3/20 最後まであきらめない 天草松島

どういうわけだか天候に恵まれた今年の3月。今回もポセイドンからO.Kサインが出た。久しぶりに週末海は穏やかな天気の予報。これは行けるとき行くしかない。都合のいいことに、うちのかみさんは、5月に出産を控える妹さんのために息子を連れて東京へ旅立ってしまった。釣りに行く条件は整った。3月20日(日)長潮、天候は曇り。風は弱く釣りには絶好のコンディション。ただ不安は潮回りが良くないというだけ。今回は、最近、乗っ込みチヌが荒食いを始めた天草に行くことにした。朝まで、組合の書記長会で玉名にいたので、そこから天草に向かった。問題はいつものように釣り場選び。例によって、携帯サイト釣りナビで2つに絞り込んだ。一つは、2月終わり頃からチヌが動き始めた湯島・野釜島に案内してくれる「幸福丸」。もう一つは、3月に入り水温12度でありながら、デカ版乗っ込みチヌが釣れ始めた松島・維和島西磯に渡してくれる「第2むつ丸」。さあどうする。そこで、自分自身に問いかけた。きみはいったい何を望んでおるのだ。そうだった。チヌを数釣るのではなく、大きいのを釣るんだった。2日間で50オーバーが5枚出た維和島西磯に照準を合わせた。山本釣り具センターでエサを購入し、第2むつ丸が待つ大矢野・柳港へと車を走らせた。

午前11時ごろ到着。いるいる車がたくさん。ざっと数えても20人以上のチヌ釣り師が磯に上がっているようだ。3連休の中日だから仕方がない。10分ほど待つと3,4人がやっとのれるようなこじんまりとした船が登場。荷物を積んで港をゆっくり離れた。初めての場所なのでまずは船長さんに挨拶。そして、状況を詳しく聞くことにした。「今日は、お客さんが多くて維和のほうにはいかれんですね。」松島方面へ船は進んでいる。「タナはどれくらい?」「竿1本くらいからこまめに動かしなさいな。」「ハリスは?」「1.7号でいいです。でも、朝や夕方は2号が無難。」「やっぱり夕まずめがいいんですか?」「うーん、そういうわけでもないよ。潮がいけば魚は喰いますよ。最近50オーバーが数あがっとるけんですね。」良かった。この船長いろいろとレクチャーしてくれるのでありがたい。そうこうしているうちに、船は目的地に近づいたのか、減速を始めた。天草パールセンターの東側の奥まった磯に乗せられた。磯の名は「ウソ島」。釣り座から左側は「根があって浅いから気をつけてください。その根の先で喰ってくるので根にはいられんように気をつけてください。ここは普段あまり乗せないところだけど、でかいのが喰ってきますから、がんばってください。」そう言い残して船長は去っていった。11時瀬上がりという重役出勤だからA級ポイントは空いていないんだな。しかたないか。ここでしばらくがんばってみることにしよう。確かに根だらけだ。乗っ込みチヌが寄る一つの条件である藻がびっしり。こりゃ、もし掛けたとしてもチヌは根に一直線だろう。油を一面敷き詰めたようなべた凪の中、小さい島が所々に点在している。


最初の磯 ウソ島

松島の名のごとく大変風光明媚なところだ。時々ウイーンと水しぶきを上げてマリンジェットで走る若者が通り過ぎる。通り過ぎた後にできる波がのんびりとダゴチン釣りに興じるおっさんのボートを揺らしている。のどかな春の陽気にうっとりしながらビールをちびちびやっていた。いかんいかんまたまた悪い癖。観光に来たのではなかった。なぜか磯で食べるとうまい菓子パンをむさぼり食べた後、早速撒き餌づくりに取りかかった。オキアミ生1角に山本チヌファイトにヒロキューのイッキ浮かせチヌ、それにムギコーンを入れ、遠投できるようにやや堅めに仕上げた。次に仕掛けだ。竿は久しぶりの登場強豪2号。道糸2.5号にハリス1.7号。ウキはそれほど水深があるとは思えないのでゆっくり沈めながら探るイメージでツインセンサーG3をチョイスした。ハリは早掛けチヌ2号。11時過ぎに手前に見える一本松の先端を目標に第1投。ところが、潮が動かない。そして動き出したと思ったら、今度は左手前に当たり気味に動いてくる。遠投してもみるみるうちに手前の根に向かってくる。根掛かりはいやなのであわてて仕掛けを巻き上げる。こりゃ釣りにならん。この潮が続くかぎり100%釣れないだろう。かといって一本松方面へ潮が動いてくれたとしても真珠だなに居着いているおチヌ様を引っ張り出すのは至難の業か。


隣はA級ポイントの一本松

途方に暮れていると、なんと天の助けか第2むつ丸がこちらに向かって近づいて来るではないか。「kamataさん、いいところが空いたから瀬変わりしますかあ?」勢いよく手をあげる私。釣り初めて30分経たないうちに瀬変わりは初めてだ。「昼でやめるという人がいるからそこに乗せてあげましょう。」船は真珠棚をぐるりとまわって一本松に近づいた。「あそこのシズミという場所です。ここは、潮がいけば必ずチヌが来ますよ。潮が小さいときの方がいいです。」船長が指さしたところに釣り人がいて磯の掃除をしている。船をつけるとその釣り人は乗り込んできた。40cm後半のチヌが2匹御用となっていた。いいなあ。「タナはどれくらいでしたか。」思わずその釣り人に尋ねた。「わかりません。全遊動だったから。」マルキューの帽子を被ったおじさんが明るく答えた。


一本松シズミから 釣り人いっぱい

さあ、いよいよ本命ポイントに乗れた。早速磯の状況の把握にかかった。まず、竿2本先には真珠だながあり、それ以上遠くに仕掛けを入れられない。正面手前から階段状にドン深になっている。しかし、両側は浅くなっているので、ポイントはおそらく竿一本より先の深いところだと予想した。とりあえず正面の真珠だなぎりぎり手前に仕掛けを入れて潮を見た。全く動いていない。今干潮間際だからこれから潮が動くだろうとひたすら撒き餌をして時を待った。仕掛けをLETS0号の全遊動に変えてゆっくり底まで探るがまったく魚の気配がない。新聞で大型のチヌは底にあるエサを拾うようにして補食しているとあったのではエサをはわせるといいとあったが、潮が走らないとそれもだめじゃないのかな。潮が走らず餌取りさえいない状況は相変わらずだ。干潮を過ぎ上げ潮に変わるとやっと潮が少しずつ動き出した。左に動いたかと思うと、手前に当たり気味にきた。おいおいそこは浅いから魚はいないよ。できるだけ仕掛けを遠くの真珠だなぎりぎり手前まで入れるがみるみるうちに手前に当たってくる。先の真珠棚にいると思われるお魚さんを釣りたいのにねえ。しばらくは我慢の釣りになりそうだ。

午後も3時をまわった。風が出てきた。時折エサをとられるようになったが、もちろん本命ではない。このころから潮は反対に右に流れていくようになった。この潮が本命か?ところが今度も釣り人をがっかりさせることになる。潮はやはり手前に当たってきている。底ぎりぎりまで我慢するがやはり当たりなし。藻に引っかかっていくのをウキが教えてくれた。午後4時になる。もうすぐ夕まずめのチャンスタイムだが一向に変化なし。これだけ潮が走らないなら棒ウキでも使うか。棒ウキ入れの筒を覗いたが、遠矢グレと遠矢ウキ大しかないではないか。この条件にあったウキがない。クロ釣りにのめり込んでいることが裏目に出た。がっくりとウキ入れを竿ケースに戻そうとすると竿ケースの中から棒ウキが出てきたのだ。まるで、「私を使ってくださいな。」といっているかのように。そのソリッドチヌ0.5号で最後の夕まずめを勝負することにした。

ところが皮肉なことに棒ウキに変えた途端潮が速くなり出した。また、風も強くなりウキのトップが風に吹かれている。午後も5時をまわった。釣れない。ていうか、潮が行かないのだ。撒き餌と刺しエサはあっているはずだけどなあ。そのうち、釣れないからか真珠だなにいたボートや釣り船の釣り師たちが次々に去っていった。「客が少ない時が良く釣れますね。」の船長の言葉を思い出した。ダゴチンの撒き餌に群がっているチヌたちもこちらの撒き餌興味を持ってくれるかもしれない。午後5時半、だんだん辺りが暗くなっていく。未だに当たりすらない状態が続いている。潮は一段と速くなりガン玉を足して仕掛けを落ち着かせた。

潮は相変わらず右に動いているがやはり手前に当たり気味に流れてくる。6時半が回収だからタイムリミットは後1時間。「夕方は2号がいいですよ。」船長のアドバイスが頭に浮かび、ハリスを2号にあげた。いつもならこのあたりで諦めモードにはいるところだが、今回は納得いかない。なぜなら一度も本命の潮に巡りあえていないからだ。潮が走れば必ず喰ってくるはず。そう信じてひたすら仕掛けを打ち返し続けた。すると願いが通じたのか今まで手前に当たってきていた潮が真横に走り出したのだ。今頃になってと思ったが、チャンスには間違いない。慎重に仕掛けを竿一本先に入れた。いい感じで仕掛けが馴染んでいく。

この潮だよ、待ち望んでいたのは。仕掛けが馴染むとすぐに棒ウキのトップが押さえ込まれた。「おっ、来たか?」合わせようか一瞬迷っていると、魚が反転したらしくウキが消し込まれようとしていた。瞬間合わせた。ずんと鈍い重量感が強豪1号を襲った。キーンと糸鳴りがしている。心地よい音だ。本日最初で最後のチャンスかも。ばらしてなるものか。竿をできるだけ立てて魚を暴れさせないように注意してやり取りを始めた。首を振るいつもの行動から喰った魚がチヌであることを確信していた。ただ、思ったより引かないな。1キロ前後の魚かも。1回目の巻き取りで魚が急に右の根回りへとつっこみ始めた。こりゃやばい竿を左へ寝かせて応戦。チヌはクロと違い往生際がいい魚である。竿を立てていると自然と浮いてくるのがチヌだ。あわてるな、と自分に言い聞かせて慎重に竿を立てていると浮いてきた。ギラリッとチヌが水中で確認できた。頭の中は真っ白。本能の赴くままにやり取りをしている自分がいる。きっと、私の頭の中は脳内モルヒネのドーパミンが大量分泌されているに違いない。だから魚釣りがやめられないんだろうなあ。ということは私は麻薬常習者ということになる。おっとチヌはどこに行ったのかなあ。ぎらっと姿を見せてくれたかと思うと彼女は再び突っ込んだ。竿を両手で持ち慎重に浮かせた。あまり大きくないな。左腕で竿を立てたまま玉網を右手で取りに行く。いつもの手慣れた動作だ。しかし、その隙に彼女はまたつっこみ始めた。やばい、左手でもう一度浮かせ玉網入れを一発で決めた。重たいなあ。上がってきた魚は思いのほか大型のチヌだった。50あるなしか。自己記録を更新は間違いない。感慨に浸っているとその時丁度6時のサイレンが鳴った。


最後の最後に会いに来てくれた50オーバー銀鱗の彼女

早掛けチヌ2号が鮮やかにいわゆる地獄のやや奥にかかっていた。今がチャンス。乗っ込み期のチヌはつがいで行動することが多い。もう一匹近くにいるはず。潮が変わらないうちにと無我夢中でハリを結び直して仕掛けを入れた。再びもぞもぞと前当たりがあり、合わせを入れた。竿にのったが軽い。あがってきた魚は20cm越えの良型のメバル。煮付けには最高だが、対象魚ではないので海へお帰り願った。メバルが釣れたということはもしかして時合いは終わり?予想通りメバルが釣れてからはチヌの気配がなくなり、6時半になったので納竿とした。何と短い時合いだったことだろう。6時40分に第2むつ丸が迎えに来てくれた。船長が声を掛ける。「どうやったですか。」「1枚釣れました。」「どれくらいでしたか。」「50はないと思うんですけど。」しばらく走ると船長が船を止めて、「魚を測ってみましょうかね。」船長がメジャーを当てると「51cmですね。50を越えていたので渡船料は半額です。」うれしいサービスだ。

この渡船では、50オーバーのチヌを釣った客は渡船料を半額にしてくれるというのだ。船長から心のこもったあったかいコーヒーをすすりながら、充実感にひたっていた。柳港に上がった。山本釣り具センターで餌を買ったら、チヌダービーの券をくれたので、せっかくだから、そこで検量してもらうことにした。正確には、全長50.5cm、重量2364gだった。納竿30分での釣果。野球でいえば、0行進のあとの逆転サヨナラホームランてとこか。これが、乗っ込み期のチヌ釣りの醍醐味なんだろう。この釣行で、私は最後まで諦めないことの大切さを学ばされたような気がする。今日の釣果は20名ほど上がって17枚のチヌが釣れ、そのうち50オーバーが私のを含めて3枚。維和島周辺で56cmの大型がでたそうだ。めったにないことをやらかすからか、今日私の実家の福岡市で震度6弱の大地震があったことを付け加えておきたい。


おとうさん竿がかなり曲がったろ? むすこ談

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