9/09 夏の残り香を求めて 間泊



鹿児島県間泊

kamataさん、残念でしたね。入れ食いでしたよ。」

 

お世話になっている黒石会会長さんから、このような情報を受け取ったのは8月も後半、ツクツクボウシが盛んに鳴く夏の残り香の頃だった。

 

「息子がシブを2ケタ釣り。イサキもたくさん。こんなに釣ったのは始めてですよ。お盆にこんなに釣れるから気持ち悪くなって途中から釣りをやめてしまいましたよ。」

 

実は、お盆の時期に、船間で会長さんと夜釣りの約束をしていたのだが、前日に同窓会の幹事の仕事があり、どうしても熊本市内から鹿児島県の船間の港まで約束の時間にたどり着くことができない。そこで、しかたなく会長さんとの釣りをあきらめたのだ。

 

申し訳ない気持ちと船間での夜釣りを何とか実現させたくて、会長さんに再び日を改めて同行をお願いすることにした。ところが、

 

「かまちゃんさん、船間はこれから禁漁期間に入ります。伊勢エビ漁があるからです。」

 

どひゃあ、これだから釣りは難しいね。それでもあきらめられないおいらは、再び釣り同行のお願いを。

 

「いいですよ。9月ならあいてますから」

 

こうして、会長さんのご厚意でようやく初めての会長さんとの釣りが実現。場所は、佐多大泊港から間泊の磯へということになった。ねらいは、もちろんシブダイとシーズンオフのイサキ、その他夏魚もろもろ。会長さんによると、ハガツオが回っているという。もちろん、青物も大歓迎だ。

 

ブロ友さんから時化男の称号を与えられ、ステッカーをクーラーに貼ってから、釣りを計画してなんと6回連続出撃という100%の確率。今回もそんなで造作もない波高1mの予報だ。会長さんからも、

 

「(午後)2時前に来てください。」

 

で、出航確定。

 

九州自動車道を南へ下り、加治木JCTから東九州自動車道へ。鹿屋についたのが、人吉ICからわずか1時間半だった。

 

鹿屋で高速道路に別れを告げ、一般道に入る。山道に入り海岸道路に出る。潮風が肌に心地よい。9月に入ると日差しも心なしか穏やかに感じる。湾口と言われるこの海は、太平洋の玄関口である。対岸に指宿の街や美しい薩摩富士開聞岳の凛とした姿が見える。伊座敷を通り過ぎると山道を越えて眼前が急に開けてきた。見事な群青色の太平洋である。この風景を見るとああ本州の南端までやってきたんだという思いがこみ上げてくる。

 

沿道にハイビスカスが咲いている細い海岸道路を走ると広い港が見えてきた。大泊港である。時計をみると午後1時半前だった。人吉ICから何と3時間。昔はここに車で4時間以上走らなければならなかったが、本当に道がよくなったものだ。

 

船の数のわりに広大なこの港では、すでに渡船が1つせわしく出港準備を進めている。おそらくこれが今回お世話になる船だろうとは思ったが、ちょっと離れたところで着替えをしながら会長さんの登場を待つことにした。

 

ほどなくして、親子連れの乗った軽トラックが近づいてきた。

 

「あっちですよ。行きましょう。」

 

会長さんと息子さんだ。軽トラックには釣り道具が積まれている。着替えやあいさつもそこそこに、間泊の磯に案内してくれる渡船「かいおう」さんの船首部分に車を移動させた。

 

今日の釣り人は多い。硫黄島の最盛期の人数に匹敵する14,5人は来ている。やはり船間が禁漁になったことが影響しているのだろうか。いやあ、それにしても驚いた。夏の夜釣りは、大体少人数での出航が当たり前なのだが。それに、午後2時出航とは早いなあ。夜釣りでこんなに早い出航は初めてだ。その地方で様々な事情があるのだろうね。しかし、そうは言っても昼の時間帯でのこの出航。冬時期のそれと違い、やはりのんびりとしたものだ。

 

ぶるんぶるん。

 

エンジンに命が吹き込まれ、船が岸壁を離れていく。船の数にしては広すぎる港を離れ、いよいよ船は太平洋へ旅立つ。

 

いやあ、初めての磯は、何とも言えない感動があるね。堤防の外に出ると、果てしない太平洋が広がっていた。波高1mの予報だが、黒潮の支流が届くこの地では、多少波気がある。右に行けば、一度行ったことがある佐多岬田尻の磯、左に舵を取れば、間泊・船間・辺塚・内之浦と広大な大隅半島の沿岸が果てしなく続くのだ。

 

右を見れば水平線。左を見れば、断崖が続いている。硫黄島の溶岩でできた地質とは違う、どちらかといえば甑島の東海岸に似た古い堆積岩でできた層のよう。しばらくは海岸道路が見えていたもののだんだん人も陸上から入ることができないような人の生活圏から離れた地磯が続いた。

 

港を離れてから、船は結構な時間東に走った。中々釣り場につかない。10分ほど走ると大抵は最初の磯場に着くのだが、依然として船は走り続けている。

 

どこまで行くのだろう。そう思っていたところに、ようやくお目当ての磯らしき岩礁が見えてきた。案の定、船はその岬の先端のようなところでエンジンをスローにした。クロ釣りならば、沖向きに船をつけるところだが、ワンド向きの足場が悪そうなところに一人渡礁させた。足場が悪いがドン深でいかにも底物釣り場というポイントのようだ。

 

それから、ワンドの奥の地磯や断崖が迫る地磯、その近くの離れ瀬などに一人、二人と渡礁させ、いよいよ我々3人の番が最後となった。

 

比較的大きな磯が見えてきた。足場もよさそうだし、3人で乗るには広すぎるほどの磯。無事に渡礁を済ませ船長のアドバイスをと思いきや、何も言わずに去っていった。後で、船長に聞いたがこの磯を「クダリマツ」というらしい。

 

初めてやってきたぞ、間泊の磯に。早速、3人で磯を確認する。会長さんがまず根を見つけた。

 

「あそこに、根があるね。」

 

釣り座は広く、地寄りには浅い根があるようで、沖に向かってだんだん深くなっているようだ。水深はかご釣りのポイントとなるところは、12,3m弱くらいか。手前は、やや張り出し根が出ており、ごり巻きして早めに魚を浮かせることが大切のよう。夜になっても困らないように大まかな磯の形状を覚えておかなくてはね。時計を見ると、まだ午後3時前だ。

 

さあ、ゆっくりと準備を始めるとするか。会長の息子さんは、もう石鯛竿をもって釣り座にセットし、早速ガンガゼをカットし始めた。乾いたのどを冷えた麦茶で潤すと、こちらも準備を始めることにした。

 

竿は、ダイワメガドライ遠投4号、15号のウキに12号の錘付きの天秤つきかご。道糸8号にハリス8号、針は喰わせ青物9号とやや小さめの針をチョイス。この針は小さいが軸が太く強い。伊座敷でもこの針でシブダイを連発した最も信頼を寄せている針である。また、一応フカセタックルも準備した。

 

タックルの準備を終えると、一応試しに始球式。かごをえいやあっと投げてみる。青空に美しい放物線を描いて仕掛けはどぼんと着水した。何回か試したが、いい潮が流れている。沖に向かって右からあたってきて、この磯を洗って左へと流れていった。

 

「いい潮だね。でもエサをとられん。撒き餌が入ってないのかな。」

 

会長の息子さんは、すでに石鯛釣りを始めている。無情にもガンガゼは触られないままだ。会長さんも2人分のかご釣りタックルの準備終え、夜にはまだ時間があるので、しばらく会長さんと世間話をしていた。

 

会長さんは息子さんの釣りが気になったのか、息子さんの指導に行かれた。しばらくすると、なんと息子さんは魚とのやり取りをしているではありませんか。竿の曲がり具合から小さい魚ではないのは明らか。

 

「たぶん、ガキでしょう。」

 

会長さんが予告した通り、ドサッと抜きあげられた魚は体高のよい2kgサイズのイシガキダイだった。おめでとう、幸先いいスタートだ。笑顔で写真に収まる息子さん。さすが会長さんの遺伝子を持ち、一番近いところで釣りを叩き込まれただけあるね。

 

その後、さらなる獲物をと思いきや、石鯛釣りを休止し、息子さんはいつの間にかルアーマンになっていた。

 

「なんか、当たったよ。」

 

息子さんが、笑顔で声をかけてくる。こちらは、ハガツオが回っているかもと期待していたが、沖にいるのはカメと会長さんの話によればサメがうろうろしているらしい。忌々しいカメとサメだ。こんな雑談をしていると、

 

「釣れた~」

 

息子さんが手に魚をぶら下げて近づいてきた。40cmくらいのカンパチの子「ネイゴ」だ。石物釣ったら今度は青物だ。お見事!その後、会長さんも息子さんも1尾ずつネイゴをゲットして休憩に入った。

 

「かまちゃんさん、いただきましょう。」

 

会長さんが、釣りたてのネイゴの刺身をご馳走してくれるという。なんとありがたいことか。早速、まな板と包丁を取り出して魚をさばき始めた。ネイゴは、うまい魚だが、釣りたてはさすがに食べたことがない。

 

わくわくして待っていると、手慣れた包丁さばきであっという間に、柵にしてしまった。

 

「潮も止まっていることだし、飯にしましょう。」

 

午後6時近くになって、ようやく涼しくなってきた。日没までの時間をネイゴの透明な刺身を堪能しながらの夕食とした。

 

ようやく夜となり、かご釣りを始められる時間となった。タナは竿1本から魚の当たりが出るまで少しずつ深くする作戦だ。

 

潮位がだんだん上がってきたので船着けでの釣りは断念し、足場は悪いが沖に向かって左の一段高い所を釣り座とした。会長さんたちは、仲良く石鯛釣りのポイントで竿出しだ。

 

釣り開始直後のことだった。息子さんが何やら魚をかけたらしい。もう釣れたんかいな。仕掛けを回収して、魚の確認に向かった。すると、彼は、なんといきなりの本命シブダイをあげていた。黄金のヒレ、うすいピンク色の魚体。フィッシュイーターを証明する大きく端正な顔立ち。これはシブダイの何物でもない。笑顔で写真に収まる息子さん。40cmには満たないもののいきなりの本命登場に、釣り場は一気に緊張感に包まれた。

 

タナはこれくらいでしたよ。ウキ止めの位置を見せてもらった。タナは、竿2本弱ってところだ。さあ、時合だ。仕掛けを打ち返す。手前にあたってきていた潮は緩い左流れに変わっていた。エサ取りはおそらくマツカッサー元帥殿だけだろう。それも硫黄島のような数ではなく問題ない状況だ。イスズミ歩兵軍団もここはいない模様。

 

再び、息子さんのロッドがしなった。今度は、シブダイのような引きではなさそう。抜き上げた魚は、これも本命のイサキだった。息子さん、今年社会人1年目とは思えない釣果だ。ぼくは、あなたの歳と同じくらいの年月釣りをしているはずだけど。全く及びもしないね。大隅半島の自然と縄文人の遺伝子を受け継いだ青年の釣りに圧倒されるばかりであった。

 

「これが5月ならおいしいんですけどね。あまり遠くに投げなくても大丈夫ですよ。」

 

会長さんが、ありがたいアドバイス。確かに、二人はフカセ釣りの遠投くらいの距離に投げている。おいらは、遠くにポイントを作りすぎか。遠距離でなく、中距離でいいんだ。

 

早速、その答えが出た。ゆらゆらと漂っていたケミ75を装着した発砲ウキが一気に海中に消えた。竿を立てる前に道糸が走っていた。本命らしきアタリだ。シブダイならまず主導権を取られないことだ。底を切れば必ずとれるはず。

 

重たい中々のサイズ。手ごたえが、魚が1キロは裕に超えるサイズであることを教えた。手前は根が張り出しているので、早めの勝負が肝心だ。ウキが見えてきた。取れそうだぞ。うん、なんか少し長いような。

 

よいしょっと、抜き上げて魚の確認に行く。どっひゃあ、オジサンだ。正確に言えばホウライヒメジか。う~む、キャッチ&イート派のおいらは考えた。淡白な白身は魅力的な食材。40オーバーの良い型だから美味しいはず。ホウライヒメジの味噌汁が頭に浮かんだ。

 

いや、ここは本命が来るまでは、外道は海に帰ってもらおう。モチベーションを維持するためにも。ホウライヒメジのソテーの邪念を振り払った。

 

もったいない気もしたが、元気なうちに良型ホウライヒメジはリリースだ。さあ、今度こそ本命と、仕掛けを打ち返した。

 

潮がまた変わった。潮が速くなったようだ。正面に入れた仕掛けがあっという間に左へと流されていく。そっちは、浅い根があるから、トラブルはいやだと早めの回収だ。その潮になった途端に、魚からの反応が消えた。会長さんたちも魚の反応がないと首をかしげている。

 

まあ、潮が速すぎるときは、なかなか釣れないもんね。伊座敷もそうだったし。潮が緩くなった時がチャンスのはず。エサが盗られたり、盗られなかったりの繰り返しがしばらく続いた後、潮が緩くなり始めた。チャンスかも。

 

そう考えてアタリを待っていると、左に動いていたウキが左の根の手前で一気に消し込んだ。確かな手ごたえ。本命を予感するトルク。しかし、やり取りをしていると引きに物足りなさが。よいしょっ、抜き上げて魚を確認。

 

よしっ、本命のイサキだ。30cmちょいの小ぶりだが、このサイズならアクアパッツアの食材に最適だ。〆て血抜きをしてクーラーへ。見ると、会長さんの方でも魚のアタリをとらえ始めていた。こっちも負けていられない。

更なる獲物を求めてロケットを飛ばし続けた。

 

今日の魚の動きは気まぐれだ。釣れたと思ったら、ぱたりとあたりが止まる。潮がやや右沖に緩く流れる潮で、イサキ35~40cmを3連発で釣った。いよいよ本来の間泊の実力が発揮されるかと思いきや、潮が変わったのかここから沈黙の海となった。

 

午後9時ごろになり、東の空に大きなスーパームーンが登場。とにかくデカい月だ。磯場を明るく照らしてくれるのはありがたいのだが、魚にとってはこの月はどうなんだろう。硫黄島では、月が出ることでシブダイの喰いが活発になるのだが、ここではいかに。

 

その月は幸運の「ルーナ」にはなってくれなかった。その後、アタリがないまったりとした時間がやってきた。1匹だけ交通事故的に40弱のイサキを釣って以来、ついにマツカッサー元帥以外の魚の顔を見ることなく、夜明けを迎えてしまった。あの40オーバーのホウライヒメジが返す返すも残念である。

 

会長さんたちも、イサキを釣ったものの、ヘダイなどの外道の表敬訪問という不本意な夜釣りを終えたようだ。

 

さて、回収の時刻が迫っていた。午前6時と言っていたっけ。そうか、ここが一番遠いから一番早い回収になるはずだ。大急ぎで片付けを始めた。すでに片づけを終わっていた息子さんに手伝ってもらいようやく回収の時間に間に合った。彼は本当によか青年である。

 

魚は釣れなかったが、船に乗り込むと楽しみが待っていた。広大は大隅半島の断崖を鑑賞する時間がもてることだ。なぜ磯釣りが好きなのか。それは、はっきりとした答えをもっているわけではないが、堤防や船釣りとは違う魅力という点で、そのごつごつした自然そのものの形状に囲まれながら釣りができることにあると言えようか。

 

平らな地面が当たり前の生活に慣れてしまったが、もともとはごつごつした不規則な形状だったはず。それを人間が自分たちの都合の良い状態に加工して今の人間の生活圏が作られた。自分の遺伝子に尋ねてみよう。君たちは昔、このごつごつした岩を歩いていたんだよ。ここは寝心地がいいからベッドだ。ここは段差があるからイスにすればいいね。ここは一段高くなっているからテーブルだ。釣った魚をさばいて置いておけば、干し物のできあがり。

 

磯場を歩きながら、私たちの先祖は、自然の形状を利用して、いろんなことを学んできた。自分たちがこうして高度な文明の中で生きていられるのも海があるからだよね。この母なる海に訳の分からないミサイルを撃ち込むなんてどうかしてるよ。

 

いつまでもこの間泊の海が美しいままでいられますようにと、ポセイドンにお祈りをして間泊の磯と別れた。そして、この釣りを強力にサポートしていただいた会長さんと息子さんにただただ感謝である。

 

夏の残り香の潮風を体全体で浴びながら、実は心はすでに秋の釣りへと変革していたのだった。

 





初めての港 大泊港


港を出るとそこは太平洋でした


ポイントまで結構走りました


足場の悪かなあ~


夜釣りによさそうな磯ばかりです


クダリマツに渡礁


まずはルアーで


親子で底物釣りを始めましたよ


息子さん 早くもネイゴをゲット


いましたよ~イシガキダイ 


会長さんもゲット さすがです!



いつの間にか さっきのネイゴを


釣りたてのネイゴで磯宴会の始まり~♪


セルフ漬け丼 まいう~~^^


けっこう よいサイズのオジサン


いましたよ シブダイ 息子さんナイス!


息子さん よく釣りますねえ


ようやく おいらにも釣れました


イサキが釣れ出しました


入れ食いになると思ったのに


パターンをつかんだと思ったのに


急に あたりがなくなりました


月も出てきました


アタリがなくなると睡魔が・・・


釣っても釣っても マツカッサー元帥



夜が明けてしまいました


そろそろ片付けましょうかね


6時ごろ もう回収の船が・・・


ありがとう クダリマツ


他船のお客さんでしょうか


釣れたかな~~^^


朝日が顔を出しましたよ~~^^


今回の釣果と頂果


脂ノリノリ イシガキダイのお造り


イシガキダイの皮の湯引き


イシガキダイのピザ風てんぷら


イシガキダイのぶっかけ飯


イサキのアクアパッツア


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