクロであることを釣り人に教えた。しっぽの白い愛くるしい魚体が紫紺の波間からぬうっと現れた。

「クロだ、クロ!」

思わず叫んでしまった。

大切に玉網ですくい、手元に引き寄せた。35cm級のクロだ。この釣果は、これからの釣りの指針になるはずだった。

「よう釣ったね。」

Uenoさんがすかさず祝福してくれた。野球やサッカーの先制点のように、最初の釣果は釣り人の自己肯定感を大いに高めてくれる。

「タナは?」

「竿1本と少しです。」

「ウキは?」

G2です。」

「ハリスは?ハリは?」

1.75号に3号です。」

3号な。なるほど。」

Uenoさんにきちんと状況報告を済ませた。

さあ、続くかな。急いで仕掛けをさっき喰ったポイントへ投げたが、潮が変わってしまい。釣れる状況ではなくなってしまった。

ハリが小さいのも手伝って、魚を喰わせてもバラしたり、ハリ外れをやらかしたりして、その後、本命の魚に出会うことなく、満潮の潮止まりを迎えた。

潮が止まったので、遅い朝食タイムとした。ずっと続けていると集中力がなくなっていく。いい釣りをするためには休憩も必要だ。

さて、15分ほど休憩して、釣りを再開。期待を込めた下げ潮だったが、潮は二枚潮になったり、手前に当たってきたりと中々思い通りにはいかない。

満を持して、下げ潮のポイントに移動しては見るものの、全く魚のアタリすらなかった。魚の気配を感じなかったので、また、もとの船着けのポイントに移動した。

ぶるんぶるん。

誠豊丸が見回りにやってきた。

uenoさん、どうですか。」

ダメのサイン。

「今日はここで粘ってください。」

そう言うと船長は去っていった。

10人しかいない中で、渡された磯だもの。ここよりよい磯はないはず。ここで頑張るしかない。

しかし、状況は悪くなるばかり。イスズミが食ってくるのはまだいいほうで、そのうち餌がそのまま帰ってくるようになった。

「もう釣れる気がせんバイ」

Uenoさんが嘆く。クーラーに座り込んでの休憩が多くなってきた。その気持ちよくわかる。生命反応が消えるとさすがにすることがなくなる。ごそごそと食べ物を取り出し潮風に当たりながら、遅い朝食をいただいた。

ここは、食事をとっても安全な場所のようだ。

食事をしながら思わず警戒してしまうのは、磯釣り師の性。

時々、磯釣りのじゃまをする輩に遭遇することがあるからだ。特に、休憩するとやってくるのが野鳥である。

代表格は、カラスである。彼らは群れで行動し、常に釣り人周辺の餌らしきものをねらっている。硫黄島の瀬泊まり釣りの時だった。みゆきという瀬で、昼釣りのポイントに行っている間に、夜釣り用に用意していたトロ箱のタレ口イワシをごっそり全部食い尽くされたことがあった。




ご丁寧にトロ箱の隅の身のかけらさえも跡形もなかった。彼らが食べ損なったのは磯の割れ目の奥に入り込んでしまったサンマ
3匹だけであった。その日の夜釣りは、夜空を眺めるしかないほど暇だった。

こんな記憶を脳内の海馬から拾い出しては、磯場で座り込んで食事をとっていると、法則通り一羽の野鳥が近づいてきた。そいつはあのトンビさえも蹴散らすどう猛で貪欲なカラスではなく、小さな可愛らしい鳥だ。



お腹は鮮やかなオレンジ色で背中に灰青色のコートを羽織ったような模様。磯場でぴょんぴょんと忙しそうに餌を探している。彼もお食事タイムのようだ。

図鑑で調べてみると、イソヒヨドリというらしい。ジジジジとうるさく鳴くあのヒヨドリとは種類が違うそうで、渡り鳥としても知られているツグミ科の鳥だそうだ。その名の通り、日本の各地の海岸沿いや磯場に生息している。

カラスはノーサンキュウだが、こんな小鳥を見ていると心が癒やされる。鳥が好きな人がたくさんいるのもわかる気がする。ミタレ平瀬の釣り座の反対側に見られる浅場が、エメラルドグリーンの背景となり、その中をイソヒヨドリが動いている。




何とも風流な一コマだろう。バードウオッチングの魅力は、鳥そのものを観察するだけではなく、鳥がいる環境と一体となった世界を楽しむことにあるのではないだろうか。こんなことを考えながら、しばらくの間、イソヒヨドリの行動を見て楽しんだ。

いかんいかん、ついつい釣りから意識が遠のき、バードウオッチングに興じてしまった。これだから魚が釣れないんだな。

自虐的な言葉を発し、元の釣り座に戻って釣りを再開。時計をみるとすでに午前11時前を指していた。

回収は1時だろう。それまであと1時間半、釣りを最後まで楽しもうではないか。すでに、ueno親子は釣りを再開。ボウズだけは勘弁と仕掛けを打ち返した。

潮は、朝のようにとろとろと流れることはなく、ほとんど止まったままだった。大潮の3日目にしては、動きが悪すぎる。

「ああ、朝のうちが一番チャンスやったバイ。」

Uenoさんの言うとおりだ。朝まずめという言葉と同時に、いい感じで流れていた潮の時に魚を釣ることができなかった時点ですでに敗北が決まっていたと言える。

「ああ、もうおらやむるバイ。釣れる気のせんもん。」

こんな言葉を発して、uenoさんついにリタイア。

将棋や囲碁では、「ありませんね」や「中押し」という言葉があるとおり、賢者は敗北を自分で決める。往生際が悪いのは、日本人の美徳観からして我慢がならぬのか。新渡戸稲造がアメリカに紹介した武士道の掟にそってなのか。理由は定かではないが、Uenoさんは釣りを終えると宣言した。

しかし、簡単に釣りを終えられない自分がここにいた。その意識は、日本人の美徳というより、日本が大陸と陸続きであった縄文時代のDNAのなせる技という言葉が適切なのか、何としても魚を釣って帰りたいというものだった。

なぜなら、家族に今晩は魚料理だよ。カミさんに夕食は用意しなくてもいいからね、と宣言してきたからだ。

必死の形相を釣り続ける。

追い求めるうちに、実に簡単に願いが実現することがあるもの。

タイムアップまで残り40分となった午前1140分過ぎ。潮が一瞬沖へと動いたときだった。

エースウキであるプロ山元ウキG2が、ゆらゆらと消し込まれ、10cm沈んでいつものように止まったかと思うと、一気に海中へと引きずり込まれた。慎重に餌を吟味しながら飲み込んだクロが誤嚥をやらかしたようだ。しかし、時はすでに遅し。O社のグレバリ3号が、クロののどに掛かってしまったようだ。

道糸が走り、慎重に合わせた。

「よっしゃ、乗った。」

美しい弧を描くメガドライ。釣り人の動きと竿のしなりが一体となり、まるで3次のベジェ曲線のよう。パチンコの確変時に大量分泌されるといわれる脳内モルヒネのドーパミンが確実に噴出している。AEDショックと同じような効果のある(そんな訳ない)アドレナリンも血液を介して全身を駆け巡る。

なんと気持ちのよいことか。薬師丸ひろ子さんがセーラー服と機関銃で発した一言「カイカン」が最もふさわしい言葉と思った。

右手前の張り出し根に触れないように浮かせると、しっぽの白い愛くるしい魚体が現れた。

「おおっ、クロバイ。すごかなあ。」

Uenoさんが驚嘆の声を上げた。

玉網で手元に引き寄せる。魚を手にする最高の瞬間だ。

よしっ、これで晩ご飯のおかずは大丈夫。魚を〆ていると、さっきやめると宣言していたuenoさんが釣り始めていた。

この1尾は、uenoさんの縄文人としての遺伝子をも揺り動かしたのだ。

しかし、潮が好転したのはこの一瞬だけで、再び沈黙の海と化した。そのまま返ってくる付け餌を打ち返すも無情のタイムアップ。竿をたたむことにした。

やっと2匹という結果は、自分の釣り技術からして当然の結果と思えた。

1時過ぎに誠豊丸は迎えにやってきた。荷物を船に載せ、自分たちも乗りこむ。釣りで撃沈したとき、船長に言われる一言「どうでしたか?」に恐怖を覚える。

撃沈したんだよ、と顔で思い切りアピールする。船長も空気を読んでくれ、それ以上釣果について言及することはなかった。

この日は、上げ潮の時間帯でいい釣りをされた方がよかった。コミタレで10枚が一番よい釣果。弁慶でも7,8枚は釣れたもよう。コミタレの方の話では、釣果はずべて上げ潮で、下げになるとまったく魚の食いが止まったとのこと。

今回もよい釣りはできなかったが、甑島の潮風に当たりながら、すばらしい時間を過ごすことができたことに感謝したい。

さあ、また来週から激務がやってくる。甑島を離れる船の中で非現実から現実の世界へ引き戻された。

しかし、そんな中、わが縄文時代のDNAはすでに、次回予定の宇治群島への出撃に照準を合わせていた。

釣りが終わった直後に次の釣りが始まる。

この釣り人しか知らない格言も縄文時代から受け継がれているんだなと感慨深く瞑想するのだった。









誠豊丸さん お世話になります


















































タナが深いですよ

















uenoさんの息子さん yoshiくんも一緒に






































ミタレ平瀬に渡礁



このハリは使いたくなかったんですけど














親子での釣り 絵になります


上げ潮はミタレ方面へ流れていきます



右の先端が下げ潮のポイント



釣り座の裏はビーチです



この1尾でほっとしました







なかなか喰わせきれません









仕掛けを変えたりいろいろやってみました






下げ潮は動きがありません



思わずバードウオッチングを




エメラルドグリーンの海です




今回のお食事





こちら側に流れた時がチャンス




uenoさん あきらめモード?




これで家に帰れます









爆音を響かせて崖崩れが





夏は海水浴が楽しめそうです




今回の釣果




1時過ぎに回収でした





ありがとう ミタレ平瀬




クロとチンゲンサイの味噌炒め


クロとニラのテンプラ


クロのパエリア


クロの刺身 あま〜〜い♪



脂がノっておいしかったです




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