4/13 尾長・口太の聖地で 鹿児島県甑島手打のクロ釣り


鹿児島県 下甑 手打 上の村瀬

尾長・口太の聖地で 鹿児島県手打西磯釣行記





「kamataさん、尾長ねらいですよね。」

「えっ、はっ、はいっ」



渡船のおかみさんからの不意を突く一言に、思わずかんでしまった自分。そうか。対象魚を口太に照準を合わせていた自分に、もう一人の自分が反駁した。


「解禁」


釣り人にとって、この言葉ほど心躍らされるものはないだろう。4月の解禁と言えば、鹿児島県甑島手打の西磯のそれがまず思い当たる。



甑島伝統のパン粉漁を守るために、11月1日から3月31日までは、地元の漁師しか釣りが許されない手打西磯。4月とは、半年ぶりに一般の釣り人が手打でクロ釣りが許される甘美な時期でもある。


ここで言うクロとはメジナのことで、ある似ている魚と比較するために口太とも呼ばれている。



手打西磯は、実はこの解禁の他に、ある似ている魚「尾長グレ」つまりクロメジナの大型を釣ることができる数少ない場所であることでも有名。




今回は、おとなしく産卵期で食い渋っている口太を狙う釣りを考えていただけに、このおかみさんの一言は、大いに心を揺さぶられることとなった。



そうか、せっかく手打西磯に行けるのに、口太を狙う手はなかろう。磯上物師ステータスシンボルの尾長を狙わない選択肢はない。そんな悪魔の囁きが脳裏をかすめる。しかし、同時に、尾長をずっと狙って、何も釣れずにボウズで帰ることになったらどうするんだ。釣り人の実力をよく知っている残酷な天使の声が耳をかすめる。





尾長グレは、引きのパワーが口太とは段違いに強く、おまけに口が堅いためタナが合っていなかったりして呑まれると、ほぼハリのチモトで切られてしまう。知能が高く警戒心が強い。ハリスを見切ってしまうので、ハリス切れを防ぐために太仕掛けで臨むと全く喰ってくれない。ならば喰わせるために細くするとぶち切ってしまう。本当にやっかいな魚だ。だからこそ釣れたときの喜びは大きい。尾長グレが人気なのは、こんなところにあると思われる。






手打西磯は尾長グレ釣り場として知られているが、では、どこでも釣れるかと言えばそれは疑問符だろう。やはり、ナンバーワンの尾長釣り場「早崎のハナレ」「大介」などの沖磯群が確立が高い。



「尾長狙いではありません。」




と言えば、即座にこの渡礁レースから脱落してしまうことになる。だから、おかみさんの「尾長ねらいですよね。」の甘美な言葉に、「はい」か「Yes」の返答しか許されなかったのだ。




今回同行することになったM中さんは、甑島初挑戦。M中さんのためにも、魚が釣れるところに連れて行ってあげたい。こんな算段を飲み込み、荷物を今回の釣りをサポートしてくれるフィッシングナポレオン隼に積み込んだ。



4月も中旬にさしかかったこの日、産卵期で食い渋っている決して良いとは言えない状況の中でも、釣り人の数は裕に20名は超えていた。



ぶるん、ぶるん。

深夜の港の静寂を破って、船はゆっくりと旋回を始めた。これから対馬暖流に逆らって2時間以上の船旅。これまで行きたくても中々実現しなかった手打西磯へ行けるとなると、否が応でも心拍数が上昇してしまう。




狭い船内でたばこ臭、フィッシングウエア独特の臭いに囲まれながら、ひたすら到着を待った。魚の夢をみているうちにいつの間にか深い眠りに落ちていた。



どれくらい時間がたっただろう。エンジン音で目が覚めてしまった。船は相変わらず高速で暗闇の中を走り続けている。ごそごそ起き出して、窓から外の様子をうかがう。船の進行方向に向かって右側に人の暮らしを育むやさしい明かりが見える。



一瞬でそこが手打港であると気づいた。その瞬間エンジンがスローに。船は最初の1組目の渡礁の準備をしている。若いが全く迷いもない船長の運転技術で、あっさりと最初の渡礁体制に入った。



東磯を代表する地のオサン瀬らしい。船は西磯エリアに入り、シモオサン瀬、赤鼻?灯台下などに渡礁。さあ、これから、名前が呼ばれるのが遅いほど尾長グレに近づく磯に乗れる。そんなことを考えていると、いきなり、


「kamataさん、準備してください。」

この声にあわてて磯ブーツをはき始めた。荷物を船の前方に運んだ。1組前の釣り人が渡礁を始めた。どこかで見たことがあるなと思っていると、そこが名礁「下の村瀬」であることがわかった。ということは、、、。




いよいよ自分たちの番になった。船は少し走っただけですぐにエンジンの出力を弱めた。やっぱり、自分たちが乗る磯は、以前も乗ってよい思いをした「上の村瀬」だった。ここは「早崎」ほどではないものの尾長が期待できる磯だ。



ヤッホー。ここは、確か上の方に比較的広くてわりと平らな場所があったよな。よい磯に乗れた喜びは、6年前に乗った記憶を鮮明によみがえらせた。二人ともとても50代後半とは思えない軽やかな動きで渡礁を済ませた。




「ポイントは、沖向きではなく、裏側です。そこの突き出ているところで釣ってください」

前回の釣りで底物師が陣取っていた場所で、今回は釣りができるようだ。

手打西磯は広大な断崖が続く。渡礁に時間がかかる。夜釣りを考えていたM中さんだったが、水平線が紫色に変わろうとする中、夜釣りは早々とあきらめて昼釣りのタックルを準備するようだ。





M中さんは、尾長タックルと口太タックルの2種類を用意。私は、竿は1.5号のメガドライ、道糸2号、ハリス1.75号の食い渋り対策の細仕掛けのみ。えっ、尾長対策は?


実は、今回尾長狙いに秘策があった。それは、通常の2.5号の磯竿に4号道糸というタックルではない初めてトライする作戦である。

これまで、この手打で何度か大型の尾長らしきアタリに見舞われたことがあった。それは、足下の瀬際ではなく、潮の本流が走っているとき、仕掛けをその潮に流していくと沖で喰わせた爆発的なアタリだった。


圧倒的なパワーになすすべなくハリスを飛ばされた経験から、やはり細仕掛けでは勝負にならないと悟った。50オーバーの尾長グレを夜釣りの太仕掛けなら釣ったことがある。そうだ。その夜釣りの太仕掛けを使って釣るのだ。その太仕掛けでも喰ってくる条件は、潮の本流を流すしかない。


そして、撒き餌の同調を考えるならカゴ釣りという方法があるではないか。こう考え、今回磯バッグの中に密かに伊座敷用のかご釣りセットを忍ばせてきていた。潮の本流が磯を洗うようになると、このタックルで勝負するつもり。さすがに、竿4号、道糸8号、ハリス8号ならデカ尾長でも取れるはずだ。


タックルが完成すると、撒き餌を30分ほど続けた。もうすっかり明るくなっていた。船長が勧めた釣り座は、甑島初挑戦のM中さんに譲り、自分はその右横の船付けでトライすることに。


このところ良い結果をもたらしくれている御神酒をと、磯にビールを注ぐ。M中さんは、住所・氏名・対象魚までブツブツ言いながら神妙な面持ちで御神酒を捧げていた。釣りを知らない人なら、この光景は新興宗教のあやしい儀式としか写らない。今回の釣りにかけるM中さんの並々ならぬ意欲が見て取れる。


ウキは、ここのところ愛用しているジャイロ0αの全遊動。撒き餌をしても全く魚が見えないことから、まずは食い渋りを想定しての仕掛けからスタートだ。


餌を付けようとかがんでいたところ、左脳の先に強烈なオーラを感じて顔を上げた。すると、早くも第1投で魚とのやりとりをしているM中さんの姿が視界に入ってきた。


さすが、甑島西磯。第1投からかよ。30そこそこのサイズだったが、ボウスを脱出し、早くも魚を手にしたM中さん満面の笑み。よかった。甑の魚は、初めての客人に優しかった。



こちらも負けてなるものかと、第1投。第1投は餌だけとられたものの、問題点を修正した第2投、第3投では、ウキが一気に消し込み、糸ピンのアタリで魚を2尾手にした。



手前に潮が当たってくる石鯛師が喜びそうな残念な潮なのに、魚の食いつきがよい。おまけに、水中で尻尾の白い魚が餌を拾っている姿が見えた。初めは心配したが、今回の釣りで食い渋りはなさそうだ。



潮の動くところではなく、泡があって餌がたまりそうなところに狙いを定めた。案の定、魚からの交信が。



おっ、これは太い。早くも今回一番の引きだ。この感覚からして魚のサイズは40オーバーは確定だな。



浮かせてもいないのに、そんなことを考えているからだろう。魚が手前に急発進。

「やばい」

手前には、少しだが根が張りだしている。やつはこちらが油断したすきを突いて、足下の根に潜り込んでしまった。強引にいかなかったことを後悔するやいなやハリスを切られてしまった。



次のアタリで取り込んだ口太もなかなかの引き。40オーバーだったが、さっきのはこんなもんじゃなかったよなな。


悪いことは続くもの。次は、あり得ないことが起こった。愛竿メガドライが、竿を振ってるとき、ほぼメガドライの竿先がすっぽり入る岩の裂け目に入って抜けなくなってしまったのだ。


磯竿は、魚の魚信にはかなり耐える力をもっているが、それ以外の負荷をかけるとめっぽう弱い。少しずつ慎重に竿先を助けようとしたときだった。まるで、ポッキーというお菓子のように簡単に折れてしまった。


ああ、なんてこったい。頭の中で修理代の数字が踊っている。ぼやぼやしていられない。竿をがま磯アテンダー1.25号に交代させ、道糸をさらに細い1.75号とした。魚は、初めは活性が高かったものの、徐々にイスズミなどの外道が釣れ始めていた。


水温は18度と言っていたっけ。食い渋りの予想が的中。ウキにわずかなアタリが出て、少しずつウキがシモっていく。ウキが見えなくなるまで我慢するものの、しびれを切らして竿先できいてみるもののすバリ。こんな実に退屈な時間がやってきた。魚の食い渋りはとても手打とは思えない状況だ。


潮は、表層の潮と底潮の動きが違ういわゆる2枚潮。潮ははっきり流れるというより行ったり来たりするような流れ。各所で泡が浮いている。尾長グレが食ってくる可能性はゼロに等しかった。

同じくアタリをものにできないM中さんと午前8時半頃から休憩が多くなってしまった。

「ここはカラスがすくなかね」


M中さんが初めての手打西磯をそのように表現。しばらくの間、手打のロケーションを楽しんだ。



この地球が46億年の産物であることを無言で語っている断崖は、人間が上陸した痕跡を一切見せず、まるで人間との接触を拒んでいるようだ。何億年かわからない気の遠くなるような長さの風雨にさらされた結果、手打の断崖はごつごつとした男性的な形状に作られ、上の方はうっすらと緑の草木に包まれている。

その断崖の山際を見つめると、恐ろしく鮮やかなスカイブルーのキャンバスに混じりけのない雲がゆっくりと動きながら迫ってくる。断崖の下では、エメラルドグリーンの穏やかな海がこの断崖を支えている。

この手つかずの自然の懐にいることに大きな幸せを感じながら、深呼吸をしてみる。マイナスイオンを大量に含んだ潮風が体に心地良い。時間を忘れて磯の上に横になる。磯釣り師に与えられた特権だ。

ここには、便利だが煩わしい電波や、報告書を求めるうるさい行政もない。過去と現在と未来が渾然一体となった自由な世界だ。我が家の食材としては十分だと釣りをこのままやめてもいいし、どこかの海溝や根回りに潜んでいる尾長グレを目指して釣りを再開してもいい。

「潮が変わったみたいね」

いつの間にかM中さんは釣りを再開していた。こちらもゆっくりと重い腰を上げ、釣りを再開することにした。潮は、二枚潮ではなくなり、地寄りの方向に、または、下の村瀬方面へと動いていた。しかし、尾長グレが釣れそうな潮ではなさそうだ。







この良潮の間に食い渋る口太を8枚ほど追加し13枚としたが、その後潮が再び二枚潮になってしまい、釣れてくるのは、イスズミの外道オンリーとなってしまったので、1時間早く竿をたたむことにした。





尾長グレを求めてやってきた手打で、尾長狙いの撃沈を回避して口太を釣るという安全策を取ってしまった今回の釣行。最後まで尾長グレを狙って太仕掛けで挑んだM中さんの釣りが本当に勝負師だと思う。




この日は、潮の動きが悪くどこの磯でも目立った釣果は見られなかった。数日前好調だった底物も瀬ムラが見られた。






相変わらずメンタルの弱さを露呈した結果となったが、手打西磯はそれでも釣り人の挑戦を公平に待っていてくれる。今度こそ、秘策をひっさげて手打の巌に立ち、尾長グレを仕留めたいと思う。






尾長グレと口太の聖地「手打」は、これからも釣り人の挑戦を待ち続けていくだろう。

 






フィッシングナポレオン隼さん お世話になります




























手打西磯 上の村瀬に渡礁























沖向きは こうなっています













さあ釣りスタート 前方は下の村瀬







M中さん かなりやる気です










クロはおらんかい

















M中さん おめでとうございます












ボクも まずまずの良型ゲット









細仕掛けなんで仕方ないかな






















































名残惜しや





手打のすばらしい海























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