12/30 ぶちぶち切られたい 黒島


黒島 赤瀬

離島の磯釣りに通い出してはや12年目のシーズンも終わろうとしていた。

甑島から硫黄島に転戦し、鷹島や津倉瀬にも触手をのばした。最近は宇治群島という新しいフィールドにも立った。

大きな成果を上げることはできなかったが、磯釣り創世記の釣りを体験し、磯釣りの醍醐味を味わうことができた。

今年2015年の釣り納めも離島で締めくくろうと、初めての渡船第3海交に連絡を入れた。行き先は宇治群島。昨年は、空前の尾長グレフィーバーに沸いたこの離島では、たくさんの磯釣り師が尾長グレとの勝負を楽しんだ。

ただ、この時期は尾長グレ釣りには早すぎる。去年の宇治では3月に入ってから釣れだしたっけ。大物は望めないかもしれないが、楽しい釣りはできるだろう。

「クヌギの薪はどれくらい持っていけばよかかな」

uenoさん。

「ガスバーナーいるよね」

M中さん。

このように路線の違う二人との三人で出撃計画を立てた。

釣行日は、1229日からの12日釣りに決定。26日から31日までのどこかで釣行可能なはずだったが、三人の釣行可能日をベン図でまとめるとそうなってしまったのだ。

離島の12日釣りは中々成就できない。

離島の釣り方程式というものがある。

離島の釣りを成就するためには、以下のような障害が立ちはだかる。


これに2日連続という条件を加えると、さらに厳しくなる。

離島の釣りはこうして成立が難しいからこそ、ますます挑戦したくなるのだ。

年末の雑務をこなしていると兵庫県からの刺客から連絡がきた。

kamataさん、今からそちらへ行きますんで。」

この声の主は、なんだかんだ毎年この年末に九州地方の離島にやってきて釣りを楽しむ猛者風雲児氏である。ここにも離島の釣りに魅了された釣り人がいた。彼は懲りもせず、今年も渡り鳥のようにフェリーに乗って九州へ上陸するとのこと。彼は、硫黄島以外の離島への出撃を望んでいた。今回は我々3人との釣行はスケジュールの問題で実現しなかったが、貴重な情報を残してくれた。

「黒島でなんかもうぶちぶち切られまして。そのデカ版の正体はわかりませんでしたが。40超えのオナガは釣れましたが。」

黒島の釣りでは、丸瀬に渡礁し、ワンドのようなところで竿を出し、正体不明のデカ版のアタリが連発して、6号までハリスを上げて勝負したが、どうしてもそのデカ版を取ることができなかったそうである。

今回は残念ながら、黒島に行く予定はないので、この情報は必要ないと思われた。

ところがである。

kamataさんですか。あの29日は時化なんで、30日からの2日釣りに切り替えました。」

ガーン。年末は、信じられないほど釣り日和の天候に恵まれていたと思っていたからだ。28日からの謎の時化により、29日は船止めにして30日からの釣行にしたいとのこと。

船長の判断は正しい。宇治行きは確実と思われていただけに、この釣行スケジュールの変更は痛かった。

さあ、どうする。どう変更すればいいか。

「誠豊丸もだめやったし、蝶栄丸も満員げな。」

Uenoさんも電話口の向こうで歯切れが悪かった。この時期になっては、予約するのは至難の業だ。

そんなとき浮かんだのが、風雲児氏の情報である。

uenoさん、黒島はどげんでしょうか。」

「おっ、黒島な。そこは釣るっとな。」

「なんかですね、風雲児さんが28日に黒島行って、ぶちぶち切られたそうですよ。」

ぶちぶち切られたという情報は、尾長グレである確証はなかったが、その情報にuenoさんは即座に反応。追い込まれた三人に選択の余地はなかった。即座に黒島の日帰り便に変更することにした。そう、離島の魅力は、デカ版との遭遇である。デカ版にぶちぶち切られたい(本当に仕留めたいのだが・・・)というのはが三人の離島釣り師の狙いである。

黒島は、三島村の中で最大の離島である。比較的大きな島で枕崎港からの渡船で1時間40分。硫黄島は西側によいポイントが多く北西の季節風が吹けば渡礁場所が限られてしまう。しかし、黒島は東側や南側に好ポイントが多いために、冬場の天候でも逃げ場が数多くあるところだ。

午後11時前にueno宅に三人集合。不本意だが、みなこの釣りを楽しもうと気持ちを切り替えていた。九州自動車道を南へ下り、指宿スカイライン谷山ICで降りて一般道へ。AZ川辺店で買い物をして黒島への渡船「荒磯」が待つ枕崎港に着いたのが、午前2時前だった。

閑散とした枕崎港。離島へ向かう釣り人の車もまばら。港の各所の常夜灯のカクテル光線がぽつぽつ見えるだけ。かろうじて竹島行きを目指している第八美和丸に明かりが灯っていた。

いつ来ても思うことだが、離島へ出撃する釣り人は、リーマンショック以降確実に減少し続けている。

このままでは南九州の離島便は、なくなってしまうのではないか。上の方程式の乗船人員とは地方経済の動向が大きく関わっている。自分たちにはなにもできないが、せめて離島便を利用することが少しでも離島釣りを後世に残すことになりはしないか。実に自己中心的な考えだが、三人の思いは一つだった。

船長がほどなく到着し、荷物の積み込みが始まった。

「ぶるん、ぶるん。」

エンジンに命が吹き込まれ、荒磯がきらびやかなライトを放ち、港を明るく照らす。磯釣り師のテンションが一気に上がる。いつの間にか、釣り人たちはだれが指示することなく共同で荷物運びを行っていた。荷物を船に積み込みながら、釣り人の熱気を肌で感じうれしくなった。見るとこの釣り人たちは、硫黄島に出撃していた常連さんたちが数多くいた。

この釣り人たちは、同士だ、仲間だ、愛すべき運命共同体なんだ。釣り師の熱気は船を定刻よりも20分早い午前240分ごろ港を離れさせた。

船のほどよい揺れと離島出撃の興奮で眠れない。ここに来るまでほとんど一睡もできない中での乗船にも関わらず、目は船の揺れとともに益々冴え渡ってしまう。

長く感じる船旅だった。午前5時前、ようやく荒磯はエンジンをスローにした。サーチライトを照らした先に、比較的背の高い巌が現れた。黒島の東の磯の一番沖に位置する立神である。圧倒的な迫力を持って、登場したその巌に2人の底物師が2カ所に分かれて無事渡礁を済ませる。

kamataさん、準備してください。」

ぎりぎりでの予約なのに早くも名前が呼ばれた。事前に、船長から2人と1人に分かれて渡礁するように言われていた。風雲児さんが一昨日渡礁しぶちぶち切られた丸瀬は、1人用ということで、丸瀬をuenoさんに譲り、自分たちはM中さんと2人用の磯に乗ることにしたのだ。

立神を抜けて南へ行くと思いきや、船は北へ向かった。立神を離れるといきなり風が強くなり始めた。風波が白いウサギを何度も発生させている。

荷物を船首部分に出し、ホースヘッドで姿勢を低くして身構えた。ドスンドスンと船首部分が上下に大きく揺れている。M中さんの帽子を吹き飛ばしたアゲンストの風に向かって、船は小さな独立礁の前でエンジンをスローにした。ごつごつしたあまり足場のよくない、そして狭い磯場に船を着けた。渡礁し荷物を受け取って船長のアドバイスを待った。

「荷物を高いところにあげて。ポイントは(船付けの)裏。タナは1ヒロで。」

こう言い残して、船はまた南へ向かってターンしていった。

乗ったこの場所は、正に荒磯と呼ぶにふさわしい波飛沫が飛び交う場所だ。満潮は午前10時過ぎ。渡礁した場所はこれから確実に波をかぶると思われた。高い位置に荷物を運んで時計をみると、すでに午前5時を回っていた。

「日帰りじゃあ、尾長釣りはできんかもしれんもんなあ」

Uenoさんの言うとおり、夜釣りができる時間は1時間半ほど。大急ぎで仕掛けを作ってトライするものの、釣れてくるのは25cmを超えるナミマツカサだけで、さしたるドラマもなく夜明けを迎えてしまった。M中さんも同じ状況だったらしい。

海水を触ったが、水温がまだ高く尾長グレが回遊する条件には達していないように思われた。

周りがすっかり明るくなると、この磯のすばらしいロケーションが目に飛び込んできた。島自体が溶岩で覆われていて黒い岩肌をしているところから名が付いたと言われる黒島。この場所は、黒ではなくむしろ赤であった。黒色を基調とした赤色のグラデーションがわずかな植物の緑とともにまるで抽象画のようにはっきりとこの場所の特徴を表している。この瀬の名を赤瀬という。

kamataどんな仕掛けでする。」

「道糸2.5号、ハリス2.5号で行きます」

船付けは風裏になるので、チヌ釣り場のように穏やかだが、船付けの裏は、向かい風。サラシがてきていかにもクロがいそうな気がする。

硫黄島もそうであったように、ここでもおそらくサラシをダイレクトにねらう瀬際釣りになると思われた。そこで、ウキは3Bという重めのウキ、タナは1ヒロ、ハリは8号を結んだ。

kamataわたくしはここで(釣りを)します。」

M中さんが動物的勘で、やや高い位置に釣り座を決定した。

自分は、満潮まで時間があるということで波をかぶることになるかもしれないが、低い釣り座の方を選択した。

瀬際釣りなので正面からの強い風はそんなには気にならない。ただ、気になるのは強風で仕掛けを回収することがたこ揚げのようになって難しいことにあった。

撒き餌を2杯瀬際にかぶせ、仕掛けを投入。撒き餌をウキの近くにかぶせて様子を観察した。

すると、赤朱色のウキが、一気にサラシの切れ間に消し込まれた。瀬際だけに一気に勝負をかけないといけない。2.5号のがま磯アテンダーの剛力で一気に浮いてきたのは、35cmくらいの口太だった。

「よしゃあ、クロだ」

「すげえ、よかなあ」

M中さんも祝福してくれた。最初の1匹を釣るまでは本当に気が気でない。この1匹はこれからの釣りに明るい展望をもたらした。

すかさず第2投。これも離島ならではの気持ちのよいウキの消し込みで、アテンダーに心地よい感触が。やはり35cmくらいのサイズ。そして、第3投。これも竿先がよい曲がりを見せている。

やはり30半ばのクロが磯場に跳ねた。開始早々の入れ食いが始まった。さあ、いきなりの時合いだ今のうちに釣らなくでは。

4投、ウキが消し込むと思いきや、ウキを30cmくらいもってはいくものの、餌を放したらしく、仕掛けを回収すると餌が盗られていた。

気にせずに第5投。今度はウキが消し込む前にタイミングを見計らって合わせを入れた。乗った。4枚目のクロを掛けた時点では確信したが、やりとりをしているうちに、違う魚と認識。サラシから現れたのは、体色は似た黒色をしているが、するどい歯を持ち、赤い二本のまるで牙のような鋭角の歯をもった魚だった。マイケルジャクソンの髪の毛を彷彿させるくねくね曲がった尾鰭の先を持つこの魚は、磯釣り師の間でドラキュラと呼ばれているアカモンガラだった。

唐揚げで食べてまずまずおいしいらしいが、どうもドラキュラに似たこの見てくれでは食欲が湧かない。海へお帰り願った。

ここからがいきなりつらい時間帯になった。どこをどう攻めてもアカモンガラの入れ食いはトマラナイ。魚がたまにピンクの鰭がおしゃれなクロモンガラに変わることがあったが、海を見ると黒いアカモンガラが縦横無尽に餌を拾っているのが見えた。

まあ、潮が変われば、クロがまた戻ってくるだろう。

しかし、この楽観論は間違っていた。

ぶちぶち切られる回数が増えてきた。これが、尾長グレの仕業ならボルテージもあがるところだが、どう考えても尾長グレであるはずがなかった。その正体は、おそらく、モンガラカワハギ系かソウシハギなどの歯が無駄に鋭いゲテモノ系だからだ。

M中さんが、クロをぽつぽつ釣りだした。3枚目は、玉網をかけようと苦戦していたので、掬ってあげた。ここだけの秘密だが、なぜか玉網かけは得意なのだ。魚は40を超える良型。

M中さんおめでとうございます。でかいですね」

「ありがとござんす」





M中さんもこの釣果にほっとした様子で安堵の表情を浮かべていた。よかった。共に釣果があるということは釣りの楽しさを確かなものにしてくれる。






もう最初の釣り座では、餌取りの猛攻で勝負にならないと感じたおいらは、M中さんより更に一段高い釣り座への移動を決意していた。ここは釣り座が高く玉網は届かないかもしれないが、餌取りの猛攻からは解放されそうなイメージだ。






事件はその新しい釣り座の物色中に起こった。竿を釣り座予定地においてもとの釣り座にバッカンを取りに行くところだった。益々強くなる風の中、100回に1回くらい当然発生するであろう一発波が、さっき釣りをしていた場所を襲った。




ドッカーン。白い波はまるで生き物のように餌の入ったバッカンを掴むと海中へと引きずり込んでしまった。この一発波は、ひっくり返ったぷかぷか浮かぶ直方体の入れ物を救出に向かう暇も与えなかった。




白いひっくり返ったバッカンからたくさんの撒き餌が広がっている。おいらはその白い石油精製物をただただ見つめることしかできなかった。自然の猛威の中では人間は無力だ。我々にできることは、その100回に1回の危険を予知して行動に移す勇気を持つことしかないように思えた。




kamataえさならあるよ」




というM中さんからやさしい言葉が、おまけにバッカンや撒き餌シャクまで貸していただきました。運命共同体である先輩からの申し出をありがたく受けることにした。




M中さんのご厚意で釣りを再開するが、状況は相変わらずだった。




しばらくすると、ぶるんぶるんと荒磯が近づいてきた。




「どうですか」

微妙な反応を見せていると、




「ここで粘ってください。」

こう言い残して船は去って行ったが、瀬替わりを考える可能性はゼロに等しかった。



上物の客は5人くらいしかいなかったから、上物ポイントベスト3に乗ったことになっているはず。これ以上よいポイントはないように思えたからだ。




さあ、あと3時間あまり、丸瀬に乗ったuenoさんの釣果が気になるが、何としても成果を出さなければならない。




「不思議ですよね。今日はイスズミの顔を見ていない」




確かに、この黒島などの三島村の離島や同じ緯度にあたる草垣群島などでは、こういう磯などの岩礁地帯ではイスズミの数が半端なく多いはずなのだが。おかしい。おそらく、モンガラカワハギ科のお魚さんたちが数多く沸いていて、イスズミさえも蹴散らしているのではないだろうか。事実、アタリをとらえたと思うとハリス切れを起こし、仕掛けを回収するとハリごと切られて持っていかれている。この釣りのために買ったグレバリ6号はすでに一袋なくなろうとしていた。




ところがそんな話をM中さんとした直後だった。久しぶりにとらえたアタリをものにすると、それはぎらぎらと光るなつかしい魚体が水面から浮いてきた。イスズミである。




「やっぱり、こいついたんだ。」



ここではまだ余裕だったが、それからというもの一投ごとにイスズミが、餌に食らいついてきた。そのイスズミさえもしばらくすると元気がなくなったが。イスズミが一時暴れる時間帯があったものの、その後は生命反応さえも途絶える状況が続いた。餌がそのまま帰ってくる。





それでも納竿あと1時間というところで、かろうじて2枚のクロを追加して釣りを終えるのが精一杯だった。





朝のよい状況の時、いかに手返しよくクロを釣るかが勝負だったようだ。




船が午後120分頃迎えにきた。いつものことだが、磯を離れる時刻が近づくと、釣りをさせてもらった磯が愛おしくなってくる。平家の落人がここへの流れてきて住み着いたと言うがそれもわかる気がする。おいらの住んでいる近くも平家の落人伝説がある。いつか釣り以外の目的でここを訪れてみたいと思うのだった。




真東に雄大な硫黄島を臨むことができ、硫黄島のすぐ右手前に湯瀬、硫黄島の左奥に竹島。そして、この日は、薩摩半島南端に位置する開聞岳がくっきりと見えていた。すばらしいロケーションにうっとりしていると、uenoさんが話しかけてきた。



「釣れたね。」



「いやあ、ぱっとしませんでした。おいらが5枚で、M中さんが3枚。M中さんが型のいいの釣りましたよ。」



「こっちも同じようなもんバイ。6枚やった。」




「ぶちぶち切られましたか?」




「瀬際釣りやけん、かけてもすぐに切らるっとタイ。小さか魚しかとれんやったバイ。」




Uenoさんも満足できる釣りはできなかったようだが、釣果はそこそこだったようだ。





ぶちぶちきられた正体を確かめることはできなかったが、三人とも楽しい釣りができたようだ。




今年も安全で楽しい釣りができたことに感謝しながら、黒島を後にした。




今度こそぶちぶち切られる快感を得るために(本当は仕留めるために)来年も元気に磯に立ちたいと思いを新たにするのだった。


















































荒磯フィンシングさん お世話になります















































なぞの時化でした

















M中さん風に向かって奮闘中






右が船付け 左がポイントです



立神が見えます



最初の釣り座です


M中さん 上の段で釣ってます



第1投で釣れたクロ




第2投目もクロ



第3投目もクロでした 入れ食いの予感?







ドラキュラさんが沸いてました









0号のウキでがんばるM中さん






クロモンガラさんや



オジサンも訪問




仕掛けを変える場面が多かったような




ぶちぶち切られ ハリがなくなっていきます





ぶちぶち切ったのはこいつの仕業か




手前の張り出し根でぶちぶちやられました




4時間の沈黙を破って4枚目



続いて5枚目ゲット


今回の釣果 すべてメスでした



美しい黒島の岩肌


赤瀬の岩肌


ありがとう 赤瀬


みなさんお疲れ様でした〜〜^^


定番のクロとニラのテンプラ


クロのキムチはさみ揚げ


寒グロの刺身 うま〜〜い♪



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