6/22 縄文人との対話 鹿児島県硫黄島のシブダイ釣り


鹿児島県 硫黄島 ミジメ瀬のシブダイ釣り

kamataさん、1.5mから1mだけどどうする?って船長から連絡が来ました。」

 

奇跡だ!奇跡が起こった。ホントか? 何かの間違いではなかろうか。お世話になっているN村名人からのSNS返信を何度も見直していた。

 

シブダイ(標準和名フエダイ)という魚がいることをご存じだろうか。おそらく、漁業関係者や釣り人以外は決して知ることのない魚だろう。亜熱帯の海に住み普段は深場にいるが、日中の照り混みが強くなる夏場になると浅場に回遊してくる。人間とのコンタクトは少なく、南西諸島や薩南諸島、南九州の半島周り、四国足摺岬周辺などごく限られた地域でしか型見されない。

 

大きくても50cmを超える3kgくらいの体。フィッシュイーターを表す大きな頭と灰色の唇に厳つい歯が並ぶ。うろこは大きく、体高のある均整の取れたピンク色の魚体。体の背中の部分に白い点が見られるためシロテンとも呼ばれている。

 

夜釣りがメインの対象魚で、釣りあげライトを当てるとヒレが黄金色に輝き、神々しい光を放つ。暗い磯場にまるでスポットライトが当たったようだ。そのつぶらな瞳を見つめながら、釣り人は誰もがシブダイの美しさにしばし釣りを忘れる。

 

シブダイが釣り人を魅了するのは、美しさだけではない。食材として価値は、それを口にした誰もが絶賛することからもうかがえる。捌くとオレンジ色の脂(味噌汁に入れるとおいしいらしい)が出てきで驚くが、内臓を抜くと意外や意外きれいな白身が現れる。

 

臭みはほとんどなく身をそぎ切りにすると包丁にべっとりと脂がつく。刺身に煮物、焼き物、中華の食材、あるいはイタリアンとしても料理人納得の味を演出できる。滅多に水揚げされないという希少価値以上に、一般の人は料亭でしか味わえない魚、と言われるほど食材としての価値が高い。

 

そんなすばらしい対象魚であるシブダイを釣ろうと、今年も硫黄島夜釣り開幕戦を迎えていた。硫黄島に通って40年の名人N村さんから今回も開幕戦のお誘いを受けた。今年は、68日~9日の日程である。

 

シブダイの大型が釣れる可能性が最も高いこのハシリの時期を逃してなるものか。すかさずM中さんにシブダイ釣りの誘いを入れてみる。案の定、二つ返事で了承の連絡が。

 

こうして、釣行日に向けたゴールデンデイズを過ごした後、待っていたのは時化のカードだった。令和元年の夏は残酷だった。後に史上最長の梅雨入しない6月だったにもかかわらず、5月から週末ごとに時化る悪循環のおかげで、6月8日からの開幕戦甘い夢は五月雨とともに露と消えた。

 

kamataさん、6月21日からの日程にしましょう。神様・仏様・キリスト様にお願いしましょう。」

 

N村さんから再びありがたいメッセージを受け取った。あと2週間待てば、シブダイに会える。釣りから学んだ自分にとって最も感謝すべき座右の銘「我慢すること」を反芻(すう)した。開高健だって釣りを「忍耐の芸術」と言ったではないか。

 

暦としては梅雨の時期だが、相変わらず雨が降らない日が続いた。通勤途中で、水を張っているわけでもなく、代かきもままならぬ水田で、手作業で田植えをしている人を見かけた。

それほど暑くならない史上最長となる梅雨入りしない不思議な2週間を過ごした。

 

天気予報はときに残酷だ。釣行日の2日前の降水確率100%、一部に大雨という情報も。N村さんからも

 

「すべての神様は土曜日はダメと言われましたので、夜釣りは中止します。7月6日に延期します。」

 

N村さんの言葉のチョイスにもやや力がない。これだけ雨が降らなかったんだもの。統計学上から考えても白旗を揚げるしかないじゃないか。また、2週間待たないといけないのか。

土曜日はかみはんを温泉にでも連れて行くことにするとしよう。

 

金曜日の勤務を終え、帰宅している時だった。N村さんから着信が届いていた。青天の霹靂、藪から棒、寝耳に水、etc. このタイミングでの師匠の連絡をどのように表現したらいいのか。

 

kamataさん、さっき船長から連絡があってね。『1.5mのち1mだけどどうする?』ってね。」

 

硫黄島への出港が決まった歓喜の瞬間。運転をやめて道の駅の駐車場に停車し、ガッツポーズを何度も繰り返していた。あの100%ダメからの生還。奇跡のどんでん返し、土俵際のうっちゃり、起死回生、崖っぷちからの逆転。いくら自分の大脳皮質から呼び出しても適切な表現が見つからない。

心を落ち着かせてから再びハンドルを握った。23時間後にはもう硫黄島の磯に渡礁している。ぼやぼやしておれない。かみはんに苦笑されながらも準備に余念のない釣り師のプレミアムフライデーを過ごし、当日を迎えた。

 

M中さんが朝9時半に自宅へ到着。午前10時に人吉ICを出発。九州自動車道を南へ下り、指宿スカイラインから一般道へ。M中さんとカツオ定食で遅い昼食をとり、枕崎港に着いたのが出航の1時間半前だった。

 

すでに、数人の黒潮塾のみなさんが集まっていた。懐かしい釣り仲間との1年ぶりの再開。挨拶をすると笑顔で返事が返ってくる。その笑顔の近くにいると、硫黄島のフィールドに立った気になってしまう。ほどなくN村さん、登場。

 

「梅雨前線が下がった理由がわかったよ。Kが来れなくなったからだよ。(Kさんは、残念ながらこの黒潮塾で時化男の大役を任じられてしまったお方である。もちろん、天気の崩れとKさんは全く関係ないことはみな百も承知である。)Kは神だな。」

 

こんな冗談を飛ばしながら談笑していると、船長が登場。硫黄島行きを最後まであきらめなかった泉船長こそが、この釣行の最大の功労者ではないか。

 

本日の釣り人は12名。鵜瀬、平瀬高場、立神、ミジメ瀬、北のタナ、ミユキ、洞窟という布陣。今日の潮回りと風向きでは、平瀬低場は用心しておいた方がよいとのこと。私はこの中で相性の良いミジメ瀬をチョイス。M中さんと同礁することに。N村さんは鵜瀬に渡礁だそうだ。

 

ぶるん、ぶるん。

 

命の鼓動は船全体を震わせ、釣り人の心を揺さぶる。一体これからどんな釣りが待っているのだろう。ひどい予報からの復活に釣りに行けるだけでも幸福感を得るべきだと思うが、そこは、縄文人の遺伝子が黙っていない。せっかく来たんだもの、ぜひともシブダイを釣って帰ろう。

 

しばらく横になっていると、そんなに長い時間待つという感覚もなく、90分きっかりにエンジンがスローになった。お決まりの鵜瀬からの渡礁である。次に平瀬、そして、船は時計回りに東向きに舵を取った。贅沢にも浅瀬、タジロをスルーし、硫黄島港近くの名礁「洞窟」に。そして、立神の後に、我々ミジメ瀬。硫黄島でも指折りの足場の良い磯に難なく渡礁。

 

kamataさん、いい上げ潮が流れているよ。サンマの頭を付けて投げて。アカジョウが食いつくよ。」

 

船長の激励を背中に磯場で深呼吸。何度もあきらめかけたこの地にようやく来ることができた奇跡。荷物を平らな場所に移動させながら、ここに来られた幸福感をしばし味わった。思えば遠くへきたもんだ。北部九州の海に近い街で生まれ育った自分が、この南九州を離れた薩南諸島に立っているなんて。偶然の疑いの強い必然がいくつも折り重なりながらミジメに到達している運命をどう考えたらいいのだろう。

 

こんな感傷的になったのは一瞬で、すぐに縄文人の遺伝子が騒ぎ出した。その私につながる祖先は、早くサンマを切れ!イスズミを釣れ!時間がないぞと叫んでいる。何かに駆り立てられるように、包丁と簡易まな板を準備し、サンマを付け餌用と撒き餌用に切り分ける。M中さんには、イスズミ釣りをお願いする。(イスズミは、アカジョウやイスズミが大好物で、たとえ皮一枚でも食らいつく抜群の食い込みを演出できる万能餌だ。)

 

ところが、M中さんは上物竿を持ってきているものの大きなタックルしかなく、しかも中通し竿なのにワイヤーを忘れておられた。万事休す。Oh my God! 狩猟民族が神への信仰心を口にしながら嘆くように、私はずっこけた。ここは、「やばっ」が適切な言葉か。ワイヤーがなければ、名竿もただの無用の振り出し棒である。

 

しかも悪いことに、いつもは元気はつらつでアカジョウやシブダイを守るため、磯の周りを包囲するイスズミ歩兵軍団の勢いが、どういうわけだか全く感じられない。オキアミを撒いてもオヤビッチャや上物師の天敵ソウシハギが時折竿を渋り込むだけだった。

 

こんなにイスズミの気配がないのはここでは初めてだ。イスズミが釣れない時間だけが過ぎる展開で、時計を見るとすでに午後6時を回っていた。こんなことしていたら時間がもったいない。イスズミをあきらめて明るいうちにアカジョウ釣りをするんだ。やはり、興奮した縄文人の遺伝子が騒ぎ始めた。

 

M中さん、イスズミはあきらめて、アカジョウ釣りをしましょう」

 

早速、アカジョウタックルの準備を始めた。竿はダイコーの海王口白に道糸ナイロン20号。錘は30号の真空、37番の瀬ズレワイヤーにワイヤーのアカジョウ仕掛けを取り付け、サンマの頭をつけて海へどぼん。

 

潮は、見事な上げ潮が流れている。激流ではないが、アカジョウが釣れるような例えるならトロトロとした流れ。これは、良い潮に間違いない。潮がいかないと釣れない魚だから、このチャンスを逃してなるものか。ミジメ瀬の左側の上げ潮ポイントでカウンター30m~50mの仕掛けが落ち着くエリアをねらい続けた。M中さんは右側の上げ潮ポイントで釣り開始。久しぶりの両軸リールなのかバックフラッシュを繰り返したり、根掛かりを頻発したりして苦戦を強いられていた。

 

こんな良い潮は久しぶりだなあ。仕掛けの入りもスムーズだ。期待に胸を膨らませること1時間。日没前の午後7時間になっていた。水平線から夜の帳が迫ってくる中で、アカジョウの最後の捕食タイムを期待したが、餌取りらしき反応もなく不安な気持ちを引きずりながら夜釣りへと突入した。

 

さあ、シブダイの仕掛けに変更だ。同じ竿と道糸に、丸玉錘30号にTクッション。大型スイベルからは、某釣り具メーカーから新発売された「鮪力」というフロロカーボンハリス20号に、鋼タルメ22号のハリを取り付けた仕掛けを結びつけ5分以内で完成。

 

本日は、下り中潮の3日目。闇夜で漁師さんたちがよく釣れるタイミングだと教えてくれた絶好の潮回り。午後11時ごろに満潮を迎えるまでが、シブダイを釣る絶好のチャンス。活性が高いときは、この硫黄島では第1投目から結果がでることがある。 いきなりシブダイが食いついてくるということがよくあるのだ。

 

仕掛けをカウンター34m位の本命地点で仕掛けを落ち着かせる。このミジメ瀬は、何度も乗っているので、ある程度の経験と知識がある。ここはあまり遠投する必要はないと思う。カウンターで30~35m位がいいようである。

 

真っ暗な中で、竿先のケミホタルがピクピク律動。そして、そのケミの灯りが一気にお辞儀する。そして、竿をもってやりとりを始める。こんな極めて至福の時を期待しながら待つ時間というのはなんともタマラナイ。

 

しばらくして、仕掛けを回収してみる。サンマの頭は全く触られておらず、根元の内蔵や肉の部分だけが盗られている。活性はないわけではないが、あまり食い込みがよくなさそうだ。

 

そこで、あまりの食いの渋さに、また、餌取りの活性の少なさに、船長から餌取りがものすごいことになるから禁じられていた撒き餌をすることにした。撒き餌効果はいかに。

 

サンマの頭を4,5回試したが、魚の食い込みには至らないので、N村さんから頂いた小イカを装着。すると、これはさすがにすべて盗られてしまった。まだ見ぬ好敵手は、イカが好物とみえる。

 

ここで、イスズミの出番といきたいところだが、残念なことにイスズミの切り身は今回はなし。そこで、サンマを三枚に下ろして身から骨を抜き、柔らかいところだけを針にぐるぐる巻きにした。中々良い反応が返ってきた。どうも我々が想像している以上に、海の中はまだまだハシリの時期のようだ。

 

だんだん、魚がこちらに近づいてくるような気がする。そして、もっと魚の距離を縮めるために、餌を小イカとサンマの三枚下ろしのブレンド食を用意した。柔らかい餌が好きそうな相手に対しての心遣い。自分が食わせたい餌ではなく、相手が求めている餌を提供する姿勢。これって、釣り師はまるで料理人のようなものではありませんか。

 

そんなことを考えてドキドキの楽しい時間を過ごしている最中に、久しぶりに気持ちよく竿先がお辞儀した。

 

おっと、油断してたよ。竿尻をお腹に当てて、戸惑いながらも竿を強引に立てることに成功。手応えから、本命の予感が全身に伝わってくる。まずまずのサイズじゃないの。

 

魚を浮かせてわずかな光から魚のシルエットでそれが本命のシブダイであることがわかった。一気に抜きあげて、ミジメ瀬のど真ん中に持っていく。

 

キャップライトを当てて改めて、今釣り上げた魚がシブダイであることを再確認。黄金に光るヒレに赤みがかったピンク色の美しい魚体。南九州の磯の夜釣りで最も釣り人を魅了すると言われるシブダイ開幕第1号との初対面。なんとまぶしい魚だろう。40cmを少し超える許せるサイズにしばし見とれてしまった。時計を見ると午後8時40分を回っていた。釣り初めて1時間。まずは1匹釣れたことに小さな安堵感を覚える。

 

やはり、ハシリの時期だけに小イカに分があるね。だが、小イカだけでは、餌取りの餌食になってしまう。そこで、小イカを守るようにサンマの三枚下ろしを取り付ける。または、その逆でもいい。こうすれば、餌取りらしき魚がつついたとしても、餌を全部食べきれないうちに本命シブダイがやってきて食い込むという算段である。

 

2尾目もブレンド作戦だった。さっき抜きあげるところでバラしてしまった後、ケミが勢いよくお辞儀した。

 

手応えはどうだ。うん、軽いね。抜き揚げた魚は、シブダイのようだが、この辺りでもよく釣れるオキフエダイだった。オキフエダイもシブダイに負けないおいしい魚だ。当然キープだ。9時を少し回ったところなので、11時満潮だからこれからがチャンスのはず。

 

さらに、10分後、今度は前アタリもなく、いきなり竿先が海面に向かって突っ込んだ。う~ん、重い。期待できるサイズと思いきや、途中からかなり軽くなった。抜きあげる。40弱の体高があるシブをゲット。

 

「よかなあ。」

 

M中さんから祝福の声が。だが、M中さんは、バックフラッシュの多重債務に陥ってしまい、釣りができない状況にあった。久しぶりの両軸リールはM中さんに冷たかった。

 

さあ、これから時合いが来るはずだ。M中さんも気になるが、ここは釣らなきゃ。しかし、意外な沈黙が続いた。9時台も後半になると鹿児島でキダカと呼ばれるウツボをゲット。どうりで引かなかったはずだ。美味しいらしいが捌けないので、残念ながら海にお帰り願った。

 

潮はよく流れているし、状況はいい感じだけど。釣果につながらない。10時10分過ぎにようやく明確なアタリをものにした。抜きあげて磯に横たわらせた魚はやはりシブダイだった。これも40cmそこそこ。スリムなモデル体型だ。ヒレが大きめの個体でかっこいい。

 

さあ、もうすぐ満潮だ。今のうちに! しかし、また釣れないまったりとした時間がやってきた。このころようやくM中さんも釣りに参戦。これからというところだったが、11時半となり満潮の潮止まりの時間を迎えた。

 

M中さん、満潮だから飯にしましょうか」

 

これからというときだったM中さんは、後ろ髪引かれる思いで休憩に。今回のメニューはソー麺とホルモン煮込み。今夜は、24度くらいの爽やかな夜だったので、ソー麺というタイミングではなかったが、磯で食べる状況と空腹が最高のスパイスを効かせてくれた。釣り談義に花を咲かせながら休憩。縄文人もボクらと同じように釣りをしては休んでどうでもいいような非生産的な話を楽しんだに違いない。

 

消化管に食べ物が入ってくると、血液がそこへ集まってくる。眠くなるのは、ごく自然なこと。ここまで、シブが4、オキフエダイが1。前半戦としてはまずまずの展開ではないか。今は、夜中だし、魚もそこそこ釣ったし、仮眠することにするか。

 

ミジメ瀬は平らな磯なので、寝るとき場所に困ることはない。M中さんは釣りをすぐに再開するらしい。自分は、少しでも休憩をして後半戦の釣りに備えることにした。波の音を聞いてうとうととしているといつの間にか眠ってしまった。

 

何かの気配を感じて目が覚めた。時計を見ると午前2時を少し回っていた。少し寝坊したらしい。

 

M中さん、釣れましたか?」

 

「うん、2匹」

 

おっ、よかった。M中さんいつの間にかシブダイを2尾釣っていた。クーラーを除くと42cm位のまずまずの型が収まっていた。

 

「潮は、どうですか」

 

相変わらず、上げ潮のポイントで釣っていたので、思わず尋ねてしまった。

 

「満潮過ぎて少し下げに行きかけたけど、潮はずっと変わらんよ。」

 

今日は、結局上げの一本潮だったようだ。

 

その後、明け方までに、私が3枚、M中さんが2枚追加して、夜釣りを終えた。夜中からは、サンマの頭にシブダイがよく食いついていたというのはM中さんと一致した意見だった。

 

明るくなったらもうシブダイではなく、最後のチャンスアカジョウタイムが待っている。昨日の夕マズメ仕掛けを結びサンマの頭を付けてトライ。

 

午前5時から最後の朝マズメの釣り開始。この潮ならアカジョウがいれば、もしかして食いつくかも。仕掛けを何度も打ち返すが、魚からの頼りはナッシング。今回も幻の魚はお留守かな。そうやって、よそ見しているときだった。

 

異変を感じてタックルを見ると、なんと海王の竿先が海中に向けて突っ込んでいるではありませんか。あわてて竿尻をつかみ、相手の突進をとりあえず止める。今までで一番の引きだ。これは、海中に引きずられるかも。50代後半とは思えない海老反りの体制で竿を立てて魚の動きを止めた。これはかなり強烈だな。そのまま体を磯に倒して寝技に持っていく。絶対に魚に主導権を握られないように魚との距離を縮めた。「これは確実に取れる」勝利を確信した私は、立ち上がって魚を手前に遊動する。

 

何という魚だろう。いや、このタイミングでこの強烈な当たりなら、もうあの魚しか考えられないではないか。シブダイよりも貴重で、シブダイに匹敵する食味を見せてくれる超がつく高級魚「アカジョウ(バラハタ)」しか。

 

さあ、いよいよランディングだ。魚の顔を見るときがきた。さあ、赤い魚よ、おいで。ところが、水面を割ったのは、赤ではなく口のとんがった茶色の魚だった。がーん。力が抜けた。4kgクラスのタバメ(ハマフエフキ)だ。えっ、この明るい時間帯で食うんだ。タバメが。針が見事にタバメの地獄を捉えていた。タバメは、フライで最高に美味しい魚だが、アカジョウを期待していただけにショックは大きい。この釣果を合図に竿をたたむ決心をした。

 

私は、最後に見事な失態をやらかしてしまったが、M中さんは、朝まずめは蛸と格闘していた。硫黄島に蛸がいるなんて。ところがその蛸は意外に大きく、釣り人のやりとりを全く寄せ付けなかった。大きな吸盤で磯に張り付き、浮いたと思えば、また磯に張り付くの繰り返し。どうしても取れないと悟ったM中さんは蛸を釣るのをあきらめるしかなかった。縄文人ならどのようにして蛸を捕っただろう。

 

船は6時半頃迎えに来てくれた。離島の磯の朝の清々しさは例えようもない心地よさ。今まで釣りに夢中で気づかなかったが、小鳥のさえずり、朝焼けの空、コバルトブルーの海、波間に翻弄されるユーモラスな蟹などの小動物など様々な磯場を彩る事物が存在する。

 

ボクの遺伝子につながる祖先である縄文人は、ボクと同じ魚を捕り、同じ情景を見て、心を癒やしていたのあろうか。釣りをしているときにキミは一体どんなことを考えていたのかい? 家族はいたのかい? また、来るからそこで待っていてくれよ。そんなことを遠ざかるミジメ瀬に語りかけながら硫黄島のクルージングを楽しんだ。

 

この日は、どの瀬でもよく釣れていて、鵜瀬では、2人で43枚の大爆釣劇が起こっていた。みゆきでも平瀬でもデカバンのシブの気配がムンムンしていたとのこと。港では、クーラーを開けての魚の品評会が行われていた。釣れたときは、釣り師は自然とクーラーの蓋を開けたがるもの。船長も久しぶりの大漁にご満悦だ。

 

離島の底力をまざまざと見せつけられた今回の釣行。自分の先祖と更新しながら魚と対峙できる硫黄島の磯をいつまでも通い続けたいと、港に着くやいなや次の釣りを画策するのであった。







悪天候続きで 今回が開幕戦です














今日も 硫黄岳が やさしく迎えてくれました











鵜瀬からの渡礁です








N村さんは鵜瀬に渡礁















立神やミジメ瀬が見えてきました





ミジメ瀬









無事 ミジメ瀬に渡礁







M中さんもやる気満々










潮はいい感じで流れています


午後8時40分過ぎ まず1匹


2匹目は オキフエダイ





9時15分頃 シブ2匹目






10時過ぎに来たシブ



満潮の潮止まり うれしい温かい食事



















アカジョウだと思ったのに~^^;



巨大蛸をバラしたM中さん



ありがとうミジメ瀬







戦いを終えた戦士たち







さようなら 硫黄島 また来るよ






今回の釣果



オキフエダイのアヒージョ


シブダイの刺身


タバメのフライ



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