4/2 宗教のごとき釣り 宇治群島



名礁 ガランのハナレ

もう宇治群島に頻繁に通い始めて5年目になっただろうか。



離島の磯と言えば、これまで甑島や硫黄島がホームグラウンドだった。師匠uenoさんと尾長グレを求めて転戦していく中で、宇治群島という離島の存在を知り、尾長グレがよく釣れるという情報をえることで、硫黄島に代わり宇治に触手を伸ばし始めた。



「2日からの2日釣りを予約したばってん、よかな。」



満を持して3月20日からの渡船サザンクロスに予約を入れようとするも、1ヶ月前の予約だったにもかかわらず、キャンセル待ち5組という。



Uenoさんの全身にアドレナリンが駆け抜けたのは言うまでもなかった。即座に釣行可能な4月2日からのスケジュールをサザンクロスに入れさせた。



「やっぱ、早(はよ)言うとかんばんバイ。これでよかところに乗らるっばい。」


してやったりの声が携帯の向こう側から聞こえてくる。


シーズンに入ると、予約を取るのが難しいほど人気となる渡船サザンクロス。数ある渡船の中で、尾長グレを高確率で釣らせてくれるこの船は、九州一円、そして、関東からの遠征組を受け入れるほどの人気渡船に成長した。


今シーズンの宇治のオナガグレの状況であるが、本格シーズンの2月に中々出船できず、3月に入ってもなお尾長グレの期待が高まっている。


1月から2月にかけて、何度も宇治への釣行計画を立てたにも関わらず、uenoさんに至っては3月まで一度も宇治の磯に立てなかった。


だから、uenoさんの意欲は並みならぬものがあった。


だが、おいらにもuenoさんに負けないほどの秘策があった。


まずは、タックルである。今まで5号竿を中心に尾長狙いの夜釣りに臨んでいたが、それだとどうしても道糸に負担がかかる。実際に硫黄島で一気に道糸10号を飛ばされたことがある。



5号よりやわらかい4号ならなんとかなるのではないか。そう考え4号竿をゲット。そして、今までの10号から8号の道糸を巻くことにした。


硫黄島や竹島では12号から16号、ワイヤーでもよしとする世界とは違うと考えた方が良さそうだ。

実際、釣りサイトを見てみると、道糸6号・ハリス8号という組み合わせもあり、これで60を超える尾長グレが仕留められている。

4号竿は宇治の夜尾長釣りでは必須アイテムだと思えたのだ。


さらに、今まで10号ハリスを使っていたが、食い込み重視で8号のハリスをメインに使うことにした。


次の秘策は、ウキである。それまでは、瀬際を釣るということで1〜2号という重たいウキを使っていたが、2B程度の夜釣りでは軽い負荷にした。少しでも食い込みがよくなるようにということ。


そして、最後の秘策は、撒き餌である。それまでは、量が増えるということでパン粉や集魚材を混ぜていたが、今回の夜釣りでは尾長グレ1本狙いということで、以前から言われているオキアミ生をできるだけ原型のままと赤アミを混ぜたものを使い、集魚材やパン粉は一切混ぜないというものだ。そして、量も多めに用意をした。


「出るげな。12時出航やけん、8時半集合ね。」

Uenoさんの声は若干うわずっていた。3月の終わりから4月の始めにかけて中々忙しく、仕掛けを作る時間もままならなかった。


Ueno宅集合まであと30分というところまで、仕掛けをずっと作っていた。

九州自動車道を南へ下り、横川ICで一般道へ。川内から国道3号線を南下して、串木野港に着いたのが、午後11時を少し回ったところだった。ここで、アクシデント発生。


「うわっ、付け餌バ忘れたバイ」

Uenoさんが突然焦り始めた。Uenoさんは、尾長グレの付け餌として用意していた2Lのオキアミを自宅の冷凍に忘れてきたというのだ。

Uenoさんは一緒に行く息子さんに釣具店に立ち寄らせ、付け餌を買ってくることを指示。事なきを得たのだった。

暗闇の中で一際明るい場所があった。宇治群島へ誘う渡船サザンクロスである。早くも10数名の釣り師が集まっていた。

急いで戦闘服に着替え、荷物を積み込み始めた。

「かけ上がりのハナレに乗ってたんですよ。」

「えっ、そうなの、尾長は?」

「だめだったです。」

「この人がそこで尾長釣りましたよ。」

船長と話をしていると、自分がM中さんと一緒にいたかけ上がりのハナレで、我々が去った直後に尾長が釣れた情報を得、一気にボルテージが上がった。

「タナはどれくらいでしたか。」

「竿2本だったかな。」

えっ、竿2本。

なるほど、だからアタリすらなかったんだ。尾長のタナの深さに愕然させられた。タナ1本半までは深くしたけど・・・。

こんなリサーチをしながら、キャビン内に入り寝床を確保。今日は多いと思いきや、20名はいないもよう。

後部の地下に広々としたスペースが空いていた。枕をゲットし、高鳴る興奮を抑えながらひたすらエンジンが始動するのを待ち続けた。

ぶるん、ぶるん。

午後12時前、船は命を吹き込まれた。力強い南十字星はゆっくりと静寂の串木野港を離れ始めた。

対馬暖流に逆らうように滑っていくサザンクロス。今日も凪だ。心配ない。安心するやいなや自然と眠りに落ちていった。

どれくらい眠っただろう。エンジンが高速で回転しているのがわかる。しかし、もうすぐ宇治に着くような気がする。それは、何の根拠もない感覚的なものだが、確信に近いものがあった。

案の定、エンジンがスローになった。さあ、渡礁開始だ。釣り人の動きが静から動に変わる。

「まだ、声のかからんと思うよ。雀に乗らるっとよかなあ。」

こんなたわいもない会話をしていると、

uenoさん」

と船長から、思いの外早く声がかかった。

あわててライフジャケットを羽織り、キャビンの外に出た。風が思ったより吹いていて、結構時化気味だ。

最初の渡礁が始まる。2人組の釣り師たちが船首部分で身構えている。サーチライトが当たってる先は、小高い2人くらいが丁度よい巌だった。船首のタイヤが造作もなくその巌に付けた。

2人の釣り人が素早く飛び乗り、荷物を受け取っている。渡礁無事完了だ。いよいよ今度は自分たちの番だ。

しかし、ここは一体どの辺りだろう。宇治に通い慣れてきていたが、ここがどこかまったく見当が付かなかった。

kamataさん、ここどこね?」

uenoさんに言われても、このときばかりは全くわからなかった。

何回か宇治に通って、それでしったか気分になっていた自分を反省。

サーチライトが当てられた。明るく照らされている巌を見ても全く見当がつかない。

「う〜ん、どこでしょうねえ」

こう答えるしかなかった。

ホースヘッドのタイヤが着地点を探している。おいら、uenoさん、そしてuenoジュニアの3人が身構える。

タイヤが一度巌にぶつかり、バウンドして上の段に接岸した。

「今だ!」

3人は一気にごつごつとした磯場を駆け上がった。

荷物を受け取り、船長からのアドバイスを待った。

「船付けのところからと水道がいいです。」

マイクから聞き取れた言葉を脳の前頭前野で受け止める。

さあ、磯の全体像を掴む作業だ。

船付けの場所は、切り立った壁のようで、その後ろはかけ上がり状になっている。今自分たちがいるところが、例えるなら馬の背にあたるようだ。


荷物を高いところにおいて、仕掛け作りに入った。さて、釣り座をどこにするか。船長の水道側がいいという情報を頼りに馬の背を上り、一番高いところまで来てみた。

しかし、夜間ということもあり危険と判断。上の段からの釣りは断念した。

しかも、磯はここ数日間の時化でぬれており、海藻がびっしりと磯を覆っている。斜面は滑りやすくなっており危険だ。

どこか釣りができるところはないだろうか。

船付けの斜面伝いに水道側に行ったところに、バッカンが置けそうな場所を発見。すかさず、そこへピトンを打ち込んだ。

手前に瀬が少し張り出してはいるものの、ワレもありいかにも尾長が喰ってきそうな場所だ。

Uenoさんとジュニアは、船を付けたところを釣り座とし、早速釣り始めている。

ここサザンクロスでは、渡礁直後の夜釣りと1日目の夜釣りという2回の尾長チャンスがある。

期待していた1回目の夜釣りだったが、竿1本から竿2本の間を探ってみたが、マツカサが訪問しただけで何のドラマもなく終わった。

白々とし始め、周りの情景が見えるようになり、ここがどこであるかわかるようになってきた。

遠くに見える大きな島は、向島で、手前の海は隼人の水道。

そして左に見えるのは家島で見えている山の向こう側にはおそらく避難港があるのではないだろうか。

そして、ここが一度乗ったことのある磯であることが、ようやくわかった。目の前のもやが切れたような気がした。

uenoさん、ここは、ガランのハナレですよ、きっと。」

「そうな、おれたちここで釣りしたっけ。」

「たしか、初めて宇治群島に行ったとき、最後のここに瀬替わりして、uenoさん尾長釣ったじゃないですか。」

「えっつ、そうな。」

驚くuenoさん。

「足裏サイズだったけど。」

Uenoさんずっこける。

そう思い出した。ここは、忘れもしない2004年6月13日、第八恵比須丸に乗ってここまでやってきた。

2人で足裏サイズの尾長グレ1匹という釣果に終わり、うなだれて帰ったことを思い出した。そうそう、遠投すると、沖にオヤビッチャのナブラがたっていたっけ。(後にも先にも、オヤビッチャのナブラを見たのは唯一このときだけである。)

さあ、朝が来た。今日は尾長を釣りに来たんだが、やはりお土産は持ち帰りたいもの。朝まずめの口太釣りを頑張ることにした。

「おら、裏(のワンド)で、すっでえ(するからね)」

Uenoさんは、船付けの裏のワンドに消えていった。ジュニアも同行した。

さあ、口太と遊んでもらおう。竿は、がま磯アテンダー2.5号、道糸2.5号にハリス2.5号。これくらいの波ならウキの浮力はG2で大丈夫かな。

撒き餌を30分ほどしたあと、朝焼けの空をバックに、餌を付けたハリスをつまんで振りかぶり、第1投。

ウキが手前に当たってくる潮に乗っている。いい潮乗りだ。すると、あっという間にプロ山元ウキが紫紺の世界へ吸い込まれていく。当然のごとく道糸が走り、竿にずっしりとした心地よい感覚が手元に伝わった。

魚が手前に突っ込み、シャープな引きからクロであることが確信に変わる。しっぽの白い愛くるしい魚体が水面を割った。

第1投で釣れた35cmクラスのクロを手にし、これからの明るい見通しを予感した。予想通り、次から次に口太が水面を割った。

がつがつ釣ってもしょうがない。時間はたっぷりあるし、あわてる必要はない。

サザンクロスの朝の見回りの時間までに、9枚のクロを手にし、ゆっくりと菓子パンによる朝食をとった。

kamataさんどうね。」

後ろからuenoさんが声をかけてきた。

「ぼちぼちです。そっちはどうですか。」

Uenoさんは満足そうな笑みを浮かべて、

「こっちもぼちぼち釣れとるバイ。」

と返答。今日は、よい日に出くわしたようだ。この瀬にはかなりの数の口太が付いている模様。

サザンクロスがやってきた。

「どうですか。」

いつものダメのサインを送る。魚を入れたドンゴロスを持って、船に乗りこんだ。

釣れた魚を船に置いておいたイグロークーラーに魚を入れて、船長と談笑する。

「昼はあんまりがんばらんでくださいね。夜がメインですから。体力を消耗しないように、休憩を入れながら」

了解のサインを送り、瀬に戻った。

「もう口太はよかバイ。いっぱい釣ってもしかたなかモン。」

Uenoさんは、もう釣りをやめて、磯の高いところで横になっている。同感だ。これ以上釣ってどうするんだろう。メインは夜釣りの尾長グレ。

昼は午後2時頃まで、uenoさんと世間話をしながら、仮眠を取ってゆっくりと休憩だ。

4月に入ったばかりの時期だが、昼間はかなりの暑さ。背中に汗がべっとりつき始めた。

釣りをやめてぼんやり海を眺めていると、何か黒い物体が磯場に近づいてきた。水中にいるそいつは、鋭角的な頭を持ち、更に鋭角的な鰭を持っていた。磯際に近づいたかと思うと、やつはまた沖へと猛スピードで消えていった。

体長は2m〜3mくらいあった模様。

uenoさん、鮫がいますよ」

「えっ、本当な」

困惑するuenoさん。鮫島ならまだしも、宇治群島の最北端に位置するガランのハナレでも鮫の巡回が見られるなんて。

これからの釣りに不安を覚えた。鮫はいるかほどではないが、磯釣り師の天敵である。彼らの対象魚は元気な魚ではなく、磯釣り師が喰わせた自由がきかないクロだ。

だから、釣り人が魚を喰わせるのを遠巻きに観察して、喰わせたと思えば一気にその魚に襲いかかるという卑怯な漁法をやる輩である。

しかも、好き嫌いが激しく、イスズミには見向きもせずに、クロや尾長めがけて突進する習性を持つというからたちが悪い。鮫も人間と同じくよりおいしい魚を求めるらしい。

幸運なことに、鮫の巡回は単発的な出来事だったようだ。釣りをたまたま休んでいたことが幸いしたかもしれない。

いや、待てよ。鮫がいるということは、高確率で尾長グレが潜んでいるという可能性も否定できないではないか。ますます、夜釣りへの期待が高まった。

午後3時を過ぎて、だんだん涼しくなってきた。せっかく来たんだからと、再び口太釣りを始めた。

しばらく撒き餌をしていると、潮が速くなってガラン瀬との水道を流れていく。そして、その沖にナブラを発見した。

この時期のナブラだ。クロしか考えられないではないか。撒き餌を遠投して、ナブラに直撃させると、ばしゃばしゃと水面波立たせている。ナブラを見て興奮しない釣り人はいないだろう。

これは、磯釣り師しか経験できない究極の釣りであるナブラ直撃釣法をやるしかない。さすがに仕掛けを直撃すると警戒して喰ってこない。

潮上から仕掛けを流して撒き餌と同調させる。ウキが面白いように消し込み、道糸に心地よい生命反応が伝わった。

浮いてきたのは、35cmほどの宇治のアベレージサイズの口太。これから1時間弱潮が変わるまで、磯釣りのロールプレイングゲームのようにドンゴロスに魚がどんどん増えていった。

午後4時過ぎに潮が変わると、ナブラは遠くへ行ってしまい、アタリが遠のいた。しかし、楽しい時間だった。これが磯釣り創世記の釣りであり、そして、憧れの縄文時代の狩猟生活なんだ。

魚のアタリが少なくなった午後4時半ごろ、サザンクロスが弁当を届けにやってきた。ドンゴロスに入れた魚をイグロークーラーに移して、代わりに餌を持って磯へ戻った。おっと、夜は気温が下がることを想定して寝袋も忘れずにね。

「船長!タナはどれくらいですか。」

「深くないよ。2ヒロ。」

前回のかけ上がりの離れでは、竿2本だったというから、これは意外な返答だった。そして、釣り情報といっしょに受け取ったあたたかいご飯の差し入れもこの釣りの楽しみに一つである。

「飯でも喰おい」

Uenoさんの提案で、夜釣りに備えて、早い夕食を迎えた。今日のメニューは、カレーライスである。磯場で食べるカレーライスの味はまた格別である。食事を済ませると、普段は絶対に飲まないドリンクをあおって気合いを入れた。

だんだんアタリが暗くなってきた。暗くなる前に餌の準備だ。今回は何としても尾長を釣りたいので、集魚材を混ぜずにオキアミ生と赤アミを混ぜたものだけを用意した。付け餌はオキアミ生の3Lサイズ。

続いてタックルの準備。竿はダイワメガドライ遠投4号・道糸8号にハリス8号。ウキは浮力がB程度の小型電気ウキ。鉤は、喰わせ青物9号。佐伯のブリ釣りでも絶対に折れなかった最も信頼できる鉤だ。

タックルの準備ができたら、暗くなる前から撒き餌を始めた。足下が丁度ワレになっており、そこがポイントか。

その右と左は、張り出し根が出ており、そのへ魚が回ったらアウトだろう。魚を瀬際で掛けたらどうやりとりするか、イメージしながら撒き餌を少しずつ間断なく続けた。

「暗くなったバイ。もう釣ろい。」

Ueno親子が釣りを開始。こちらも負けじと釣りを始めた。タナは2ヒロに設定し、振りかぶって第1投。一度入れた仕掛けを瀬際ぎりぎりに引き戻す。幸いサラシも少なく、潮も手前に当たってくる流れだ。瀬際を回遊する尾長グレを狙うには絶好の潮だ。

仕掛けを回収する。餌はそのまま付いてくる。

「アタリあるね。餌盗られるね。」

Uenoさんが聞いてくる。

「いいえ。ぜんぜんです。」

「こっちもタイなあ。餌も盗られんバイ」

夜釣りの税金と言われ、ハリスを傷つける困った輩であるマツカサもいないし、これもなぜか釣り人から嫌われているイスズミも姿を見せない。

タナが深いのかもしれない。竿1本まで深くしてみるも反応は変わらなかった。再びタナを2ヒロに戻した。

Uenoさんが魚を掛けた。

「マツカサバイ。」

ようやく活性が上がってきたのか、マツカサが釣れてきたみたい。こちらは何も反応がないが、集中して釣りを続けた。

その時はいきなりやってきた。ゆらゆらと漂っていた緑色の電気ウキの光が一気に瀬際に消え、同時にひったくられるようなアタリに襲われた。

先手を取られた形になったが、メガドライのしなやかな竿先が魚の動きを止めた。このまま瀬際に潜られたら、こちらの負けだ。

体を起こして力の限り魚を浮かせにかかった。魚の疾走は幸い止まった。よかった。最初の動きをとめたぞ。第1段階はクリアだ。

やつは手前に突っ込むのをあきらめたのか、今度は沖へと走り出した。

「えっ、そんな。」

最初の突っ込みで尾長グレを確信したのに、沖へ走るなんて。

去年もこれと同じような場面で、尾長を確信したのにサンノジを釣ってしまった苦い思い出がよみがえった。

沖に出た魚はそれほどのパワーは感じなかった。沖に走ってくれたので、こちらとしては助かった。手前に突っ込まれ続けていたら苦しかったかも。

魚を浮かせることに成功した。

魚をよく観察すると、口の形からサンノジではないことが判明。また、タバメでもないし、もちろん青物でもない。

ここで尾長グレを確信。振り上げてもよさそうなサイズだったが、慎重に玉網をかけた。ようやく、手元に引き寄せた魚をみて、アドレナリンが全身を駆け巡ったのがわかるくらい全身が上気してしまった。

茶色の端正な顔。黒い特徴的な鰓蓋。整然とならんだ小さめの鱗。鋭角的な尾鰭。鋭い歯。もう何と形容していいかわからない。久しぶりに尾長グレを手にした喜びで頭が真っ白になってしまった。

uenoさん、尾長です。」

「やったなあ。Kamataさん。」

Uenoさんが祝福してくれた。

早速、メジャーを当ててみる53cmと思ったより小さかったが、体高のあるりっぱな尾長グレだった。

おっといかんいかん。余韻に浸っている場合ではなかった。次なる獲物を目指して釣りを再開した。

しかし、再び沈黙がやってきた。餌をとられない時間が続いた。たまに、マツカサが訪問に来てくれるという退屈な展開がやってきた。

「おらもう寝るバイ。釣れる気がせんもん。」

Uenoさんが11時頃戦線を離脱。磯の高いところで寝袋に入ってしまった。

uenoJRも父親に追随。釣り初めて4時間が過ぎたころおいらはひとりぼっちになってしまった。

瀬際だけを狙っていたが、こう魚の気配がないと遊んでみたくなるもの。竿1本先に仕掛けを入れるとどんな結果が待っているのか知りたくて、そこへ仕掛けを投げてみた。

すると、ハリスに取り付けていたケミホタルが横に走ったかと思うと、ウキもそれに追随するように横へ走り出した。

どうせイスズミだろうと、合わせてみる。

喰った。喰った。

魚が横に走った。この動きならサバか。

おいおい〜〜、サバにちゃあ引くじゃないのさ。

その魚はサバとは思えない強い引きで沖へ走ろうとする。この引きならイスズミでもなさそうだ。

何とかやつの疾走を止め、浮かせることに成功。

そのシルエットは流線型の形をしていた。

やっぱり、サバだな。慎重に抜きあげた。

しかし、サバにしてはでかすぎるぞ。

近づいてライトを当てると、意外な魚が暴れていた。

何と、50オーバーのヒラマサだったのだ。

磯の弾丸スプリンターもこの4号竿のタックルには、力及ばなかったらしい。確実に絞めてクーラーに入れた。

尾長とヒラマサの釣果で、今後更なる獲物が期待できたが、この後、更に厳しい沈黙がやってきた。魚からの反応がないと強烈な睡魔が襲ってくる。

魚からの反応もないことだし、しばらくの間仮眠することにした。

風が南から強く吹き出した。風が当たると体感温度が下がってしまう。4月上旬のこの日だったが、かなり寒く感じられた。寝袋を持ってきて正解だ。

横になってるといつの間にか眠ってしまい、目が覚めたときは、すでに午前2時を過ぎていた。

風が益々強く吹いている。今まで尾長釣りをしていた船付けはサラシで飛沫が上がってくるほど荒れていた。

これでは尾長釣りにはつらいものがある。

「尾長のポイントは、船付けもいいですが、裏のワンドもいいですよ。」

と船長からのアドバイスを思い出し、昼間にuenoさん親子が釣りをしていた裏のワンドで尾長のアタリを待つことにした。ここなら、風の影響は皆無で、サラシもないので、瀬際釣りが可能だ。

移動して釣り始めるも、釣りの条件としては最高に思えたこの場所も反応がないことには変わりはなかった。

残念ながら、この後何のドラマもなく朝を迎えてしまった。

時計をみると午前6時前。10時回収だから、この宇治群島で釣りができるのもあと数時間。そう思うと、無性に釣りを続けたくなってきた。船付けの釣り座は昨日十分楽しませてもらったから、今日は裏のワンドで遊ぶことにしよう。

明るくなると、ueno親子も起きだしてきた。uenoJRは、仕事の疲れからかすっかり眠ってしまい、釣りはもうお腹いっぱいとのこと。

Uenoさんはまだ釣る気満々だ。二人並んでワンドで釣り始めた。

「昨日は、クロばっかり釣れたバイ。イスズミはほとんど釣れんやったバイ。」

こちらの昨日の釣り座では、イスズミもほどよく釣れたから、こちらのワンドの方が状況はよかったようだ。

ところがuenoさんの言葉とは裏腹に、今日は魚の活性が低すぎる。たまに、釣れてくるのがイスズミという結果に。1日でこんなにも状況が変わるものなのか。

しばらく撒き餌をすると、どこからともなくまたあのナブラがやってきた。撒き餌に反応している。してやったり、ナブラ直撃釣法だ。

仕掛けを遠投して、ナブラを直撃する。しかし、実際の仕掛けには見向きもしない。潮の流れとナブラの位置がよくないようだ。

残念ながら今日のナブラは、釣り人にとってはディスプレイでしかなかった。この場所に見切りを付けることにし、昨日の船付けの釣り座に戻った。

ここで何匹かの口太と戯れ、8時45分頃に釣れた魚を最後の竿をたたむことにした。

いやあ、遊んだ、遊んだ。魚釣りにどっぷりハマった2日間。携帯電話の電波の届かない場所で、童心に還ることができた。帰り支度を始めると、いつものことだが妙に寂しく感じられるのはわたしだけであろうか。せっかく楽しませてくれたこの場所を離れることが。

また、同時に、無性に家族に会いたくなってしまうことも付け加えておきたい。

午前10時頃、サザンクロスが迎えに来てくれた。荷物を船に積み込み船のデッキからガランのハナレを見つめた。

この九州本土から遠く離れた垂涎の地に、釣りという宗教のごとき業があり、そこに信仰の理想郷である「伽藍」があったことをいつまでも忘れないように、この自分の脳に刻みつけるのであった。


離島への夢とロマンを飲み込んで











ガラン周りからの渡礁









ここがどこかわからないけど取りあえず



夜釣りを始めました




オキアミ生と赤アミのみ






全然反応がありません



根が張りだしている模様


夜が明けてしまいました



おいらの釣り座



ここはガランのハナレでした



荷物は高いところに集めました




ここのワレがポイントのようです


口太が



おもしろいように釣れます



裏のワンドも絶好調


釣れましたか?


抜けるような青空


ウミガメのあいさつ


相変わらずクロは釣れてます


上の段がuenoさんの釣り座


夕方の見回り


あたたかいご飯のサービス


さあ 勝負だ


さあ夜釣りに突入


瀬際を攻めます


上あごを貫通


久しぶりの尾長グレでした


ヒラマサのお土産もついてきました


一瞬にして切られました


夜が明けると 口太と入れ替わり


楽しい2日間でしたね


ありがとう ガランのハナレ


本日の釣果


53cmとやや小さめ


クロのアクアパッツァ まいう〜〜^^



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