6/13 撃沈街道まっしぐら 硫黄島

「カマタさん、2時半集合です。撒き餌は2人で1つ、サンマ(つけ餌)は半分でよかったな。」

おーっと思わずうなってしまった。なぜなら、2004年から夏の夜釣りで硫黄島に通い始めて苦節5年目にして、初めて6月に釣行を許されたからだ。6月は、シブダイを初めとする夏魚のハシリの時期で、大型を釣る絶好のチャンスだからだ。これまでの6月は、自分たちが釣行予定の日は、時化。予定が入っている時は、凪という通称「モホロビチッチ不連続状態」でこの4年間は一度も6月に硫黄島の磯に立てない日々が続いた。しかし、今年は釣行日の週の初めに梅雨入りが発表された後は、今年はカラ梅雨であることを証明するかのように週間天気予報で晴れマークが続いていた。今年は行けるかもの予想通り凪となり、釣行にこぎつけられたのだ。その後、一緒に行く予定だったご近所のNさんがキャンセルとなってもこの思いは変わることはなかった。よし、今年こそはデカ番をクーラーに納めてやると当日の午前11時に人吉を出発した。

枕崎港に着いたのが午後1時半。集合時刻の1時間前だ。お魚センターで軽い食事を済ませ、黒潮丸の待つゾーンに到着した。冬の尾長の時期違い、夏の夜釣りシーズンの出船は実にのんびりしたものだ。集合30分前に到着したにも拘らず、車は2台しか止まっていなかった。集合時刻の15分前に船長が例の軽トラックで登場。撒き餌のトロ箱の数を数えると14箱あった。さすがにハシリの時期だ。この時期は大型を釣る期待が最も高いことを知っている底物師は枕崎港に多数集結することになったのだった。予約が多くて溢れたお客さんはとなりの渡船「荒磯」に乗ってもらうことになるそうだ。この客の多さもわかる気がする。昨年は、このハシリの時期に、シブの2ケタ釣りは当たり前の世界。たび重なる大型魚の釣果に枕崎港は沸きたっていたそうだ。事実昨年は、11月まで夜釣りで黒潮丸は出船した。


今シーズン3回目の出航となる 黒潮丸

「ピピピピ・・・」おいらの着信音と同じ音で船長の携帯が鳴る。電話の内容は今回の釣りの中心となる黒潮塾のみなさんの中の一人が道中川辺でスピード違反で捕まったという連絡だった。釣りができるのか心配されたが、30分遅れで奇跡的に間に合うのだった。なんだか波乱含みの出船。黒潮塾の方々が到着すると港はにぎやかになった。黒潮塾の一人に関ちゃんがいた。相変わらずハイテンションで出船準備を始める。「かまちゃん、今日はどこに?」「まだ決めてないんですわ。今日行く予定だった連れが急に出来なくなってですね。」横で、会話を聞いていた船長が、「カマタさん、2人組だと聞いたから最高の場所を用意していたんですよ。でも、そこは1人じゃもったいないからねえ。まあ、他にもいいところがあるからね」船長のツッコミに苦笑いで応えるおいら。

しばらくすると、短い竿をもった軽装備の3人組がのりこんできた。この時期に珍しい船釣りの面々。船長が苦笑いで迎える。「○○さん、この時期に船釣りは厳しいよ。日中の照り込みが激しくなる8月くらいが一番なんだけどね。今日はきびいと思うよ。」すかざず○○
さんも「わかってるんだけど、休みがこの日しかとれなかったんだよ。」と応酬。そうそう、休みの日にできるとは限らない遊びが釣りである。自然と休日のベン図が成立してこそ釣りが実現する。自然が相手のこの道楽は、なけなしのサラリーマンの休みを飲み込んでいく。シーズンが釣りを選ぶのではない。休みが釣りを選ぶのだ。それがサラリーマン釣り師の宿命なのだ。

すると、黒潮塾の中から輝かしいオーラを放つ人物が登場。黒潮丸の常連客のリーダー的な存在であるN村さんだ。メンバーに冷凍小イカなどの餌を配っている。なにやらおいらに近づいてこられた。「はいっ、これ使え」と渡されたのは、冷凍○貝である。「ありがとうございます」見ず知らずの自分にいきなりのプレゼント。大変光栄なことだ。すかさず関ちゃんの解説が入る。「これは、この時期限定の餌ですよ。シブが大好きなえさです。シブがいたら一発で喰うよ。」

初めての6月の夜釣り。この最大のチャンスに一体どこに乗せられるのだろう。平瀬や鵜瀬は多分1人だから乗れないだろうなあ。黒潮塾の方々が前回の釣りを振り返っておられた。N村さんは、「10時ごろ船長に電話したんだよ。入れ食いで4号ハリスがブチブチ切られたよ。」N村さんは前回タジロに渡礁。上物をやっていたら、正体不明の魚に(おそらくカスミアジなどの青物)なすすべもなく切られ続けたという。タジロにも触手が動く自分。黒潮塾のメンバーの会話で、今年の夏の底物釣りは、開幕からあまり調子がよくないことがわかった。唯一好調だったのが立神。5キロクラスのタバメ(フエフキダイ)が入れ食いだったとか。西磯や地磯、タジロあたりに乗せられるかも。わくわくしながら船内に滑り込むと、N村さんが「カマタさん、うちのSといっしょにミジメかタジロでいいか?Sに選ばせていいか?」そのような申し出を断るはずもない。今までシブダイ釣りはuenoさん以外の釣り師と同礁したことがなく、他人の釣りを勉強する絶好のチャンスだ。反射的に「よろしくお願いします。」と返事。

6月13日(土)中潮最終日。天候は曇り。沖縄本島北部にある梅雨前線は活動を休めている。波高1mのいわゆる「シブ凪」。シブが釣れる条件である日中の照り込みは足らないが、風もない凪なら魚は応えてくれるはず。水温は23度前後と低いが、黒潮塾のメンバーは百戦錬磨の兵ぞろい。潮が動けば好釣果がたたきだせるはず。満潮が午後11時と上げ潮ねらいの朝方は下げ。今回の釣りでは硫黄島の海は私にいったいどんな答えを用意してくれているのだろう。


いつものように 鵜瀬からの渡礁
 

黒潮丸は、シブ凪の海を快調に飛ばして、90分きっかりでエンジンをスローに。薩南諸島を代表する底物場「鵜瀬」が黒潮丸の眼前にそびえたっている。天空に突き出た鵜の頸は今日も健在だ。ぶるんぶるん、いよいよ渡礁が始まる。鵜瀬のハナレがまず黒潮塾のベテラン釣り師を1人つかまえる。続いて、八代からの参戦の2人組が去年シーズンを通して最もよく釣れたと言われる鵜瀬の本島へ。重いタレクチイワシのトロ箱を上の段まで運ぶ。結構な重労働だ。すると今度は、鵜瀬の竹島側の小さなハナレ瀬に1人が渡礁。ここは初めての磯(鵜瀬のシズミ)だ。冬の時期や潮の大きいときは無理そう。「風が吹いてきたら電話ください。」と船長が声をかける。その時だった。船長に呼ばれたのは。「カマタさん、Sさんとミジメでいいの?タジロでもいいよ」タジロ瀬の青物の入れ食いも捨てがたいが、初めての場所「ミジメ瀬」と謎の多いシブダイ釣りの勉強のために、Sさんとの釣行を選択。意を船長に伝えた。


今年の平瀬のご機嫌は?

船は反転し、平瀬へと向かう。アカジョウの魚影はぴか一。シブダイの数型ともにそろう硫黄島を代表するA級磯。まずは、低場から2名の釣り師が渡礁。次にワンド奥の低い場所に船は着けた。ここは浅く平らな海底の場所。クロなどの釣果はとても望めそうもないが、夜釣りでは力を発揮するのであろう。1.5kgまでのシブが数釣れる場所という。さらに船は高場の2か所に2人組とN村さんが上がった。今度は我々の番かな。船は、西磯方面へと走る。途中、北エリアにある硫黄島のダークホース「コウカイトウ」に1人の釣り師が渡礁。さらに船は走り、立神と地磯との間にできた水道にポツンと浮かぶ島「ミジメ瀬」が待っていてくれた。「手前が下げのポイント。向こう側が上げのポイント。立神側と地磯側と2つのポイントがあるけど、立神側のほうがいいですよ。足元で喰いますから。」関ちゃんが最後のアドバイス。関ちゃんはこの後タバメの巣立神へ渡礁したそうだ。

Sさんとおいらはすばやく渡礁。「上の段に広いところがあります。そこに荷物を集めましょう。」荷物をもって上の段にあがると、確かに1段低くなって広いところがあった。「まだ下げが残っていますね」Sさんは驚く速さでアカジョウ狙いの餌「イスズミ」を釣りあげ、切り身にして下げ潮のポイントである船着けの立神側にセットした。


Sさんとミジメ瀬に渡礁

おいらは、地磯側にセット。5号竿のウキ釣りしかけも準備して、Sさんの隣でアカジョウねらいのイカをセットした。「中の瀬に向かって仕掛けを投げてください。」とアドバイスをもらった。この一帯は潮通しが抜群であるにもかかわらず、潮がほとんど動いていない。干潮が午後5時ごろなのにまだ下げ潮を引きずっている。Sさんがデカバンウツボを釣りあげ、私がカメを釣った。この期待できない状態は午後7時ごろまで続いた。


真横は前回タバメの入れ食いだった立神


ミジメ瀬の裏 上げ潮のポイント


夕まず目のアカジョウねらい
 船着け


立神側の釣り座


下げ潮の釣り座 中の瀬に向かって仕掛けを

期待の上げ潮だったが、見事に空振り。激流がミジメ瀬を襲った。30号の錘があっという間に流されていく。釣りにならない時間帯がやってきた。Sさんも7.8キロクラスのタバメらしきバラシを演じた後は、激流にお手上げ状態だ。「潮どまりがチャンスですね。」とSさん。西磯を月明かりが照らし始めた午後11時ごろ、ようやく潮が緩み始めた。N村さんがチャンスタイムと予言した時間帯だ。精神を集中して穂先のケミを見つめていると、ただならぬ空気を感じて、立神側のSさんを見ると、Sさんの石鯛竿が強烈に絞り込まれていた。強引に勝負に出るSさん。固唾をのんで戦況を見つめていると、軍配はSさんに上がった。Sさんは、2キロ弱のシブダイを抜きあげた。黄金に輝くヒレとピンク色の魚体。今シーズン初めて見るシブだ。「餌はなんですか?」とすかさずリサーチ。イカという答えが返ってきた。Sさんはもう1匹キロ弱のシブを釣りあげる。

釣りの折り返し地点を過ぎ、あれほど激しかった上げ潮の激流はとまり、まったりとした下げ潮の時間帯がやってきた。釣り座を船着けの方に移ったが餌がそのまま帰ってきた。撒き餌を利かせてがんばる。まだボウズだ。開幕戦でボウズなんて考えただけでもぞっとする。なんとかしなくちゃ。撒き餌が効いてきたのか、アタリが現れるようになった。餌取りの少ないこの時期、それは本命である可能性が高い。午前1時過ぎ、魚が走りようやく竿が絞り込まれた。しかし、軽い。上がってきたのは恥ずかしや、30cm級のシブである。しかし、本命は本命。ボウズをを脱出しほっと胸をなでおろした。


今シーズン初シブ


朝まず目もアカジョウねらい

しかし、釣りが面白かったのはここまでで、再びあたりは遠のき、朝を迎えた。潮が動かず再びアカジョウねらいを敢行するものの気配がないため、6時半には早々と竿をたたむことにした。

回収の船に乗り込む。みんなのクーラーは軽かった。あのN村さんでさえ惨敗。船釣りも予想通り目立った釣果は見られなかった。ひとり気を吐いたのが関ちゃんだ。大型いグロークーラーを覗くと、最大で6,7キロのタバメが6,7枚御用となって満タン。20号道糸を一瞬にして飛ばすどうしようもないあたりが数回あったとのこと。今一番熱い釣り場は立神のようだ。

開幕戦で惨敗を食らったが、心は晴れ晴れしていた。シブダイの釣り方、仕掛け、餌などたくさんの情報をえることができたからだ。次回につながる釣行だったことは間違いない。


帰港後の反省会 珍しいアオシブも

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