1/7 イスズミ包囲網を突破せよ 竹島



鹿児島県 竹島

ごめん、今病院におっとばってん、かぜひいたったいなあ。肺炎おこしかけとったげな。だけん、いかれん。」

 

Uenoさんからの突然の電話。どうやら風邪をひかれたようで、一緒に行くはずだった甑島の初釣りに行けなくなったとのこと。

 

さらに、追い打ちをかけるように、

 

kamataさん、時化でね」

 

楽しみにしていた甑島の1泊2日釣りも天候不良、さらにその2日目の日帰りへの切り替えもうまくいかなかった。1月の3連休。最も寒グロ釣りで磯がにぎわいをみせるシーズンにこれから渡船の予約といっても。

 

あるよ、あるではないか。釣り納めで苦杯をなめさせられた竹島。竿を折られたあのやつとの勝負ができるではないか。

 

「いいですよ。空いてます。1時出航ね。」

 

前日の予約にも関わらず快く対応してくれた武岡フィッシングに2018年初釣りの命運を託すことにしょう。

 

M中さんと自宅で待ち合わせ、午後9時半に人吉を出発。九州自動車道を南へ下り、最近ようやくETCが使えるようになった指宿スカイラインを経て一般道へ。閑散とした枕崎港に着いたのが、午後11時50分。まだ、釣り人もまばらな状態だ。

 

「ぶるんぶるん。」

 

ここの船長は出航1時間前から船のエンジンを起動させる。離島便なだけに遠方からくる釣り人への配慮からだろうか。

 

「今日は、午後から雨が降るんで、1時間早く帰ります。だから、底物だけのお客さんは遠慮してもらいました。」

 

船長によれば、この日の天気が午後から崩れるため、早めの納竿とする。そのため、出航を早めにしたという。我々にとっては、夜釣りの時間が長くなる。大変ありがたい配慮である。

 

「シマアジのデカいのが出てましたよ。籠(こもり)の平瀬で、クロはあんまり釣れなかったけど、こっちの方がいいって。きびなごで釣れたそうですよ。」

 

こんな船長の会話を聞けば、やる気にならない人はいないだろう。シマアジはだれでも釣りたいと思っている最高のお土産魚だから。前回の年末の釣りはよい潮が入って来ず厳しい釣りになったが、今回は何とかよい潮に恵まれたい。腕は悪いのは分かっている。だからこその潮任せの釣り。これも一つの楽しみ方だ。

 

荷物を積み始める。当たり前のことだが、船への荷物の積み込みは協力して行う。若者アングラーも中年釣り師も、老練な磯師もみな一様にこの力仕事を粛々とこなす。彼らのほとんどは、例えば暴力問題に揺れる角界や、過労死問題で働き方改革を迫られる会社組織など、上意下達(じょういかたつ)の世界で生きている男たちである。

 

屈強な組織という重層構造に押しつぶされそうになりながらも何とか生きてきた男たちには安息の場が必要なのである。上意下達の世界とは違う世界に体を預けてみたいと思うのは当然の願いだろう。

 

釣りの魅力は、あのイエスの教えを広めたパウロも言ったように、福沢諭吉が「天は人の上に・・・」と言ったように、釣り人はみな平等であるという点ではないだろうか。釣りは、自然は釣り人の上に釣り人を作らず、釣り人の下に釣り人を作らずという人間と自然との天人合一の世界観を創り出してくれる。

 

この世界の片隅では、社長であろうが、官僚であろうが、農家であろうが、電気工であろうが、つまり、どんな職業であろうが、みなイエスのような神々しい魚のまえでは平等なのである。だから、釣り道具の積み込みは、当然というように平等でしかも協力してやっているのである。

 

釣りという絆で結ばれた男たちは、平等で食べ物を分け合い、協力し合って生きていた縄文人の姿と重なる。同じ船に乗る運命共同体の仲間とともに荷物を積み終わり、いよいよ出航の時を迎えた。

 

男たちは、外敵におびえながらも食料を調達に向かうオスのように、竹島へ向かって大隅海峡を突き進んでいる。今回は、日帰りだから、釣りの時間に体力を温存したいところ。今のうちにできるだけ睡眠をとっておきたいところだ。

 

ところが、はじめは揺れることなくすべるように進んでいた第八美和丸だったが、約90分の航海も後半になると、急に揺れ出した。おいおい今日は、波の予報1mじゃなかった?以前草垣に行くときに7mの大時化にみまわれたことがあったが、そこまではないものの、結構揺れている。

 

船は減速しながら進んでエンジンはいつのまにかスローになっていた。今日は東の風だから、おそらく西側のオンボ崎あたりからの渡礁か。

 

最初の渡礁を終えた後、いてもたってもいられず、キャビンの外に出た。船は、狭い磯壁に釣り人を乗せている。そして、どこまで見たことのある広い瀬が見えた。籠(こもり)の平瀬らしい。シマアジが釣れた魅惑の磯だ。2人の釣り師が歓喜の表情を浮かべて渡礁していった。

 

kamataさん」

 

ついに名前が呼ばれた。

 

「どうします? この前と同じところがいいですか。それとも尾長が釣れた近くにしますか。」

 

これまで4回連続でほら穴に乗せてもらっていたが、ここは尾長狙いで違う瀬をチョイスすることが大切だと感じた。現状維持ではなく、変化による冒険を切望。船長にその旨を伝えた。

 

意を介した船長は、ゆっくりと舵を切った。荷物を船首部分に運び渡礁に備える。一番ドキドキする瞬間だ。

 

サーチライトを当てたところに圧倒的な岩肌が見えた。さあ、初めての磯だ。心ゆくまで楽しむぞ。

 

接岸する岩のこぶを探していたホースヘッドのタイヤが2,3回トライした後、ようやく落ち着く場所を探し当てた。急いで磯場に駆け上がる。荷物を受け取る。無事に渡礁完了だ。

 

さあ、船長のアドバイスは、あれっ。

 

いつもは丁寧にポイント解説をしてくれる船長だったが、ここではなぜかスルー。まあ、初めての場所はチャカ付け(船付け)がいいという格言もあるし、とりあえず釣りの準備を始めることにした。時計を見ると午前3時。さあ、夜釣りの時間がいつもよりたっぷりあるぞ。

 

うん、まてよ。ここはどこかで見たことある。なんか一度乗ったことがあるような。

 

M中さん、ここ乗ったことありません?」

 

M中さんに尋ねてみた。

 

「ここ乗ったよ」

 

やっぱり、ここは今回で5回目になるほら穴瀬だったのだ。こちらは、尾長が釣れた近くの磯の希望を伝えたつもりだったが、甑の予約と同様こちらの意思表示がはっきりしていなかったことが原因だ。

 

まあ、この場所も好きなところだから問題はない。早速、タックルの準備から始めた。竿はブレイゾン5号道糸8号ハリス10号で勝負と思いきや、なぜかなぜか、かご釣りの準備を始めているわたし。

 

それはなぜなのか、自分の中のリトル自分に聞いてみた。何か根拠があるわけではなく、ただ単にかご釣りで尾長釣れないか、やってみたいと思っただけである。15号ウキに12号の錘を付けたかごを準備。タナは竿2本から始めた。時計を見ると、午前4時を回っていた。

 

M中さんは、ぼくより少し前に釣りを始めている。この瀬で一番実績のある船付けの一番左の端の釣り座をM中さんに譲り、自分はその右隣へ構えた。M中さん、第1投で釣れた魚は、ナミマツカサだ。そして、次はイスズミ。またまた、イスズミ。M中さんは、前回と違ってどんどん魚を釣り上げている。ただ問題は、イスズミ軍団とマツカッサー元帥のみであるということ。それもかなりの良型だ。M中さんもひいひい言いながら釣っている。

 

ぼくは、かご釣りだから、少し遠投するが、エサも取られない時間が続いた。イスズミやマツカサにハリスを傷つけられるのはごめんと、アタリがないことをしばらくは喜んでいたが、やはりイスズミとマツカサにつかまりだした。

 

特に、マツカサには何度も悔しいフェイク当たりを引かされた。ウキがスパンと気持ちよく消し込んだと思いきや(これがかご釣りの大いなる魅力なんだが)、やり取りをすると、残念な引き。手のひらサイズにもかかわらず、フカセ釣りのドングリウキなんかよりはるかに明確なアタリを演出してくる。

 

1匹だけオレンジ色の光る眼を持った魚が飛び込んできた。ホウセキキントキだ。これは、南海の磯釣りにおけるお土産魚の一つ。ガス漏れ臭がするという残念な魚だが、刺身で甘くて最高に美味しい魚だ。もちろんキープ。

 

どうやらほら穴瀬は、イスズミ歩兵軍団とマツカッサー元帥に完全に包囲されていた。自分が前回の釣りでオキアミを大量に撒いた種だからしかたがない。こんなことをやっているうちに、何のドラマもなくいつの間にか夜が明けてしまった。

 

撒き餌を作り直し、昼釣りのタックルの準備にかかった。竿は、がま磯アテンダー2.5号に道糸3号、ハリス2.5号。ウキはこの状況ならBの半遊導で、ハリス2.5号を取り付けた。ハリは、前回の釣りでちょうどよかったグレ針6号をチョイス。

 

さわやかな朝のはずだが、湿気を含んだ風が頬を伝う。風はすでに東向きになっており、時折強く吹いてくる。この調子なら、天気がもつのは正午くらいまでか。

 

「よしっ」

 

となりでM中さんがいきなり魚をかけた。シマノの白い竿が「つ」の字に曲がっている。この曲がりなら、小さな魚はあり得ないだろう。これまでのこの瀬での実績なら、良型の口太や、イサキなどの外道も考えられる。まだ薄暗い中、魚を抜き上げるM中さん。さあ、魚は何か。

 

どっひゃあ~~

 

魚を見てずっこけた。良型イスズミだ^^ イスズミには申し訳ないが、狙っている魚ではないので、ずっこけるのも仕方がない。

 

丸々太ったイスズミを苦笑しながらリリースするM中さん。最初の魚だからと思っていたが、この後お互いにイスズミ釣りの応酬となった。釣っても釣ってもイスズミばかりなり。

 

表層の潮は右に行ったり、左に行ったりしてるものの、底潮は全く動いていなかった。潮が変わればクロは喰ってくるさ。そんなセリフを吐きながら釣ること1時間、やはり顔を出すのはイスズミばかりだった。

 

午前8時過ぎ、ようやく潮が動き出した。前回の時は、潮が左に(東に)流れでいたが、今回はまっすぐ沖に流れ出した。これは、チャンスかも。ここでクロ釣りをいったん中断し、あの釣りをやってみよう。

 

スルスルするるー釣りだ。きびなごを撒き餌に付けエサもきびなごで、全遊導で流す釣りだ。前回のアカジョウもこの釣りで釣れた。クロ釣りにも未練はあったが、潮が走り出したことだし、今がその時期ではないか。竿を5号に持ち替えた。

 

キビナゴを流して張っては緩め張っては緩めを繰り返す。たまに誘ったりしながら流す。期待感で胸がいっぱいだ。

 

「よしっ」

 

満を持して魚を掛けたのは、おいらではなく、M中さんだった。また、どうせイスズミだろうと思ったら、尻尾の白い魚が浮いてきた。

 

「クロですよ、M中さん」

 

魚の視認と同時に言葉を発してしまった。M中さんに抜きあげられた魚は、鉛色の空を舞い茶褐色の岩に着陸した。間違いない。本命のクロだ。37,8cmはありそうな魚体。

 

「よかったんですねえ」

 

「ありがとうございます」

 

こういいながらも、心の中は気が気でなかった。このM中さんの釣果で、このするする釣りに見切りをつけるきっかけができた。なぜって、まったく魚からの反応がなく、潮も再びよじれ始めていた。付けエサがいけいけどんどんの潮でないと中々難しい。足元をアクションを入れて狙ったが、あれ以来反応は途絶えていた。再びアテンダーを握りクロ釣りを再開した。

 

M中さんに尋ねたが、特に、今までと変化させたわけではないとのこと。その情報をもとに仕掛けを特にいじることなく、ウキだけをBの大きめのものから、小粒の2Bにチェンジ。離島では、クロはイスズミのすぐ下にいることが多い。それを考えると、ハリスにもガン玉をつけて早く付けエサがタナをとるようにする必要があるのかな。

 

3回程連続で黄色いウキがロケットのようなスピードで消し込み、お約束のイスズミを釣った後、こんどは人工衛星のようなスピードでウキが消し込んだ。これもやる気のある入り方だ。

 

糸がピンと張った。竿に心地よい重量感と生命感が伝わる。やつは、本能的に足元の張り根に一直線だ。こちらのリールの回転運動が速いか、魚の泳力のスプリント力が高いか。結果は、アテンダーに軍配が上がった。

 

浮いてきた魚は、クロちゃんだったのだ。慎重に抜き上げる。35cmくらいのクロが磯場ではねていた。ようやくの本命1匹に安堵する。さらに、もう1匹追加した。何かが変わっているはずと、表層の潮と底潮がうまくマッチングしているではないか。

 

離島だもの、これから入れ食いになるかと思いきや、再びイスズミの波状攻撃が始まった。魚を掛けた瞬間に、ギラリと光る。抜き上げてハリスチェック。ハリがなければ結びなおす。ハリスがざらざらなら取り換える。この繰り返しをまるで産業ロボットのようにこなす。今回の展開は、釣り納めよりつらい釣りになっている。15,6枚イスズミを掛けたところで、遠くから船のエンジン音が聞こえてきた。

 

kamataさん、どうですか。」

 

ダメのサインを送る。

 

「でしょうね。ここ潮が行ってないもん。12時回収ですよ。」

 

残念ながら、今日もここ竹島では全体的によい潮が流れなかったようである。時計を見ると9時半を過ぎていた。船は悠々と籠避難港前で停泊。第八美和丸の向こうには硫黄島がぼんやりと見えている。

 

さあ、あと2時間弱の釣りだ。潮は、相変わらずふらふらしている。最後は、オキアミでクロを追加して帰るとするか。縄文人に扮した2人の釣り師は、家を守るメスを中心とした家族に獲物を持って帰らなければならない。

 

中途半端な活性のイスズミがここを支配している。その包囲網を突破するのは、至難の業だ。尻尾の黒い伊寿墨歩兵軍団の数30万。それに対して、尻尾の白い口太眼仁奈軍10万。朝まず目からの戦闘の後、回収1時間半前には口太眼仁奈軍は完全に包囲されてしまっていた。

もはやこれまでか。垓下の戦いで劉邦率いる韓軍に取り囲まれて、地団太を踏む項羽率いる楚軍らが、自分たちの故郷の歌が取り囲んでいる敵軍から聞こえてくることを嘆いた「四面楚歌」を彷彿させる状態。

 

もはや口太眼仁奈の同士を救い出すことはできないのか。M中さんと二人で手を変え品を変え何とかメジナ将軍を1匹でも救い出そうと奮闘した。

 

伊寿墨歩兵のハリ飲み込み攻撃・ハリスざらざら攻撃・雲子爆弾攻撃に苦しみながらも、潮がわずかに動いた時間帯に、おいらが2枚、M中さんも2枚のクロを釣り初釣りを終えた。

 

おいらが4枚、M中さんが3枚という貧果に終わったが、雨が降る前に回収となるように快適な釣りをサポートしてもらった武岡フィッシングに、そして、この雄大な竹島に感謝しながらここを後にした。

 

今回もあまりよい釣果は出ていなかった。回収しながら、「1枚、2枚」とか「3枚」とか、氷を詰めた以外は、軽いクーラーを運ぶことが多かった。どこもイスズミ歩兵軍団の攻撃に苦しんだ模様。港に帰って船長が、

 

kamataさん、かなりいい竿の曲がりだったみたいだけど。」

 

「いやあ、イスズミばかりでしたよ。」

 

と、苦笑いでかえすほかない自分だった。でも、M中さんは、

 

「前回よりも、魚からの反応があって楽しかったです。」

 

M中さんの言う通りだ。イスズミを嫌うのではなく、イスズミから楽しみをもうらうという感覚が大切だ。イスズミ歩兵軍団の包囲網をいかに突破するかという課題を

 

枕崎お魚センターのかつおくんが、「きばらんかい!」と言われたような気がして、雨が降り出しそうな静寂の枕崎港を後にするのだった。

 











竹岡フィッシングさんお世話になります





渡礁が始まりましたよ





サーチライトを当てて 渡礁場所をさがします







洞穴へ渡礁しました





M中さん気合が入ります




イスズミばかり釣れます


なぜかかご釣りをするわたし


おいしいお土産魚 ホウセキキントキ


尾長はどこだ~~~


夜が明けてしまいました

朝まず目が最大のチャンスです



イスズミばかりだなあ



風が南向きに変わりました








サラシができてようやくクロが型見できました





外道ですが 本命よりうれしい釣果



クロちゃんがやっと釣れました




魚からの反応があって楽しかったなあ





釣れましたかあ





回収です


籠港を臨む



クロ4枚 ホウセキキントキ1 ムロアジ1




きばらんかい!


クロとホウセキキントキの刺身


クロのカマ焼き



自家製シーザーサラダ



クロのムニエルレモンバターソース



クロの煮付け



ムロアジの茶漬け






















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