1/27 小米雪舞う寒ブリ釣り 大分県佐伯沖
大分県 佐伯湾
寒ブリはだれもが認める冬の風物詩である。産卵前の冬に脂がのり珍重される。特に、年末年始は、日本各地で正月用の魚としてもてはやされるため、値段も高騰する。寒ブリを食したことのある輩なら、旬を迎えるこの厳寒期こそ、鰤を手に入れたいと願うはずである。
しかし、その寒の時期には鰤は容易に釣り人が差し出す餌を食ってくれない。当然、難しい釣りを強いられる。それは水温の低下により、鰤の食い気は秋のそれとは明らかに落ちてくるからだ。本来は、冬ごもりに備えて夏から秋にかけて盛んに小魚などを捕食した後、冬になると沖の深場で春を待つのがスタンダードな鰤の生態である。鰤は基本回遊魚である。
ところが、養殖いけすに居ついた個体も1匹また1匹と深場へと落ちていくと思いきや、そのスタンダードな動きに反して、まだまだ美味しいおこぼれ餌を食べていたい、エサの多いこの居心地の良い場所で暮らしたいと願うニートのような鰤もいる。
大分県佐賀関沖の養殖いかだには、今年もまだまだおこぼれ餌を食べて冬眠を避けた個体がたくさんいる。そんなニートな鰤を今回狙うことになったのは、自然条件だけではない理由がある。
その理由は、鰤釣りにハマっているM中さんである。彼は、初めての佐伯沖の鰤釣りで、私と一緒に釣行し、わずか1時間40分の間に2人で25本の鰤をゲット、クーラーの蓋が閉まらないほどの釣果を得てしまった。
この体験は、どんなインターネットなどのデジタルな言葉が画像の情報よりも強烈な印象をM中さんに与えてしまった。M中さんは、持参したトランク大将という小さくないサイズのクーラーに入りきれない鰤を、佐伯漁協で手に入れた発砲スチロールに入れてやっとで持ち帰った。魚の重さで自動車の前輪が浮き上がるのではないかと心配するほどの釣果だった。
それからというものの、M中さんの新しい脳の皮質に鰤入れ食いの記憶が強烈にインプリンティングされてしまった。そのことから、M中さんの鰤釣りに行く意欲が年々高まっているようだ。
今回の釣りも、はじめは、磯に行く算段をもってM中さんをさそったものの、M中さんは、先週天草高浜の磯に行ったため、連チャンでの磯釣行は家族の理解が得られないという返答が帰ってきた。
折角の休日に、M中さん釣りに行けないのかと思いきや、なぜか「鰤釣りなら、家族の理解が得られるかも」という返事をもらった。
なるほど、おいらはすべてを悟った。早速、佐伯港から出船する「松風」さんに連絡を入れる。1週間前だったため予約が取れるか心配だったが、
「いいですよ。空きはあります。5時半集合です。エサはきびなごで。ハリスは10号の3mでお願いします。」
これで予約成立。ポイントは、風向きが東側になるなど限られた条件以外なら、この寒の時期なら出船できる確率が高い。案の定、船長から出船の連絡をもらった。
M中さんと自宅で待ち合わせた後、荷物をおいらの車に積み込んで午前1時半に人吉を出発。九州自動車道から宮崎自動車道へ、清武JCTから東九州自動車道を北上し、佐伯市内に入ったのが、午前4時半。なんと佐伯市内まで3時間しかかからなかった。
いつものかわの釣具店に立ちより仕掛けなどを買い込む。M中さんはここで鰤釣り専用の竿を購入する。今回もかなりの力の入れようである。コンビニで人間用の餌を買った後、港に着いて休憩だ。
午前5時半の少し前、船長がやってきた。今回の釣り人は我々2名をいれてもわずか3名。磯釣りならポイントは選び放題だが、船釣りの場合はどうなんだろう。撒き餌が足らないかもしれないね。
午前5時半過ぎ、静寂な佐伯港から漆黒の海へめがけて船はゆっくりと海面を滑り始めた。今回のタックルは、竿は以前安売りの時に買っておいたBLAZE FIGHTER船120-240。7:3調子でコストパフォーマンスに優れた中深場対応モデル。3980円の竿。なるほど、確かにコストパフォーマンスだ。
電動リールは、DAIWAのSEABORG750MT。PE6号を巻いている。宇治群島の船釣り用に購入していたもの。8月のイカ釣りですでにデビューを果たしている。鰤の強烈な引きにも余裕で対応してくれる力強いアイテムだ。
大型の半月天秤の上下にそれぞれクッションゴムを取り付け、行灯型の大型のかごに100号の錘をつけ、自宅で準備してきたハリス10号2ヒロの仕掛け。ハリは喰い渋りを予想して太字ムツ18号。
沖に目をやると、暗い中にも人家があることを示した灯りがぼんやりと見える。佐賀関半島に向かって船は走っている。
うねりは大したことはないもよう。これなら、ラフコンディションでの釣りは避けられそうだ。厳寒期の冷たく乾いた風を受けながらポイントを目指すこと約30分。船はエンジンをスローにした。
船はゆっくりと旋回しながらポイントを探し、船長がアンカーを入れる。いよいよ初めての寒ブリ釣りの開幕だ。
震える手で撒き餌である冷凍イワシをかごに詰め、付けエサのキビナゴをハリに装着する。ハリはきびなごの眼から本体に刺し海中で回転しないようにハリスから魚体がまっすぐになるように気を付けた。
ほどなく船長からありがたいマイクでのアドバイスが入る。
「最初の釣りダナですが20mでお願いします。3m深く入れてそこで竿をしゃくって餌を出してください。餌を出したら3m仕掛けを上げてください。ハリスは10号から12号でお願いします。おもりは100号。ハリスには1mのゴムクッションを付けてください。」
この放送を合図に早速仕掛けを落とした。するするとPEラインが気持ちよく出ていく。リールカウンターではなく、ラインの色でタナを測り23mジャストで止める。3回しゃくって餌を出して3m仕掛けを上げてアタリをまった。
また、周りは真っ暗である。冷たい風が頬を伝う。何かが頬に当たっている。
「雪ですよ。M中さん。」
乾いた米粒のような小さな雪だ。その時折降ってくる小さな雪の粒の向こうの東の空では、紫色に縁どられたオレンジ色の空が立ち上がってきた。夜明けが近い。
鰤釣りの面白さは、回遊魚独特の時合いにあると考える。つまり、いつ回遊してくるか、いつ喰うスイッチが入るのか、だれにも読めないところだ。
アタリがないと油断していると、突然、魚が喰いだすことがある。それが水温や潮の良しあしや、魚の個体数により時合いの長さが決まる。多くの仲間が深場へと落ちていったこの時期に、多くの時合いがあるとは思えない。少ないチャンスをものにするためにも、たとえアタリがなくても仕掛けを粘り強く打ち返すことが大切だ。
すっかり明るくなっていた。仕掛けはまっすぐに底に対して垂直に下がったままだ。潮はほとんど動いていない。船長が次なるアドバイスを。
「タナ35mでお願いします」
明るくなってくるとタナが深くなる鰤の習性に合わせた策だ。餌を入れては仕掛けを落とし、エサがなくなったと思えば仕掛けを回収してまた餌を入れる。まるでロールプレイングゲームのような退屈な時間が流れた。
タナを変えてみようかと何度か考えたが、ここは我慢。船長の指示ダナを守っていつやってくるともわからぬチャンスを待つことにしよう。
午前8時を回った時だった。その時は突然やってきた。ちょんちょんとした前あたりの後、竿先が一気にお辞儀した。電動リールの巻き上げスイッチオン。竿が根元から曲がっている。これまでの経験から間違いない。鰤のアタリだ。
キーン。電動リールが鰤の初動の引きに動きが止まってしまう。
「船長、アタリ!」
「kamataさん、無理しないでゆっくり巻き上げてください。」
事前に船長からドラグの調整をしてもらっていたし、クッションゴムも上と下2か所に取り付けている。しかし、ハリスは10号だ。油断はできない。
鰤が弱ってきたようで、ゆっくりと上がってきている。あと20mというところで急に相手のパワーが衰えた。あと5m。竿を立ててクッションゴムをつかみ、魚を手動で浮かせにかかる。
海面からエメラルドグリーンの流線形が見えてきた。船長が玉網を構えて待っている。相手に最後の抵抗をさせる余裕を与えないように一気に引き寄せる。無事に玉網IN。
魚を船内に引き上げる。船長がすぐに生け簀に入れる。見事な流れ作業だ。
「5kgありますかね。」
「ちょっと足りないくらいですかね。」
あとでM中さんが量ったところによると、5.5kgあったそうだ。
厳しいスタートとなった寒ブリ釣りでのこの最初の釣果は、釣り人に大きな安ど感を与えた。
「いいなあ。」
M中さんから祝福を受ける。
「撒き餌してください。早く仕掛けを入れてください。」
船長の声の調子が心なしか高ぶっているように思えた。そう、鰤の時合い到来だ。回遊魚である鰤の釣りでは、だれかの竿に当たるとその後連続して当たることが多い。
ほらっ、地元の釣り人らしい方の竿にもアタリが来た。釣り人の体内時間が急に加速し始めた。あせるM中さん、仕掛けを必死の形相で打ち返す。おいらも更なる獲物を求めて撒き餌を打ち込む。
自分の頭の中では、数年前のあの1時間40分で鰤25匹という大爆釣がバベルの塔となって浮かび上がっていた。しかし、今は冬。時合いはわずか数分で終わってしまった。
再び船に平穏なまったりとした時間が流れ出した。それからというもの干潮の10時半までまったくアタリがなかった。アタリがないとじわじわと睡魔が襲ってきた。一睡もしていない体にこの退屈な時間はこたえた。
鰤のアタリがないなら、サビキで鯵サバでも狙おうと仕掛けを底かごに赤アミを詰めて底近くを狙うもこれも全くアタリがなかった。
あの鰤の来襲から、魚のアタリはM中さんが釣った極太のうなぎやアナゴかわからない謎の生物だけだった。
アタリが全くないので、変化を求めて釣りダナを40m、43mくらいまで落としてみる。もちろん、鰤のアタリはない。上げ潮に変わってよい潮が流れたのだろう。底近くまで仕掛けを入れたことで高級魚マハタ、ウッカリカサゴが釣れた。
「タナが深すぎますよ。午後1時に納竿とします。」
船長は釣りダナを守っていないことを知ったようだ。釣りダナを35mに戻した。お土産があと1匹ほしい。それに、M中さんにも釣れてほしい。仕掛けを打ち返すも11時、12時と全くアタリがない退屈な時間が過ぎた。
釣りに集中して気付かなかったが、いつのまにかたくさんの海鳥に囲まれていることに気付いた。何かが変わるのかな。そう考えて時計を見た。もう午後1時だ。これで最後にしよう。最後の仕掛けを入れた。
するするするっとPEラインが気持ちよく海中に消えていく。釣りダナに来て3m落としてしゃくる。ああ、今日も厳しい釣りだったな。でもまあ1匹だけでも釣れたからよしとしよう。
「あと1匹釣れたらM中さんにプレゼントします。」
茶目っ気たっぷりにM中さんに声をかけた。最後の1投もスカだったみたいだ。さあ、仕掛けをあげて片付けようとした時だった。何の前触れもなく、竿が小さな前あたりの後、一気にお辞儀した。
こんなことってあるんだね。最後の1投で釣れちゃうって。玉網かけてもらった魚は、1本目より大きなサイズ6kg弱の丸々太った鰤であった。
「はいっ、鳥も近づいてきてますね。もうしばらく続けましょう。」
船長が延長戦を宣言。3人はその後15分ほど頑張ってみた。しかし、その後アタリはなく、納竿することにした。
今回は残念ながら船中3本という厳しい結果に終わった。しかし、寒ブリの難しい釣りを体験できた、そして、釣ることができた喜びをかみしめながら、佐伯港へ戻ってきた。
M中さんは、牛深では見事な鰤を釣っていたが、今回は残念な結果に。M中さんのクーラーにおいらの最初の鰤を入れた。M中さんは船長からリベンジ券をもらい、次回の鰤釣りに誓いを新たにしていた。
最初に鰤を釣り、最後にも鰤を釣るという、首尾照応という言葉がぴったりだった今回の釣行。いつ当たるとも知れぬ鰤釣りだが、鳥との関係性に何かしらの釣果のヒントがあるのではないかと仮説を立てた。次回もできることなら寒ブリ釣りに来たいと願いながら、朝雪が待っていたとは思えないほど穏やかな午後の佐伯港を後にするのだった。
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松風さんお世話になります めっちゃ寒かったです 夜が明けてきました
明るくなってきました 夜明けを迎えました アタリがありませんん M中さんもやる気モードです おいしいお土産魚 マハタ ウッカリカサゴくんでした^^; 最後の1投で釣れました ああ楽しかったなあ M中さん お疲れ様でした~^^ 釣れてよかったです 丸々と太っていますた 新鮮なうちは しゃぶしゃぶでGO 鰤の心臓・胃のソテー 釣り人の特権です 鰤カマ 最強のうまさ マグロの中トロのような握り寿司でした 鰤茶漬け 切り身からうまい出汁が やっぱりニラ天にしました 鰤大根は必須です マハタの刺身 なるほど高級魚の味でした マハタの鍋 美味しい出汁がでます |