卒業してから もう3度目の春 
あいかわらず そばにある 同じ笑顔
あの頃バイクで 飛ばした家までの道
今はルーフからの星を 見ながら走ってる 

5/23 釣り師の未来予想図は 硫黄島

時は、5月。新緑萌える季節に囲まれながらドライブしていると、ラジオから懐かしい曲が流れてきた。






音楽は本当に不思議なものだ。ドリカムの吉田美和さんの透明感溢れ伸びのある歌声から、意図する意図しないに関わらず20年以上も前の情景が甦ってくる。社会人になったばかりで、仕事を覚えるのに夢中、子どもと保護者や格闘していた日々、そして、釣りを知らなかった自分。あの頃、おいらは一体どんな自分の未来予想図を描いていたのだろう。

5月に入り、前任校の先生から電話があった。息子が今年卒業した小学校に転勤になった先生だ。新聞発表の後、激励の電話をしておいた先生だった。電話の内容は前任校で退職されたH先生の還暦祝いをやるから参加してくれというものだった。喜んで行くという旨を伝え、その日を心待ちにした。

会場につくと前任校の懐かしい顔と再開した。H先生も元気で学童の補助員として活躍されているとのこと。そこでまたまた懐かしい顔がいた。一緒に勤務していたとき、釣りの手ほどきをしておいた弟子のKOHちゃんだ。初めて磯釣りを経験させたのが、硫黄島だった。そのときは、急激な水温の低下に泣いた。初めての釣りで惨敗の憂き目に合わせてしまったことが心残りだった。何とか汚名回復のチャンスはないものかと考えていた。願ったりかなったりの展開。そして、「先生、また釣りに連れてってください。」という社交辞令に乗ったおいら。ということで、おいらと弟子のKOHちゃんは硫黄島というあのすばらしいフィールドに再び向かうことになったのだ。

5月23日、大潮初日。4月に続いて5月も比較的穏やかな天候が続いていた。天気予報も23日はまずまず。「船長、アカジョウとクロが狙えるところにお願いします。」「いいよ。じゃあ、餌が2の1(赤アミ2角・沖アミ生1角)でいいな、タレのトロ箱も1つ準備しておくから。つけ餌は自分で準備してくださいよ。3時前に来てください。」相変わらず常に釣り人の立場に立って営業を続ける船長の人柄が表れる電話。この吉報をすぐにKOHちゃんに伝えた。我々は、午後11時に自宅を出発。午前2時前に枕崎港に到着した。


うねりでサラシもあるから釣れるよと船長

静寂のはずの枕崎港にきらびやかな明かりを放っている船を見つけた。草垣群島行きの第八美和丸だ。これからアドレナリンを全身から噴出させている底物師を飲みこもうとしていた。その100m先が黒潮丸の駐車スペース。我々の車が何と2台目。今日は、予想に反して予約が少ないようだ。ゆっくり準備をしてもさらにゆとりがある。仕事の疲れからかうとうととしていると、釣り師の空気の変化を感じて起き上がると、丁度黒潮丸の船長が軽トラックで登場。チャールズ=ブロンソン似のポーターさんもいつもの自転車でさっそうと登場。
釣り師は11名ほどだが、もっとたくさんいるような気がする。釣り師の熱気で肌寒い枕崎港に生温かい空気が立ち込める。

「ぶるん、ぶるん、ぶるるん」エンジンが2週間ぶりに眠りから覚めた。いつも思うことだが、この瞬間、釣り師の動きがにわかに躍動する。目的がはっきりしているからか行動はすっきりしていて見ていて気持ちがいい。ある種の哀愁さえ感じる。「カマタさん、今日はどこに乗る?」あれっ、船長はおいらたちをのせるポイントを決めていないのかな。今日は上物は自分たちだけだから、乗せるポイントはたくさんあるはず。「新島はどうですか?上げ潮でアカジョウも狙えるよ」「えっ、新島でもアカジョウが釣れるんですか?」「船着けのところで結構喰うよ」う〜ん、実は新島は気が進まなかった。今期、調子がよくなかったし、水深も浅く底の形状から、ブッコミは躊躇したくなるようなポイントだからだ。

「船長、鵜瀬のハナレはどうですか?」と新島に乗りたくないおいらは、すかさず船長にジャブを繰り出す。「今日はうねりもあるから、鵜瀬のハナレは厳しいかもね。」船長もジャブで応酬。やはり、硫黄島の海を知り尽くしている船長の一言は重い。「わかりました。新島で行きましょう」と思わず返事をしてしまうのだった。


みゆき瀬 アカジョウのポイント

釣り師が全員乗ったことを確認すると、午前3時前黒潮丸は静寂そのものの枕崎港を出港した。沖堤防を過ぎるとエンジンは高速回転になる。そこでしばらくすると今日の海況を知ることができる。ドスンドスン、と時折うねりにぶつかる黒潮丸の情景がみえるようだ。やはり、低気圧通過後の北西風が吹き、予想以上にうねりが強そうである。そうこうしているうちにいつの間にか深い眠りに落ちて、気がつくと、エンジンがスローになっていた。

心地よい潮風が頬をかすめていく。風やうねりもそれほど強くはないようだ。鵜瀬のハナレにのれないかな。今日も鵜瀬からの渡礁のようだ。底物師3名が、口白の第1級ポイントへの準備を始めている。「カマタさん、鵜瀬のハナレはやっぱりうねりで厳しいね。それにここのところ調子がよくないから、新島でいいかな。上げ潮で釣れるよ。」やはりうねりで鵜瀬のハナレは断念だ。新島への決意を固めていると、「カマタさん、上げ潮が止まっているよ。新島もきびしいね。どうしますか?」とりあえずおいらたちを新島に乗せとけばいいのに、船長は潮を読んで他のポイントを勧めている。新島もゴロタ石を歩けば、下げでも食うポイントはあるのだが、アカジョウのための餌が無駄になってしまう。何時も思うことだが、この細やかな配慮は本当に感心させられる。さすがに、元石鯛釣り師の船長。釣り人の心をしっかりと推し量っている。

ここは他の釣り客もいることだし早めに決断しなくちゃ。しかし、数あるポイントの中で、KOHちゃんへのリベンジを果たすためのものは一つしか思い浮かばなかった。「船長、みゆきでお願いします」釣り人の思いを汲み取った船長は新島へ急ぎ、底物師2名を船着けに下ろし、さらに船を走らせて硫黄島南東部に浮かぶハナレ瀬、浅瀬に2名の釣り師を乗せた。この次はおいらたちだろう。心の準備をする。

右手に硫黄島の港の灯りを見つつ、永良部崎半島の先端を過ぎる。いよいよ目的のみゆき瀬に近づいた。予想通りにエンジンがスローに変わった。荷物を船首付近に運び渡礁準備をする。今は大潮の満潮近くだから、いつもの船着けでは波をかぶるので、一段高くなった冬時期の尾長ポイントに渡礁した。時計をみると午前5時過ぎ。すでに白々とし始めた空に焦りながら、急いでアカジョウのためのタックルをタレクチイワシを細かく刻んでどかどかと撒き餌をしながら準備した。アカジョウは明るい時間帯で喰う魚だ。あわてる必要もない。潮が引かないとクロの本命ポイントには行けないこともわかっている。竿はダイワ幻覇王石鯛竿MH−525に道糸20号。いつもの喰い込み重視の中通し錘しかけをチョイスした。

KOHちゃんには、竿2号の上物仕掛けを準備してやり、アカジョウのポイントのとなりでイスズミ相手に練習をしてもらうことに。KOHちゃん、早速あたりがあり、合わせるが乗らない。「難しいですねえ」と首をかしげるKOHちゃん。しかし、この情報はおいらにとってとても有難かった。魚の活性は悪くないことが分かったからだ。こちらもアカジョウ来い!と集中して喰うポイントを探すも餌を触ってくるのは、イスズミらしき咬み後だけ。このまましばらく粘りたかったが、今回の目的は自分の釣りよりもKOHちゃんのでリベンジである。撒き餌が4分の1ほど残ったが、気持ちを切り替えてクロ釣りの本命ポイントに移動することにした。、


みゆき瀬 クロのポイント

二人で協力してクロの本命ポイントへ移動する。釣り座にたどり着くと、いつものコバルトブルーに染められたクロのポイントが迎えてくれた。1か月ぶりだ。二人で撒き餌をすると、クロらしき魚影が見える。3方向を巌で囲まれたここはまるで仕切られた釣り堀のようだ。いつも思うことだが、こんな奥まった地磯でこれだけの魚がいることが不思議でしょうがない。さすがに、人間社会から隔絶された世界離島に生きる魚だ。願わくば、ここに定置をしかけないでほしいと願うばかりである。

さすがにみゆき瀬、本命の下げ潮などの好条件で、あまり苦労せずに立て続けに6枚ほどのクロを釣った。KOHちゃんもようやく生まれて初めてのクロをゲット。30cmほどの子長だが、きっと忘れられないに違いない。そして、再びkOHちゃんは瀬際を丹念に探り続けついに35cmクラスの口太をゲット。満面の笑みでさらに釣りに没頭する。

ところが、撒き餌が効いてくると、今度は餌取りが幅を利かせ始めた。その元凶はソウシハギである。相変わらず可愛くない風貌で音もなく近づいてウキの周辺を泳いだかと思えば、道糸をいつの間にかかじられている。また、ハリがないという状態が続いた。今回はサメには遭遇しなかったけれども、やはり前回同様苦しめられた。


アタリがありますねえ♪


お先に釣らせてもらいましたよ


KOHちゃん人生初めてのクロ 子長だけど・・


今度は口太 瀬際を丹念に攻めての粘りの1尾

しかし、これ以上まったく釣れない雰囲気だったため、少々早めだが午後11時半ごろ竿をしまうことにした。KOHちゃんの反応が気になっていたが、彼の表情を見ているとどうやら満足してくれたようだ。ホッとして、元の船着けの場所に戻ると何と信じられない光景が目に飛び込んできた。何と、撒き餌のトロ箱の中の餌が影も形もなくなっていた。一体誰がって、思いつくのは1つしかなかった。4月に夜釣り用のつけ餌をほとんど喰ってしまったカラスの仕業のようだ。カラスもたまには役に立つようだ。

今回は、かなり厳しく、石鯛の釣果があったのは1名だった。でもボウズにも拘らずみんな満足げだった。釣れなくてもこれほど満足感が得られるなんて。石鯛釣りを始める未来予想図を頭に思い浮かべるつつ、晩春の枕崎港を後にするのだった。


満足の釣り 11時半納竿


カラスの奴 残りの撒き餌をきれいに完食


釣れましたかあ


ありがとう みゆき瀬 今年5回目だけど・・・


北西の風でこちらは凪 新島から硫黄島本島へ


今日の瀬泊まりは 風裏の新島と・・・


鵜瀬とで合計6人


今回の釣果 38cm〜30cm 8枚(KOHちゃん2枚)


本日の料理

クロの造り
クロのフライ
グレ茶漬け(鰹だし)

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