1/5 2017年 酉と戯れる 甑島鹿島


鹿島西磯 西ドマリ

2017年酉年。新しい年が明けた。

年末の竹島の釣り納めでは、離島の釣りを心ゆくまで堪能できた1日だった。1年間の釣りをこれ以上ないよい形で締めくくることができた。

             

そして、満を持しての初釣り。行き先は、このところ2年連続でクーラー満タン釣らせてもらった甑島鹿島。もちろん、口太がノッコミに入る時期のこの釣り場でマイナスイメージは全くない。「このクーラーで魚が入るかな」と30Lのクーラーを車のトランクに入れて準備を進める。

 

同行者のuenoさんも同じ思いである。

 

「西磯に行かるるごたんなあ。」

 

Yahoo天気予報がここ数年ないくらいのべた凪を伝えており、uenoさんの顔にも思わず笑みがこぼれる。

 

「甑のクロはうまかもんなあ。」

 

釣り場としての価値以外に、食材としての価値も大いに認めるところの甑島のクロ。Uenoさんがそう呟くのも分かる気がする。そろそろ抱卵が進み、脂がのってくる頃だ。年明けで無理した胃腸をやさしくいたわる料理ができそうな予感がする。

 

午前1ueno宅に集合。荷物を積んでおいらの運転で一路誠豊丸が待つ串木野港へと突き進んだ。

 

1月5日、小潮2日目。12時過ぎが満潮という潮周り。

 

「おれ、この前鹿島に行ってきたバイ。長浜の離れという磯に乗って、12枚釣った。40オーバーも結構混じっとったバイ。」

 

「そうですか。鳥の巣あたりも釣れとったですね。」

 

行きのドライブでは、こんな楽しい会話が弾んだ。人はよい思いをしたことを他人に話したがるもの。いつもは負けているのに、たまに勝った経験だけを伝えたがるギャンブラーの真理と同じである。

 

釣り人として、自然が相手であり、釣れないときもあることをこの時点では全く考えていなかった。

 

これは、前回竹島でのクロ釣りのよいイメージと、ここ数年の鹿島でのよいイメージが結び付いて、ハニートラップにハマった状態になっていることを2人は知る由もなかった。

 

午前3時過ぎに、串木野港に到着。午前4時に出港にも関わらず、釣り人の車の数からすでに20人の釣り人が今か今かと出港の準備を進めていることがわかった。

 

「こら多かな。ばってん西磯に行かれれば、大丈夫バイ。」

 

今回2人は秘策があった。それは、uenoさんの提案で、前回の長浜の離れで撒き餌をどか撒きすれば、よい型のクロが釣れるという携帯サイト「釣りナビ」の情報を実践することだった。Uenoさんによれば、撒き餌をたくさん撒いたから大きなサイズのクロが釣れたと豪語する。

 

確かに、餌取りが少ないなら、撒き餌をたくさん撒いてでかいクロを釣るという作戦も悪くはない。そんな簡単なことでクロが釣れるならだれも苦労しない。しかし、このときはハニートラップを受けた状態なのでおいらも深く考えることなく同調した。荷物を積み、乗船名簿に名前を書いて船前方のスペースを確保し横になった。これから、およそ1時間の船旅である。期待で胸がいっぱいだ。果たして眠れるかな。

 

午前4時頃、誠豊丸は串木野港を離れた。船は順調に水面を滑っていく。いつも波が高くなる甑島と九州の水道の中間地点ではやや揺れたものの、ほとんど心配のない揺れだった。

 

エンジンがスローになった。さあ、渡礁開始だ。しかし、焦るな。名前が呼ばれるまでキャビン内でじっとしておこう。

 

「たぶん、西磯バイ。」

 

Uenoさんが、笑みをもらしながら、ライフジャケットをつかんだ。

 

次々と磯の戦士たちの名前が呼ばれ、前方のキャビン内には、あっという間にuenoさんと2人きりとなった。磯ブーツを装着して外へ出る。さわやかな磯風が駆け抜ける。べた凪だと思っていたが、少しうねりがあるようだ。

 

サーチライト先の前方に幾何学的な変形した直方体の巌が見えた。「ははあ、池屋崎だな」池屋のかべのようなところに一人渡礁。次の釣り師は、夏の夜釣りで一度乗ったことのある「エガ瀬」に渡礁。エガ瀬はこのところよく釣れており、ラッキーな釣り人が歓喜の表情を浮かべて磯に降り立っていった。そして、いよいよ声がかかった。

 

「〇〇さん、モト瀬はどうですか。千畳はだめだったみたいですよ。」

uenoさん、次行きましょうか。とにかく、昨日釣れとったところに行きます。」

 

船は西磯の中でも潮通しがよいことで知られている西崎に向かっている。船長が声をかける。そして、西崎の外を回ってその近くに鎮座していた小さな磯に向かった。

 

uenoさん、ここはどうですか。足場は悪いんですけど、釣れてましたよ。」

 

船長が一番ポイントを熟知している。ここは船長の進める磯で勝負しよう。この磯を西ドマリというそうだ。初めての磯だ。磯に降り立つと、船長のアドバイスに耳をそばだてる。

 

「そこの船着けで釣れてましたよ。がんばってください。」

 

さあ、今年も初釣りの舞台に立てた。釣りに行けることに感謝しながら準備を始めた。竿はがま磯アテンダー2.5号―53。道糸2.5号にハリス2.5号。ウキはサラシが足下にあるもののこの波気ならG2で大丈夫のよう。ハリはグレ針5号、タナは2ヒロから始めた。

 

撒き餌をどかどか撒きまくるが、魚は全く見えない。夜がすっかり明けてしまった。昨日まで釣れていた磯だもの。そのうち、魚が喰ってくるさ。

 

船着けの沖向きにおいら、地寄りにuenoさんが陣取った。2ヒロで始めるも餌がそのまま付いて帰ってきた。この時期の鹿島なら、これだけ撒き餌したら、餌盗りもいないんだから、すぐにクロが喰ってきてもおかしくないんやけど。

 

「おらんねえ。Kamataさん。もっと撒き餌を続けなんかな。」

 

Uenoさんも朝まずめの立ち上がりの状態に首をかしげている。餌盗り1匹見えない。タナが深いのかな。浮き止めを上にずらそうとしたときだった。

 

「おりゃ〜」

 

Uenoさんが突然魚とのやり取りをしていた。竿が容赦なくつの字に曲がっている。先手をとられた格好になったuenoさんだったが、1.5号の竿でなんとか相手の突進を止めている。竿先が完全に海中に沈んだ。ものすごいパワーだ。西ドマリは足下に張り出し根があり、その根に逃れようとしているようだ。

 

Uenoさん慎重に魚を浮かせることに成功。白いしっぽが見えた。水面でばしゃばしゃと体をくねらせて逃れようとするメジナ。玉網をかけて手前に引き寄せた。一目見ただけでも40を超える魚体であると視認できるサイズである。

 

uenoさん、よかったですね。タナは、2ヒロですか。」

 

「いや深くしたバイ。1本まではないけど、3ヒロと少しくらいかな。」

 

安堵の表情を浮かべながら答えるuenoさん。最初の1尾目を釣り、魚が見えない不安はすべて吹き飛んだ。なんだ、タナは深くないじゃないか。これから、釣りまくるぞ。

 

ところが、この大切な時間帯の時に、道糸同士が並絡んでしまい、それを解くことが不可能となるほど大きな被害に拡大してしまった。

 

なにやってんだよ。道糸を切って、また仕掛けを作り直しだ。道糸を新しく巻き替えたのだが、たくさん巻いてしまったことが敗因か。

 

仕掛けを作り直している間に、uenoさん2匹目をヒット。浮かせることに成功。ところが、魚が予想以上の大きな動きで、オートリリース。ハリが4号と小さめのものを使っているからか。こっちは、仕掛け作り。焦りが心の中を支配し始める。

 

またまたuenoさんヒット。しかし、今度の相手は強烈な引きで応戦。あっという間に竿先は海中へ。先手をとられてしまったuenoさん、あえなくバラし。仕掛けを回収できない。高切れだ。何とかウキの回収には成功したようだ。

 

ここの魚は、ヒットしたらすべて手前の張り出し根に一直線のようだ。こりゃゴリ巻きするしかない。ようやく、仕掛けを作り直して、釣りに参戦。Uenoさんここまで3戦1勝2敗、おいらアタリなし。

 

タナを3ヒロに深くして、トライ。張り出し根から魚が出てくるパターンだと確信していたが、uenoさんがとらえたアタリは竿2本先のポイントだったので、まずはそこにねらいを定めた。

 

ウキがゆらゆらと前アタリを知らせる動きをした後、ゆっくりと消し込み始める。スーパーリーチが来た。そして、予想通り、ゆっくりした後の劇的な高速のウキの消し込みを視認。余裕でかかとに重心を置き、魚とのやり取りを始めた。竿の曲がりはなんと美しいのだろう。見事な放物線が空に眩しい。

 

アテンダー2.5号が魚を弱らせる。張り出し根があるからゴリ巻きして浮かせにかかる。白いしっぽが見えた。間違いなくクロだ。ところが、魚は最後の抵抗を見せる。左手前の張り出し根に一直線。尾長のような速さはないから、余裕で対応、ぶちっ。あれっ。竿が天を仰いだ。すかさず仕掛けをチェックする。

 

瀬ズレである。見た目には張り出し根はそれほど出ていないように思えるのだが。油断は禁物だ。

 

気を取り直して釣り続ける。同じようなウキの消し込みが発生。同じようなやり取りをして、今度は慎重に浮かせることに成功。40cmクラスの良型だ。さあ、玉網を取るために右手を伸ばした瞬間だった。魚が暴れ、道糸のテンションがなくなった。またもやバラしだ。

 

おいおいなにやってんだよ。苦笑しながら、玉網を釣り座の近くにもっていく。すぐに抜きあげればよかったんだよ。隣を見ると、uenoさんは2匹目をゲット。Uenoさんもなんだかいつもよりバラしが多いような気がするが。

 

こちらは、まだノーフィッシュだったが、この時点ではまだ余裕があった。魚なんていつでも釣れるさ。

 

アタリがあり、ウキの動きから魚の活性も高い。心配ないさ。ところが、今日はどうしたことか道具のトラブルが続いてしまう。さっきと同じように道糸がリールの近くで絡んでしまい、道糸を切るしかトラブル解消の手立てがないアフロヘア状態に。

 

何やってんだか。どうもこの道糸と相性が悪いなあ。もうこんな類いのトラブルは御免と感じた自分は、道糸を別のものにスプールごと交換することにした。2.5号はなかったので、2号に交換。その間に、uenoさんまた魚を掛けた。焦る自分。Uenoさん、またバラし。今日のuenoさんとことんついてない。

 

ようやく、2回目の道糸トラブルを解消させ、釣りを再開。ここまでuenoさん2枚、おいらまだノーフィッシュ。ここは何とかまずは1匹と集中する。ねらいは足下ではなく、竿2本先だ。Uenoさんの釣り座からまっすぐ海溝が走っているのかもしれない。ピンポイントで撒き餌を足下に撒き餌を。

 

再びウキが消し込み、糸ピン。今度はでかい。今までの魚とは違うパワーだ。予想通り相手は手前に突っ込んだ。糸を絶対出さないようにしてためる。しかし、相手のパワーが上だった。ブチッ。これまたバラし。回収しようとすると、仕掛けが付いてこないではないか。やらかした。道糸アフロの次は、高切れかい。

 

あわてて玉網を使って、ウキを回収することに成功。

 

「今日は、トラブルの多かなあ。」

 

Uenoさんも苦笑している。魚の活性がこれだけ高いのに、こんなことやっていたら、魚に逃げられてしまうど。道糸2号では役不足か。さっき道糸を細いものに交換したことが悔やまれる。でかい魚だったが、とれないサイズではなかったはずだ。

 

再びすわって仕掛けを作り直す。こんないいところに来て、仕掛けの作り直しに時間を費やすのは本当に情けないものだ。Uenoさん3尾目をゲット。これもでかい。40は超えているようだ。

 

またまた仕掛けを作り直して、仕掛けを投入。今度こそ。そして、またまたアタリが、渾身の合わせ。竿がつの字に曲がる。浮いてきた魚はやはり口太だ。40はないもよう。慎重に玉網かけてようやく最初の魚をゲット。ああ安堵した。この好調な磯でこんなに苦労させられるなんて。苦笑しながら、魚を絞めて血抜きのために水たまりに魚を置いた。

 

この西ドマリ、いいところだね。魚のサイズはいいし、イスズミなどの外道はいないし。時折、デカ版のキブダイ(キバンドウ)が、悠々と餌を喰っている場面を見かけるくらいなもの。

 

さあ、釣らなきゃ。意気込む自分の気持ちとは裏腹に、このあたりから魚の活性が徐々に失われてしまった。魚のアタリはあるものの、ウキが消し込んだり、糸ピンのアタリは拾えなくなった。魚が反転せずに居食いするようになった。あれこれと試行錯誤を繰り返すが、魚のアタリをとらえることができない。

 

魚の活性が低くなるにしたがって、活性が高くなる輩がいた。磯カラス・磯トンビである。甑島や硫黄島の離島では、カラスとトンビの活性が高い。これまでも筆者は、トロ箱1箱いっぱいのイワシを全部食べられてしまったり、弁当を食べられたりと散々な目に遭っている。彼らのどう猛で貪欲な性格は十分知っているつもりだった。魚の食いは必ず止まるが、磯カラス・磯トンビの喰いが止まることはない。

 

しかも、この西ドマリのカラスは、人間を恐れない。後ろを振り向いくと、いつの間にかカラスが釣りを観戦している。

 

「こりゃああ」

 

ドスのきいた声で、カラスを追っ払おうとするが、逃げようともしない。釣りをやめて近づくと、ようやく逃げる。カラスの来襲に気が付いたuenoさんも、

 

「やばい、磯バッグの蓋が開いていた。」

 

と、あわてて蓋を閉める。幸いにも弁当は無事だったようだ。かれらは、魚の餌だろうが、人間の餌だろうが貪欲にむさぼり食べる。そして、遠慮を知らないから、決して残そうとはしない刹那主義だ。

 

しかたのない奴らだな、とさっき血抜きしておいた魚をクーラーに入れようと水たまりを見て愕然とした。

 

ない、ないっ、信じられないことにさっきやっとで釣ったクロが跡形もなく消えていた。やられた。とっさに、磯の一番高いところに止まっているカラスをにらみつけた。ああ、今までカラスにやられてきた経験は、なんだったんだ。自分の危機管理能力のなさにほとほと呆れてしまった。

 

魚のアタリが途絶えてしまった磯で、uenoさんが遅い朝食をとっているところだった。何者かが空から舞い降りて、uenoさん向かって突進してきた。

 

「うわっ、なんだこいつは。トンビバイ。」

 

困惑するuenoさん。こんな時は、釣りに集中しても、彼らの行動を見張っておかなければならない。また、餌を外に出したり、磯バッグの蓋を開けたままにしておくのは、彼らの活性を高めるだけで、その結果釣りに集中できなくなる。

 

こんな中で、地上の人間は相変わらず、瀬ズレ・高切れ・ウキロスト・バラしを延々と続けた。その結果、魚の活性が徐々に失われ、あっという間に納竿の時間となった。この惨劇を見ていた磯カラスや磯トンビはどう思っただろう。Uenoさん、5枚、おいら1枚行方不明という結果に。

 

クロの魚影の濃さでは随一を誇る甑島で、クロ釣りの最も釣れる時期に、惨敗を喰らうとは。

魚が釣れないのは自分たちが不甲斐ないであるが、思わずカラスやトンビのせいにしたくなるほど、今回の釣りでの鳥の存在感は圧倒的だった。頭にくる鳥だったが、彼らは磯釣りではもれなく付いてくる輩である。厄介な存在ではあるが、釣りの楽しさを演出してくれたアイテムには違いない。

 

酉年の2017年、1年の計は元旦にあり。今年もどんな楽しい釣りが待っているのだろう。



2017年初釣りはここで






西磯へ展開





がんばってください















足場の悪かなあ



船付けの釣り座 張り出し根がきついです



西崎方面を臨む






























ゴリ巻きしないと取れんなあ






























ようやく釣れた1尾



だんだん アタリが遠のきました








あの海鳥さんのいるところがポイント



























今年の顔 磯カラス



初春から撃沈でした







ひさしぶりに出た撃沈ポーズ



ありがとう 西ドマリ


誠豊丸さん お世話になりました


uenoさんから頂いた釣果


クロのお刺身


クロマヨソース炒め


クロのニラ天ぷら


釣り魚の1日目は新鮮さが堪能できるしゃぶしゃぶで


体があったまりますね
















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