3/5 ひとりBFM大会 北浦



北浦 横バエ

3月5日、ぼくは、北浦の磯に立っていた。

3月初旬とは思えない、穏やかな風。落ち着いた波。

なぜだろう。磯に立つと心が落ち着くのは。どんなに苦しい仕事があっても何とかやり遂げて磯に立つと、それまでの苦しいことは忘れてしまうのだ。

なぜ、北浦に?

それは、わたしがクロ釣りという釣りが面白いと教えてもらった場所だから。忘れもしない200316日。師匠uenoさんと甑島への釣行を企てていたが、雪がちらつく予報に東シナ海に予約を入れていた釣り人は枕並べて惨敗。あきらめきれないおいらたちは、風裏になる太平洋側の磯にすがるような気持ちでアタックを開始した。

この頃だ。インターネットが普及して、ISDN回線だとか、ADSL回線がとか言っていたのは。それこそ開通し始めのインターネットで釣り情報の検索を開始。偶然引き当てたのが、宮崎県北の北浦の渡船「あゆ丸」のHPだった。

わらをもすがる気持ちで船長に連絡。「いいよ。2人?5時半までに来ちょってね。」

やわらかい宮崎弁の口調であっさりと初めての北浦の磯への釣行が決定した。

「そらよかったな。ばってん、この雪の予報なら山を越えられんかもしれんバイ。」

Uenoさんの提案で、前日から宮崎県に入り、カーナビというような機器もなく迷いながら北浦古江港に到着した。

この日は平日でしかも、雪がちらつくという予報で予約が少なく、あゆ丸の客は我々を含めわずかに3名。

これはよい磯に乗れるぞと喜んでいると、ここ北浦はあゆ丸以外に6隻の渡船があるとのこと。しかも、最初の磯は各渡船の代表者によるじゃんけんで決めるという。

初めてのことで何が何だかわからないが、戦況を見守るしかない。

各渡船のサーチライトは、北浦の沖磯の入り口付近にある「烏帽子」という磯に向けられている。そこへ、各渡船の代表者7人が集結した。

各渡船の釣り人の執念を背負った7人の侍たちが、スポットライトの中で、

「じゃんけんぽん、あいこでしょ。」

と必死の形相でじゃんけんをしている。

ところが、これがなかなか決まらない。7人で一気にじゃんけんをすりゃね。

ようやく勝負が決まり、我々の代表者Aさんが船に戻ってきた。

じゃんけんは3番だったらしい。

「青バエ行ってみる?」

あゆ丸は一直線に北へ舵を取った。

7分くらい走ると低い独立礁が見えてきた。

磯釣り3年目を迎えたおいらには、もちろん青バエがどんな磯かはわからなかった。

無事渡礁してほっとする。

そこで、uenoさんはキロクラスのクロばかり10枚。おいらは、キロクラスのクロ4枚を含む7枚のクロをキープ。クロが餌を追って縦横無尽に乱舞している姿も確認。こんなに面白いものだったんだ、クロ釣りは。

しかし、後で聞いたが、北浦はクロ釣り師の間でも難しい部類に入る磯らしい。知らぬが、言わぬが何とかだった。そんな情報を知っていれば、ここに来ることはなかったかもしれない。

ことの顛末がどうであれ、おいらがこの北浦によいイメージを持つことになった。今回は、鹿児島の釣りブロガー仲間との楽しい釣り大会に諸事情で行けなくなり、そのうっぷんを晴らすには、やはり、自分にクロ釣りの面白さを教えてくれた北浦に行くことが唯一の方法に思えたのだった。

「久しぶりだね。何時に来る?」

なつかしい船長の声だ。今回は、土曜日の釣りだから、いつ渡礁してもよいいわゆるフリーの日だった。おいらは、船長の業務の効率化を願って、

「だれかの時間に合わせていいですよ。」

「4時に来るお客さんがいたね。」

こうして、久しぶりの北浦での釣りが決定した。

港に到着すると、おいらの他に5人の釣り人がいて、4時便は6人での出発となった。

「ぶるん、ぶるん」

静寂の闇の中であゆ丸が目覚め、ゆっくりと港を離れていった。

今日の波予報は、1mのち2m。昼くらいから低気圧の影響で、南からの風が吹き、時化る予報。いつまで沖でやれるかわからないのでは。

それでも船は、釣り人の夢とロマンを乗せて、快調に漆黒の海を滑っている。釣り人を3人ほど乗せた後、船長から声がかかった。

kamaちゃん準備して」

サーチライトを当てた先には、ごつごつした巨大な巌がそびえていた。無事渡礁を済ませた。

ここはトマスの1番という磯らしい。

暗闇の中で、磯の全体像を掴む作業に入った。

べた凪の北浦。これから時化てくるとはとうてい思えないような穏やかな海。瑠璃色の心地よい風が頬をかすめていく。

磯は思いのほか平らで、十分な広さがある。平らな岩盤が何層にも重なり、奥に向かって斜めに傾いている。この磯の形状から、海は手前からドン深になっているはず。根が点在した浅い釣り場ではないようなので、タナが深いかもしれない。

確かここは一度乗ったことがあるぞ。同じ3月の食い渋りの時期だったような気がする。その日は上り潮で魚が喰いそうな状況だったにもかかわらず、食い渋りの状況を打開できず、貧果に終わった記憶がよみがえってきた。

いかん、いかん。ネガティブになってはいけない。さあ、思い切り楽しむぞ。

撒き餌はいつものオキアミ生・パン粉・集魚材のコンビ。竿は、がま磯アテンダー1.2号、道糸は今回初めての1.5号。

えっ、そんな細い糸使うの?

食い渋りの3月。魚たちは産卵に向けて、体力を温存する時期。争って餌を食いむさぼる時期はとうに過ぎている。

それに、百戦錬磨の磯釣り師たちが通い続けた北浦。そこでもまれた魚だから、喰わせるのは一筋縄ではいかないと考えた。今回のテーマは、初めての細仕掛け。離島に通い続けている自分にとって細い仕掛けという引き出しはなかった。細い仕掛けってどんな感じなんだろうか。その答えが知りたくて、1.5号という今まで使ったことのない道糸での釣りとなった。

撒き餌をしながら、ゆっくりと準備をしていると、地球の裏側からやってきた太陽が水平線を照らし始めた。空に見事な紫からオレンジ色へのグラデーションが現れ始めた。隣の2番の釣り師は早くも釣り始めている。

薄暗い中だが、ウキが視認できる明るさになったので、餌を付けて振りかぶり、第1投。なるほど浮き止めを竿1本弱のところに付け、タナは竿1本弱で始めた。さあ、今回の北浦はわたしに一体どんなドラマを用意してくれているのだろうか。

ウキが海面をゆらゆらと同じ場所を漂流している。潮はあまり動いていないようだ。仕掛けを回収すると、付け餌はそのままで帰ってきた。

餌を付け第2投。同じ潮の動きだ。回収すると今度は餌がかじられた跡が。魚がいると期待を込めるものの、ずっと沈黙が続いた。餌が盗られたり、盗られなかったり。難しい一筋縄ではいかない北浦の磯の洗礼を浴びた。

潮は、下り潮の方向へ走り始めた。餌取りは、水温低下に強いキタマクラやイワシゴなどが見えるものの、クロの姿は見えず。一度もウキを押さえるような当たりがなく、手詰まり状態になった。

北浦は、昼ぐらいから釣れることも多い(北浦時間)。夕方までには何とかなるだろ。

9時半ごろ、弁当便のあゆ丸がやってきた。

「どうね。」

と船長。

いつものダメのサインを。

「変わろうか。」

と、おいらの撃沈を予想していたかのような返答。

そそくさと荷物を片付け、船に飛び乗った。

船には、他の釣り人がいて、話しかけてきた。

「どうでしたか。」

「いやだめでした。」

「当たりが1回あっただけだったよ。」

厳しい状況は、おいらだけではなかったようだ。なぜか安心してしまうおいら。瀬替わりのために船に乗った3人のうち、魚を釣ったのは一人で1匹だけだったそうな。

せっかく、よい磯に乗せてもらったのに、結果を出せなくて申し訳ない気持ちを飲み込んで船で談笑していると、目の前に北浦のすばらしい絶景が見えてきた。

出撃の時は真っ暗だったのでわからなかったが、この北浦の磯はすばらしい。北浦は独立礁が少なく、地磯が多い。大きな無人島があれば、低くてちょんぼりと呼ばれるような小さな磯もある。断崖の壁のようなところもあり変化に富んだ釣り場だ。じゃんけんをした烏帽子を右に見ながら、船は左へと舵を取った。目の前の比較的大きな島に近づいている。高島だ。高島のハナには当然先客がいた。船は、高島の南に位置する磯に二人を乗せた。

今日は、午後から南風が吹き、いつ回収になるかわからないので、土曜なのに釣り人が少なめ。それでも地の二つ、A級ポイント沖の二つには先客がいた。船は迷わず島野浦へと進んでいる。

目の前に見たことのある磯が見えてきた。細長く、低く駆け上がり状の瀬だ。横バエである。

「かまちゃん、あそこにカモメがいるでしょ。あそこで釣って。まあ、下り潮だから先(南)の方から流してもいいけどね。うねりが出てくるから、荷物は高いところにあげちょってね。南(風)が浮いてきたら電話して。」

こういうアナウンスを残して、あゆ丸は去って行った。横バエは、こぢんまりとした山脈のよう。平らなところはあまりなく、沖と地磯側両方に向かって駆け上がりになっている。今は、南からのうねりが入っていないが、それでもサラシが出ており、いかにもクロが釣れそうな雰囲気。

斜めに沖に向かってスロープになっているので、足場が安定しない。これは沖で魚を掛けたら一直線にゴリ巻きしなくてはいけないようだ。

撒き餌をしばらくした後、仕掛けを投入する。数投して感じたことだったが、さっきのトマス1番よりも魚のやる気を感じた。

道糸の変化に合わせると乗った。今日初めての魚との交信。しかし、期待とは裏腹に思いの外魚の引きは軽かった。

抜きあげた魚は、意外な魚、20数センチのチャリコだった。でも、魚との交信はどんな魚でもうれしいもの。

その後は、コッパに混じって何とか30を超える口太を数枚。ハリを飲み込んでしまった足裏サイズのクロを足して10枚の釣果で横バエを後にした。

初めての道糸1.5号だったが、皮肉にもこのサイズなら十分なサイズのラインだと思った。細い道糸は、風にも強く、ライン操作が容易だった。

10枚目を釣ったころから、南からの風とうねりで釣り座が波で洗われるようになった。こりゃ、まずい。船長に電話して迎えに来てもらった。

 

沖磯にいた他の客も全て回収して、島野浦の堤防に近付いた。

そして、船長はおもむろに、

「さあ、船長イチオシの堤防だよ。全員まとめて時間までここで釣って。」

とマイクでアナウンス。みな苦笑いをしながら、荷物をもって堤防のポイントへ急いだ。でも、帰路が遠いおいらは、このまま港へ帰ることに。

あゆ丸の待合所でお茶をいただく。昔から変わらないゆで卵2個をゆっくりといただきながら、釣りを振り返った。かなりご無沙汰だったにもかかわらず、船長は待合所であたたかく迎えてくれた。

「南が吹くから、いつまで沖でできるかという感じだったね。トマスは、喰わなかった?トマスである程度釣ってから、湾内と思っていたけど。」

苦笑しながら、横バエに瀬替わりしてもらったことへの感謝の気持ちを表すことで船長の疑念を払うのに必死だった。トマスは残念ながら、どう攻めていいかわからずお手上げ状態だったんだ。

船長と奥様にまた来ることを告げ、さわやかな春の息吹を感じながら、北浦古江港を後にした。

もちろん、この日の釣りで竿を2本も折ったことは、取りあえず誰にも話さない秘密とすることにした。


宮崎県北の北浦











北浦 古江港



あゆ丸さんお世話になります



トマス1番に渡礁




斜めに傾いた階段状の磯でした



撒き餌もしたことだし さあ釣ろうか



少しうねりがのこっているものの凪でした


裏はこんな感じでした



こちら側に流れる時がよかったような



こちらにも釣り人が



反応ナッシングでした




とっととあきらめて瀬替わりです


横バエに渡礁しました



南が吹いてきたら電話して



あそこが釣り座です


小さいけど 生命反応がありました


ここにはいましたよ


サラシのはけだしにいました


なかなかサイズが伸びません


こりゃ船長にSOSを出した方がよさそうだ


沖磯撤収後は湾内の堤防へ


本日の釣果


あゆ丸さんお世話になりました


イチオシクロ料理 クロのニラ天


潮汁 美味です


刺身 カツオと一緒に盛りつけてみました


クロのトムヤンクンスープ


鯛飯も作ってしまいました


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