5/4 尾長を指名したのに 下甑手打

早崎のハナレ、大介、上村瀬、下村瀬

これらの言葉を聞いてテンションが上がるのは、そう間違いなく九州地方の磯釣り師である。4月1日解禁以降、九州でナンバーワンと言っていいほどの人気となる手打西磯。九州の磯釣り師はもちろんのこと、遠くは関西からもうわさを聞きつけてやってくるほど。かくいう人吉盆地在住の釣り師であるuenoさんとおいらも思いは同じである。西磯で釣りができるのは4月から10月いっぱいということなので、クロの釣果に恵まれようとするならば、どうしても4月から6月ということになる。4月から6月の間は、何としても手打に行きたいとuenoさんと計画を立てるものの今まで実現したのは1度しかないのだ。なぜ、手打への釣行を計画しても実現しないのか。

まず、手打西磯は真南にある手打湾から西向きにある早崎までの甑島西海岸にあるため時化に見舞われやすく、予約できたとしてもこれまで中々ポセイドンの許可が下りなかった。1度だけ実現した時も夜中の間に野崎に渡礁できたものの時化てくるという予報で1時間ほどでややワンドになっている赤鼻方面に瀬変わりという憂き目に。

次に、あまりの人気のために予約がとれないということもある。3月ごろからuenoさんに予約しておくように頼まれるのだが、そのときはすでに遅く、5月の連休までは予約でいっぱいという状況。5月の連休は何とか手打へと考えていたのだが、残念無念とダメもとで片野浦や手打に精通している未来丸(みくまる)はどうかと聞いてみた。以前は、片野浦港からの出船のみであったが、最近は阿久根港から出港するようになったという情報を得ていたからだ。「いいですよ。1泊2日釣りで2名ですね。」と何と意外にもO.Kサイン。やったぜ、5月の連休なら気兼ねなくゆっくりと釣りができる。この吉報をuenoさんも手放しで喜んでくれた。

手打西磯が人気となるには、もう一つ理由がある。それは、デカ尾長が高確率で当たってくるという点である。手打早崎一帯は大変潮通しがよく、磯上物師憧れの度ナンバーワンの尾長が回遊してくる。昨年は、夜釣りでも、昼釣りでも60を超える尾長が釣れている。今年も数は昨年ほどではないもののロクマルの尾長が釣れている。uenoさんもおいらも昼釣りは50cm以上を釣ったことがなく、ともに夜釣りで52cmをあげたことがあるだけだった。同じクロでも口太とは全く習性と釣り味を持つ尾長を釣ることは、現在では磯釣り師の一つのステータスとなっているほどだ。最近は尾長専門に狙う人が多くなっていて、仕掛けも尾長のパワーに負けない太仕掛けで臨む釣り師が増えているそうだ。1日のうちあるかないかわからない本命潮が流れた時をじっくり待ち、太仕掛けで勝負する。この釣りではもはや口太は餌取りなのだ。でも、この釣りスタイルに我慢が出来ず、仕掛けを落として口太を狙ってしまう。そんな時に限って尾長が当たってきてばらしてしまうのだった。だから、今度こそは尾長が喰ってくる条件が整ったら尾長一本で行こうと心に決めたのだ。そのためには、昼でもデカ尾長が現れる釣り場に行くしかない。それが我々が手打に行こうと萌える理由なのだ。


心は萌える釣り師たちの出陣 いざ手打へ

心配していた天気も、ここ数年では最高と言えるほど、5月のGWの天気予報は安定していた。釣行日の4日、5日は4日が40パーセントと微妙だが全く心配いらない予報だった。案の定、「1時出港です。」と船長からGOサインがでた。我々は久しぶりの手打に心踊りながら、午後9時半人吉市内を出発した。GWで1000円という高速料金に踊らされたマイカーがいく中、我々は一般道を余裕で南へ下った。途中阿久根AZで買い物をし、阿久根港に着いたのが午前0時15分。すでに、未来丸周辺にたくさんの釣り師が集結していた。

「お世話になります。」早速、船長に挨拶。「カマタさん?乗船名簿を書いて」と船長。客の命を預かる職業なのが渡船業界。もちろん、我々はお客なのだが、船の中では船長が絶対的権限を持つ。自分の命を預けるわけだから、決まりごとにはきちんとしている方が安心だ。素直に乗船名簿に名前を記入する。本日の客は14名ほどか。それから面白いことにここは他の渡船とは違って前金制なのだ。まあこちらも先にお金を払っておけば安心と渡船料を支払いすっきりしてキャビン内に滑り込む。

あと15分で午前1時になる頃、手打への夢先案内船「未来丸」は穏やかな真夜中の阿久根港を離れた。船は漆黒の東シナ海を甑島手打を目指して南東向きに進む。信じられないような凪の航行。このところの東向きの風などで宮崎などの九州の東海岸は時化状態が続いている。そのおかげで西海岸はべた凪だ。安心したのか、急に睡魔襲ってきた。ライトが消され真っ暗のキャビン内では、強烈な親父臭とともに尋常でない釣り師のオーラを感じつつも、睡魔には勝てずいつの間にか眠ってしまった。

どれくらい時間がたったことだろう。船は相変わらず快調に飛ばしている。そろそろ手打に着くころかな。起き上がろうとすると、エンジンがスローに。いきなり釣り師の動きが活発になる。その流れに乗り遅れまいと我々も磯靴をはいてキャビンの外に出た。船は、進行方向の左側の断崖に近づき。サーチライトを当てて釣り師がいないか確認している。ここは一体どこだろう。あまりこの一帯に足を踏み入れたことのない自分にとって、この場所を当てるにはあまりにも情報が乏しすぎた。


片野浦からの渡礁 未来丸

「ここはどこな?」こんな時uenoさんは、必ずおいらに聴いてくる。ところが、今回は恥ずかしながら今どこにいるのかわからないので答えようがなかった。この下甑島一帯は、地磯は断崖のようなところが多く、同じような風景が続く。船は、底物師らしき釣り師を2組ほど渡礁させた後、やや湾の開けた場所でエンジンを落ち着かせた。湾奥に人家の灯りが灯っている。新しい情報がおいらの脳細胞に届いた。片野浦だ。ようやく自分たちの位置が確認できたと思えば、船はこのところ不調の手打をしり目に比較的よく釣れている片野浦を代表する好ポイント「沖オサ」「ヘタオサ」に近づく。「沖オサ」には夜釣りの先客がいたため、「ヘタオサ」に3名の釣り師を渡礁させた。

船は反転し、片野浦の地磯を左手に見ながら、全速力で走る。暗闇の中で時折灯りがともる。夜釣りの先客が結構な数確認できた。さすがに、GW。手打はかなりの釣り師を収容しているようだ。まもなく、磯釣り師憧れの地「早崎のハナレ」だ。しばらく走ると片野浦から手打エリアに入ったらしく、眼前に見たことのある円錐形の磯が見えてきた。早崎のハナレとの今期2度目の対面だ。一度は乗ってみたい手打で一番の憧れの磯。しかし、次の瞬間渡礁の夢は破れた。やはりさすがにこのGW。そうやすやすと素人釣り師の渡礁は許さぬぞ。アダムスキー型UFOにも見えなくはないそのハナレ瀬に乗っている海ほたる族はそう呟いているよう。

早崎のハナレを過ぎたところで、エンジンはスローになり、船は左にかじを取り地磯に近づいている。おっ、4月にボウズという屈辱を味わった「早崎の地」に着けるようだ。この狭いといころに2名の上物師が渡礁。残り少なくなったので荷物を渡すポーターの役を買って出た。さて我々はどこに乗せられるのだろう。すると、タイミング良く船長から声が掛かった。「そこの二人の方」我々のことらしい。荷物を船首付近へ運ぶ。未来丸は夜釣りの先客がいる名礁「大介」をスルーし、小さい巌がいくつか点在している地磯に近づいた。初めての場所だ。体全身を緊張感が走る。すると、サーチライトが当てられた目標物は、硫黄島の鵜瀬のハナレのような大きさと形をしていた。どうやらその狭いこぶのような巌に乗れということらしい。明らかに狭い場所だ。大丈夫だろうかと考えてもしょうがない。とにかく、渡礁しなければ。


ハシカケの先端の釣り座

船がその巌に付けた。よしっ、意を決して渡礁。あまりにも狭いその場所で転げ落ちないように慎重に、しかし手早く荷物を受け取った。「瀬変わりはありません。昼ごろ迎えに来ます」とそのように船長が話したように聞こえた。最初はこんな狭いところでと思ったが、よく見ると後ろは少し低くなっているものの、比較的平らな場所があり、波が上がってこないことを確認すると荷物を下の段に下ろすことにした。あとで聞いたが、この磯を「ハシカケ」というらしい。

満潮が4時過ぎ。今から下げ潮の時間帯だ。早速、撒き餌づくり、仕掛け作りに入った。撒き餌は、沖アミ生とアミに集魚剤半袋を混ぜたもの。竿はこのところ登板の多いダイワマークドライ3号遠投に、4号道糸を巻いたリール。ハリス6号にハリは鯛ハリ12号。ウキは、1号のドングリ形状の電気ウキを。ねらいはもちろん夜尾長。水温低下が予想されるのでタナはまず1本から始めた。

まだ暗いためまわりの状況がよくわからない。早くも先端の釣りやすい釣り座をゲットしたuenoさんの後ろにバッカンを置き、潮をuenoさんの電気ウキの状況で潮の流れを読んだ。潮は結構いい感じで沖に向かって左に動いている。右は根だらけで沖から潮が入りにくい形状をしている。今がチャンスではないかと本能的に感じたおいらは、手前から流していった。暗黒の海にあまりにも鮮やかな赤い人工的な光がゆらゆらと波間を漂っている。夜釣りの醍醐味の一つである。この灯りがゆらゆらと波紋を広げながら、海中へと吸い込まれている瞬間。これがたまらなくドキドキするのだ。反応がないので仕掛けを回収する。餌はそのままの形で帰ってきた。さらに触ってみると冷たい感じがした。

「uenoさん、アタリありますか」情報を得るために、師匠に探りを入れてみる。「ぜんぜん」とつれない返事。タナがもう少し深いのではと感じたおいらは、タナを少しずつ深くしていった。深くすること1本半。いままで魚信をまったくとらえることができなかった釣研の電気ドングリ1号の赤い光がさっきとは明らかに違う動きでゆらゆらと沈み始めた。アカマツカサなどの餌取りでないことを確信したおいらは、道糸はハリ気味にして合わせに備えていたが、意外にも向こうから先に仕掛けてきたのだった。道糸が走る。反射的に竿をたててやり取りが始まった。手前は根がありそうだったので、強引に勝負にでたが、思いのほかやつはあっさりと水面を割った。尾長かと期待したがぶりあげられた魚は40cmを少し超えたところの口太であった。


夜明け前に釣れた41cm

「よかなあ、カマタさん」とuenoさんが声をかける。まだ夜が明けぬうちにボウズ脱出という意外な展開。前回の手打では散々なボウズを食らったのに、釣れるときは本当に簡単に思いがけなく釣れる。だから、魚釣りはやめられないのかも。この後さらなる魚からの反応を期待したが、残念ながら本命を釣ることができずに夜明けを迎えてしまった。

夜が明けた。昼釣りだ。uenoさんは、4号竿から2号竿へとチェンジだが、おいらは3号竿のまま。尾長を狙うために、昼も夜も同じ竿を使うという選択を行った。撒き餌を夜釣りの沖アミとアミ中心から、集魚剤とパン粉を中心とした撒き餌に変えた。道糸4号、ハリスはブラックストリーム2.75号。ウキはG2の半遊導竿1本から始めた。ガン玉G4を直結部分にかみつけ、仕掛けを落ち着かせた。昼釣りの準備でちょうど磯を休ませることになったこの場所での第1投。潮は沖に向かって本流が左に走る引かれ潮に乗せていくと、さっきと同じようなあたりがあり、ウキが見えなくなるまで沈んだところで道糸の反応が現れた。対馬暖流が育てた魚の閉め込みを、3号竿の剛力であっという間に浮かせた魚は、33cmほどの口太だった。


 名礁「大介 早崎のハナレ」が眼前に

これで2枚目。まだまだ釣れる感じがする。案の定、8時までに口太の44cm、43cm、32cmを立て続けにゲット。合計5枚で10時半の干潮潮泊まりを迎えた。釣果としては、まずまずだが、大いに不満なのは尾長の当たりさえないということだった。湾に引っ込んだ形状のためか、どうしても手前にあたってくる潮が多い。手前に当たる潮では尾長を釣ることは難しい。午後から、何とか尾長の顔を見たいと、口太狙いをやめて尾長一本で行くことにしたのだが、しばらくはあたり潮のまったりした時間だけが過ぎる展開となった。せっかく、尾長一本狙いの仕掛けに変えたのにと考えていると、潮が左斜め沖に走りだした。チャンスだ。焦る気持ちと戦いながら仕掛けを流していくと、午後3時半ごろ、道糸が走る強烈な引きがやってきた。よっしゃあ、チャンス到来。


この日最大魚 44cmの口太 尾長の期待が高まる


左はこれも憧れの断崖に上村瀬 こちらに潮が流れれば・・


ハシカケの釣り座 この下がオーバーハングになっているようだ


釣れんなあ クロの魚信もなく苦戦のuenoさん


おいには またイスかい

竿をたてて応戦するものの、やつのパワーは予想以上だった。釣り座から20m先に浅い根があるらしく、そこに道糸が引っ掛かりどうにもこうにもいかなくなった。痛恨のバラシ。やつのほうが一枚上だったようだ。くやしいがバラシはバラシ。しばらくはその影響か全く魚信をとらえることができなかった。最後のチャンスと意気込むが魚を掛けることができなかった。5時ごろアタリがあったがこれもヘダイだった。潮の動きがもう一つということで残念。


船長の激励を受け午後の釣りに突入


大本命潮で今度こそ尾長を指名したのに来たのはこの方


寒いのお 雨に打たれ意気消沈のuenoさん

ところが夜釣りで最も心配なのは、雨である。2008年の11月に行った硫黄島の夜釣り釣行はおそろしく寒かった。体が雨により冷えて5月といえども寒さには要注意である。

uenoさんも、「おらもう寒くてたまらん」と寝袋に避難。この後の夜釣りに大いに不安を覚えてきた。幸い雨は10時ごろにはやんで、早速宴会が始まった。魚のあたりがないおいらにやることと言えば寝ることしかなかった。


雨がやんでようやく宴会に突入 その後爆睡


いつのまにか翌日の朝 あたり潮バイ


潮が変わるまでカップラーメンの朝食


前線通過後はおきまりの強風 沖でうさぎが跳ねてます


ありがとう ハシカケ また来るよ
 

退屈な夜釣りは終わり、2日目の昼釣りを迎えた。でも、魚からの反応はますます途絶えていった。私が1枚、uenoさんが2枚追加するのが精いっぱい。その後釣れる気がしないので12時ごろ納竿とした。


今回の釣果 口太7枚 44cm、43cm、41cm あとは30cmクラス


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