6/11 天然のシャワー 硫黄島




硫黄島 立神 ミジメ瀬

また今年も、忙しい時期がやってきた。4月から6月にかけて、シラバスを中心とした計画作り、調査・報告に追われる日々。国民・県民の声という名の行政の締め付けに右往左往する毎日。

 

平日は、授業や部活動があるため、昼間はそれらの業務を片付けるのは難しい。デスクワークの時間は超勤できるといっても夕方から夜にかけての4時間が限界。さばけない仕事は、当然のごとく土日出勤のサービス残業に取って代わった。

 

月の超過勤務は土日を入れると、100時間を裕に超えていた。かつて日本で歌われていた軍歌「月月火水木金金」の歌詞が現実になっている自分の姿に苦笑する。

 

「最近の先生は、サラリーマン化しているね。」

 

とこんな声を耳にすることがある。

 

まあ、あながち否定できない部分もあるが、少し反論させてもらえるならば、昔に比べて仕事の量が半端なく増えたのは事実。パーソナルコンピュータとインターネットの普及により、情報処理が短時間でたくさんできる時代になった。当たり前に考えるならば仕事の効率がよくなるはずである。

 

しかし、不思議なことに、その利便性に比例して新しいミッションが増え、仕事量が膨張していく。PCやインターネットの普及で紙の使用量が減るのではないかと思われていたが、日本ではそれほど紙の使用量が減っていないそうだ。

 

役所の上司は、電子データを利用するが、確認のために必ず打ち出した原稿を要求する。例えば、こんな形で我々の仕事には紙文化が根強く残っていて、電子データはあくまでも打ち出しデータの担保でしかない。

 

仕事量が膨張すれば、我々の仕事の生命線であるはずの、授業や子どもに係わる仕事を圧迫することになる。こうなれば本末転倒。だから、土日出勤のサービス残業でなんとかやりこなすしかないのである。

 

極端に言えば、昔の先生は授業の準備だけしていればよかったし、私も若い頃は、授業以外の仕事は今ほど多くなかった。

 

まあやりがいのある仕事だから我慢できるが、年齢を重ねるとともに精神的にも肉体的にもキツくなっていた。硫黄島に通って40年の匠から連絡をもらったのは、そんな時だった。

 

「お疲れです。6月11日にタバメ夜釣り大会を開催します。」

 

仕事はたまっているが、ここは精神安定のためにも行くしかないでしょ。

 

硫黄島の名手N村さんは、ハシリの時期で最も実績のある餌の「小イカ」をわざわざ自宅に送ってくださったやさしい海の男である。

 

この吉報を当然uenoさんに報告。丁度夜釣りに行きたがっていたそうな。

 

かくして、6月に恒例となっている硫黄島夜釣り開幕戦が立ち上がった。

その2へつづく

 

そこで問題なのは天気。

 

極東のモンスーン地帯にあるこの地では、この時期は南からの季節風が吹く、寒の尾長釣りとは反対に、南からのうねりが磯を洗うようになる。

 

天気予報に一喜一憂する日々を過ごした後、前時の金曜日にN村さんからの吉報を受け取った。

 

「出航します。枕崎に14時半集合です。餌サンマ・撒き餌は段取り済みです。小イカも持っていきます。よろしく。」

 

N村さんの計らいで、ミジメ瀬に渡礁できるそうだ。

 

小さくガッツポーズをして帰宅をし、明日に備えた。

 

準備しておいた小イカ。

去年から巻いたままの両軸リール2セット(ナイロン道糸20号)

竿は、ダイコーの石鯛竿海王口白と予備石鯛竿。

錘は丸球の30号がメイン。

ハリスは、アカジョウねらいはワイヤーの37番、シブダイねらいではフロロカーボンの20号を1ヒロ。

鉤は、アカジョウ狙いが鋼タルメの25号、シブ狙いでは、少し小さくして22号をセットした。

 

翌日、午前10時半にueno宅に集合。荷物を積み込んで、九州自動車道に侵入した。

 

6月と言えば、シブダイ釣りのハシリの時期で、一番大型を釣るチャンスだ。車中では、今回の釣りに向けての作戦、情報交換に忙しく、途中必ず立ち寄る桜島SAを通過してしまうほどだった。

 

「ミジメ瀬な。おら去年乗ったバイ」

「えっ、それでどうでしたか。」

「シブが12枚くらい釣れたバイ。40ちょいが2,3枚混ざったバイ」

 

実は、昨年uenoさんは、単独で硫黄島へ出撃し、今回乗る予定のミジメ瀬にひとりで乗るという贅沢な釣りをし、見事2桁釣りをやってのけたそうだ。

 

時期は9月だったから、そろそろ餌盗りも少なくなる頃だが、仕掛けを入れると頻繁にアタリがあり、退屈しない釣りができたとのこと。

 

Uenoさんは、ミジメ瀬にかなりの好印象を持っているようだ。おいらにとってもここでアカジョウを形見している縁起のいい場所。

 

二人で釣り談義に花を咲かせていると、釣りへの期待感がスパイラル的に増幅され、あっという間に枕崎港へ到着した。

 

途中、遅い昼食をとったため、午後1時半になっていた。土曜日の午後ということもあり、観光客がまばらだったが、その中でも一際目立つ集団があった。

 

硫黄島に出撃を目指して準備している硫黄師たちである。

 

山盛りの氷を積んだ船長の軽トラックが見える。整然と並べられたイワシのトロ箱。釣り道具を運ぶ釣り師たち。

 

見慣れているいつもの出船光景だが、久しぶりでなんだか懐かしい感じがする。

 

いるいる。歴戦の硫黄師たちが。N村さんを筆頭に、S山さん、大物釣り師のU本さん、時化男で名を知られているK野さん。このベテラン腕利き釣り師なら、今回の釣果はかなり期待できそうだ。

 

kamataさん、例の餌はuenoさんにもやっといたよ。」

 

N村さんが声をかけてくれた。撒き餌は、2人でトロ箱1つ。サンマが2人で30本。ちょっと少なめだが、餌取りの少ないこの時期では十分な量という。

 

船長にあいさつを済ませる。今日はちょっと神経質な顔をしていた。

 

無理もない。午後6時以降の降水確率が70〜80%を超えている。南からのうねりも結構あるもよう。渡礁場所が限られるのではないかという不安がつきまとっている。

 

撒き餌を刻んで黒潮塾のみなさんからお借りしたバケツに入れ餌の準備をする。付け餌のサンマをクーラーに入れ、いよいよ荷物の積み込みが始まった。

 

「立神方面は最後にお願いします」

 

今日は、このタバメ釣り大会のため、いつもより釣り人が多かった。キャビン内の満員だ。毛布を取り快適な環境の中で夜釣りに備える。

 

エンジンの音が変わり、いよいよ出航の時を迎えた。およそ1年ぶりの硫黄島夜釣り。沖堤防を過ぎてからの心地よい揺れを吸収しながら、黒潮丸は全速力で走り続けた。

 

宇治群島に比べると、硫黄島はなんと近いんだろう。90分でエンジンがスローになった。

 

さあ、最初の渡礁が始まる。キャビンの外に出て状況を確認。鵜瀬に、N村さんと連れの方2人が渡礁を済ませるところだった。

 

思ったより風が強い。うねりでゆらゆら揺れる黒潮丸。空を見上げると、鉛色のどんよりとした雲が低い位置にある。硫黄岳を見ると、頂上付近が見事な笠雲に覆われている。大量の湿気を含んだ重々しい潮風が頬をかすめていく。だれが見てもこれから雨が避けられないことを察知できる天候だ。

 

今回は小潮周りだから、硫黄島の北東付近に位置する鵜瀬も何とか釣りができるようだ。

「新島は、この風と波では無理みたいですよ。」

 

と、だれかが、つぶやいた。南東からの風をまともに受ける新島・浅瀬・タジロあたりは使えないようである。

 

船は反転すると、平瀬へと向かった。200mくらいしか離れていない低い瀬は、大型のシブダイ・アカジョウが高確率で釣れる絶好のポイントである。

 

しばらくうねりの様子を見ていた船長は、低場をあきらめ、高場に2人の釣り人を渡礁させた。

 

「満潮が11時過ぎだからね。荷物は高いところに置いといてよ」

 

船長が安全な釣りをアドバイス。

 

さっきの釣り人の会話で、今日は早い時間帯での回収になるかもしれないという。まあ、普通の判断なら、明らかに雨が降る予報では今回の出撃はあり得なかった。船長の計らいに感謝である。そして、雨が降っても文句は言えないと思った。

 

船は、西エリアへと走り出した。しばらく走ると、うすいビリジアン色の入浴剤のような海が現れた。赤茶色の岩肌に緑の茂みのコントラストが美しい。活火山の島である硫黄島では、当たり前の情景だが、この離島ならではの情景は釣り人の心を癒やしてくれる。離島に来たんだという感動がわき上がってくるのだ。例によって、東向きの風に乗って硫黄の臭いが鼻をつく。

 

船は西に向かって、全速力で走っている。後ろを振り返ると、薩摩富士と呼ばれる開聞岳の姿が見えない。雨がもうそこまで迫っているようだ。案の定、雨がぽつりぽつりと降り出した。

 

「今日は、そがん強い雨は降らんと思うバイ」

 

Uenoさんが自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

 

さて、次なる渡礁だが、この辺りからすると次はコウカイトウへの渡礁のはずだが。船は北エリアで最も実績が高いコウカイトウの渡礁をあきらめた。東向き風がここまで回ってきているようだ。この風と波ではよい釣りができないという判断だろう。

 

結局、コウカイトウから少し西に走ったところにある北のタナに一人の釣り人を渡礁させた。

 

そして、次はその近くにあるヒサガ瀬に近づいた。このヒサガ瀬に渡礁させるのを見るのは初めての光景だ。

 

そこに2人を渡礁させた。

 

「荷物は高いところに移動させて」

 

この場所は北西に位置するためか、波と風は完全に収まっていた。船は硫黄島の西の先端である黒島崎をかすめ、次なる渡礁場所である立神に近づいた。立神は潮通し抜群で、硫黄島西エリアでは、絶好の底物場である。大型のシブダイやタバメが数釣れる人気ポイントである。

 

ここには、K野さん親子が渡礁するようだ。船は南向きの船付けに慎重に近づく。ここの船付けは平らなところが少なく、慎重に渡礁を始められた。

 

無事に渡礁完了。今度は我々の番だ。荷物を船首部分に出す。体制を低くして身構える。ミジメ瀬にゆっくり近づく黒潮丸。潮が引いているので裏からの渡礁だ。タイヤが磯に噛み付いた。

 

「今だ」

 

荷物を手早く受け取ってミジメ瀬の裏は階段状になっており、平らな部分があるので渡礁も楽だ。

 

「(午前)5時半には迎えに来るから、準備しとって」

 

こう船長は言い残して去って行った。

 

この後、船はみゆき瀬にS山さんを。2番瀬、中ノ瀬にも渡礁させたようだ。今回は風裏となる西エリア中心の布陣となった。

 

「ここは足場がよかなあ。ゆっくり準備ばしょい。あわててもしょうがなかけん。」

硫黄島の夏の夜釣りで磯に乗って最初にすることは、付け餌となるサンマを切る作業である。

 

ハリにあわせて、親指の太さぐらいに切る。南国硫黄島とはいえ、6月のこの時期は水温がまだ低いため、魚は固い餌は食い込みが悪いという問題がある。そこで、サンマを三枚に下ろしてやわらかい部分だけを使うという対策を。

 

餌の準備が整ったら、今度は、タックルの準備だ。明るいうちは、アカジョウ狙いだからワイヤーハリスを使った中通し錘30号を使った宙釣りしかけである。

(その3へつづく)

 

kamataさんどこでするね。おらどっちがいいかわからんで。」

 

Uenoさんからの申し出に。

 

「こっちでしてもいいですか。」

 

と、アカジョウの実績がある立神側の釣り座を選択した。

 

釣り座を譲ってもらった格好になった。Uenoさんありがとう。

 

ピトンを打ち込み、釣り座を確定させた。

 

さあ、いよいよ今年の硫黄島夜釣りの開幕戦。まずは、アカジョウとの勝負だ。サンマの胴体を使っての第1投。

 

大きく振りかぶって左斜め前方に遠投。ブーンと音を立てて道糸が飛び出していく。無事に仕掛けが底へ着底。

 

道糸が出て行くと思いきや、道糸は緩んだままだ。潮が動いていないようだ。仕掛けを回収すると全く何も触られていない状態で餌が戻ってきた。

 

kamataさん餌盗らるんね。」

 

「いいえ、全然です」

 

すでに釣り始めていたuenoさんだったが、数投したもののまったく餌を盗られないそうだ。

表層の潮は動いているようだが、仕掛けの具合から底潮は全く動いていない状況のようだ。

 

潮が動かなければ、アカジョウは喰わない。トロトロと動くときがチャンスである。干潮の潮止まりが終わり、上げ潮がそろそろ動き出すころだが、全く潮が動く気配がなかった。

 

水くみバケツで海水を汲み触ってみる。プールと同じような冷たさだ。この水温ならイカかサンマの三枚下ろしだね。

 

だんだん、暗くなってきた。

 

uenoさん、アカジョウいないみたいですね。潮もぱっとしませんよ。今のうちに飯でも食いましょう。」

 

潮が止まっている時に、食事をとって、夜釣りに備えることにした。

 

早い夕食をとって、夕まずめの一発にかけるが、潮は相変わらずで、期待していたアカジョウをとらえることができず、昼釣りはここで終わり。

 

さあ、気持ちを切り替えて夜釣りだ。シブダイねらいの仕掛けにチェンジして、竿先にケミを付けて、ピトンにセット。いよいよ戦闘開始だ。

 

N村さんに教えてもらった距離まで仕掛けを投げてアタリを待つ。撒き餌を少しずつだが間断なく続けて何とか食い立たせようと頑張った。

 

上げ潮は、大型のシブダイが食い付いてくる絶好のチャンス。投げた沖に大きな沈み瀬があり、そこから出てくる魚を喰わせるイメージである。

 

暗くなって、1時間が経過した頃、ようやく魚のアタリを知らせる竿先の震動が出始めた。アタリが出たら竿を手持ちに変え、ラインを送り込んで合わせる。また、当たりが出たら誘ってみる。しかし、相手は警戒心が強いのか、魚自体が小さくてハリに乗らないのか、全く魚を喰わせることができなかった。

 

餌は、サンマの胴体はだめで、小イカが抜群に食いがよく、次いでサンマの三枚下ろしという結果になった。

 

内臓を付けたサンマの頭を使ってみるものの、やわらかい内臓だけが取られて、サンマの頭は全く触られない状態だった。

 

餌取りが少なく、大型の魚を釣る最もよい季節であるはずの6月だったが、まだ5月くらいの感じに思えた。Uenoさんの竿には一向に魚の気配が見られない。

 

食いが渋く、8時前に一度食わせたかと思いきや、途中でハリ外れをやらかしてしまった。もっと、強引に強く合わせるべきだった。

 

仕掛けはねらい通りの地点に届いているし、潮も少しずつ動き始めている。さあ、ここら辺でシブが食ってくる時間なんだけどなあ。

 

午後8時過ぎ、再び小刻みな竿先の振動が出た。手持ちに変えて、ラインを送り一気に合わせた。すると、ギュイーンと竿に生命反応が現れた。

 

よし、食わせたぞ。慎重に手前に寄せて振り上げる。今日の初めての獲物だ。キャップライトを当てて魚を確かめた。シブダイかと思いきや、シブダイによく似たオキフエダイだった。こいつは、シブダイそっくりだが、シロテンが見られないことで区別できる。30cmを少し超えるミニサイズ。

 

kamataさん、よかなあ。本命タイ」

 

Uenoさんが祝福してくれた。本命には違いないが、このサイズを釣りに来たのではない。悔しさをにじませながらも、良型の魚を求めて更に仕掛けを打ち返した。

 

しかし、魚の食いは相変わらず渋く、いろいろやってみるものの魚はなかなか応えてくれない。いつもなら、道糸がギュイーンと引き出され、竿が一気にお辞儀するのだが。

 

オキフエを釣って、30分ほど悩ましい時間が経過した後、何者かによって道糸がひったくられ、何の前触れもなく竿が一気にお辞儀した。

 

竿をピトンから抜いて、一気に底を切るため最初は特に強引なやりとりが必要。強烈な引きだったが、底を切ることに成功したようで、少しずつ魚の力が弱り始めた。

 

竿は叩かないからタバメではなさそう。足下に寄せて慎重に振り上げた。

 

さあ、一体どんな魚なんだ。キャップライトを当てて魚を確認した。金色の鰭、ピンク色の魚体、フィッシュイーターを証明するかのような大きな頭と口。まぎれもなく磯釣り師あこがれの魚シブダイ(標準和名:フエダイ)だった。サイズを測ると47cmのメモリアルフィッシュであった。

 

タルメ針が見事に魚の口の地獄をとらえていた。魚が反転して走ったらしい。ようやく底潮が動き出したようだ。時計をみると、午後8時半を過ぎていた。まずまずの時間帯で食ったね。

 

「よかなあ、kamataさん、おらまだボウズバイ」

 

Uenoさんが嘆いている。残念なことに、uenoさんの方はアタリすらない状況が続いていた。ようやくアタリをとらえたと思いきや、それはイスズミだった。しかも50cmクラスの良型。渾身のアタリをとらえたのに、ライトを当てればイスズミ。Uenoさんがずっこけるのもうなずけた。

 

Uenoさんは、針が小さめでイスズミが喰いついてくる。おいらの針は漁師さんも使う漁具店で手に入れたもので大きいく、イスズミが喰いつくことはない。

 

「こっちはあたりのなかバイ。」

 

さっき強烈な当たりをとらえ何とか手元に引き寄せようとたたら、ミジメ瀬先端の根に回られてしまった。魚を逃したのを目の当たりにしたuenoさんがこんな言葉を発したのだった。そこで、こう呼びかけることに。

 

uenoさん、こっちで釣りませんか。アタリはありますよ。」

 

イスズミとウツボというのが目立った釣果だったuenoさんは、おいらの釣り座の後ろ側に移動して、シブをねらう作戦に切り替えた。

 

さあ、これからだというところで、空から天然のシャワーが降ってきた。さっきから雨がぽつぽつ降り出してはいたが、それほど気になるものではなかった。しかし、今降っているのは、やや大粒の雨だった。

 

Uenoさんは、厚手のカッパを着ているので、あまり影響がないようだったが、おいらは、がまかつのレインウエアしかない。防水スプレーしてないから、雨水が少しずつしみだしてきた。

 

こりゃたまらんと、寝床を確保するために持ってきていたマットを頭からかぶって雨をよけることに。

 

かなりの風が吹いてきたと思いきや、大粒の雨がさらに激しくなってきた。傘が必要だったな。

 

深夜になって、眠気が襲ってきたが、この雨じゃ眠ることもできない。

 

午後11時過ぎに満潮を迎えた。そろそろ下げに変わるころだ。釣り座を下げのポイントに移動させた。

 

しかし、雨脚は弱まることなく、益々強くなってきた。これまで、何度も硫黄島で釣りをしてきたが、土砂降りの雨の中ではなぜかシブダイのアタリがなくなる。ただでさえアタリがないのに、釣れない要素の土砂降りの雨が条件では、釣りをする気になれない。

 

「こらたまらん。釣れる気がせんバイ。冷たかなあ。」

 

下げの釣り座に移ってきたuenoさんも、完全防備の雨がっぱにもかかわらず雨の染み込みに困惑気味である。

 

真夜中になった。二人とも眠気がピークに達していたが、眠ることができない。かといって、釣りをしてもアタリすらない状況に嫌気がさしていた。

 

仕掛けを、大瀬方面へえいやあっと投げてみるものの、潮が全くと言っていいほど動かない。下げ潮の時間帯になったにもかかわらず、底潮は止まったままだった。

 

午前1時になった。まるでぬれねずみ我慢大会だ。こう濡れてしまうと、6月とはいえ、体感温度が下がってくる。マットを傘代わりにひたすら耐え抜いた4時間。ようやく雨脚が弱くなってきた。

 

正面に見える中ノ瀬と2番瀬の釣り人の動きも途絶え気味になっていた。あちらも苦しい釣りのようだ。

 

さあ、このまま雨を避けていては、せっかく来た意味がないではないか。撒き餌を再開し、釣り始めることにした。

 

午前2時半ごろから、ようやく魚のアタリが出始めた。竿先につけている錫がリリン、リリンと鳴り始める。

 

期待するもののやはり走らない。とにかく、今回は食いが渋いね。

 

すると、突然となりの釣り座のuenoさんが

 

「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

と魚とのやり取りをしているではありませんか。やはり、アタリがあるときは同じタイミングだね。

 

Uenoさんは、本命の顔を見ていない。ここで何とか釣ってほしい。がんばれuenoさん!

 

ところが、uenoさんの動きが止まった。

 

「やってしもたバイ。」

 

どうやら魚を竿一本先で食わせたものの、魚は手前の根に一直線。道糸が張り出し根に引っかかってしまったようだ。

 

う〜〜んとうなりながら15分間粘ってみるものの魚は根に入ったままのようだった。その後ようやく仕掛けを回収することができたが、もう魚は付いていなかった。

 

「ふとかアタリやったばってんなあ。」

 

ショックを隠せないuenoさん。

 

と、その時。

 

ちりんちりん。

 

魚のアタリを知らせる合図が出た。案の定、海王が見事にお辞儀した。ピトンから竿を手持ちにしてやり取りに入った。とにかく、早く底を切ることだ。最初にまず魚のパワーに負けないように全力の力勝負を。

 

竿の感覚で底を切ることに成功した模様。あとは、手前に出ている張り出し根に魚が潜る前に魚を浮かせることだ。

 

ごり巻きと海王のパワーに魚はすでに根をかわして浮いていた。

 

ようやく3匹目だもの、慎重に抜き上げた。あまり大きくない。40を少し超えたサイズか。

 

本命と目された魚は、意外な色と模様をまとっていた。

 

えっ、コロダイ?いやコショウダイだ。

 

コショウダイは、南海の海でたまに釣れるやや珍しい魚だ。銀色のボディーにイシガキダイのような黒い模様が見える。ヒレはコトヒキのように黒い背びれに銀色の筋が見える。まるで、アゲハチョウの羽のような模様だ。

 

それにしても美しい魚だ。しばらくの間、その美しい魚体に見とれてしまうのだった。コショウダイはとても美味であると聞いていたので喜んでキープした。

 

その後の展開が期待されたが、このコショウダイを最後に魚からの反応が全く途絶えてしまった。

 

午前4時を過ぎると水平線の向こうが白々とし始めた。雨は相変わらず降り続いている。もう二人の思いは一つだった。

 

「黒潮丸よ。早く迎えに来てくれ。」

 

雨にうたれながら震える体でひたすら船を待ち続けた午前5時半。ようやく黒潮丸が迎えにやってきた。

 

やった。これでこの修行から解放される。

 

と思いきや船はおいらたちを横目に立神との水道をスルー。船は全速力でみゆき瀬方面へ走っていった。

 

再び迎えに戻ってきたのは、午前5時55分ごろだった。もうすっかり明るくなった西磯でようやく回収してもらった。

 

ああ冷たい。早く風呂でも入りたい。もう、ほかの釣り人の釣果がどうだったか、そんなことはどうでもよくなった。

 

黒潮丸は、降りしきる雨の中、釣り人をすべて回収し、枕崎港へと帰っていった。

 

さあ、港に帰って、魚の品評会だ。

 

今日は残念ながら、1年間で1,2度あるかないかという厳しい釣果となった。大型のタバメは何本か釣れていたものの、本命のシブダイの許せるサイズが釣れていなかったようだ。

 

厳しい結果となったものの、なぜか心の中はすがすがしさで溢れていた。魚は釣れなかったけど、思い切り魚と勝負できた1日は本当に楽しいものだった。

 

夜中降り続いた雨によってずぶ濡れになり、過酷な釣りになったと思いきや、終わってみると天然のシャワーによって、十分なメンタルヘルスケアになったことを確認して枕崎を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天然のシャワーは、病院にいくより大きな効果をもたらしてくれた。


久しぶりの黒潮丸


硫黄師たちが集結


元荒磯の船長がポーターを務めます


撒き餌は刻んでバケツへ


さあ 非現実の世界へ旅立ちだ


鵜瀬からの渡礁です


東からの風が




平瀬は乗れるかな


平瀬も高場ならいけそうです



東風が強く西磯へ展開


硫黄島ならではの海



ここが坂本温泉の場所



雨がぱらついています



コウカイトウはスルー


2人組 ヒサガ瀬へ渡礁


ここが 北のタナ



西磯が見えてきました



硫黄師のK野さん親子 立神へ


我々は ミジメ瀬へ


こちらは下げ潮向き


まずは サンマを親指大の大きさに


本島寄りにuenoさん


立神側においらが入りました


今のうちに夕食を


オキフエダイが釣れました


本命 47cmゲット


雨風が強くなってきました


食わせたけど 根に入られました


こっち側は釣れんバイ


この雨なんとかしてくれよ


雨風ますます強くなります



簡易マットで雨をしのぎました


寒〜〜〜〜い


下げのポイントに移動しました


コショウダイを釣るのが精一杯でした


はよ迎えに来てくれ〜


やっと来たと思ったら スルーでした


あと30分は待たなんバイ


ほとんどの瀬がダメだったみたい


今回の釣果


釣果があっただけだけでもよしとしましょう


ノッコミにはまだまだというところ


上がシブダイ 下がコショウダイ


シブダイの煮付け


コショウダイのアヒージョ


オキフエダイのアクアパッツァ


コショウダイの煮付け



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