5/3 海ガラスは語る 下甑 手打


五里霧中 暗中模索

最近の私の釣りを修飾すればこんなところか。

磯釣りも十年目のシーズンを迎え、これからますます楽しみたいと寒グロ開幕から竿を握ってはみるものの魚から愛想をつかされ、回収のときクーラーを預ければ、

「軽いねえ」

と言われる日々が続いた。ここ最近まともなクロの姿を見ることさえできなかった。

 しかも、師匠uenoさんと一緒の釣行でも彼に水をあけられっぱなし。自分の釣り方が工夫がない。状況にあった仕掛けが作れない。原因はいろいろ考えられるが。

 確かに、ボウズを喰らうなど撃沈してすがすがしさを体験するのもたまにはいいものだが、こう撃沈が続いてはさすがに自分の精神力がもたない。

「このままでは終われない」

私の釣り暦では、クロ釣りシーズンの閉幕は、硫黄島の夜釣り開幕の6月1日の前、つまり5月。それまでに何としても魚の数型はともかく自分で納得できる釣りがしたい。そんな自分の思いを師匠uenoさんにぶつけ、GWでの手打釣行を持ちかけた。

「手打は釣れとっとな。尾長の出るところならいくバイ。」

uenoさんからの好感触を得、早速未来丸に予約を入れる。

「3日からの1泊2日釣りなら空いてるよ」
 
 今年のGWは珍しく5月1日〜5日の5日間は晴天の予報。しかもべた凪。1日から釣り人が大量の餌を撒いていく状況の中、厳しい釣りが予想される。でも今回は1日目は夕まず目からと変則的なが1泊2日釣り。2日あるなら何とかなるだろう。魚の顔さえ見ることができたらO.Kと実現可能な目標に下方修正。

 3日の午後1時半出港と聞き、人吉を8時半に出発。高速道1000円の影響を受けた一般道は信じられないほど少ない交通量。阿久根港に到着が午前12時前。港の駐車場には2日から出撃した釣り師の車と3日から出撃する車であふれていた。

 「kamataさん、こんにちは」

 港では、うれしいことが待っていた。ネットでお世話になっているTOMMYさんに声をかけていただいたことだ。TOMMYさんは手打、片野浦に精通されており、しっかりした磯釣り理論をお持ちだ。更に、男女や甑島などで尾長やクロなどを釣りまくっている磯遊人さんにお会いできた。「ブログ見てます。」と声をかけると、すぐに握手をしてくれた。ぜひぜひ、釣りにご一緒させていただきたい方々との対面はこれからの釣りが楽しいものになるであろうと予感させてくれた。

 早速、TOMMYさんは釣り仲間とともに港で出撃前のビールで乾杯。GWで人の流れから見放された静寂そのものの港は一瞬にして笑い声の絶えない繁華街の様相を呈した。 


瀬どまり客と入れ替わり 釣り人の活性低し

 さわやかな五月晴れの阿久根港。心地よい風がのんびりした時間の中で釣り人の間を駆け抜けている。そんな中、心地よい季節を楽しむ余裕のないカラスが人間が残した餌をむさぼり喰っている。一羽二羽とその数は増えていき、餌がなくなるとカラスらはあっという間にどこかへ飛び去って行った。

 よってたかってはこのことを指すのであろう。普天間問題で追い込まれている総理大臣。確かに、彼は選挙に勝つために短期間での実現は不可能に近いことであるにもかかわらず大見えを切ってしまった。また、決断力のなさなどの政治手腕を徹底的に批判されている。
 
 自分は別に民主党びいきではないが、今のマスコミや評論家たちの首相批判は聞いていてうんりするものばかりだ。歴代の政権のだれも手をつけようとしなかった米軍基地の問題に手をつけようとする姿勢は馬鹿正直すぎると批判されるべきではない。この問題は深刻かつ困難であり、一国の総理の判断だけで一気に解決するような性質のものではない。慎重かつ思い切って長期的展望をもとに少しずつつ積み上げていかなければらない問題だ。

 評価される点は目をつむり、まずい対応は徹底的に叩く。視聴率や出版物の向上のためより刺激的な言葉で事実を彩る。そして、影響力がなくなればさっさと他の問題にシフトしていく。それが本当に日本の防衛問題や今後のアメリカとの関係を憂うあるべき日本の文化人の姿なのだろうか。

 カラスを見ていてそんなことを考えていた時、港ににぎやかな船が帰ってきた。乗っている人は、どれもみな日焼けをしていて疲れた表情をしている。岸壁に船が接岸すると荷物を全員で協力して港へあげる作業だ。

 港に上がった釣り人は安堵の表情に変わり、それぞれ不本意な釣りだったことを無言の態度で表していた。クーラーを開ける釣り人はだれもいなかった。そそくさと釣り道具を車に積み込む人あり、船長と談笑しながら魚の状況を確かめる人あり。釣り人の動きは十人十色だ。しかし、私はどの釣り人も楽しい釣りの後の釣り師にしかわからない虚脱感を感じていると思った。この中にはGWにささやかな自分のための休日をつくり釣りに出かけた人も少なくないはず。そんな人たちはみな一様に魚が釣れなかった焦燥感に苛まれることなく、GW明けの仕事を頑張ることだろう。

 これだ、これなんだ。暗中模索、五里霧中していることが釣りなんだ。魚に向かってこだわるからこそ悩み苦しみが生まれる。釣りという業そのものとのその周辺のものすべてを楽しむんだ。そう思うことで、今回の釣りが前向きになれた。

 しばらくして、2日〜3日そして3日から4日というありえないようなスケジュールの仕事をこなす船長が戻ってきた。給油をすませ未来丸は再びテンション最高潮の釣り人を乗せて静かな阿久根港を予定通り午後1時半に出港した。


一度は乗ってみたい名礁「丸瀬」

 未来丸は凪の東シナ海を気持ちよく滑っている。走り始めて1時間が経過。はじめは横になっていた釣り人もこれからの釣行の期待で我慢できなくなり甑島列島の情景をだまって眺めている。

 5月3日(月)下り中潮3日目、川内港で午前9時53分が満潮。波予想1mというべた凪の通りの海。

「kamataさん、あれは中甑島かいな。」
 
 uenoさんもじっとしていられず、だいぶ前から起きていてたようで、しばらくして私に話しかけてきた。甑島パン粉釣法に心から心酔しているuenoさん。今回の撒き餌ももちろんパン粉主体ですでに自宅で混ぜてきているそうだ。

 船は、藺牟田水道を過ぎ西磯へと展開している。鹿島や瀬々野浦の断崖を左手に見ながら、走ること2時間半。未来丸はようやく目的地の片野浦および手打周辺に到着。満を持してエンジンはスローになった。

 渡礁は大瀬のハナから始まった。次は名礁丸瀬。そして、以外にも早く名前が呼ばれた。船首部分に出て姿勢を低くして身構える。地よりの磯らしい。まてよここはどこかで見たような。背中にポーター役のおじさんからこんな声が飛んできた。

「ここは早崎の地だよ。いいなあ。」

そのおじさんによればかなり良いポイントらしい。昨年の4月に世話になったところじゃないか。

 無事渡礁を済ませた。ここ「早崎の地」は手打西磯一番の磯「早崎のハナレ」の地寄りにあり、大変潮通しがよく尾長も当たってくる好礁である。目の前の「ハナレ」にはTOMMYさんや磯遊人さんたちが上礁。磯はにぎやかになった。



今回の夢舞台は「早崎の地」

 時刻は早くも午後5時前になろうとしていた。撒き餌をつくりながら、憧れの「ハナレ」の釣りを見学する。裏の釣り座で釣っていた釣り人が魚をかけた。竿先が何回も海中に突っ込んでいる。これはかなりのサイズだ。数度の締め込みの後、玉網が入る。魚が引き寄せられる。見学していた釣り人から拍手が送られた。

 間違いない釣れたのはグッドサイズの尾長に違いない。アドレナリンが血流よりも速い速度で全身を駆け巡る。

「kamataさん、尾長バねらおい」

 uenoさんもその釣りを見せつけられて、テンションが一気に上がったようだ。


  
甑島一番の名礁「早崎のハナレ」では早くもクロの釣果


まず 夕まず目は尾長ねらい

 潮は沖に向かって右に「三角」方面に流れている。まずは瀬際をチェックしようと流して行く。先端のuenoさんの釣り座の足下に仕掛けが近づいた時、ウキが前アタリの後勢いよく消しこんだ。いきなり第1投から魚とのやり取りが始まった。

 きつく締めたつもりなのに、しゅるしゅるしゅるっとLBDリールのドラグから道糸が出て行く。こいつはでかい。かなりのパワーで手前への突っ込みを見せている。絶対バラすものか。3号竿の剛力にものを言わせてごり巻きする。途中から一気に魚の力が衰えてしまった。あれれもしかすると。


いきなりアオブーが歓迎してくれました


尾長のゴールデンタイムに青ブーのサイズアップ 

 心臓が壊れそうなくらい真剣なやり取りだったのに、浮いてきたのは3キロクラスのアオブダイだった。もちろん海にお帰り願って、釣り座をuenoさんの潮下に移動。時刻はいよいよ夕まず目。午後7時前、一投ごとに力が入る。しかし、おいに期待した夕まず目は、青ブーのサイズアップで幕を閉じた。


夜釣りは全くアタリなし 気を取り直して磯宴会へ

 夜釣りに突入。1時間ほど真剣に釣り始めたが、暗闇の海は無言だった。少ないアタリをいかにものにするかという夜釣りの醍醐味はもちろん知っていたが、これほど魚の雰囲気のかけらも感じられない海はこのことを言うようだ。

 我々は早くもどのタイミングで磯宴会を始めるのか、メニューは焼き肉だが、塩だれから先に焼くかカルビから焼くかということに照準を合わせ始めていた。午後9時過ぎ、しびれを切らしたuenoさんが、

「飯でも喰おい。」

と宴会を持ちかけた。残念ながら磯宴会を楽しみにするほど今回の釣りは厳しかった。
宴会後、釣ってはアタリなく休み、休んでは釣って休むというつまらない展開で睡魔は最高潮になり、磯のベッドで眠った。それでも3時ごろから再び起き出して竿を出してみるも状況は変わらなかった。そのうち、話題は、予想外の蚊の来襲をどう防いだらよいかということが中心となった。気がつくと夜が明けていたのだった。 


早崎のハナレにあこがれの磯遊人さんを発見 


期待の朝マズ目 気合十分のuenoさん

 「朝マズ目はパン粉漁法で行こう。2日釣りでお土産なしはつらかもん。」

 悲しいことだが、ここまで2人の釣果は、アオブダイ2匹、アカマツカサ多数だった。uenoさんの言う通り、確かに2日釣りでのボウズは今までに例がない。尾長狙いをあきらめて口太狙いに切り替える戦法を否定する力は残っていなかった。


パン粉撒き餌でもクロは浮いてこない

 パン粉主体の撒き餌をしばらく続けるが魚は全く見えない。かなり喰い渋っているようだ。餌の頭を少しかじるという状況に、uenoさんが00のウキにおもりなしの全遊導、鈎を3号、ハリスを1.65号に落として喰わせた2匹を釣るのが精いっぱい。私は見事ボウズに終わった。

 釣りを終えて後片付けに入る。すると、さっきまでは見かけなかったカラスが次々にやってきた。お前たちも生きる目的のために懸命になっているんだなあ。いつのまにか軽蔑していた海カラスを肯定している自分がそこにいた。


三角の釣り人も苦戦


おらもうはよ帰りたかあ


今回も撃沈のポーズでした(泣) 


苦杯をなめさせてくれた早崎の地 ありがとう

 港に帰って今回の釣りを振り返った。尾長のアタリは少なく、口太も釣る人で2,3枚という結果に。石物はそこそこ釣れていたのがなによりだった。釣果はパッとしなかったが、TOMMYさんや磯遊人さんにあえてよかったし、釣り人の笑顔から仕事への活力をもらった。帰りの車の中では早くも次回のラストチャンスの釣りのイメージトレーニングが始まるのだった。そして、いつの間にか港の海ガラスのように貪欲に釣り場を模索するのだった。



ネットでお世話になっている TOMMYさんとお会いできました

これからもよろしくお願いします


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