1/24 クロちゃんはパン粉がお好き   下甑 片野浦


「片野浦はえらい釣れよるげな。kamataさん、片野浦へ行こい。」

uenoさんはとても前向きな人だ。前回の鹿島での惨敗冷めやらぬ中、早くも携帯サイト釣りナビから片野浦が好調という情報を得たuenoさんは、早速私に鹿島のリベンジに付き合えという指令を出してきたのだった。どうせ時化で船はでないかもしれないからととりあえずOKサインを出していたが、日本列島を襲った寒波は週末に緩み始め、釣行日である1月24日には、波高2mのち1mで釣行可能な状況になってしまった。

「船が出るげな。4時集合だから、11時に来て」

釣行日前日の昼に、uenoさんからこんな電話をもらって、釣行が決定。あまり気が進まなかったが、そこは釣り師の性が。準備しているうちにだんだんウキウキ気分に変わっていった。

 「おら餌はパン粉主体でいくバイ。オキアミば混ぜなんなよ。混ぜたら魚の底に沈むげな。」

 uenoさんはどこで仕入れてきたか、甑島パン粉漁法をやってみるらしい。詳しいことはわからないが、撒き餌にはパン粉と赤アミを混ぜたものを用意し、その中には決してオキアミを混ぜてはいけないという指令を出してきた。よくわからないがここは師匠に従うのみ。約束の11時にueno宅に集合し、一路阿久根港へと車を走らせた。 


 片野浦へ誘う未来丸さん お世話になります

 午前3時に阿久根港到着。今回の釣りをナビゲートしてもらうのは、片野浦の釣りを快適にサポートしてくれる未来丸さんだ。片野浦はこのところ好調で、30枚、40枚もクロを釣っている人もいるとか。この情報にまんまと誘い出されたのが我々というわけだ。今日の客は15名ほど。ほとんどが上物師のようだ。乗船名簿に名前を書き、キャビン内に滑り込み、出港を待った。


まだうねりが残っている片野浦

「片野浦に行かれればよかなあ」

 uenoさんがこうつぶやく。片野浦は下甑島の西海岸に位置し、北西の季節風に大変弱い。前日は時化ており2.5mの波。西海岸はもっと波があったかもしれない。うねりがとれていれば片野浦へ行けるが、とれてなければ風裏の手打東磯に乗ることになる。uenoさんは、手打に限らず「東磯」という言葉があまり好きではない。この前の鹿島での釣りも東磯でボウズを喰らっている。

 さて、釣り師の夢とロマンを乗せながら、未来丸は予定の午前4時よりもかなり早く阿久根港を離れた。船は順調に甑島列島へ向けて走っている。それほど時化ていないと安心すると急に睡魔が襲ってきた。

 気がつくと、船は安定した走りを見せていた。夜がしらじらとし始めたころだった。時計をみると、午前6時を回っていた。出港してから2時間半をすでに経過していた。やがてエンジンがスローになった。渡礁が始まる。船の後部座席からの情景は予想通りの断崖絶壁だ。おやっ、その情景が左手に見える。ということは、船は鹿島の東海岸から走ってきたようだ。そして、明るくなり始めると、そこがuenoさんが恐れていた手打の東海岸であることがわかった。オーマイガッ、片野浦へ行けると信じていたのに・・・。

 何組かの釣り師を渡礁させた後、船は中のオサン瀬をスルーした。uenoさんに安堵の表情が。船は手打西磯方面へと走り出した。これは我々にとって幸運に思えた。手打西磯は禁漁期間なのでそこもスルー。そして、我々が目指す片野浦が眼前に広がってきた。

 しかし、片野浦に行ける喜びとは逆に海は刻々と時化の姿を見せ始め、うねりで船は左右に大きく揺れた。立っているのが精いっぱい。船の最後部で待機していたuenoさんにも波のしぶきの洗礼が。全身びしょ濡れのuenoさんがキャビン内に避難。「こら時化とるなあ。釣りがでくっとだろか。」uenoさんの心理は、片野浦がよかなあから片野浦はだいじょうぶだろかに変わっていった。

 片野浦の丸瀬が見えてきた。干潮間際だというのに、丸瀬の足元を波が洗っている。船の針路から丸瀬に3人組を乗せるようだ。しかし、うねりで中々船が丸瀬に近づけない。何度もトライするものの、丸瀬にぶつかった返し波が船を沖へと押し戻し、磯に容易に近づけさせない。船長の操縦が素人目からもかなりの困難であることがわかった。

 何とか3人の人間だけ渡礁させ、次に荷物を少しずつ渡していってやっとで渡礁完了。「次は2人組」こんどは我々の番だ。緊張が走る。丸瀬の先にある巨大な四角錘の巌に船は近付いていく。どうやら今回お世話になるのはこの磯のようだ。後で聞いたが、ここは大瀬という片野浦を代表するポイントだ。さっきのように、何とか狭い段に渡礁し、荷物を何回かにわけて受け取った。

「1時半」とポーター役をかってでている釣り師の方が回収時間を知らせてくれた。すごいうねりだ。時折一発波が磯壁に当たって砕け、しぶきとなって容赦なく我々に振りかかってくる。おまけに、この瀬は狭く、釣り座となる正面向きは斜めに下っている。さらに、平らで濡れていて滑りやすくやり取りの際に神経を使うことになりそうだ。 


無事大瀬のウラに渡礁


釣り座の正面はサラシで真っ白

さあと時計を見ると7時を過ぎている。時間は限られている。撒き餌をしながら、交代で仕掛けを作った。竿は離島バージョンの3号。道糸4号、ハリス2.5号。ウキは飛ばしウキと小型棒ウキ2Bの固定仕掛け。タナは1ヒロから始めることにした。針はチヌバリ4号を結んだ。

 撒き餌を1時間した後、午前8時半ごろ第1投。サラシが収まるタイミングをみて仕掛けを入れ、アタリを待った。小型棒ウキが一気に水中に消え、親ウキも一緒に消えた。気持ちよく道糸が走った。反射的に竿を立てる。魚のアタリをとらえた。竿に伝わる力から600gくらいのクロと予想。さあ、これからというところで竿のテンションがなくなった。いきなりのバラシ。

 その後、10分ほどアタリがない時間帯があり、再び道糸が走った。今度こそと浮かせにかかる。足元に張り出し根があるので、前に出なくてはと思いきや、前下がりのつるつるの足場はそれを躊躇させた。後で、ここにドンゴロスを敷いておけばと後悔する。そうこうしているうちに魚は右の足元の根に一直線。再びバラシ劇。このいきなりの2連続バラシは痛かった。

 しばらくして、口太第1号を抜きあげるが、中々難しい釣りだ。かなりの良いポイントらしいが、うねりが時折大波となって足元にぶつかってくる。その影響で仕掛けがサラシで沖へあっという間に流されていく。竿1本先を釣りたいのに、この波じゃ仕掛けをコントロールするのが困難だ。波しぶきは我々の上から降ってくる。もう釣り開始1時間もたたないうちに2人はびしょ濡れになってしまったのだった。


片野浦第1号は居つきのクロちゃん

 撒き餌が効いてきたのか魚は時折見えるのだが、中々喰いこみには至らない悔しい時間だけが過ぎて行った。30分に1匹ずつという展開。uenoさんは、3Bのウキを楊枝でとめた固定仕掛けが功を奏したようで、途中入れ食いの時間帯を体験できた。よかったねuenoさんは。わたしは、撒き餌のミス(アミとパン粉の調合)や仕掛けを合わせきれずにuenoさんが2匹に対して1匹釣るという悔しい展開は最後まで続き、午後1時前に納竿することにした。


釣り座を清掃 ここは危なかなあ


必ずリベンジしたい名礁大瀬


数釣りを楽しんだ丸瀬の釣り師たち


午後4時過ぎに阿久根港帰港


今回のくやしい釣果 600〜700g7枚


まずまずのuenoさん 600〜700g 13枚

 個人的には大変悔しい釣りだったが、パン粉主体の撒き餌は魚を浮かせるということはできたことは有意義だった。それに、クロを釣るならこの釣り方がベストであることがuenoさんの釣果でもわかった。船長によれば、パン粉主体のこの釣り方はどこの釣り場に行っても通用するという。早速来週の硫黄島で試してみたいと思った。そう考えると、さっきまでの惨敗気分はいつの間にか吹き飛んでいたのだった。クロちゃんはパン粉が大好きなんだということがよくわかった今回の釣行。前向きな釣り師uenoさんは早くも次回の釣行を再びこの片野浦に決めるのだった。


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