3/30 鷹島のグルクン釣り 鷹島
鷹島 4番
「FUKちゃん、30日空いていますか?」 職場の同僚であるFUKちゃんが、人生二度目の磯釣りに行きたがっていた。 こちらは、19日〜20日の宇治群島に行ったばかりで、体力的にも経済的にもキツかった。 それで出た言葉がこれだったのである。 「いいですよ。楽しみです。」 と笑顔で応えるFUKちゃん。 釣りを覚えたてで魚釣りに胸きゅん状態のFUKちゃんに、釣りの誘いを断る理由は見当たらなかった。 こうして、FUKちゃんとの磯釣り第2戦の計画が持ち上がったのである。 ところが、もう土日は、予定が入っていて難しかった。春休みということもあり平日に行くことにした。 平日なら磯も空いているし、よいポイントに乗れる可能性が高いのでラッキーと思いきや。平日は離島便の客が集まらず、釣行計画さえままならぬ状態になる。 これはここしかないでしょ。こんな調子で30日は釣り初心者のFUKちゃんと鹿児島県東シナ海に浮かぶ離島鷹島への釣行が決まったのである。 「出ます。2時までに来てください。」 夜の10時においらの自宅で待ち合わせた。FUKちゃんは、今回なんと軽トラックで登場。 ハーバーワンの待つ串木野港へ着いたのが午前1時を過ぎていた。もうみんな集合していて荷物は積み終わっていたようだ。 ハーバーワンも離島便にふさわしく大きな船だ。真っ黒に塗られた船体ボディーは力強い印象だが、キャビン内はカーペットが敷き詰められ、枕や毛布も用意されている。離島の釣りを少しでも快適に楽しんでもらおうという船長のおもてなしの心が見えるようである。 船は、定刻より15分早い午前1時45分に串木野港を離岸した。 今日の予報は曇りで波も1.5mほどと造作もないものだ。船酔いが心配なFUKちゃんにとってこれはよい情報だろう。 船は、あまり揺れることなく、東シナ海を流れる対馬暖流を横切るように鷹島を目指した。予定通り、2時間の船旅でエンジンがスローに。 来たっ!あわててキャビンの外に出てみる。FUKちゃんがこれに続いた。 そよ風が吹く中で暗闇の霞の中から、4つの巨大な巌が忽然と現れた。 今日の釣り人は総勢13名。2番の南向きからの渡礁だ。 曇り気味の天候で、南西からの風が予想されるため、渡礁場所が限られる模様。まずは大きい巌の1番で風を防ぐことができる場所への渡礁のようだ。 サーチライトがまるでスポットライトのように磯釣り師を主人公に仕立てる。ホタルのようなキャップライトの動きをしながら、釣り人は磯にしがみつく。 現実の世界から非現実の世界へバンジージャンプするように躍動する釣り人たち。 いつも見慣れているはずの光景だが、興奮を押さえきれない時間帯だ。 「kamataさん、つぎです。」 予約が遅かったこともあり、当然のことながら最後の方にようやく声がかかった。 荷物をFUKちゃんと協力しながら船首部分に運ぶ。サーチライトが照らす方向に目をやると、自分たちの決戦の舞台が現れた。 洞窟のような穴が見えた。一度乗ったことのある4番だ。 ホースヘッドを付けて、磯に飛び乗る。荷物を受け取る。 「ワンドの奥」 アドバイスは、この一言だった。単純だけど的確だ。沖向きがよさそうに思うんだけど、洞穴の方のワンド向きがいいらしい。 早速、FUKちゃんには撒き餌をさせ、自分は二人分の夜釣り仕掛けと自分の昼釣り仕掛けを作った。 さわやかな風が頬をつたう。ああいい夜だ。ここは九州本土から遠く離れた場所であるが、桜の便りが届きそうな香しい磯風だ。 言われたとおりに、撒き餌を続けるFUKちゃん。 ようやくタックルの準備ができた。 前回は強烈な当たり潮で、釣りが難しかった。だが、その潮で石鯛をゲットしている。今回は、今のところ潮がふらふらしてあまり動きがない。 磯釣り2回目のFUKちゃんは、何とか初めての本命を釣りたいと必死の形相で釣っている。前回の竹島で苦杯をなめているFUKちゃん。今度こそ本命を釣ってほしい。 最近、お気に入りの2B程度の浮力の電気ウキの緑色が波間に揺らめいている。尾長グレを期待していたが、何の反応もなく(しかもイスズミも夜釣りの税金マツカサも)あっさりと朝を迎えてしまった。 離島の釣りは朝まずめが勝負だ。昼釣り用のタックルはもう準備していたので、撒き餌を15分ほどして早速実釣開始。 ウキは右から左の流れに沿ってゆっくりと動いている。ゆらゆらと前アタリがあった後、ウキがゆっくりと消し込み始めた。 ウキが消し込むスピードが加速した後、いつものように合わせを入れた。 「あれっ、乗らない。」 喰わせたと思ったのに、肩すかしを食らった格好に。 更に、第2投でも同じようなウキの消し込みが。これも乗らなかった。 ラインの調整がうまくいかなかったのかな。 第3投。これもウキの消し込みが。合わせると今度は乗った。 いかにもクロの引きという感じ。浮いてきた魚影を確認。しっぽの白い体高のある魚が近づいてきた。なんだ、心配して損したな。 抜きあげようとした瞬間、魚が暴れ、竿先が天を仰いだ。 「やっちゃいました。」 自虐的にFUKちゃんに声をかけるも、彼は仕掛け作りに夢中だ。昼釣りの分も作ってあげればよかったかな。いや、自分のことは自分でやるから釣りの醍醐味が味わえるんだからね。 仕掛け作りに没頭するFUKちゃんを尻目に、第4投。 やはり、ウキが消し込み始めた。今度ははっきりとしたウキの消し込みがあり、道糸が走った。魚が反転したらしい。 「ううむ。これはでかい。」 今日一番の強い引き、っていうか今シーズン一番の引きかもしれない。がま磯アテンダー2.5号が容赦なく曲がっている。 しかし、取れる確信があった。なぜなら魚の最初の疾走を止めたからだ。竿の角度を気にしながらためているとまさかの突然のバラし。 えっ、なんでバレた?しばらく思考が停止してしまった。 ハリスが磯際に触れてしまったようだ。45cmクラスの魚だろう。残念無念。最近、でかい口太釣ってないので、悔やまれるばらしだった。 おいおい、4連続で魚を喰わせてはいるが、よくよく考えるとまだ1匹も釣っていないじゃないか。このままでは魚が散ってしまうよ。 焦るおいらは、魚の活性が高い朝の時間帯に何とか釣っておきたいと、必死に仕掛けを打ち返す。 その後、何とか魚のアタリをうまく拾って口太を7枚ゲットしたところで魚の勢いが止まり、釣れる魚もクロからイスズミに変わった。およそ1時間の時合いだった。 FUKちゃん、ようやく仕掛けを作るも、道糸を瀬際に引っかけ、トラブルを解消することに多くの時間を費やし、まだノーフィッシュだ。 頑張れ!FUKちゃん!いや本人は頑張っているのだが、struggle状態なのだ。彼は釣りという名のクレペリン検査を受けているようだった。 わたしの行動は衝動性が強く、何か困難なことがあると、途端にイライラしてしまい本来の力を発揮できない短所をもっている。まるでセトモノ。 しかし、FUKちゃんは違う。道糸を磯際に引っかけて、ウキを流そうが、天文学的な確率でようやく釣った魚を抜きあげる直前でオートリリースしてしまっても、決して笑顔を絶やさない。どんな困難な場面に遭遇しても決してあわてず、笑顔で釣りを楽しむことができる。 とげとげしい釣りにおける困難をすべて楽しみに変える強靱なメンタルをもった男FUKちゃんは、限りなく釣り師としてのポテンシャルが高い。 イスズミを釣ってもがっかりしないやわらかい心の持ち主なのだが、料理男子として知られているFUKちゃんに何とかおいしく食べられる魚を釣ってほしい。 「FUKちゃん、こっちに来る。」 その結果、考えたのが釣り座の交代である。 釣り座を交代することでFUKちゃんに流れを変えてほしいと思ったのだ。 ところが、釣りを更に困難にする案件がやってきた。上げ潮になると潮の流れが激流に変わったのだ。轟々とまるで大河のように流れている。 ここ鷹島は、5番までの5つの巌が寄り添うように集まっている。そこで、必然的に狭い水道ができ、激流が起こりやすい。また、東シナ海に面しているため、潮の流れの影響をまともに受けるため、入れ食いが止まらない時やイスズミだらけでさっぱりという時もある白黒はっきりした釣り場である。 今回は、激流に悩まされそうだ。仕掛けを流していくとあっという間に、向こう側の磯壁に到着してしまう。流れの向きが変われば、今度は洞穴の狭い水道に向かって仕掛けは一直線だ。 この速い潮の流れに、二人ともなすすべがなかった。 さらに、追い打ちをかけるように、悪条件がやってきた。 「ゴロゴロ」 さっき冷たい風が吹いてきたかと思うと、南西方面から積乱雲が急速に発達しながらやってきたのだ。そして、この鷹島に迫ってきていた。 ぴかっと稲光をあびると同時に、水平線の彼方から雷鳴がとどろいた。鷹島の巌が反響板となり集音効果となって釣り人を威嚇している。 この世で最も怖いものが雷という筆者。FUKちゃんを伴って緊急避難。カーボン製の磯ロッドは格好の避雷針だ。竿は置いてすぐにFUKちゃんとともに磯壁に張り付くことにした。 ぽつぽつと雨がぱらついてきた。今日の予報は降水確率40%の曇り。しかし、雷雨になるという予報はなかったはずだ。 3月は天候が急変しやすい時期。雷雲が去って行くまで、とにかく待つことにしよう。 30分ほどFUKちゃんと雑談していると、雷鳴が遠くなった。よかった。積乱雲の規模はそれほどでもなかったようだ。 さて、元の釣り座に戻って釣りを再開した。釣り場がどうなっているか気になるところ。 仕掛けを流す。潮の流れはやや緩くなっていた。釣りやすくなったが、魚の反応は消えてしまった。 ところが、1種の魚だけがクロと入れ替わるようにやってきた。その魚はもぞもぞとしたアタリで結構な引き味を見せる。 水中から魚影を確認してしっぽが鋭いので青物かなと思いきやそうでもない。流線型の魚影の色を見て、なるほどあの魚であるとそれが確信に変わった。 沖縄の県魚である「グルクン」である。海水温の上昇か潮流の変化の影響なのかはわからないが、南九州ではこのところ磯釣りでグルクンが釣れる場面がしばしば見られるようになった。 沖縄では唐揚げ用の大衆魚として、沖縄を含めた島んちゅの台所を支えているが、九州本土では、あまり馴染みのある魚とは言えない。 しかし、食べておいしいならば、これを狙わない手はない。 「FUKちゃん、グルクン釣れたよ。持って帰る?」 笑顔でうなずくFUKちゃん。料理に関しては、主婦の平均レベルをはるかに超えているFUKちゃんにとって、このグルクンのお土産は、興味深い食材に違いない。 ここはグルクンを釣って釣れてないFUKちゃんのお土産を確保する目標に切り替えることにした。 ところが、不思議なものでねらうとこれが中々釣れないもの。そのうち、8枚目の外道となったクロが釣れた。釣りとはこんなもの。釣り人の願い通りにはいかないね。 そして、おいらが苦戦する中、気が付くとついにFUKちゃんが本命魚を手にしていた。30cmあるかないかというクロだったが、彼にとっては人生初めての本命魚。満面の笑みでカメラに収まってくれた。 「おめでとうございます。ついにやりましたね。」 少々大げさに声をかける。FUKちゃんは大事そうに魚をクーラーにしまうと、満足気の表情を浮かべ、釣りを再開した。 この日、このときをFUKちゃんはきっと忘れないことでだろう。自分で苦労して釣った魚には、言葉で言い表せない釣り人でないと理解できない価値がある。 この喜びの記憶は、FUKちゃんの脳裏にインプリンティングされるはずだ。 こうはしていられない。自分も残された時間たっぷりと楽しまなければ。 その後、グルクン2匹と回収間際に釣ったクロを最後に追加して釣りを終えた。 今回の釣果は、クロ9枚・グルクン3枚という結果となった。 鷹島の底力としては物足りない釣果だったが、FUKちゃんの初めての釣果に立ち会うことができて、とても喜ばしい釣りとなった。 磯場を片付けて、回収の船に乗りこんだ。小さくなっていく鷹島を見ながら、グルクンという新たな対象魚が増えたことを確認した。 FUKちゃんのクーラーにはおいらの釣果のほとんどが入れられた。これらの魚はFUKちゃんという名シェフの手でおいしい魚料理に変わる予定だ。 食材を確保したFUKちゃん。そして、初めてのクロを釣ったFUKちゃん。きっと忘れられない1日になったに違いない。 途中からクロよりも釣りたいと願った釣ったグルクン。グルクンの唐揚げを食べるためにまたいつか鷹島を訪れたいとFUKちゃんと誓いながら、串木野港を目指すのだった。
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初めてお世話になるハーバーワン 清潔な船内 釣り師が次々と渡礁 一度乗ったことのある 4番に渡礁
さあ 夜釣りのスタート 本日の撒き餌 夜釣り まったく反応無し あっという間に朝になりました 初釣果 午前6時22分 7時7分 7時10分 7時25分 7時33分 7時53分 予報に反して積乱雲が 願っていたグルクン釣れました 後半は激流が・・・ 本日の釣果 ありがとう4番 |