1/4 5 新春ゴリ巻きスタイル 甑島鹿島


鹿島西磯

kamataさん、正月は鹿島に行こい。今度は釣れるって」

楽観論者のuenoさんが、12月中旬の鹿島東磯で撃沈した後、すぐさまおいらにこのように言い放った。

去年、我々は鹿島での初釣りにおいて満足できる釣果に恵まれた。そのよい経験知が、鹿島への出撃を後押ししているのだ。

「おら黒島で失敗したったいなあ。瀬際で釣っていたバッテン、竿がやわらかけんすぐ根に潜られてぶち切られるとたいなあ」

Uenoさんは、前回の黒島納竿釣行でかなり悔しがっていた。1.5号の竿で釣っていたuenoさんは度重なる魚のアタリに全く対応できず、魚を浮かせる前にバラしてしまったのだという。

「やっぱ、離島の瀬際釣りは強い竿が必要バイ。」

こう言って、uenoさんは3号竿をゲットしたという。思ったらすぐに行動するのがuenoさんのよさだ。(べつの見方をすれば衝動買いではあるが。)こうして、離島への準備を着々と進めていた。

クロ(メジナ)は、磯魚であるので、当然磯や根周りについている魚である。

彼らは警戒心が強く、人間の気配を感じると途端に根のくぼみ、割れ目などの隠れ場所に逃げ込んでしまう。基本的に根魚はみなこんな感じだ。

ところが彼らも油断するときがある。それは、彼らの生きる主な目的が子孫を残すことにあることだ。

だから、危険を顧みず、水面から落ちてきた撒き餌を喰って栄養を蓄え、産卵期に備えなければならない。その餌の中の一つに釣り鉤が仕込まれている。魚はこれを誤って口で吸い込んでしまう。それが、口のどこかに釣り鉤が刺さってしまう。こうして魚は釣り人の策略によって釣られてしまうのだ。

そこで、クロも生きのびる最後の手段がある。それは、自分の住処である根のくぼみや割れ目に一直線に逃げるという方法だ。そして、うまく逃げ込んでハリスを切るという方法である。それが逆に釣り人にとってはシャープな引きとなってクロ釣り人気の地位を不動のものとしたと言える。

磯釣り創世記の頃は、クロも人間による釣りという波及効果がない時代は、それこそおもしろいように釣れたと思う。ところが、縄文時代からすでに生きていたと思われているクロは、種の保存のためにだんだん賢くなってきた。釣り人が試行錯誤しなければ、魚を手にすることができない時代に入った。

クロが餌を甘噛みしながらゆっくりと自分の住処に帰ろうとする。釣り人はウキの負荷を極力小さくするなどして違和感を感じさせないようにしながら、道糸を送り込んだり、張ったりする。さあ、魚がいつ走り出すか、ドキドキの瞬間だ。ぎゅ〜〜ん、ブチッ。ああ、やられたかあ。こんなくやしい釣り人の叫び声が、磯の各所で聞こえるようになった。

そう、南九州の磯で身も凍るような寒さの中、その磯場で繰り広げられる最も熱い寒グロ期がやってきたのだ。この時期に磯に立たないでどうする。

今回の釣りの着眼点は、クロと釣り人の知恵比べとゴリ巻きである。

釣り人目線で言えば、いかにクロを喰わせるかと、喰わせた後クロを仕留めるために、根に一直線に突っ込む習性を持つ魚を、ごりごりリールを巻いて先手を取っていかに早く浮かせるかということだ。そして、Uenoさんの強い竿が勝つのか、それともクロが逃げ切るのか。今回の釣りの焦点はここに絞られた。

14日長潮。ここ数年経験したことのない穏やかな年末年始の後、信じられないほどの穏やかな天候が再びやってきた。

kamataさん、出るげな(出航するそうだ)。やったな、おれたち運がよかバイ。」

誠豊丸から出航という吉報を受け取った2人は、はやる気持ちを抑えながら準備を進めた。12日釣りは冬場の天候では中々成就できないはずだが、昨年に続いて2年連続で民宿に泊まってゆったりと釣りができる。磯釣り師にとってこれ以上の幸せな釣行計画はないであろう。

釣り人2人を乗せたueno号は、九州自動車道を南へ下り、横川ICで降りて薩摩川内市を経由。渡船が待つ串木野港へ着いたのが、午前2時半過ぎであった。

海上保安庁の大きな船が泊まっている岸壁と反対側に誠豊丸がすでにスタンバイ。釣り人も次から次へと港に侵入してくる。ざっと数えて20人弱にまでふくれあがっていた。

「多かなあ。やっぱ鹿島は人気のあっバイ」

釣り人が多いということはライバルが増えるということだが、それだけ鹿島の磯が好調であることを教えてくれる。また、渡船業界を守る仲間という見方もできる。

荷物を車の外に出して、戦闘服に着替え始めた。

釣り人の数も20人近くになれば、おのずとあちこちで談笑する光景が見られる。みなクロ釣りの期待感で胸がいっぱいなのであろう。磯釣り衣装に着替えるのもだんだん速くなる。

ぶるんぶるん

船のエンジンの命の鼓動が、ついに始まった。LEDライトが暗闇を丸裸にする。釣り人の脳の前頭前野のスイッチがONになり、動きが静から動に変わる瞬間だ。いつも見慣れている光景だが、やはり何度体験してもわくわくしてしまう。

圧倒的な速さで荷物を詰め込むと、乗船名簿に必要事項を記入し、出港を今か今かと待った。

kamataさん、西磯にいかるるとよかなあ」

鹿島は東磯と西磯があり、uenoさんの話によれば、西磯の方がかなり釣れるらしい。前回の鹿島東磯で久しぶりのボウズを喰らっているUENOさんにとって、西磯に行けるかどうかがターニングポイントと考えているらしい。

午前3時半、震度1程度の揺れで船が港を離れたことがわかった。船は串木野の堤防を過ぎるとエンジンは高速になり、暗闇の東シナ海沖に浮かぶ甑島列島に向かった。

一睡もせずにこの船にたどり着いたわたしは、このあとすぐに眠りに落ちてしまい、気が付くとすでにエンジンがスローになっていた。

「弁慶バイ。今日は西磯にいかるるバイ」

UENOさんの言うとおりだ。船の揺れは、問題なく、だれもが西磯に行ける状況であることを理解させた。

弁慶への渡礁の後、船はしばらく走った。藺牟田水道を抜け、船は西磯へと向かっている模様。その後、渡礁が始まった。

いてもたってもいられず、キャビンの外に出て状況を確認。暗闇の海では、ここがどこなのかさっぱりわからないが、真っ黒な島影が船の前方に向かって左に見える。間違いない。待望の西磯だ。他の釣り人にわからぬように、小さくガッツポーズ。

船の最後尾で談笑していると、

UENOさん、準備してください。」

と、予想より早めに声がかかった。あわてて道具を船首部分に出す。

「鶴穴ですね。」

だれかがつぶやいてくれたおかげで磯の名前がわかった。初めて渡礁する磯だ。ここが西磯のどのあたりかはわからなかったが、サーチライトが当てられた先を見ると、地寄りの磯であることは間違いない。低く平らな磯だ。前回の甑で惨敗を喰らったミタレ平瀬に形状が驚くほどよく似ている。

ゆっくりと、船が巌に近づいている。船首部分のタイヤが慎重に接岸場所を探している。もうかなり磯場に近づいた。

「まだですよ〜」

とマイクで船長が案内してくれている。ガン、タイヤが磯場にタックルをかませる。船がエンジンを高速にする。磯とがっぷり四つになった。

「はいどうぞ」

すばやく渡礁を完了すると、荷物を受け取る。われながら50代とは思えない俊敏な動きだ。荷物の受け取りが終わると、船長からのアドバイスを待つ。

「ポイントはどこですか。」

「船付けのワレ」

なるほど、7音しかない日本語だが、非常にわかりやすいアドバイスだった。

「こら釣りよかバイ」

UENOさんがうれしそうに歓喜の一言を。UENOさんは、磯場を評価するのに、釣れるかどうかよりもまず足場がいいかを気にする人だ。

さあ、いよいよ初釣りだ。はやる気持ちを抑え、仕掛け作りに入った。竿はダイワメガドライM2―1.5号−53。道糸2号、ハリス2号。ウキはBを選択。クロのいる層をダイレクトにねらう意図で2ヒロの半遊導とした。

甑島は離島とはいえ、おもしろいように釣れていたのは昔の話。最近は、食い渋りの状況も多いと聞いている。がま磯アテンダー2.5号の出番はないと考えていた。

仕掛けを作って、撒き餌をまぜまぜしているとだんだん水平線が明るくなり始めた。2016年の初釣りだ。一年間の安全で楽しい釣りをポセイドンに祈願するため、ビールという名の御神酒を海に捧げた。

撒き餌をしながら、海の中を観察。ワレは確かに好ポイントには違いはないが、かなり張り出し根がせり出しており、魚を掛けたとしてもそれをかわして取り込むには困難に思えた。

そこで、張り出し根があまり出ていないワレの右側で竿を出すことにした。Uenoさんは、おいらのそのまた右に釣り座を決定。せっかちな師匠の

「おらもう釣るバイ」

の一言で釣りが始まった。

潮は沖へ沖へと動いている。一見してよさげな感じである。好調な磯なら第1投で答えが出る。さて、どうか。第1投目で流していた仕掛けをチェックすると、クロが餌を食べた形跡が見られた。タナをやや浅くして第2投。紫紺の海を漂うウキがゆらゆらと揺れたかと思うと、ゆっくりと消し込み始めた。

さて、これからどうなるか。ゆっくり構えていると、いきなり竿をひったくるアタリが出た。

反射的に竿を立て応戦。道糸がキーンと悲鳴を上げていた。

ブチッ。

あれっ、いきなりのバラしだ。

興奮していたらしく、心臓の鼓動がどくんどくんと聞こえる。

魚は一気に手前に突っ込み、ハリスを切ってしまった。

これは油断してはいけない。釣り開始早々、こんなバラしをやってしまったら、せっかく寄せた魚がいなくなってしまうではないか。

今度は細心の注意を払ってさっき喰ったポイントに仕掛けを入れた。撒き餌を2杯被せる。仕掛けがなじむと今度も同じようなアタリがウキに現れた。

30CMくらいゆっくりと沈んだが、そのあと止まったかに思えたウキが、紫紺の海中に一気に吸い込まれていった。ウキの沈みより速く道糸が持っていかれた。

メガドライがつの字に曲がって耐えている。道糸の糸鳴りがする。「この〜〜今度は取ってやる〜」最初の強烈な魚の締め込みを耐えて、そのあと一気に巻き始めた。2回目の締め込みの時だった。ふっといきなり軽くなった。なんだよまたバラしか。仕掛けを回収しようとすると違和感を感じた。もしや。

そう、道糸からの高切れだ。しかも中通し竿のリールの近くで切断されていた。これでは、ウキ取りパラソルでの救出は無理である。急いで玉網を取り出し、えいっやあと沖へ旅立とうとするウキを何とか回収することに成功した。

釣り開始早々の2連続のバラし。これで眠かった頭が冴え渡った。体中にアドレナリンが駆け巡った。

あきらかに、魚のパワーにタックルと釣り人の技術が負けていた。このままこのタックルで釣りをしても同じような目に遭うだけ。変えるなら今だ。

竿ごと強いタックルに総替えすることにした。

仕掛けを作り直している隣でuenoさんが早くも35cmクラスの口太をゲットしていた。

「もう釣れたバイ。Kamataさん一ヒロ半。浅いバイ」

喜びを隠せないuenoさん。こんな場面を見せつけられたら、タマラナイ。焦る気持ちを抑えて仕掛け作りを続ける。

「うわあ、バラした〜〜」

Uenoさんもどうやら魚のパワーに力負けしているようだ。ウキ取りパラソルを持って何とか勝負ウキを回収してほっと息をついている。

おいらの竿はがま磯アテンダー2.5号−53、道糸は2.5号に上げてハリスの号数はそのままとした。ハリは、G社のナノグレ4号を結んだ。

ようやく、仕掛けを作り直して釣りに参戦。

さあ、来てみろ。今度こそ取る!

答えはすぐに出た。ゆらゆら漂っていたウキがゆっくりと消し込まれて、しばらく止まったかと思ったと思いきや、それは一気に海中に消えた。

よっしゃあ。

魚は一気に手前に走る。バラしてなるものか。

リールを一気にゴリゴリ巻いた。今度は2.5号の竿だ。さっきとは違うぞ。

竿のトルクに耐えていた魚も力負けし、一気にジャンプするように水面に浮かび上がった。抜き上げて魚を確認。青みがかったエメラルドグリーンの瞳にライザップで鍛え上げたような見事な魚体。40までは届かないがまずまずの良型。

クロ釣り師ならだれもがほれぼれとするような口太だった。仕掛けを変えてからいきなりの釣果。してやったりだ。時計をみると午前7時半を表示していた。

さあ、これから入れ食いか。

しかし、海の世界はそうはいかないもの。その釣果から沈黙の時間帯に入った。ウキにアタリが出るものの食い込みには至らない。

ウキを最初の2BからBに落とした。魚はいるんだが、喰わない。これでもまだ違和感があるようだ。

再び今度は、ウキをG2に変更。これでも魚からの明確なアタリを拾えなかった。ウキには当たりが出てシモるのだが、50cmくらい沈むとそのまま動かない。

潮受けゴムの方向はウキに向かって右に向いているのだが、表層の潮は左へ行こうとしている。きつい2枚潮だ。道糸の操作で何とか仕掛けを潮の流れに対して一直線にしようと試みるがなかなかうまくいかない。午前8時になってもこの状況は変わらなかった。

そうして、最初の1尾を釣ってから30分経った午前8時過ぎ。G2のウキに見切りを付けて、潮もそんなに速くないし、波も落ち着いてきたので、今回初めて使う釣研のグレニカル0αとさらに軽い仕掛けにすることにした。このウキはSSと超小粒でありながらも安定した動きをしてくれている。

釣りは不思議なものでちょっとしたきっかけで釣れることがある。例えば、速かった潮が緩くなった時、動かなかった潮が動き出した時、そして、仕掛けを変えたときである。

その釣り人の期待通り、ウキを0αに替えた途端、ギュイーンと道糸が走った。必死で最初の締め込みをためると、ゴリゴリ巻いた。張り出し根に少しでもハリスが触れたら魚の勝ち。

張り出し根より上に浮かせたら釣り人の勝ちである。

アテンダーは強い!魚はみるみるうちに浮き上がり、楽勝で振り上げる。2尾目も30cm後半のクロだった。

そして、3尾目は、43cmのいいサイズ。でも、朝の一発はこんなもんじゃなかったよ。

最初からこのタックルでいっていたらと悔やまれてならない。

この後も強い竿とゴリ巻きスタイルで午前9時半までに9尾の魚を釣った。食い渋っていると思いきや魚の活性はかなり高かった。やはりタックルを替えて正解だった。

魚の食いが止まったところで誠豊丸がやってきた。

kamataさん、釣れてますか。」

笑顔で親指を立てた。

「ここでいいですね。それから4時ぐらいにボートが迎えに来ますから、それまで頑張ってください。」

N村船長の親切な計らいに感謝しながら誠豊丸を見送った。

その後は、魚の食いが急に渋くなった。ウキに当たりは出る。それが沈み海中で止まる。合わせてみるがハリがかりしない。

同じようにウキが止まっている。また沈む。そして、止まる。こんな感じでウキが釣り人から見えなくなったところで油断していると、

ギュイーン

といきなり魚が走る。うわあ間に合わない。

ぶちっ

こんな魚との知恵比べを楽しみながら3尾追加して、1日目の釣りを12尾という釣果で終えた。

「おもしろかったバイ」

Uenoさんもいい釣りができたようで満足したようだ。

午後4時頃、N村船長の知り合いの漁船が迎えに来た。船に乗りこんで、今度は甑島の断崖を見ながらのクルージングを楽しむことができた。

池屋崎が見えている。池屋崎の近くに以前乗ったことのあるエガ瀬が見える。池屋崎を過ぎると見事な断崖の縞模様の岩肌が見えてきた。

西磯なので夕陽が当たって美しいオレンジ色に染まっている。そして、断崖を過ぎると比較的大きな磯が見えてきた。ネンガ瀬である。ネンガ瀬のある地寄りの磯は、ご存じ灯台下だ。

船は、鳥の巣とダンママをすぎようやく藺牟田水道へやってきた。ここは今橋を架ける工事中だ。ここから西磯から東磯へ入る。去年いい思いをした平瀬崎を過ぎるとすぐそこが鹿島港である。

船頭さんにお礼を行って、港で待っていると、今夜お世話になる民宿のご主人が迎えに来てくれた。

宿に入って着替えお風呂に入る。釣りをした後、入るお風呂は格別に気持ちよかった。風呂の後は、食事。新鮮な海の幸をふんだんに使った海鮮料理を頂きながら、今日の釣りを酒の肴にしながらの語らいは至福の時だ。

磯泊まりならこの後寒さに震えながら釣りをすることになるのだが、民泊はあたたかい布団に入ることができる。これ以上の安らぎがどこにあるというのだろう。

釣りという最高の道楽に彩りを与えてくれる1泊2日釣り。あしたは、どんな釣りが待っているのだろう。

暖かい布団に包まれて横になっていると、いつの間にか深い眠りに落ちていた。

目覚ましが鳴った。朝が来た。時計をみると、午前4時過ぎだった。ふと携帯の着信履歴を見ると、船長から電話がかかっていた。

船長と連絡を取る。電話がつながった。船長の声のBGMは船が波間をすべる音だった。

kamataさん、あの6時から6時半の間に(港に)迎えに来ます。」

「わかりました。」

「あのそれから今日は弁慶に行きます。いいですか。」

いいも悪いもこの釣り場を一番知っているのは、船長だ。船長のいうところに行くのが最良の選択と考えた。

船が港に着いたのは、午前7時前になっていた。我々は荷物を船に積み込むと、更なる期待に胸が膨らんだ。

今日も凪の甑島。西磯に展開するのが、通常とするところ。ところが、そんな中でも東磯に位置する弁慶に渡礁させるということは、釣果の上で西磯にひけを取らないということを意味している。

おそらく島の形が弁慶の頭に似ていることから付けられたと思われる地点に近づいた。その弁慶島のハナレ瀬の一つで三角柱を横に倒したような形状をした磯弁慶1番に近付いている。2番にはすでに釣り人が準備を終え、釣りを始めるところだった。

沖向きの船付けからの渡礁だ。

「ポイントはわかりますよね。」

こう言って船長は去って行った。ここに乗ったのは久しぶりだ。釣りを始めて間もない20041月7日。磯釣りを初めて3年目のこの日、この場所で46cmのクロを釣った。忘れられない記憶。その時もこんな風に穏やかな日だった。

実はuenoさんにとってもこの磯は相性がよいようで、12月初旬に弁慶2番に乗り、型には恵まれなかったものの7枚ほどクロを釣っていた。

昨日から、「弁慶がよかなあ」とつぶやいていたuenoさん。してやったりの表情を浮かべて仕掛けを準備している。

「昨日は、かなりバラしたけんなあ。今日は1.75号の竿でいくバイ。」

Uenoさんは、昨日の反省をもとにタックルを強めでいく方針らしい。

おいらも今回は最初からがま磯アテンダー2.5号の先発でいくつもりだ。

道糸は2.5号にハリスは2号。ウキは小粒のBの負荷。ハリはお気に入りのG社のナノグレ4号を結び、タナは2ヒロからスタート。

釣り座は、uenoさんがまず下げ潮のポイントである2番との水道側に構える。おいらはその一段上に上がってバッカンを置いた。

わたしの釣り座は、手前に気になる張り出し根が見えていた。魚を掛けたらゴリ巻きしないと取れない感じがした。

ここは、昨日の場所とは違い、サラシがほとんどなく、潮色は50mほど水深があるのではないだろうかと勘違いするほどどこまでも濃い群青色だ。餌を撒いてみるが魚の姿は見えない。この冬の時期に登場するキビナゴのような小魚の群れが現れるだけ。

こんな状況の時は、食い渋るパターンが多い。不安になりながらも餌を撒いた。

「もうがまんできん。おら釣り始めるバイ。」

Uenoさんが早速釣り始めた。

置いてけぼりはいやだと、自分も仕掛けを入れることに。

潮はほとんど動いていない。ここは下げ潮では、弁慶島の方や南へ流れる。しかし、上潮は水道向きへ引かれるような動きをしているが、底潮はほとんど動いていない。

静かな立ち上がりだ。

「餌盗られるね。」

Uenoさんが聞いてくる。

「少しかじられます。反応はありますよ」

と返すと、

「おらぜんぜん餌盗られんとばってん」

首をかしげるuenoさん。

昨日は初めから調子がよかったが、この日は苦戦しそうな予感がしていた。

そんなついつい油断していた時だった。ウキがゆらゆらと動いたかと思うとゆっくり沈み始めた。

あれっ、アタリかな。次の瞬間、ウキが消し込む前に道糸が走った。

いきなりのアタリに魚に先手を取られてしまった。体制を立て直し、ゴリ巻きする。なぜって、手前に張り出し根があるから。強い引きだったが、竿のトルクが勝っている。この魚はもうこっちのものだと思った瞬間だった。

竿がいきなり天を仰いだ。痛恨のバラし。仕掛けをチェックすると、ハリスが手前の根に触れてしまったらしい。

今日は最初からアテンダー2.5号を振っているというのにいきなりのバラし、これはここでもゴリ巻きスタイルでいかなくちゃ。

魚の活性は悪くないじゃないか。魚のアタリをとらえるべく、仕掛けを作り直してすぐに釣り始めた。

ところが、魚の反応はまた途絶えてしまった。

ふと2番にいる釣り師を見学すると、なんと魚を釣っている。いったいどんな仕掛けなんだろう。

2番で釣れているということは、こちらの釣り方に問題があるということ。

必死に今日の釣りのパターンをつかもうと仕掛けをいろいろと変えた。基本的には仕掛けをどんどん軽くしていった。BからG2へ、G2から0号へ。00号も試してみたがこれも反応なし。

その仕掛けを変えている途中だった。Uenoさんが魚とのやりとりをしているのをみたのは。竿先が完全に海中に突っ込んでいた。Uenoさん体を前方にのされながらも何とか魚の突っ込みに耐えている。魚の引きは半端ないようだ。しかし、uenoさんは数度の締め込みを竿さばきでうまくかわして、魚を浮かせにかかる。

浮いてきた魚はしっぽの白いクロだった。30cm後半

「おっ、やりましたね。Uenoさん、おめでとうございます。」

しかし、内心は穏やかではなかった。どんな仕掛けで釣ればいいんだ。パターンを見つけられずにいると、

kamataさん、(タナは)竿1本とちょっとバイ」

Uenoさんが情報提供。えっ、タナがやや深めなんだ。すぐさまタナを深くとることにした。

Uenoさん再び魚を喰わせる。

うお〜〜〜〜。

この磯は低いため魚の突っ込みにより竿は先端から半分の長さまで水中に入ってしまっている。竿が軽くなったので再び体制を立て直し、浮かせにかかるが二度目の強い突っ込みでバラしてしまった。

「えらい引きましたね。」「なんですかね。」

「わからん。ばってん太かったバイ。」

バラしてしまったが、uenoさんの口元は緩んでいた。魚からの交信に脳内モルヒネが分泌されているようだ。

おかしい。なぜ自分の仕掛けには食い付かないんだ。タナが浅すぎたので、深くして釣っているのだが。時計をみると、午前8時半。

状況が改善されないので、釣り座を変えることにした。上の段から釣っていたが、一番下の段に降りて、uenoさんの右で釣りをさせてもらうことにした。

「おおお〜〜〜〜」

移動してすぐに、またuenoさんが魚を掛けた。今度はさっきの魚のような鋭い突っ込みではないか、何か重々しい引きのよう。魚の締め込みを何とかこらえるuenoさん。魚が見えた。でかい。

浮いてきた魚は堂々たる口太だった。

玉網で掬ってあげた。45cmを超える良型。おめでとうuenoさん。

「やっぱ、強い仕掛けがよかばい。竿ば1.75号にしとったもん。」

今回の釣りで一番の喜びようだ。

これまでは、魚にやさしいやりとりをしていたuenoさんだったが、いつのまにかゴリ巻きしていた。

さあ、なんとかしなくては。

集中して釣り続けるが、この後、uenoさんもわたしもバリやイスズミなどの外道に苦しめられていた。

時計をみると、もう午前9時半。昨日は最初から調子がよかったが、今日はここまでノーフィッシュだ。

昨日調子がよかったウキがゆっくりとシモリ始め、一気に消し込んだ。久しぶりのアタリ。魚は一気に足下に突っ込んでくる。間違いないクロの引きだ。絶対先手を取られまいとゴリ巻き。

手前の深めの根に逃げ込むことを断念したクロは、今度は右手前の浅い根に一直線。そうはさせるか。一気にゴリ巻きして魚との距離を詰めた。魚は、2.5号の竿のトルクに負け水面から飛び出すように現れた。

よっしゃあ、ボウズ脱出。35cmクラスの口太だ。ようやく手にしたエメラルドグリーンの魚体を大切にドンゴロスにしまった。これで精神的にかなり楽になった。1と0では大違いだからだ。

さあこれから遅れた分を取り戻さなくてはと、仕掛けを打ち返すが、依然としてアタリはあるものの魚が餌を放してしまう。Uenoさんもアタリが止まっていた。

撒き餌をしながら注意深く海の中を観察していると、濃い群青色の世界から、しっぽの白い魚が無数に泳いでいる映像が一瞬見えた。

餌を撒いてさらに観察を続けるが、やはりしっぽの白い魚が餌を食うために横に動いているのがみえた。

この魚の動きはやる気のある動きだ。そして、魚が見えるということは、タナが浅いはず。自分もuenoさんも竿1本強のタナで攻めていたが、おそらく、タナは浅いはずだ。そう判断すると浮き止め糸をすうっと2ヒロに一気に浅くした。

すると、確かにウキに明らかに魚のアタリを知らせる反応が出た。しかし、食い込みには至らない。そこで、ここで今回の釣りで今まで使ったことのないウキを試すことにした。それはサイトプロというおもしろいウキだ。ウキの上部が丁度包丁で切り取ったような不思議な形状をしている。

風が出てきたということもあって、このウキを試すには好都合に思えたのだ。

そして、これまで0αなどの軽い仕掛けで勝負していたが、11年前のこの場所で46cmのクロを釣った記憶が再びよみがえってきた。その時は、魚に違和感を与えないようにと軽い仕掛けで勝負していたが、重い仕掛けに変えた途端に釣れたシーンだった。

これまでの好調だったに見切りを付け、サイトプロのBをチョイス。さっき当たりの出た地点に仕掛けを投入しアタリをまった。

これが大当たり。やはり35cmクラスの魚が釣れた。仕掛けを変えた途端のしてやったりの釣果。もちろん、やりとりはゴリ巻きスタイル。

それからのというもの魚からのめくるめく反応で、今回の釣りの後半を楽しいものにしてくれた。

気が付くと回収の40分前までに11枚の魚を手にすることができた。

Uenoさんもポツポツ釣れて満足の表情で竿をたたんだ。もう満足だ。ありがとう甑の海よ。

午後130分に船は迎えに来た。ここが最後の回収になった。船に乗りこむと、急に磯場との別れが恋しくなった。船で海原に旅立つだれもが感じる感覚だろうが、同時に早く家に帰りたい感情も生まれた。

キャビン内はもうすし詰め状態で、寝ることもできなかったが、いつ雨が降ってもおかしくないどんよりした鉛色の空で、心地よい潮風にあたりながら今回の釣りを振り返るのだった。

そして、ここで今回の釣りのキーワードが最後まで頭に残るのだった。その言葉は、もちろん「ゴリ巻き」である。

この釣りと時間を同じくして、水爆を実験したと世界中に発信している愚かな輩がいた。勘違いのはだかの王子が北の半島でアジっている。頭を冷やして南へおいでよ。きみの家臣でさえ信じられない敵ばかりの中で荒んだ心を癒やすのは、うつくしい海に住み、エメラルドグリーンの瞳を持つクロちゃんだよ。どうだい。いっしょに世界の平和について語りながらゴリ巻きしないかい。




今回も誠豊丸さん お世話になります



ワレをねらって





足場のよかなあ
























オキアミ パン粉 集魚材のいつもの撒き餌



はやる心を抑えつつ



こらここで釣るばい よかな


朝から魚の活性が高いです



おいらの釣り座



回収成功



2016年 初釣果




3尾目 この日最大 43cm


このサラシが出ているワレがポイントみたいですが



ここで粘ってください



魚の活性は高かったです


よかしこ釣れたバイ


ボートが迎えに


ありがとう 鶴穴


西磯の見事な断崖


名礁 灯台下を過ぎて









今年もお世話になります


民宿のおもてなし料理


体が芯から温まります


今日もお世話になります


美しい鹿島港

弁慶が見えてきました


弁慶に乗り してやったり


潮が思うとおりにいかない


出だし好調のuenoさん



カラフルなバリくん


ようやく1尾目








2日目は11枚


楽しい時間は あっという間に


よいおもいでがまたひとつできました


弁慶が最後の回収です


ありがとう 弁慶


今回の釣果 43〜32cm23枚


あま〜い 甑のクロの刺身


クロのニラ天


クロの麻婆春雨


クロのチヂミ


クロの牡蠣醤油フライ















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