6/17,18 イスズミ歩兵軍団との対決 硫黄島



鹿児島県三島村硫黄島 ミジメ瀬

硫黄島夜釣り第2戦目は、開幕戦から2週間後となった。梅雨の到来が遅れて、日照りが続いていた。日中の照りこみが、ねらいとするシブダイ釣りには好都合であるが、梅雨を迎える前の離島ってどうなんだろう。


そんなとき、宮崎の名人N村さんから、釣りのお誘いが。これは行くしかないでしょう。M中さんに連絡を入れると、今回は参加できるといううれしい返事が。


釣りが待っているという黄金の時間を過ごした後の6月17日、N村さんから、「2時に来てください」枕崎港へと出発した。


念願のミジメ瀬に降り立った。360度硫黄島の情景が堪能でき、足場がよいため、安心して夜釣りができる。


タックルの準備をしながら、海を観察していると、空梅雨という異常気象の結果だと言いたげな光景を目にした。


おびただしい数のイスズミ歩兵軍団である。その数は半端なく多かった。イスズミのナブラが立ち、推定数万匹いるのではないかと思うような、脅威の数だった。ミジメ瀬は、完全に歩兵軍団に包囲されてしまったのだ。


楠木正成なら、千早城に立てこもり鎌倉幕府軍を撃破したように、いろんな釣りの戦略の引き出し駆使し、イスズミ歩兵集団の猛攻をかいくぐり、本命へと付け餌を届けるところだろうが。おいらは凡人。そう簡単にはいかない。


あっという間にアカジョウタイムは終わってしまい、夜釣りへと突入した。夜になっても餌取りの猛攻はトマラナイ。


試しに、サンマの胴体を付けて、仕掛けを落とし、仕掛けが底に着底したらすぐに仕掛けを回収してみた。案の定、餌は残っていなかった。どうも仕掛けが底に着底するまでにイスズミと思われる餌取りが付け餌をつつき、底に着く頃には何もない状態になっているようだ。


これは、付け餌をイカに変えても、サンマの頭に変えても結果は変わらなかった。唯一通用したのはイスズミの切り身だったが、これもしばらく放置すると、皮だけになってしまっていた。


イスズミの異常発生にただ呆然としていると、どこからともなく、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「かまちゃん、なにしてんの?」


硫黄島開幕戦で、平瀬高場に乗ったおいら。その声は同じ上げ潮ポイントに乗っていたS山さんからかけられた言葉だった。


下げ潮ポイントにいたNさんからイスズミをもらって、アカジョウをねらっているときだった。イスズミは、アカジョウには最良の餌であることは知っていた。ハリに付けやすい大きさに切って、ブッコミでねらっていた。


この日は、小潮の3日目。潮の動きが今ひとつで、餌取りの猛攻を受けていた。イカは全く歯が立たず、サンマの胴体ももたず、サンマの頭も柔らかいところだけが取られるという、典型的なイスズミ歩兵軍団の悪行であった。


この状況を打破するには、イカやサンマ以外に餌盗りに強い餌をイスズミの切り身しか考えられなかった。しかし、この最強の餌盗り対策も身だけが喰われ、皮だけが残るという結果に。ため息をつきながら皮を外して新しい餌に付け替えようとしたときだった。


「かまちゃん、なにしてんの? イスズミの皮は、アカジョウが食い付いてくるよ。そのまま付けてもいいよ。」


えっ、この意外なアドバイスに一瞬耳を疑った。ハリについているのは、餌盗りの猛攻で申し訳なさそうにかろうじてハリに引っかかっているイスズミの皮のみだったからだ。


そんなことがあるのかな。せっかくのアドバイスなのに、その時は素直に聞き入れることができなかった。魚は身を食べるはずだという固定観念がじゃまをしてどうしてもイスズミの皮を試すことができなかった。そうこうしているうちに、日が暮れてしまい、アカジョウタイムは終了した。


しばらく呆然としていたが、S山さんのこの言葉を思い出して、試しにイスズミの皮を試すことにした。M中さんは、こんな厳しい状況の中でも35cmくらいのシブダイを1匹ゲットしている。時合いかもしれない。


今までダメだったパターンを繰り返しても仕方がない。ここは変化をと、餌盗りの猛攻でぼろぼろになったイスズミの皮をそのままハリに引っかけたまま仕掛けを投げた。


ミジメ瀬上げ潮ポイントにリールカウンター33m地点で仕掛けが落ち着く。仕掛けが着底すると同時に、アタリが出始める。しばらくすると大人しくなったので、仕掛けを回収。イスズミの皮はハリにかかったままだ。


よしっ、効果抜群。魚が食い付いてくるし、餌はなくならない。イスズミの皮は思いの他丈夫で、カツオの腹側よりも餌盗りに強いのでは。


今度はイスズミの皮付きにイカをトッピングして仕掛けを投げた。イカは、シブダイの大好物の一つである。


程なくして、コンコンと竿先が小刻みに揺れた。また、餌取りだろうとため息をついていると、竿先に取り付けたケミホタルが一気に潮の流れる方向へやや遠慮気味にお辞儀した。


きたっ、本命だ。


竿ももってとにかく全力で底を切りにかかる。コンコンという魚信で本命シブダイを確信した。この初めてのチャンス逃してなるものか。竿を立てることで生まれた道糸の余剰部分を巻き取り、更に浮かせにかかった。


もうこれで魚がとれたことを確信。シブダイは初動弾くが、その後は割とあっさり観念する魚だ。魚が水面に現れた。間違いないシブだ。


抜き上げると、40cmクラスの本命が金色のヒレとピンク色の魚体を見せながら、神々しい光を放っていた。


「おっ、いいなあ、シブダイだ。」


すでに1匹釣っているM中さんが祝福してくれた。この状況でのこの1尾は、クロのツ抜けに匹敵するね。うれしさがこみ上げると同時に、本日のパターンらしきものをつかんだ。時計を見ると、午後9時を回っていた。


さあ、時合いだと思いきや、小刻みなアタリはあるものの、相変わらず食い込みには至らない。ここミジメ瀬は、上げ潮時に比較的大型のシブダイが釣れる。満潮潮止まりの夜中の0時過ぎまで何とか粘らなくては。


午後10時を過ぎ、相変わらず、歩兵軍団の猛攻はトマラナイ。イスズミの皮もそろそろ底をつき始めた。ここまで、おいらが1尾、M中さんが小さいサイズを2尾と、大型が釣れる6月とは思えない状況。シブダイの食い気はあるようだが、とにかく餌取りの勢いが止まらず時計は午後11時を過ぎてしまった。


コンコンとアタリがあると、竿を手持ちに変え、仕掛けを送り込んでから合わせるものの喰わせきれない。鋼タルメ22号というとんでもなく大きな針を使っているにも関わらず、小さな口のイスズミの歩兵が食い付いてくる。しまいには、離島の尾長釣りでデッドデビルと恐れられているナミマツカサまでが仕掛けに食い付いてくる始末。おまえ、自分と同じくらいの大きさのハリによく食い付いてくるよな。


もうどうにでもしてっ。半ばやけ気味に、仕掛けを送って合わせを入れる。すると、強烈ではないただただ重々しい引きを感じた。コンコンと魚信があるので、根掛かりではなさそう。スピードはないが、とにかく重々しい。


でたあ。こりゃウツボに違いないぞ。イスズミが少し大人しくなったと思えば、今度はウツボの活性が高くなる。いやというほど味わわされた本日緒パターンだ。また、仕掛けを一つ失うことになるとため息をつきながら寄せていく。


あれっ、ウツボにしては結構引くなあ。足下に来た。よいしょっと、抜き上げる。暗闇の中で魚が躍動する。おやっ、ヒレがあるぞ。そうやらまともっぽい魚のようだ。シルエットからして、イスズミではないようだ。


ライトを当てた地点に、上品に跳ねている魚は、何と本命魚0超えのシブダイだったのだ。メジャーを当てると44cm。うつぼがシブダイに化けてくれた。よっしゃあ、小さくガッツポーズ。


「でかい、よかなあ」


またまた、M中さんが祝福。記念撮影をしてくれた。


「餌は?」

「イスズミの皮ですよ」

「やっぱり、こっちもね。2匹ともイスズミの皮だった。」


お互いに、ここでともに釣り上げたシブダイが、イスズミの皮であったことを告白。同時に餌取りでどうしようもないときは、イスズミの皮が有効であることを確認した。


餌は現地で調達する。この当たり前だが、中々できない釣りが可能だったんだ。おいらの釣りの引き出しに、イスズミの皮が丁寧に納められた。


新しいことを発見したが、イスズミの皮はついには底をつき、もうイスズミのアタリさえもなくなってきたので仮眠タイムとした。波の音を子守唄に1時間ほど仮眠を取った。


午前3時の一発。楽しみな時間帯がやってきた。潮は、下げに変わったようだが、相変わらず潮は2枚潮。どうも釣れる状況にはほど遠い。硫黄師の間でまことに囁かれている磯伝説がある。その一つはこうである。ミジメ瀬では、午前3時頃に道糸20号を一瞬で食いちぎっていく巨大魚がいるという。


そう言えば、N村さんと初めてミジメ瀬に乗ったとき、午前3時過ぎに下げ潮のポイントでとんでもない強烈な魚のアタリに見舞われ、一瞬で仕掛けを切られた事件を目撃した。


期待度MAX120%で待っていたものの、何のドラマも起こらず朝を迎えた。


潮はいい感じの下げ潮が流れている。最後のアカジョウタイムだ。仕掛けをワイヤー仕掛けに戻し、魚信を待つ。イスズミ歩兵集団は、3交代制を取っているのかよ。と突っ込みたくなるほど、衰えることを知らない。


長時間労働をものともしない猛烈社畜社員のように、相変わらずこちらが放り投げた餌をむさぼり食っている。基本は、大瀬向き24,5mのところでアタリが多いので、そこを集中的にねらったが、本命らしきあたりはない。


しかし、そんな中でもそこは硫黄島。最後の最後にチャンスを与えてくれた。竿に、グッ、グッ、グッと3段引きのアタリが現れた。


あわてて竿を持つと、底を切るために力を込めた。これは本命らしき魚信だ。脳から脳内モルヒネのドーパミンが出て来るのが分かるくらい。このやりとりはある種のエクスタシーを感じた。


取れそうだとと思った矢先、魚が予想外の動きを始めた。どんどん右手前に一直線に走り出したのだ。なんだこいつは。目視すると、右手前には見事な張り出し根を確認。潜られてなるものか。ゴリ巻きする。魚が早いか、釣り師が早いか、競争だ。やばいやばい潜られると思った瞬間。ふっと竿が軽くなった。


痛恨のバラし。この時間帯でのこの状況では、逃がした魚は、アカジョウかスジアラしか思いつかなかった。ああ、こんなことやっているから釣れないんだな。すばやく餌を付け替えて、仕掛けを投入するも、その後は一度の魚信も得られることはなかった。


午前6時となった。タイムアップ。前回に引き続きの惨敗。口惜しや。道具を片付けて、早めに回収に来た黒潮丸に乗りこんだ。船長がこちらの釣果を尋ねてこなかったのがせめてもの救いだった。


港へ帰って反省会。今回も潮の流れが悪く、どのポイントでも2枚潮に悩まされていたとのこと。ミジメ瀬のとなりの立神も餌取りの猛攻で、餌が持たない状況だったそうな。東風が強く、平瀬が使えなかったのも残念だった。


今回は、イスズミ歩兵軍団に完敗したが、最強の餌盗り対策イスズミの皮を試すことができたことは収穫だった。そんな釣りの醍醐味を新たに教えてくれた釣り仲間と硫黄島の海に感謝の念を持ちながら、船に向かって一礼し、枕崎を離れるのだった。


イスズミ歩兵軍団殿!今度は目にもの見せてくれるぞ!

 

 

 



出航前のお食事は



今日もおだやかな枕崎港


また 硫黄島に来てしまった



いつもの通り 鵜瀬からの渡礁



西磯は2番瀬 ミジメ瀬 立神でした



今回はM中さんも参戦



まずは下げ潮釣り座でアカジョウタイム


大瀬に向かって仕掛けを投げます


夕まずめのアカジョウタイム


ようやくの1尾 ほっとしました



夜釣りは上げ潮釣り座で





イスズミ歩兵軍団にナミマツカサも参戦



ようやく納得のサイズが 44cm



磯で食べるカップラーメンは最高です




夜明け前は下げ潮の釣り座へ



よしゃあ 来た!





うつぼだあ~涙


ありがとう ミジメ瀬


シブダイの握り寿司


シブダイのフライ


シブダイの煮付け



シブダイの刺身














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