2/11 FUKちゃん磯釣りデビュー戦 竹島



再び 竹島 ほら穴

FUKちゃん、釣りに行かない?」

「ええ、いいですよ。」

ダメで元々と磯釣り未経験の彼に釣りへの誘いを入れてみたが、これかあっさりとOKとなった。断られると考えていたが拍子抜けした。

FUKちゃんは職場の同僚で、料理男子と言われ多彩な趣味を持つ男だ。これまでにも、ゴルフ、カートレース、マラソン、料理など様々な趣味にぼっとうしてきたが、釣りは船釣りしかしたことがないとのこと。

「船酔いするんですよ。」

彼は、船釣りで船酔いした苦い経験があり、釣りに対してネガティブなイメージを持っていたようだ。


そこで、日常会話の流れで、よい料理をするためには素材が大切であるということを熱っぽく語る。そのためには、釣った魚で料理をすることが最良の方法であることを訴えた。(もちろん、魚は魚屋で買ったほうが安いという問題は棚上げである。)


また、船酔いの問題は、磯で船酔いする輩はいないという話で決まった。

こんな前アタリをしていたこともあり、彼は快く(わたしにだまされて)釣行を承諾したのである。



初めての釣りでは、必ず釣らせなければならない。そこで、選ばれた場所は竹島。離島なら、船に乗る時間は長いものの、対象魚を選ばなければ何かしら釣れるというメリットがある。釣り初心者にはイスズミだって、ときめきの魚に見えるはずだ。


条件が合えば、ウミガメや鮫の巡回だって鑑賞できるかもしれない。磯場は天然の水族館だということも釣りを彩る必須アイテムであることを伝え、釣れなかったときのサイドメニューも用意。


こんな釣り人のデビューにポセイドンは寛容だった。釣行予定の2月11日は、西日本はほぼべた凪という天候で第八美和丸の船長からの釣行許可が下りた。


下り中潮初日、午前9時頃満潮を迎えるという潮周り。状況は、全くわからない。1月中旬からとにかく時化ばかりだからだ。美和丸はほとんど出港できなかったらしい。ただ、船長が電話口で気になる一言を発した。


kamataさん、午前1時までに来られますか。尾長出るかもしれないんで、早めに出ます。」

ここで「尾長グレ」という言葉を聞いてしまい、かなり動揺してしまった。尾長釣りたいという欲求は釣り人を盲目にした。

正確に言えば、「尾長出るかも」である。竹島で尾長が出たのではない。過去や結果ではなく、あくまでも希望的観測である。しかし、尾長グレという言葉だけで、頭の中では竹島の海原で60を超える尾長グレが磯壁を悠々と泳いでいた。

そんな遠足に行く前の幸せな気分を味わいながらFUKちゃんを伴って、九州自動車道をいつものように南へ下った。

枕崎港へ着いたのが午前0時半頃だった。まだ、船長は来ていないようで、美和丸はひっそりと主の登場を待っていた。

釣り師の自動車が4台くらいか。リーマンショック以降の離島釣り師たちの疲弊ぶりは相変わらずだ。しかし、それでも何とか離島の釣りを守ろうと、数人の釣り師が車の中で息を潜めている。

船長がいつもの4駆ワゴンに乗って登場。船に乗りこんでエンジン点火。恐ろしいほど明るいLEDライトがスポットライトとなって釣り人たちを照らしている。

にわかに動きが速くなる釣り師たち。荷物をテンポよく積み込んでいく。もう10年以上もこの枕崎港に通っていると、不思議なもので、他の釣り人はみな知り合いのような感覚になる。いや、あの人、この人絶対確実に一度はどこかで会っているはずだ。

彼らは、わたしと同じく魚を、海を愛する人間だ。同じ船長に命を預ける同士たち、いや離島の渡船を土俵際で支えている仲間たちだ。

その仲間に今日1人の新人磯釣り師FUKちゃんが加わった。彼にとってこれが幸か不幸かわからないが、少なくとも日常では決して味わうことのできない大海原という大自然を目の当たりにできるだろう。

そして、竿先から伝わる魚信に心をときめかせ、神経細胞のシナプスのどこかがつながり、釣り依存体質になるに違いない。

kamataさん、この前と同じところでいいですか。初心者の方がおられるなら慣れているところがいいでしょうね。」

船長からこのような言葉のプレゼントをもらった。前回お世話になった「ほら穴瀬」への上礁が確定した。確かにあそこなら足場もいいし、初めての磯となるFUKちゃんにふさわしい磯だと思う。

10名ほどの釣り人を乗せた美和丸は、ゆっくりと旋回しながら岸壁を離れた。

「船酔いは大丈夫?」

「船が動いている時は大丈夫です」

初めての渡船でFUKちゃんを気遣うおいら。

さて、毛布を被って尾長グレの夢でもみるか。

横になって今日の海況を体全体で感じてみる。枕崎沖堤防を過ぎたころから、エンジンは高速回転に。思った通りべた凪だ。そう感じた時から起きていたときの記憶が消えていた。いつの間にか、潮の流れのわずかな揺れをゆりかごに深い眠りに落ちていた。

気が付いた時は、エンジンがスローになっていた。

いつもの場所からと思いきや、船首部分にはコンクリートの延べ棒が立ちはだかっていた。竹島の堤防である。ここは、石鯛や青物の実績が高く人気のポイントらしい。

堤防に1人の釣り師を渡して、船は反転し西回りに舵を取った。

今日は北東の風が吹いており、西向きや南西部の磯に乗せるようだ。

竹島の西の先端オンボ崎に1人渡礁。更に東に向かって、コモリ瀬に渡礁させた後、

kamataさん」

と声がかかった。予定通り、コモリ瀬のとなりのほら穴瀬に船は近づいている。しかし、驚いた。今日は午後から天気が崩れるとは聞いていたが、この時期に気持ち悪いくらい生暖かいそよ風だ。それに、まるで内湾のチヌ釣り場のようなべた凪。

初心者にやさしいコンディションの中、荷物を船首部分にあげて渡礁を待つ。

FUKちゃん、まずはぼくが磯に降りて、その次に乗ってきて。」

磯釣りの中で、最も危険な渡礁だ。失敗は許されない。FUKちゃんはちょっと太めの男子だから、無事に渡礁できるかな。

タイヤが磯に接岸した。

「今だ。FUKちゃん。」

すばやい動きで、2人とも磯に渡り、荷物を受け取る。FUKちゃん初めての経験で戸惑っているようだったが、何とか無事に渡礁できた。船はクツ瀬方面へと走って行った。

やれやれ。

FUKちゃんが気になって彼の表情を見ていたが、やや曇り気味。

「瀬渡しを待っているときに、気持ち悪くなっちゃって。」

(おいおい、今日は1年に一度あるかないかの厳寒期のべた凪だよ)と言いかけてやめた。なんたって、彼は磯釣り初めてなんだもの。それが最初から離島だなんて、自分も罪なことをしたものだ。

まずは、餌の作り方からレクチャー。餌を混ぜたところで、FUKちゃんに撒き餌を任せることに。

わたしは、夜釣り用と昼釣り用のタックル・仕掛けをそれぞれ2人分準備した。あれやこれやでようやく準備完了。時計はすでに4時を回っていた。

よく考えたら、FUKちゃんはかなりの猛者だなあ。初磯釣りが夜尾長釣りだなんて。

想像しただけでも笑みがこぼれてくる。FUKちゃんは、そんな夜尾長釣りがどんなものかわからずただおいらの釣りを隣で見よう見まねで、釣っている。

「夜なんで、足場に気をつけてくださいね。」

一応、転落すると危険であることと、たまに鮫の巡回があるから気をつけてと念を押しておいた。

釣り始めて15分ほど経った。よかった。自分でFUKちゃん釣りを楽しんでいる。こちらも自分の釣りに集中できるというわけだ。

前回もそうだったが、今回も餌盗りのナミマツカサが沸いていた。マツカサを釣ってはリリースをしばらく繰り返した。

「うわ〜〜〜」

隣で歓喜の声がした。

kamataさん、この魚は何というんですか。なんかキンメダイのような感じだけど。」

うれしそうに、魚をおいらに見せるFUKちゃん。しかし、残念ながらその魚はレッドデビルと呼ばれて磯釣り師から嫌われているナミマツカサだった。

「食べられますか」

FUKちゃんは、そう、人吉盆地でも有名な料理男子である。そうだった。彼は食材を探しにきたのだった。となると、ナミマツカサを餌盗りと切り捨てるわけにはいかない。一度だけ食べてみた経験(たしか唐揚げだったと思うが)を話して聞かせた。かれは興味津々でレッドデビルをキープ。満足の笑みを浮かべてクーラーに放り込んだ。

よかった。FUKちゃんは、初めての磯釣り、しかも夜釣りを楽しんでいるようだ。

潮はあまり動いていないが、サラシがないおかげで仕掛けを瀬際に貼り付けておくことができる。尾長がいれば一発で喰うはずだけどなあ。なんて、自己中心的に考えていると、ウキがそれまでのマツカサのような消し込みとは違う入り方をした。

合わせを入れる。乗った。今日がデビューのダイワメガドライ遠投4号が初めてのしなりをみせた。

しかし、軽い。尾長ではなさそう。一気に抜き上げた。

やや流線的な頭をしたシルエットでクロでもないことが判明。さあ、ライトを当てて魚を確認すると、何といきなりの40オーバーのジャンボイサキだった。イサキは準本命だからキープ。

時計をみると5時半を回っていた。さあ、これから1時間が尾長グレのゴールデンタイムだ。

ところが釣れてくるのは、マツカサばかり。時間は刻々と過ぎていく。水平線が白々とし始めた。夜が明けようとしている。今日も尾長に会えずじまいか。気持ちばかりが焦る。

そんな時、沈黙を破ってFUKちゃんが、腰を引いた体制で竿を握りしめている。おいらが貸しているダイワブレイゾン遠投5号を握ってどうやら魚とのやりとりをしているようだ。

FUKちゃん、一気に抜いて」

わかる、わかる。磯釣り初めてのときは、竿の弾力をどこまで信じればいいのかわからなかった。FUKちゃんが喰わせた魚は、5号竿にはかなり役不足だった。しかし、マツカサのような餌盗りではなさそう。

FUKちゃん、振り上げて、後ろに魚を」

おいらの助言をやっとで理解したFUKちゃんは、魚を後ろに振り上げた。ぴちぴち跳ねている場所へあわてて近づくFUKちゃん。

うん、この魚はなんだ。暗くて見えない。ヨスジフエダイ?いやこれはクロホシフエダイ?いや違う。ああ思い出した。この魚は、磯釣りでは珍しい魚で食味がいいと評判のオキフエダイだった。

「やったね。FUKちゃん、おめでとう。これうまい魚だよ。」

うまい魚と聞いて、ようやく安心の笑顔を見せるFUKちゃん。40に満たないサイズだったが、この初めての準本命魚はFUKちゃんの初めての磯釣りを歓迎してくれたようだ。

記念すべき初釣果と笑顔でカメラに収まるFUKちゃん。よかった、よかった。これで連れてきた甲斐が会ったというもの。

FUKちゃんにとって記念すべき夜釣りとなったが、わたしには本命の尾長は撃沈、イサキ1匹、クロを2匹というやや退屈な釣りとなった。

朝が来た。まるで天草の御所浦のような内湾の釣りと間違えそうなべた凪。サラシがなくクロ釣りには厳しい条件だ。

竿は、がま磯アテンダー2.5号。道糸2.5号にハリス3号。瀬際で喰わせて一気に抜き上げる作戦だ。

魚の居場所はわかっている。足下のオーバーハングだ。ここから魚が時折出てきては撒き餌を拾っている。

撒き餌を磯壁にたたきつけるように打つ。波がそれを少しずつ持っていく。そこへ仕掛けを入れるのだ。

FUKちゃん、こうやって仕掛けを瀬際に入れるんだよ。」

説明していると、プロ山元ウキG2が一気に海中に消えた。

「おっとっと、魚がこうやって喰うんだよ」

第1投から本命とのやりとりだ。瀬際のやりとりはスリリング。ハリスが磯に触れてしまうと、切れてしまうので、強引に抜き上げる。竿は2.5号なので余裕のやりとりだ。

一気に抜き上げて、魚を引き寄せる。40に少し届かないクロだ。時計をみると午前7時。前回と同じくここから7時半まで6連チャン。

今日こそは入れ食いかと思って、7連続と思いきや、竿を叩く引きが(涙)。

イスズミが釣れてしまった。イスズミはクロより少し朝寝坊だから、イスズミが寝ている間に、先にクロを釣らなくては。

ところが次もイスズミ。またもや次もイスズミ。どうやらイスズミが活動を始めてしまったようだ。今日はサラシもなく、クロの警戒心を高める日差しも差し込んでくる。

夜釣りでは、何度か魚を釣ったFUKちゃんも完全に沈黙してしまった。そして、仕掛けを磯に引っかけてしまったらしく。

「あの、糸切ってもいいですか?」

いいや、別においらに聞かなくてもいいんだよ。磯に仕掛けを引っかけて難儀にしているようだ。

その後、また仕掛けを作り直すのに相当な時間を費やしてしまった。

そうなんだよ。初めての磯ではおいらも、仕掛けのトラブル解消に釣りの多くの時間を費やしてしまったっけ。

釣りは迫り来る困難な問題をなんとか自分の手で解決しながら魚との距離を詰めるところに醍醐味があるというもの。

FUKちゃんにとってはつらい試練かもしれないけど、あきらめずに最後まで戦っていや楽しんでほしい。

FUKちゃん、あれが硫黄島ですよ。」

仕掛け作りに集中しているFUKちゃんにこんな言葉をかけた。

「あそこは硫黄岳という活火山があるよ。そして、この竹島の沖は500mくらいの水深があって急に深くなっているんすよ。」

硫黄島と竹島の間が巨大は海底カルデラである「喜界カルデラ」の話をしかけてみる。我々は今、7500年前の喜界カルデラの破局噴火の現場にいるんだってことを。

釣り一点に集中していると、忘れてしまうことがある。自分はこの地球で吹けば飛ぶようなちっぽけな存在であることを。

一匹の魚の命が生まれたこの離島というポテンシャルの大きさに圧倒され、そして、その大自然と一体になっていく自分をぜひ感じてもらいたい。

手つかずの自然に囲まれていることが、こんなにも心地よいものだったなんてことも。

時間の感覚を忘れ、ひたすら仕掛けを打ち返し、一瞬も永遠もあるこの世界に確かに自分が存在していたことも。

そうこうしているうちに、7時半以降魚がすべてイスズミに変わってしまい、さらに残念なことに8時半頃から当たりさえもなくなってしまった。

ぶるん、ぶるん。美和丸が見回りに来た。

kamataさん釣れてますか。」

微妙な顔をしながらもまずまずのサインを船長に送った。

「今日は、午後から風が強くなりますから、早めの12時回収でお願いします。」

なるほど、だからいつもより早い出港だったんだね。

美和丸は、クツ瀬方面へ去って行った。

さあ、これからクロの釣果を伸ばしたいところだが、魚の気配が消えてしまった。

FUKちゃんもようやくトラブルの呪縛から解放されたのに、魚のアタリがすっかり消えてしまった。

何とか潮が少しでも動いているところを見つけて仕掛けを入れるも一向に改善の兆しが見られない。

もう少し潮が動けば、イサキも釣れるはずなのに。

FUKちゃんも磯釣りにようやく慣れて、仕掛けを打ち返しているのだが、魚からの反応があまりにも少なかった。

おいらも10時頃、交通事故的に釣れたクロ1尾と、11時前に釣れたイチモンジブダイが精一杯。

FUKちゃん持って帰る?」

料理人であるFUKちゃんは、このカラフルな魚に興味を持ったようだ。

しかし、時間は刻々と過ぎ、ジャンボイサキに再び会うことなく、12時前に片付けをした。

クロを釣ることができなかったFUKちゃんに気遣いの言葉を用意していたが、本人は惨敗したという自覚はないようだ。

いやむしろ、餌取りとはいえ魚を釣ったという喜びで一杯だったようだ。

後片付けを済ませて、沖を眺めると硫黄岳がもくもくと噴煙を上げていた。

釣らせたかったけど、釣らせることができず焦燥感に苛まれているおいらと

釣れなかったけど、釣った満足感を得ているFUKちゃん。

意識はすれ違っているけど、離島の自然はいつも人に平等に癒やしを与えてくれる。

ああ、いつになったら釣れるんだろう。尾長グレ。

FUKちゃんに魚を釣らせなくてはいけないということをいつの間にか忘れてしまい、尾長グレを釣ることに没頭してしまったことを反省しながら、魅惑の離島竹島を後にするのであった。


さあ 初めての出撃です











快適な第八美和丸の船内



コモリ瀬からの渡礁です



上げ潮がチャンスだよ




想定外のイサキでした



尾長かと思いきや口太でしたTT



この魚なんですかあ〜〜


おめでとうFUKちゃん ナイスフィッシング



6時58分 3枚目



7時4分 4枚目



7時10分 5枚目




7時15分 6枚目


7時21分 7枚目



7時25分 8枚目



べた凪の竹島


となりの郡山瀬の釣り人


今日は時化てくるから 12時回収ね


もう一つのポイントへ行くも反応無し


元の釣り座に 足下から魚が出てくることはわかっています


9時58分 ようやく9枚目


頑張れFUKちゃん


この辺りに多いイチモンジブダイ


本日の釣果


ありがとう ほら穴


郡山瀬


クツ瀬


オンボ崎


やっぱり刺身で


クロと大根の煮物


クロのニラ天


クロの串揚げ


潮汁は絶品でした



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