10/25 海のテロリスト 大分県佐伯沖の鰤釣り



大分県 佐伯沖のブリ釣り

秋がやってきた。

 

シブダイには10月初旬に別れを告げ、新たな対象魚が頭に浮かんでくる。それは、食欲の秋ではないが、九州沿岸の養殖いけす周りに渡り鳥のようにやってくるある魚のことである。それは、海のスプリンターこと鰤である。毎年、このエキサイティングな釣りを楽しむことがここ数年恒例となっている。

 

秋も深まり鰤の釣果が聞かれるようになった10月も後半。日曜出勤の代休として25日が休みとなった。平日に釣りに行く絶好のチャンス。ここは、ちょっと遠いが佐伯港から鰤釣りを演出してくれる松風さんに命運を託すことにした。

 

松風さんは、このところお世話になっている遊漁船で、客の要望を最大限に聞いてくれる頼もしい釣り人のサポーターだ。しかも、竿2本出しが基本で、鰤釣りをしながら、同時に五目釣りもさせてくれるからありがたい。今年は、初めての鰤釣りなので、魚釣りの情報がほしいところである。

 

そんな時、ネットつながりでお世話になったせきぞうさんが鰤釣りの情報をくれるという連絡が入った。22日に、せきぞうさんが松風さんにお世話になったそうで、その釣果報告をラガーマンらしくまるでオフロードパスのようにボクにくれたのだった。

 

「昨日は、鰤は船中2本でした。重要なのは付け餌でした。アタリが頻繁にあったのは、イワシの一匹がけでした。サワラが度々ヒットしてハリスが切られました。生のイワシを持って行かれることを強くおすすめいたします。」

 

こんなありがたい報告はなかった。この釣行のわずか3日前の情報は“One for all. All for one.”を彷彿させる。海なし市町村なので生のイワシを手に入れることはできなかったが、最も信頼できる食材を提供していくれる「〇度市場」の生イワシの冷凍があったっけ。タイやアジねらいの五目釣りの餌である赤アミとオキアミ生も事前に準備した。

 

折しも台風が日本列島に接近するため、沖磯はほぼ絶望的な期日だったが、佐伯の鰤釣りは湾内だから問題なし。心配していたが、あっさりと船長から釣行許可をいただいた。

 

午前1時15分に自宅を出発。九州自動車道を南へ下り、えびのICを降りて一般道へ。宮崎西ICから再び東九州自動車道を今度は北上。佐伯ICからかわの釣具店へ到着したのが午前4時20分。ここで天秤や保険としての冷凍イワシを購入する。

 

佐伯港に着いたのが、集合時刻の50分前の4時40分。すでに3名の釣り人がスタンバイ。暗闇の中で談笑していた。

 

やがて、船長が登場。くじを引いて4人中3番をゲット。船尾左側の釣り座に決定。早速、2本竿出しの準備に取りかかる。

ぶるん、ぶるん。

 

船は、午前5時45分、暗闇の佐伯港を出発。上浦の養殖いけすのポイントへ松風は走る。走ること300分でエンジンがスローに。船長がアンカーを入れる。仕掛け作りに夢中で気づかなかったが、周りを見るとすでにいつの間にか明るくなっていた。

 

2本の竿でどちらを鰤釣り用にするか迷ったが、撒き餌が集まった方がよかろうと、内側を鰤釣り用、外側を五目釣りの竿とした。船長の合図を静かに待つ。

 

「アジ釣りは、底から7mあげて釣ってください。鰤のタナは30mで始めてください。では、どうぞ。」

 

午前6時過ぎ、船長の合図で釣りが始まった。まずは、五目釣りの仕掛けから投入。するするとPEラインが水中に吸い込まれていく。PEラインが緩んだところですぐに巻き上げる。続いて、冷凍イワシを大型の鰤釣り専用のかごに詰めて鰤釣りの仕掛けを落とす。心地よくPEラインが出ていき、ラインの糸を確認しながら30m付近で止め、2,3回しゃくって餌を出す。本命の釣りとおみやげ用の釣りの二刀流のスタートだ。

 

磯上物釣りと違い、基本はここからあとは待つだけ。竿先には養殖筏が見える。海鳥が時折視界を横切っていく。

 

ポツポツポツ

 

「カッパ持ってくりゃ良かったなあ」と誰かがつぶやいた。

 

おや、突然の雨だ。台風の影響で上空は不安定なようで、スコールのような雨脚だ。この雨長続きすることなくすぐにやんだ。遠くを見ると、黒っぽい雨雲がいくつかあり、その下ではシャワーのような白い線が見える。

 

雨がやんだと思っていると、左側の竿に生命反応が現れた。電動リールのスイッチを入れる。竿先がまるで生き物のように不規則に曲がったり伸びたりしている。アジが食いついたんだろう。アジの口は切れやすい。すぐに抜き上げる。船の床にまるでゼンマイ仕掛けのおもちゃのように飛び跳ねるマアジ。30cmクラス。ここではこれがアベレージサイズのようだ。

 

手際よく生け簀に入れ、次の仕掛けを入れる。それも隣の鰤釣りの竿を見ながらの作業だからこれが中々忙しい。

 

さあ、これから魚の活性が上がるだろうと思いきや、これが続かないと来た。ただ、仕掛けを打ち返す時間だけが過ぎていった。空を見上げると、夜が明けたはずなのに、相変わらずの憂鬱などんよりとした空模様だ。活性のない釣り人の背中を再び雨が叩く。さっきより強い雨だ。一番チャンスと思われる朝まずめなのに、こうして無駄に時間だけが過ぎていく。釣り人はたばこを吸ったり、おにぎりをぱくついたりしてまったりとした時間をやり過ごした。

 

「キーン」

 

そんなとき突然、電光石火のごとく電動リールの音が沈黙を切り裂いた。人の動きが突如として静から動に変わる。そして、そのすべてのエネルギーが電動リールのする方向へと向けられた。

 

船長が忍者のような動きで玉網かけに入る。竿は根元から曲がって尺取り虫のように躍動している。間違いない鰤だ。しかも、良型の。玉網にかけられて船上に現れたのは、6kgクラスの丸々太った鰤だった。その釣り人に安堵の表情が生まれた。

 

鰤はいる。確実にいる。いるなら釣れる。他の釣り人に闘争心というスイッチが入った。仕掛けを握る手にも力がみなぎっている。かくいう自分も何とか釣らなくてはと、力が入る。

 

「30mです。餌は鰯の一匹がけがいいようです。」

 

それからというもの、おみやげ釣りも視野に入れていたが、この事件を境に、アジ釣りなどどうでも良くなった。

 

ところが、当たるのは、おみやげ釣りの方ばかり。アジやカマス、へダイ、そして、他の釣り人はサバなどを釣り上げていくが、一向に鰤のアタリがない。

 

「おかしいねえ。昨日は結構釣れたのにね。」

 

船長も首をかしげている。まあ、釣れる日があれば、釣れないこと日もある。これは仕方のないことだが、それでも遠くからここまで来たんだ。何とか1匹でもいいから鰤を釣らなくては。

 

ここまで釣りをしていて不思議なことがあった。どうもあちらこちらで仕掛けを切られる事件が多発し始めたのだ。おかしいな。夏にはこの沖でフグの大量発生があったが、どうもフグではなさそうだ。もちろん、自分も仕掛けを切られてしまった。

 

一体何がハリスを切っているのだろう。その答えはしばらくすると出た。ボクの後ろの釣り人が、犯人を逮捕した。その犯人はサワラだったのだ。それは、まだ幼魚のサゴシサイズだが、ハリス10号を切るには十分な獰猛な歯を持っている。

 

「サワラがまわっているんですよ」

 

と船長。鰤の喰いが悪いのはこいつのせいか? 釣れないのをこのサワラのせいにしておこう。こいつは、突然、付け餌にアタックしてくるものの針の掛かりが悪いとハリスを食いちぎってしまう。いつ攻撃してくるか分からないまるでテロリストのような魚だ。

 

しばらくすると、後ろの釣り人が見事に鰤のアタリをとらえる。竿が根元から曲がる。鰤のアタリだろう。ところが船長は

 

「これは、サワラかな」

 

浮いてきたのは、船長の言うとおり、海のテロリストサワラだった。でかい。80cmオーバー・4kg位はありそうな魚体だ。

 

「これは、中々釣れないよ。それに、鰤よりおいしいからね。」

 

サワラという魚は知ってはいるが、サゴシサイズしか見たことがなかった自分にとって、この魚は自分の中の価値観が変わるに値する瞬間だった。

 

よしっ、ボクもサワラを釣るぞ。

 

とはいっても、そう簡単に釣れるものではない。相変わらず、五目釣りの対応を強いられ、アジをいけすにいれ、一息入れたときだった。コンビニのおにぎりを開けようとしておにぎりを手にかけた瞬間、視界に尺取り虫になった竿が見えた。紛れもない自分の竿だ。よっしゃあ。おにぎりをそこらへんに投げ捨て電動リールスイッチオン。

 

kamataさん、サワラかもね」

 

船長の助っ人が入る。しかし、浮いてきた魚は鰤4.8kgだった。釣り上げられてひとしきり暴れる海のスプリンター。船長に取り押さえられ〆が入る。そして、手早く血抜きが行われる。魚を釣らせてもらえるだけでなく、魚を締めて血抜きまでしてくれる遊漁船はそうないはず。極上のサービスを受けながら、ほっと胸をなで下ろす。ようやくボウズを逃れた。

 

1匹釣れると精神的にポジティブになれるから不思議だ。さっきは釣れる気がしなかったが、今度はまたすぐに釣れそうな気がする。小さな成功体験は、釣りでは大きなアドバンテージだ。

 

程なくして、再びアタリを拾った。今度もでかい。また鰤だろうか。

 

「サワラかな」

 

船長はさっきサワラの釣果予告を外したにもかかわらず、再びサワラの釣果予告。

 

kamataさん、サワラだったら、天秤を取ったら一気に手前に引き寄せてください。」

 

そういえば、後ろの釣り人がサワラを取り逃がしていたっけ。なるほど、分かった。頭では理解したつもりだった。しかし、海のテロリストはこちらの想像以上だった。

 

サワラと分かった瞬間、天秤を抜き上げ一気にハリスをつかみ、一気に手前に引き寄せる。船長が玉網をかける。ところが、そのテロリストは、網を見ると急旋回し、網をよけて右横へと急発進。行かせてなるものか。ハリスを力強く握るものの、テロリストのパワーを思い知ることになる。ライズするように横走りを右手の人差し指一本で止めることになった。強烈な彼の力に人差し指の第2関節の皮を切り裂いた。

 

痛っ!

 

鰤釣りでの必須アイテム手袋を装着するのを忘れていたことにようやく気づいたのだった。痛みをこらえながら、テロリストの突進を止め、反対方向に向きを変えさせる。右横に走ることをあきらめたやつは、今度は反対方向に走り始めた。そこへ、うまく船長の玉網が入った。

 

船上で暴れる魚は、紛れもないサワラだったのだ。早速、〆に入る船長。

 

kamataさんやりましたね。さっきのより大きいんじゃありませんか。中々つれないんですよ」

 

途中から、意識は鰤本命からサワラ本命に変わっていたので、本当にうれしかった。

 

それから、ハマチ3kg、さっきより少し小さめなサワラを一本追加して、釣りを終えた。この厳しい状況で、本命と準本命を2本ずつ釣れたので本当に満足だ。

 

楽しい時間もあっという間に過ぎ去り、納竿の午後0時半となり竿をたたむことにした。

 

豊の国の海よありがとう。海のスプリンターとテロリストをクーラーに納め港へ凱旋。釣りに向かうとき、どんよりとした鉛色の空は、いつの間にか爽やかな秋空へと変わっていた。また来るぞ。そして、再びスプリンターとテロリストと知恵比べをすることを誓い清々しい秋の佐伯港を後にするのだった。








今回も松風さんで










本命のブリ釣り用タックル






















こちらがおみやげ用のタックル






こんな感じで餌を付けます









テロリストの逮捕に成功















今日はアタリが少なく厳しい釣りに

















お疲れ様でした




今回の釣果




















サワラの刺身 全身トロ 最高!








サワラはタタキがうまいですね







新鮮な鰤の刺身




ブリの胃袋の炒め物





サワラの西京焼き



新発見 へダイは味噌汁が最高に美味い














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