11/5 今釣れている人に聞け 佐伯沖




佐伯沖 鰤釣り

秋も深まり、山の紅葉も始まりだした。世の人々は、秋の行楽シーズンに紅葉狩りと称して、紅葉した山に出かけては、秋の風情を楽しむのが標準スタイルである。地軸の傾きと丁度よい緯度に位置するという理由で四季がはっきりしている日本。清々しい空気を胸一杯に吸い込みながら、日本人に生まれてよかったと思わずつぶやいてしまう。

 

さて、世の人々とは少々隔絶した人種がいることを忘れてはならないだろう。ご存じ青物釣り師である。彼らは、秋になると青物の情報に敏感になり、特に、九州地方の沿岸の養殖筏に居付く鰤を求めて道具の確認を怠らない。

 

かく言うおいらも青物釣りの魅力にハマってしまった一人である。磯を中心に転戦してきたが、秋になると無性に鰤が食べたく、いや釣りたくなるのだ。

 

一昨年、佐伯港から大島の養殖筏への釣りでわずか1時間40分というこれまでの最短の釣りで13本という釣果をあげて以来、すっかりその船釣りにハマってしまった。

 

しかし、昨年は、鰤が不漁でいつもお世話になっている遊漁船松風さんからよい話が聞こえてこなかった。残念だが、鰤の回遊あっての釣りなので、あきらめるしかなかった。

 

そして、今年。11月初旬となった満を持して、松風の船長に連絡を取ってみた。

 

「あっkamataさんね。お久しぶりです。今月から出船予定だったんですよ。実はね、今までとは違うところへ行きます。時間もね5時半から昼まで釣りをしてもらいますよ。」

 

えっ、そうか。今までは2時間足らずの忙しい釣りだったが、これからは普通の船釣りのシステムに変わるんだな。

 

だが、単純に喜んではいられない。釣果が気になるところだ。

 

「あのね、釣る人は10本ほど出てますよ。10kgクラスも。あの~養殖の脱走したやつだと思うけど、マグロも釣れましたよ。」

 

さりげなく釣り人のモチベーションを高める釣果情報を入れられ、すっかり釣りの虫が騒ぎ出した。

 

「仕掛けは?ハリスは?針は?撒き餌・付け餌は?」

 

立て続けに船長に質問責めにするおいら。なんとも面倒くさい客だと思われたに違いない。

 

「撒き餌とか仕掛けは今までのままでいいですよ。ハリスは12号の2ヒロです。ハリはムツの18号で。」

 

船長との会話でようやくあの禁断の釣りの記憶が蘇ってきた。

 

あの時は、わずか1時間40分の間に、13本の鰤を釣り上げた究極の釣りに酔っていたっけ。

 

こうして、久しぶりにあの禁断の鰤釣りが再開できることになった。

 

禁断の釣りという名は、鰤釣りはハマルと中々抜けられない、強烈な習慣性を伴った業であるということから名付けた。

 

そして、もう一人、その強烈な習慣性のために、体中の毛穴からアドレナリンを噴出させる釣り人がいた。

 

M中さんである。彼もおいらと同じく秋の鰤釣りにハマった一人であった。

 

M中さん、鰤釣り行きましょう」

 

「そそそ、それはどこに行くとかな?」

 

釣りの誘いを受けたときに、必ずと言っていいほどどもってしまうM中さん。

 

「仕掛けは、2年前んとで大丈夫ね。」

 

いきなり釣りのスイッチが入ってしまったようだ。しばらく、電話で仕掛けやタックルの相談と確認を行った後、手帳の11月5日(土)の欄に佐伯の鰤釣りという情報を記入した。

 

こうして、釣りが決まって月日が過ぎるのを待っていると、ポセイドンはわが2人の釣り人に幸運をもたらした。見事に凪のカードが出た。

 

「出ます。あの~5時出航ですから、4時半には来とってください。」

 

船長のゴーサインを受け取り、準備していた付け餌の鯖の塩漬けをクーラーに入れ、M中さんを乗せて、九州自動車道を北へ向かった。

 

熊本地震でいつも通る国道57号線の通行がどうなっているか不安だったが、夜中に走ることを考えれば造作もないと考えていた。

 

ところがだ。立野方面から阿蘇谷へは行けないため、ミルクロード経由で進んでいくと、まもなくとんでもない渋滞が待っていた。

 

普段午後10時頃なら、こんなに渋滞することはあり得ない。何でこんなに混んでいるんだ。しかも、まったく自動車の列は動く気配がない。

 

10分、20分、30分・・・と時間だけがいたずらに過ぎていく。工事による片側通行が原因ならこれだけ渋滞になることはあり得ないんだけど。

 

40分ほど経過したとき、ようやく車が動き出した。ゆっくり進んでいくと、驚くなかれ、工事が何カ所も数珠つなぎ状態に続いていたのだった。つまり、それぞれの現場の連携がうまくいかずに、双方向から車がやってきて身動きがとれない状態になっていたようだ。

 

何とか渋滞を抜け出してからは、いつものように、大分県竹田市を抜けるルートで、順調に車は走り、午前2時半頃、ようやく佐伯港へとたどり着くことができた。

 

港は、出航時間の2時間も前ということもあり、閑散としていた。

 

我々は、今後のことも考え車中泊を敢行。体を休めて、夜明けからの釣りに備えることに。

 

どれくらい時間が経っただろう。いつの間にか眠っていたようだ。そして、

 

コンコン

 

という音で目が覚めた。だれかが、おいらの運転席横の窓ガラスを叩いている。おやっ、寝過ごしたか? しかし、時計をみるも、まだ4時前だった。

 

「早く荷物を載せて」

 

釣り人らしい初老の男が、自動車の外から話しかけてきた。どうやらおいらが最後の客らしく、出港できない原因を作っている犯人と見られていたようだ。しかし、午前4時半集合にしては、この時間での準備は早すぎると思うのだが。

 

「もうくじは引いたか」

 

と今度は船長らしい人が話しかけてきた。佐伯港発の鰤釣りでは、釣り座をくじで決める。夢うつつでくじを引こうとするが、どうもおかしい。おいらが予約した遊漁船「松風」ではないような気がするが。

 

あれっ、この船長どこかでみたことがあるぞ。思い出した。松風と一緒に大島の鰤釣りに出撃していた同じ遊漁船「大黒丸」だった。

 

「あの、わたしは松風に乗る予定です」

 

ようやく、おいらが客でないことを悟った船長は、ようやくおいらから離れていった。

 

あぶないところだった。このまま寝ぼけて、この船に乗っていたら大変なことになっていたところだった。

 

M中さんもすっかり目が覚めてしまったようで、二人は早速釣りの準備を進めることにした。

 

大黒丸は、しばらくすると出港してしまった。そして、そのすぐ後に、松風の船長が登場した。

 

kamataさん、くじを引いてください。」

 

よかった。これで鰤釣りに行けるぞ。代表でくじを引くと何と1番をゲット。M中さんと相談して、右側の後ろの2つをゲット。M中さんに最後尾を譲り、釣り座も決まったところでいよいよ出港の時を迎えた。

 

松風は、ゆっくりと港を離れ、漆黒の海へと旅だとうとしている。清々しい風が肌に心地よい。

 

船は、以前の大島行きとは反対の方向へと進んでいた。鶴見半島へと向かっているようだ。船が向かっている方向は、小さいながら生活臭のする灯りが見える。そのわずかな灯りの方向へと船は進んでいる。

 

その灯火は、だんだん大きくはっきり見えるようになってきた。船は沖へと進んでいるはずなのに、どんどん陸へと近づいているという不思議な感覚で船が鰤のポイントに到着するのを待った。

 

水平線の彼方から、夜の帳をはがしにかかるオレンジ色のグラデーションが少しずつこちらへ迫ってきた。

 

まもなく夜明けが始まろうとする中、松風はエンジンをスローにした。

 

えっ、こんなところで。

 

そうつぶやいてしまったのは、それなりに理由があった。船が止まった地点は、とても沖釣りとは思えない、陸から200~300mほどの地点だったのだ。

 

陸が近いことを証明するように、生活道路が見え、そこを車が普通に走っていた。そして、その道路は、ところどころに外灯があり、それがかすかな光を放ち、人間の生活圏であることを証明していた。

 

人間の生活圏と天然鰤という、異質な2つのイメージが止揚統合するポイントに思えた。師匠Uenoさんが、「大分は、九州の中では一番沿岸に近いところでよか魚が釣れるところバイ」と力説していたことを思い出した。

 

ああなんとおおらかな魚だろう。人間の生活圏でも物怖じせず愛想を振りまく性格は、もはや間違いなく釣り人のアイドルだ。

 

「夜の間は、あまり喰いませんから、ぼちぼち釣り始めてください。30mのタナでお願いします。」

 

この船長のつぶやきで釣りが始まった。

 

撒き餌である冷凍イワシのクラッシャーをスコップでカゴに詰めて、仕掛けを落とす。付け餌は、釣り人が用意した塩漬け鯖の切り身である。30mに達したところで、撒き餌を出すためにしゃくってアタリを待つ。

 

さて、鰤がいつ喰い出すのだろう。どきどきの瞬間がやってきた。2年前は、夜の間はおとなしかったが、夜が明けるころには、喰うスイッチが入り、一気に爆釣モードに突入したっけ。

 

今回はよもやそんなことはあり得ないとしながらも、鰤がいつ喰い出すかわからない中、冷え冷えとした船竿をぐっと握りしめ、静かにアタリをまった。

 

きたっ!

 

といっても自分の竿ではなく、となりのベテラン釣り師の竿だった。船竿が容赦なく「つ」の字に曲がっている。

 

しばらくすると、暗闇の中で見事な鰤の魚体が現れた。5kgを超えるナイスなサイズ。

 

船長が手際よく掬って、船内へ。ばたばたと船の中で躍動する鰤。まるで壊れたバネのようだ。

 

「いけすへ入れておきますね」

 

ここの船長は、釣り人が鰤を美味しく食べてもらうために、港に帰る直前に血抜きをして神経締めまでしてくれる。

 

神経締めをすると格段に魚の鮮度が長持ちする。

 

いいなあ。経験上鰤は5kgを超える個体から旨さが格段にアップするんだ。

 

この釣果で、船上が一気に戦闘モードに入った。

 

しかし、鰤の釣果は単発だったようだ。

 

いつの間にか、白い朝が来ていた。

 

目の前の陸地では、そろそろ人間の生活の臭いがし始めていた。自動車が道を走っているのが見える。

 

「反応がありますよ。30mのタナを攻めてください。」

 

 

船長の一言でやる気になるものの、中々魚を喰わせるには至らなかった。

 

ぽつりぽつりと魚が釣れだしている。

 

これが本来の鰤の食いというものだろう。

 

それにしても、なんでこっちの餌に食い付かないのかね。

 

いつの間にか、船中で釣れてないのは、自分とM中さん2人となってしまった。

 

「その餌じゃあ喰わんよ」

 

一向に釣れないM中さんを心配して、船長が餌の問題点を指摘し始めた。

 

「スーパーのしめさばじゃあ、防腐剤がはいっとるから喰わんのよ。Kamataさんの方は大丈夫みたいだけど」

 

そうなんだ。よかった。魚屋で仕入れた五島産の鯖を塩漬けにしていてよかった。すかさずおいらはM中さんに餌を提供した。

 

陽が高くなってきた。船の前方に養殖いけすが見える。明るくなると周囲の状況がはっきりわかるようになった。そこについている鰤を撒き餌でおびき寄せて釣るようだ。

 

我々の後ろにいる地元の鰤釣り師は、調子よく鰤を拾い釣りしている。5本くらい釣った頃、われわれが釣れてないのに気付くといろいろとアドバイスをいただいた。

 

「餌がちょっと大きいかもしれませんね。もう少し小さくしては?それにハリを外に出さないようにした方がいいですよ」

 

船は、運命共同体だが、これほど親切にしてもらえるなんて。

 

そのうち、M中さんが魚を喰わせた。

 

「ああっ、バラした~~。」

 

M中さん惜しい。

 

時合いかもしれない。今度こそ喰わせなくては。

 

しかし、こちらの期待とは裏腹に、喰ったのはM中さんの仕掛けだった。

 

今度は、しっかりと食い込んだようだ。竿先が激しく揺れ突っ込んでいる。慎重に巻き上げるM中さん。魚が見え始めた。船長が玉網で掬う。見事な5kgクラスの鰤だった。うれしいというより安堵の表情を浮かべるM中さん。

 

kamataの餌で釣れたよ」

 

これは気が気ではなくなった。船上で釣れていないのは、自分だけになった。一人取り残される気分は何とも言えない息苦しさを覚えた。

 

うしろのベテラン釣り師が、心配して声をかけてくれる。

 

「撒き餌の頭の付いたイワシを付けて見てください。私の釣果は全部イワシでしたよ。」

 

なるほどそういうことか。早速、今釣れている人の言うことを聞くという格言通りに実践を始める。

 

それでも喰わせきれない。

 

「餌を動かした方がいいですよ。シャクるんじゃなくて、竿先をゆっくりと上に上げて落としてみてください。この誘い方で結構喰ってきましたよ。」

 

なるほどそういうことか。恥ずかしい話だが、それでも有り難いアドバイスだ。

 

何とか釣らなくてはと悲壮感漂う祈りにも似た気持ちで竿を打ち振るい続けた午前10時前。教えてもらった誘いを実践してすぐに結果が出た。

 

竿先が待望のアタリを知らせるお辞儀をし始めたのだった。ようやく魚を喰わせたぞ。

 

うれしさと焦りと緊張で、のどがからからだ。慎重に巻き上げにかかる。

 

しかし、安堵するのは一瞬だった。どうもPEラインの方向がおかしい。どうやら近くの釣り人の仕掛けと絡んでしまったらしい。

 

せっかくのチャンスだったのに~~^^;

 

問題は、アタリを知らせる獲物は、誰の仕掛けについているかということだ。

 

もしかして、隣の仕掛けに食い付いたのではあるまいな。

 

船長が助っ人に入って、お祭りの解消作業に入る。すると、結果が明らかとなった。鰤はなんとおいらの仕掛けに食い付いてくれていたのだった。

 

ありがとう、鰤ちゃんよ。

 

玉網で掬ってもらった鰤は、3kgほどの小型サイズであったが、ボウズを脱した喜びは何事にも替えがたい。掬ってもらった船長に思わずこんな一言を発していた。

 

「ありがとうございます。これで家に帰れます。」

 

ボウズを脱した執念の1尾は、残念ながら最初で最後の釣果となってしまった。

 

M中さんは2尾ゲット。

 

釣れなかった最大の原因は、魚のタナを合わせきれなかったことにあるそうな。

 

やっぱり、リールと竿は自分で揃えなくてはと反省しながら、港へ帰る船の中で実はもう次なる釣りへと気持ちを切り替えるのだった。


魚屋で五島産の鯖を仕入れます


塩をまんべんなく振って


塩漬けにします


良い感じに仕上がりました




























































阿蘇ミルクロード なぞの渋滞









































この半端ないオキアミの数


さすが大分 このコスパ力









































松風さん お世話になります















ポイントまで30分の船旅











早くも鰤が目覚めたようです



















撒き餌は冷凍イワシ


















さあ 戦闘開始だ























中々釣れませんねえ























岸に近いポイントでした




















あの筏に付いている鰤をおびき寄せるのです
































あまり釣れなかったけど 面白かったなあ














本日の釣果 3kgクラスの鰤でした



やっぱり定番のこれかな


鰤のニラ天


胃袋のソテー


新鮮な鰤だから 鰤シャブで


とってもジューシー



天然ものは違いますね



鰤カマは絶品です




鰤大根





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