11/22 磯釣りとシェイクアウト 甑島鹿島




甑島東磯 ミタレ周辺

11月に入り、冬への足音が聞こえてきた。落葉樹の多くが葉を落としてしまった。山はいつの間にか、針葉樹を中心とした常緑樹と、広葉樹を中心とした落葉樹のコントラストがくっきりと見えるようになってきた。

 

色即是空、この世に変わらないものはない。海の世界も対流圏の季節に遅れながらも少しずつ水温が下がってきた。不本意だった佐伯の鰤釣りのリベンジに燃えていたものの、鰤は1匹また1匹と養殖いけすのおこぼれ餌を食い尽くし、やがて冬ごもりに向けて深場へと移動を始めていた。

 

鰤シャブを食べたいところだが、ここはあきらめてクロ釣りの開幕戦にするとしよう。釣り人の思いではなく、自然の摂理優先で。

 

さて、開幕戦をどこにするかであるが、やはり、今までお世話になってきた甑島鹿島に誘う誠豊丸に開幕戦の命運を託すことにした。

 

「いいですよ。あの4時出航です。それまでにきてください。」

 

やさしい鹿児島弁から繰り出される物腰柔らかい言葉に、釣りへのモチベーションをさりげなく高められた。気が付くと、釣り部屋に一人こもり道具の準備を始めていた。

 

九州自動車道を南へ下り、誠豊丸が待つ串木野港に付いたのが3時頃。例によって、港の左側に海上保安庁の船が停まっている。釣り人もまばら。本格シーズンには船が2船体制となるほどの賑わいを考えると、まだまだ寒グロシーズンに入ったとは言えない。

 

釣り道具を船が停泊している岸壁のところまで運び、ゆっくりと身支度を始める。すると、1台、また1台と釣り車が港へ進入していく。

 

ものの20分ほどで、結構な賑わいになってきた。賑やかに談笑する釣り人あり。たばこをくわえながら一人で静かに出航の興奮を静めている釣り人もあり。リーマンショック以降、南九州の離島便がことごとく廃業している厳しい渡船業界において、今だに輝きを放っている誠豊丸。

 

たとえAIが発達し人間の営みを狭めようとしても、人間が人間らしくある限り、磯へ出撃する釣り人は、これからも世代を超えて、釣りの楽しさの連鎖・連関の一部になり続けるだろう。

 

その運命の歯車になりたい輩の総勢は、15名ほど。誠豊丸は、定刻の4時半に暗闇の串木野港からゆっくりと離れていった。

 

波高予報1.5mの中、東シナ海の大海原へ飛び出し、甑島へと進んでいる。気になるのは、今回のポイントが西磯か東磯のどちらなのかということ。鹿島は、本格シーズンに入る前は、鹿島港の周辺の磯から釣れ始めるという情報を聞いたことがある。11月なら、西磯ではなく、東磯の方がいいかも。

 

そんなたわいもないことを考えているうちに、いつの間にか深い眠りに落ちていた。

 

どれくらい時間が経っただろう。毎度のことながら、エンジン音がスローになって、目が覚めた。

 

「〇〇さん、準備してください。」

 

早くも渡礁が始まったようだ。

 

いつ名前が呼ばれるだろうか。予約が釣行日の前日だったから良い磯には乗れないだろうなあ。

 

すると、思いの外早く名前が呼ばれた。

 

kamataさん、準備してください。」

 

あわてて磯シューズを履いて、キャビンの外に出る。すると、暗闇の中から、巨大な巌が忽然と現れた。

 

その巌に、一人の底物師がしがみついた。釣り道具を受け渡して、渡礁終了。その一連の動作を観察しながら、この場所が鹿島東磯のミタレ周辺であることがわかった。

 

今回の渡礁はどうやら鹿島東磯の南に位置する大平瀬からだったようだ。

 

ミタレは、師匠uenoさんが最も苦手としている磯。どうやらおいらはその周辺に乗せられるようだ。

 

360度どこを見ても暗闇の中、釣り道具を船首部分に運び、自分もその場所に低い姿勢で身構える。いつもの渡礁態勢だが、釣りの中で最も緊張する場面だ。

 

サーチライトが前方を照らす。そこに、低く平らな独立礁が現れた。

 

「ミタレ平瀬だな。」

 

昨年、uenoさんとともに撃沈を喰らった磯である。あのときは、魚の気配がうすく、かろうじて2枚のクロを釣るのが精一杯だったっけ。

 

誠豊丸が、ゆっくりと磯に接岸する。

 

「待ってください。はいっ、どうぞ。」

 

安全を促す船長の指示に従って、無事渡礁を済ませた。

 

地殻変動で、地層が斜めに傾き、波の浸食によって平らになったミタレ平瀬は、足場がよく、中高年にやさしい釣り座である。

 

ポイントは、上げ潮は船着け。下げは、沖に向かって右の先端へ移動することになる。印象がよくない磯だが精一杯楽しもうではないか。

 

撒き餌は、パン粉2kg・集魚材1袋・オキアミ生1角。付け餌は、オキアミ生のMサイズを集魚起爆剤に漬けたものを用意した。

 

竿は、ダイワメガドライM21.5-53。リールは、ダイワトーナメントISO-2500番。道糸2.5号・ハリス2号。ハリは、ヤイバグレ針5号(ひねりあり)を結んだ。

 

水平線が紫色に染まり始めた。夜明けだ。撒き餌を釣り座の足下に間断なく30分間入れ続けた。

 

紫色の水平線がオレンジ色に染まり、そして白い朝が来た。まずは、2ヒロからと、仕掛けを第1投。

 

赤朱色のプロ山元ウキG2が紫紺の波に呑まれながら、ゆっくりとミタレと地磯の水道付近へと流れている。

 

ああ、何という清々しさだろう。6月以来の磯。マイナスイオンは、確実においらのメンタルヘルスによい影響を与えてくれる。子どもが大きくなり、ドキドキすることが少なくなってきたが、この釣りがじっくりと楽しめる50代もなかなかのものである。

 

仕掛けを回収して、付け餌のチェック。全く触られてもいない。この1投で厳しい釣りになるのではという予感がした。

 

タナを竿1本に変更。仕掛けを流して回収。餌はそのままだ。竿1本でいろんなところを探ってみるものの、餌を盗られることがない。

 

そう言えば、前回の釣りで釣れたタナは、竿1本半くらいじゃなかったかな。

 

タナを更に深くして、足下を探った。

 

潮は、いつの間にか手前に当たってくる動きとなり、その後潮は完全に止まってしまった。

餌盗りがちらちら出てきたが、クロの姿は一向に視認できない。ああ、今回もだめな感じだね。

 

魚を釣る糸口さえも見つからないまま1時間が経過した。潮は相変わらずアタリ気味に来てはいるが、いったりきたりふらふらしている。早くもこりゃ潮が変わらないとどうにもならんな。

 

ぼやき節を入れたその時だった。ウキが一気に海中の奥深くへ消えていった。反射的に竿を立てる。メガドライが容赦なくつの字に曲がっている。よっしゃ、どんな要因があったか分からないままだけど、とにかく魚を掛けた。

 

魚の突進を止められたので、とれる確信があった。ところが、思いの外考えられないタイミングで竿が天を仰いだ。急いで仕掛けをチェック。やはり、ハリがない。クロのアタリではないことを確信した。

 

しかし、クロではないものの、魚と交信するところまでにはやってきたわけだ。何とか気持ちを前向きに切り替えようと釣り続ける。

 

1時間が経過した。潮は相変わらずで、魚からの交信はほぼないに等しかった。あれから再びさっきと同じようなアタリがあっただけだった。

 

「あれは、ウスバだね。」

 

と、自嘲気味につぶやいた。ハリの取られ方、一瞬のアタリから竿への感覚で2回目のアタリもウスバハギであることを確信した。昨年12月よりも悪い状況。クロらしきアタリや餌の盗られ方もまったくないまま、船の見回りの時間がやってきた。

 

kamataさん、どうですか。」

 

顔の前で印を作ってみせる。

 

「だめ!替わりましょうか。片付けておいてください。」

 

船長に面倒をかけるし、瀬替わりしたところで、ここよりよい磯に乗れる保障は全くない。しかし、とにかく、魚の気配がしないこの磯をただただ離れたかったのだ。

 

道具の片付けが終わった頃、再び誠豊丸がやってきた。急いで船に乗り込み、次なる釣り場に期待を込めて、静かにクルージングを楽しんだ。瀬替わりをする組が3組ほど。

 

船は結構沖を走っている。雨の後のお決まりの北からの季節風で帽子が飛ばされそうになる。船は、どうやら弁慶に向かっているようだ。弁慶は、東磯の中では、潮通しがよく、魚影も濃い。今日の風なら風裏になるのでは。

 

弁慶に近づいた。釣り人は意外にも2番半に一人だけだった。

 

kamataさん」

 

声がかかった。瀬替わりの場所は、その隣の2番。1番とは反対側に位置する磯だ。3人組のルアーマンたちは、1番に渡礁するようだ。

 

よかった。弁慶なら何とかクロの顔を見ることが出来るかもしれない。風が強いことを考慮し、竿をメガドライからがま磯アテンダーⅡ1.2―53に変更。道糸も2.5号から2号にサイズダウンした。

 

北風が時折強く吹いてくる。その風とは逆の方向に潮が動いていたので、ラインの修正をこまめにやりながら、1ヒロ半くらいの浅いタナで釣り始めた。潮もそこそこ動いているぞ。答えはすぐに出た。

 

早速釣れた。イスズミだ。撒き餌を打つと、おびただしい数のイスズミがいた。その中を更に注意深く観察していると、クロの姿も確認できた。時折、カラフルなブダイが底から急上昇しては、餌をついばんでいる。

 

これは何とかなるかもしれない。そんな思いを持たせてくれる状況だった。クロはイスズミより少し下の層にいるという硫黄島釣り師の格言をもとに、タナを20cmほど深くして探った。

 

これも答えが早かった。ウキが海中に一気に消し込んだ。竿を叩かないシャープな引き。これがクロでなくて何だろう。ゆっくりとやり取りをしているとしっぽの白い魚が浮いて来るのが見えた。

 

してやったり。玉網をかけて手元に引き寄せる。この動きは、久しぶりだ。5月までさかのぼる。35cmほどの口太を手にしてボウズ脱出成功。時計をみると、すでに10時半を回っていた。

 

12時半回収までの2時間が勝負。何とか今までの不調を取り戻さなくては。しかし、イスズミの攻撃もなかなかのもの。ハリのチモトを傷つけるので、何度も針を結び直さないと行けない。

 

1時間後の11時半ようやく2尾目の30cmの尾長をゲット。その次の仕掛け投入で今度は、40cm近い口太をゲット。更に、40cm近いクロを浮かせたが、残念なことにハリ外れ。

 

デッドラインが近づいた12時過ぎに35cmクラスのクロを釣ってこれで4枚目。この調子ならツ抜けを狙えるのに。しかし、無念のタイムアップ。秋磯開幕戦は、4尾という寂しい結果となった。

 

まあ3人家族だから、たくさん釣ってもしょうがないんだけど、今回の釣りは、釣果よりも気になることがあった。

 

午後1時頃やってきた誠豊丸に乗りこむと、ウシカに上礁された近所の知り合いの方が、20枚ほど釣ったのに、原因不明の波でその半分の魚を持っていかれたそうな。

 

「もしかして、それって、11時頃じゃなかったですか。」

 

思わずその方に確認したくなった自分がいた。実はこの日午前5時59分、福島沖を震源とするマグニチュード7.4の地震が起きていた。福島県では、震度5弱を観測していた。東北地方の太平洋側沿岸に津波警報が発令されたそうだ。

 

地震が発生した時間は、すでにミタレ平瀬に渡礁していた。当然、そんな地震があったことはもちろん知るよしもない。

 

気になるのは、確か午前11時頃だったと思うが、弁慶2番の釣り座に立て続けに波がやってきて、バッカンをさらわれそうになったことだ。風は確かに強く吹いていたが、急に高い波がやってくるとは考えにくい。

 

ウシカの釣り人も同じ時刻に波を受けていたことを考えると背筋がぞっとした。

 

もし、その地震が東シナ海沖で発生していたら、

 

もし、甑島を震源とした巨大地震が起こっていたら。

 

あるいは、宇治群島で・・・。

 

磯釣りは、自然相手のため命の危険をはらんでのレジャーであることは重々分かっているつもりだった。しかし、その「もしも・・・」が起こらないという保障はどこにもない。

 

今回の釣りで、改めて磯釣りは危険と隣り合わせの道楽であることを認識させられた。津波がやってきたらどうするか。この命題としっかりと向き合いながら、やっぱり磯釣りを楽しんで行きたい。

 


さあ 出撃だ





























誠豊丸さん お世話になります






















ミタレ平瀬に上礁
















二度目の渡礁です




本日の撒き餌









夜明けがやってきました


さすが大分 このコスパ力





































裏は 下甑島本島です















御来光が・・・











早くも瀬替わりの準備です



ありがとう ミタレ平瀬


弁慶の2番 初めての磯です



弁慶2番の船着け



ルアーマンの若者は1番に渡礁




















イスがめっちゃ元気でした
































ようやく ボウズを脱出



2尾目は 小長



3尾目は 39cm


4尾目


開幕戦は4尾でした><


結構風が強かったです


お疲れ様


ありがとう 弁慶2番


甘い クロの刺身


クロの山芋ステーキ


クロとししとうのキノコソースソテー


クロのニラ天


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