10/11ナポレオンよお前もか 甑 瀬々野浦

2003年、秋磯第2戦。10月の3連休の大潮に照準を合わせてイメージトレーニング。その日に夜釣りの開幕戦も兼ねていた。昼釣りには秋磯シーズンには早いが、もしだめでも夜釣りがあるさという魂胆である。期待は否応がなしでも高まっていく。

ところがいくら強い願いを持っていても人間にはどうしようもない部分がある。またも、運命のいたずらに次々と不運が襲ってきた。まず、ueno氏は息子の試合アンド稲刈りでだめ。八代在住のK氏と約束していたが、やはり稲刈り。日本の食糧安定供給のためには仕方がない。最後のつてである新人で準教え子の労金のT氏を無理やり誘った。

ところが、2日前になって「先生,ぎっくり腰になりました。」天は我に1人で行けといってるようだ。更に、予約していた誠芳丸の船長から「遊漁船の許可証の切り替えがまだなんですよ。ごめんなさい。」と連絡が。偶然にも不運にも悪条件が重なった。

しかし、哲学の世界では偶然は有りえない。これもわが身の不運を示した必然なのだ。

10月11日は3連休の初日。太平洋側に低気圧を伴った前線があり、風は東後北東であった。この数日間かなりの風が吹いている。当然、九州の東側、北浦、南郷水島などの好ポイントは時化。南側枕崎はきっと水温高くエサ取り天国。となると、九州の西側しかない。新聞の情報だが、川内沖の名礁「鴨の瀬」で1キロ前後のオナガが1人5〜6枚あがっているということに心を動かされ電話を。若潮丸下川船長が機嫌よく答えた。「上物はいっぱいです。12日なら空いているよ。」やはり釣れているな。私は、彼の声が心なしか上ずっているのがわかった。

うーん、いろいろ考えたが5月にいい思いをさせてもらったロストワールド甑に行くことにした。シーエキスプレスさゆりに電話すると、「瀬々野浦に行く。3時までに来い。」だった。すぐにえさを購入し、一路阿久根港に。上物底物計6名が乗船した。その人数は、シーズン入りには未だ早いということを示していた。北東の風、波2メートルの予報の中、さゆりは阿久根港を後にした。船の中で仮眠していると、あっという間に午前5時過ぎに瀬々野浦へ到着。Drコトーの聖地でもある下甑。果てしない東シナ海の水平線。断崖絶壁が連なる陸。巨大なコンクリートの防波堤の奥にこじんまりとしたわずかな人家の明かりが見える。人間の侵入を拒んできた手付かずの自然がそこにあった。

  2枚の青い幻燈です。

5月

ueno氏とやってきた5月。オヤビッチャがかぷかぷわらったよ。おいしいタカベがばりばり釣れたよ。口太が入れ食ったよ。イサキも歓迎してくれたよ。1枚目の幻燈は喜びでいっぱいの私の姿が映し出されている。さて、10月はどんな答えを用意してくれているのだろう。

10月

さて、第2永福丸に乗り換え、底物2人、上物1人を鷹ノ巣へと運んだ。客が少ないのでA級ポイントが選び放題だ。次に、当然船はナポレオン岩(チュウ瀬)へと進んだ。船長が「底物いませんか。」しーん。玉名釣研と荒尾の柳葉敏郎は首を横に降った。「じゃあ1人できた人どうぞ。」ついに初めてのナポレオンとの対面ということになる。

フランス革命の混乱のさなかに登場した彼は、一躍フランスの英雄になった。「私の辞書に不可能という文字はない」と言ったかどうか定かではないが、釣りの世界には不可能がないどころか、人間の力ではどうしようもないことだらけである。英雄はおごり、ロシアに敗退した後、コルシカ島に流されてその生涯を終えた。今私はその英雄に見守られながら、いよいよ魚との真剣勝負が始まる。

かみさんが言った。「海の命(立松和平)を読んでいると釣りをしてる人の気持ちがわかるような気がする。海は深いね。」よしよし中々いいことを言ってくれるではないか。その時、「エクセルは奥深いですよ。」と教育センターの指導主事の言葉が頭をよぎった。でもね、コンピューターは所詮人間が作ったもの。0と1の配列で出来ているプログラムには奥深いと言ってもやはり限界がある。

海は奥深い。与吉じいさが言った。「千匹に一匹でいい。」とまではいかなくても、せめて「一万匹に一匹」でいいからこの哀れな釣りバカを慰めてほしいものだ。

さて、午前6時に釣り開始。愛竿メガドライ1.5号ー50、道糸サンラインVISIBLE2号。ハリストルネードSVI1.5号(魚に見えにくいピンク色の優れもののハリス)リールはシマノアレックス2500番。ウキはグレックスのグレディアG2(M)に潜行ストッパーをつけ、タナ竿1本半にして仕掛けを投入した。ハリはがまかつの競技ヴィトムの5号スレタイプを使用。

この10月は対流圏にいる我々はすごしやすい季節だが、海の中はサマータイムだ。水温27、8度の世界は多分撒き餌をすると即座にえさ取りだらけになるだろうと予想していた。そこで、配合エサを混ぜることがちょっとこわかったが、オキアミを3枚しか持ってこなかったので、マルキューのグレパワーV10とパン粉1キロを混ぜて撒き餌を作った。九州限定バージョンとして作られたグレパワーV10だが白く視認性がよく、集魚効果だけでなく潮の流れが読みやすいという利点がある。コマセをうつとえさ取りの姿がちらほら出始めた。しかし、数は少ない。よし、今のうちと朝マズ目の一発をねらって釣り始

                       
いきなり第1投から白ちゃんのお出迎え

める。第1投、エサは取られない。うーん、魚がまだいないのかな。撒き餌を広範囲に5,6回うち様子を見て、第2投。もどってきた仕掛けをチェックするがエサがない。おっ、何かいるな。タナを1ヒロ浅くして第3投。また、エサがない。再びタナを1ヒロ浅くして第4投。そこで、ウキに小さな当たりが。合わせるとハリに乗ってこない。えさを見るとかじられている。更に、タナを十五センチ浅くして、

第5投。仕掛けがなじむともぞもぞとした前あたりからグレディアG2が丁度よい速さで海中に消えていった。初めての本命らしきあたりにあわせをいれるとグーンとハリにのってきた。よし、30センチくらいかな。慎重に浮かせるとギラッと白く光る。ガクッ、そうです。イスズミでした。

すぐに海にお帰り願って再びトライ。そして、またすぐウキの消しこみが。これはでかい。必死に相手の突っ込みに絶えるが、ハリスがとんだ。たぶん、1.5キロから2キロクラスのイスズミだろうと自分で自分を慰め、朝マズ目のチャンスをものにすべく釣りを再開。

しかし、このころからえさ取りの猛攻が始まった。どこに仕掛けを投げてもだめだった。タナを3ヒロ、2ヒロ、そして、ハリス50センチ2段ウキ、全遊動沈め釣りも試したが全あたりなし。エサが3秒と持たない状態になった。もはや手前にえさ取りを寄せて沖を釣るといった秋磯のセオリーは通用しなくなっていた。あっちむいてほい釣法もやってみたがだめ。ここまでくれば何をやっても同じ。ひたすら永福丸の瀬替わりを期待するしかなかった。

11時前にようやく永福丸がようやく登場。ダメのサインを送ると「水温が高いからねえ。」とねぎらいの言葉が。前回口太が入れぐった場所に行ってみたかったが、強風で海がガチャガチャになっていて向こうに行けそうもない。船長は、私を平瀬と黒瀬の間の「コブ瀬」という小さな磯に乗せた。「一番高いとこ


ナポレオン岩(チュウ瀬)

ろから釣って。」と言い残して去っていった。瀬は家のような形で屋根の尾根の部分を真っ二つに切った人工的な形をしていた。試しに一番上に上って720センチある玉網ドリームキャッチャーを入れてみるとかろうじて海面に届いた。

磯のまわりを見るとゴロタ石が点在していて白く底が見えていた。水深は竿1本半くらいかな。白く見えるゴロタ石の間に黒く見えている落ち込みに潜む魚を引きづり出せということだろう。切立った尾根の天辺から1m下のところにバッカンをおけるところがあったので、そこから釣りをすることに。

しかけはウキ止めをはずしグレディア0号にグレハリスウキ00号をセット。風が強かったので、G2、G4のおもりを噛み付けゆっくりしもらせて探っていった。餌取りもほとんどなく、魚の生命反応もなく、また、強風で道糸がとられ中々仕掛けが入らず大苦戦。本当に釣りが出来るのと思ったところ、風が一瞬やんだ時、ウキが消しこんだ。あわせを入れると黄色っぽい魚影が見えた。イサキか?と思いぶりあげると、足裏サイズのフエフキが飛んできた。

魚がいるぞ。俄然やる気になるが、今度は1投毎にハリを取られるしまつ。あれっ、ハリスに傷が。あいつだな、ウスバだな。でもおかしいぞ、ウスバは見えないし。うーむ。そして、しばらくしてその正体を暴いた。5度目の正直で上がってきたのはわけのわからない魚だった。魚体はウスバハギそっくり。色は本カワハギに似ていて青色の斑点がついていた。一目でカ
 

コブ瀬より瀬々野浦港を望む

ワハギくん仲間だとわかる魚だ。もしかしてソウシハギか?名前は不明。地元の漁師サンに聞いたがあまりうまくないと言っていた。玉名釣研のおじさんは、刺身で食えると言ってくれた。試しに家に帰って刺身で食べたが、ウスバより味は落ちるが食えないことはない。しかし、好んで持ち返る魚ではないと思った。

こいつがハリを取ってやがったのか。そこで、ポイントを少しずらして釣りつづけた。すると今度は、イスズミの入れ食いが始まった。中には、1キロの良型も出たが、途中でメジナに変わってくれるわけでもないので、全て海へさよならである。回収の


やる気を失わせたブダイくん

時間が迫った。残り15分。ここで、いいウキの消しこみが。あわせを入れるとのってきた。おっ、これは竿をたたかないぞ。よしっ、と期待を持たせてくれたが、あがってきたのはブダイであった。これで一気にやる気はぶっ飛んだ。

後片付けに入る。他の客もコッパ2、3枚、オジサン、イスズミに苦しめられたそうだ。クロはいないのか?クロを釣りたくてセオリー通り攻めたが、人間の力ではどうしようもなかったのかも。瀬々野浦といえども水温という条件には勝てない。色即是空、変わらないものはない。「まだ、甑に行くには早かったかな。」と言い残して、ロストワールドを後にした。

次はシーズン真っ只中きっと会いに来るよ。久しく見ていないエメラルドグリーンの瞳を持つ恋人にささやいた。

私の幻燈はおしまひであります。


惨敗!

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