7/19 硫黄島の虻 硫黄島

「時化でねえ。乗るところが限られているからねえ。」

「乗れるならどこでもいいです。」

必死だった。気がつけばもう2カ月も本命の釣りに出かけていなかった。6月から7月にかけて、離島の夜釣りではシブダイを初めとする大型の夏魚を釣る絶好のチャンス。今年は満を持して教職員バレー大会をけってまでチャンスをうかがっていたのに。

 6月から7月にかけてこれでもかと降り続く豪雨に煮え湯を飲ませられ続けた。気がつけば、7月も後半の3連休になっていた。初日の17日は息子の野球の練習試合でつぶれ、残った選択肢は18日から19日にかけての夜釣りだけだった。何としても硫黄島の磯に上がりたい。そう願って黒潮丸の船長に電話を入れるもまたも天候不順で硫黄島行きに暗雲が立ち込めていた。

 天気予報では波高2.5mという。しかも南東からの強風で釣りどころから硫黄島に行くまでが一苦労という予報だった。出港の判断は慎重な黒潮丸の船長。当然欠航と思いきや、電話口で微妙な反応だった。

 こういう天候の時はどうしても渡礁場所が限られてしまう。予約客をすべて瀬上げして、いい釣りができないならば何もならない。釣りをさせるならば客が納得する釣りをサポートしたい。元石鯛釣り師だからこそ釣り人の心は誰よりもよくわかっている船長。そこで天候の不順を理由に乗せる釣り師をピックアップするのだ。切られてなるものかという思いが、「乗れるならどこでもいいです」という言葉になったのだ。

 7月18日(日)、小潮まわり。東北と南九州以外は梅雨明け宣言が出された直後のこの日。降水確率は50パーセント。東からの強風。南東からのうねり。シブダイが釣れる条件には程遠い。いつもなら、釣行をためらうのだが、2か月も釣りに行けなかったフラストレーションは、何のためらいもなく私を釣行に向かわせるのだった。


南東の強風が吹き荒れる中、枕崎に到着

 いつものように九州自動車道を南へ下り、黒潮丸が待つ枕崎港へと向かう。鹿児島空港を過ぎ錦江湾が眼前に広がった中、桜島のかなり大規模な噴火を目撃。南東の風に乗って黒い灰色の雲は黙々と北西向きに動いていく。

 案の定、鹿児島市の伊敷あたりで降灰に見舞われた。この降灰は、幸運の女神の降臨か?これとも悪魔の囁きか?

 魚の状況が気になり、昨日黒島に出撃した師匠uenoさんに連絡を取ってみた。

「どっかわからんところに乗せてもらったばってん面白かったバイ。12.3枚は釣ったバイ。でかかとは48cmくらいあったよ。息子もフカセで5枚釣ったよ。太か魚は切られたバイ。全部向こうから走ってきたバイ。餌はねえ、サンマの胴体の部分がよかったよ。えっ船はでっとな。回収の時かなり時化とったバイ。」

 uenoさんにおめでとうと声をかけながら、自分のこれからの釣りに不安を覚えた。uenoさんは、硫黄島に予約したものの客の多さのため、黒島へ向かう荒磯を紹介されたとのこと。不本意な気持ちで黒島へ向かったが、これが大当たり。背中の磯が高く風裏となったポイントで、シブダイを数型ともに新記録となる釣りができたそうだ。


釣り人の到着を静かに待つ黒潮丸
 
 そうこうしているうちに、枕崎港へ到着。気温はゆうに30度を越えていた。べっとりまとわりつく大量の湿気を含んだ空気。南九州だけが梅雨明けしていない事実がわかる気がする。日差しが梅雨空になれていた肌に突き刺さる。

「こんにちは。」

船長に挨拶。すると、船長が近づいてきた。

「あなたの連れのuenoさんが、黒島で大釣りしたよ。12,3枚。あんまり期待できないポイントにおろしたって言ってたけどね。」

気さくな船長が話しかけてくれる。uenoさんは昨日枕崎で旋風を巻き起こしたようだ。

「乗れるならどこでもいいっていうから(予約を)受けたんだよ。大時化だよ。釣りができるところが限られるからねえ。」

苦笑いで返す。作戦成功だ。

 集合時間は午後2時。ぞくぞくと釣り人が集まってくる。アラ狙いの八代からの生粋の底物師2人組。去年、硫黄島へ行くのにレジャー用クーラーしか持ってきてなくてヒンシュクをかっていた船釣り師たち3名。更には、黒潮塾のゆかいな仲間たちがやってきた。もちろん、関ちゃんやN村社長も参戦だ。

「カマタさん、もっと天気のいい時にくりゃええがあ」

 早速、絡んでいただいた。

こりゃあにぎやかで楽しい釣りになりそうだ。

「クーラーがでかすぎだよ。これじゃあでかいのは釣れんて」

 船長も調子に乗って釣り人をおちょくっている。
いつもの夏シーズンならではのゆっくりとした時間を楽しんだ後、午後2時40分黒潮丸は南東の強風に逆らって枕崎港を後にした。


熱帯低気圧発生の時化の中 ここは風裏別天地

 やはり、ばっかん、ばっかん揺れている。波の衝撃を受けにくい構造になっている黒潮丸だが、それでもかなりの揺れだ。これからの釣りに不安を覚える。これじゃあ絶対鵜瀬や平瀬は無理だな。新島も無理だろう。北エリアか西磯に乗れればよい方だろう。

 航海を始めて1時間が経過。波がやや収まった感じがした。硫黄島が強風を受け止めてうねりを抑えてくれるエリアに入ったようだ。いてもたってもいられず上半身だけ起き上がり、外の情景を眺めてみる。硫黄島のビリジアン色の圧倒的な山肌が鎮座している。深藍色の海の色とのコントラストが見事だ。白い切れ切れの雲がものすごいスピードで大空を滑っている。硫黄の臭いが鼻をつきだした。船は北西側に出たところでエンジンがスローになった。

 来た!ライフジャケットを羽織り、磯ブーツをはく。ポーターさんが荷物を出すために一時的に船は停泊している。

「カマタさん、コウカイトウ行こうか」

 やっぱり。今回は1人ということなので比較的大きい名礁である「立神」や「ミジメ瀬」「大瀬」などには乗れないだろう。乗れるとすれば、狭い磯だ。コウカイトウや北のタナあたりではないかと予想していたがそれが見事に的中。

 キャビンを出て、荷物を運んで前に出る。

「ここのポイントわかる?」

 ありがたいアドバイスが飛ぶ。

「潮が(沖に向かって)左なら斜め前のところ。かけた魚は全部(左手前の)根に突っ込むからね。竿を右に倒してゴリゴリ巻いて」

「潮が右(地磯向き)なら瀬に近いところを流して」

 関ちゃんやN村さんから次々に情報が寄せられる。ありがたいことだ。これほど心強いことはない。畳3畳ほどしかない狭くおひとり様限定の磯コウカイトウ。不安は携帯電話がつながらないことだけだ。

 コウカイトウの上がり方は心得ている。両手を磯の左端にかけ、右足を振りあげてジャンプして足をかけるのだ。何とか渡礁をすませて船に手を降る。

「頑張ってください」

 さあ、このコウカイトウこれからどんなストーリーが待っているのだろう。2カ月ぶりに立つ磯の雰囲気は格別だった。(その2へ続く)


夜釣りシーズン開幕戦に両軸リールも心躍る


まねからざる客はやはりいた(笑)

ここコウカイトウは硫黄島の北エリアに位置する地磯である。南や東からの風やうねりに強いこともあり、ほとんど夏の夜釣りシーズンで使われる磯である。ワンドにあるため潮がやや入りにくいので、潮の小さい時はあまりお勧めではないようだ。

 足場はまるで堤防のように平らであるが、畳3枚分くらいのスペースしかなく、釣り道具を置けば、活動範囲は一気に狭まってしまう。背中には今にも崩れ落ちてきそうな不安定な断崖絶壁の岩肌が控えている。

 標高704mの硫黄岳を抱えた周囲14.5kmの硫黄島。南部の硫黄島港から西エリアと北エリアにかけてほれぼれするような断崖絶壁が続いている。その広大な断崖絶壁の中で気の遠くなるような長い年月にわたる地殻変動と海岸の浸食によって生まれた造形物は、釣り人が利用できるように平らになるには偶然が折り重なった奇跡の産物といっても過言ではない。 

 広大な断崖絶壁の中でほんのわずかな釣りスペースにいる自分は、まるで牛にまとわりつく虻のような存在であろう。しかし、その虻は離島の夢とロマンを背負っている。硫黄島が養っている高級食材を狙うため、球磨地方の虻はいよいよ戦闘の準備を整え始めた。

 まずは、磯の全体像をつかむ作業だ。ここは2回目の渡礁だが、あまり記憶に残っていない。沖に向かって右手には、シモリ根が点在しており、やや浅くなっているようだ。下げ潮の支流がこのあたりをかすめていくならば、チャンス到来であろう。

 手前はドン深で竿3本ほどの水深と思われる。左は右側よりも深いと思われる。上げ潮が左に流れてくれれば、魚のアタリがとれそうだ。前回は、この潮で喰わせたものの魚は一気に左手前の根に一直線。全く勝負させてもらえず、20号の道糸が3秒で飛ばされた苦い経験がよみがえってきた。今日こそはあの時のお返しをする時だ。

 キビナゴを包丁で細かく刻み、まずは少し足下に撒き餌してから仕掛けづくりに入った。

 竿はダイワ幻覇王石鯛竿、道糸ナイロン18号、仕掛けは、瀬ズレワイヤー仕掛け、37番のワイヤーハリスに鋼タルメ25号を取り付けたものをセット。ターゲットはもちろん南海のモンスター「アカジョウ」だ。潮は緩いとみて20号のおもりを使用することに。


ヒラマサだったとおもったのに〜〜〜(泣)

 つけ餌のサンマをぶつ切りにしながら、つけ餌をつけてアカジョウ狙いの第1投。置き竿にしてアタリを待つ。チルド状態になっているサンマをぶつ切りにしながら幻覇王の穂先を見つめ続けた。

 時計を見ると午後5時。相変わらず南東の強風が沖では吹いているようだ。雲があわただしく動いてくる。風裏であるコウカイトウでは、その風がうまいことにそよ風に変わってくれて釣り人を酷暑から守ってくれている。硫黄のにおいが鼻をつく。かなり遠くにあるはずの硫黄岳の噴出物がこの北エリアまで迫っているのだ。

 いれば、または潮がいけば必ずアタックしてくるであろうアカジョウは姿を見せてくれない。午後6時半ごろが干潮だから、まだ下げ潮が残っているはず。潮は残念ながら本命のポイントを狙うにはつらいアタリ潮だ。

 案の定、まずはじめにアタックしてくれたのは招かれざるウツボくんだった。相変わらずトグロを巻いている。気を取り直して釣り続けるが、初めの方は頻繁にあった餌盗りらしきアタリもだんだん観られなくなった。つけ餌もそのまま帰ってくるようになっていた。

 「ここにアカジョウはいないのかな」偏光グラスで海の様子を観ていると、思いがけない友達がやってきた。尻尾の黄色いお客さんが、縦横無尽においらが撒いたキビナゴを一生懸命喰っているではないか。しかも、50〜60cmくらいはありそうな青物らしい。

 竿ケースに5号の上物竿を用意してきたことを思い出すのに、そう時間はかからなかった。早速、ダイワブレイゾン遠投5号で上物仕掛けをつくり、ハリスは6号で必ずとる準備を行った。

 一体この青物は何だろう。その正体を確かめたくて想定外のウキフカセ釣りを行うことにした。まずは第1投。仕掛けが馴染む前に一気にウキが海中奥深くに消えた。竿にズンという心地よい重量感が襲う。相手に先手を取られないように5号竿の力を信じて一気に抜きあげる。しかし、まるでカツオの一本釣りのようにその魚は、コウカイトウのステージに上ったものの針が外れてそのままオートリリースとなった。

 最近暗くなるとめっきり視力が落ちてきた私には、さっきの魚が何なのかうまく判別できずにいた。とにかく青物には間違いない。新幹線ツバメのような頭をしていたし、もしかするとヒラマサかもしれない。

 こんなときは、自分の都合のよいことしか考えないのが釣り師である。ヒラマサと信じた硫黄島の虻は、真剣に第2投。今度は、しっかり獲物を捕えた。よしっと抜きあげようとするが、これも途中でオートリリース。オーマイガッ。しかし、今度のは何かが違う。サイズが小さい。その瞬間にムロアジと理解した。

 でもさっきのはそんな小さなサイズではなかった。確かに50cmはあったはず。ヒラマサと信じ込んだ筆者は、アカジョウ狙いは忘れて青物狙いにレッツゴー。しかし、やっとで取り込んだ青物は何とツムブリだったのだ。がっくり。50cmのツムブリは悲しいかなヒラマサに比べ商品価値が激下がりだ。夜釣りでの惨敗の保険としてそのツムブリをキープ。あともう1匹ムロアジを追加して青物釣りから撤退することにした。


 夜釣り仕掛けは丸玉おもり30号に20号ナイロンハリス

 アカジョウ狙いも当然不発。夜の帳もおり、夜釣りへの準備を始めることにした。仕掛けは瀬ズレワイヤー仕掛けから、シブダイ狙いの丸玉おもり30号のシンプル仕掛けとした。ぶつ切りにしたサンマがつけ餌だ。

 潮は、左へと流れている。上げ潮の本命潮だ。期待を胸にまだ完全に暗くなっていないのに第1投。時計を見ると午後7時40分を回っていた。

 早速、穂先に魚からの反応が届いた。さそって見たりするも、一向に走る気配がない。餌盗りかも。いろいろとポイントを試してみるが、アタリがあるのはカウンター値で15,6m付近だ。

 どうしても喰わせられないので、前回のこの場所で釣れたポイント、すなわち足下を狙うことにした。足下にしかけを落としてアタリを待つ。

 コンコンと釣り師を惑わす穂先の律動はやがて一気に海中へとお辞儀を開始した。

「よっしゃあ、アタリだ」

 ピトンから竿を引き抜き、一気に勝負をかける。あまり良い型ではないようだ。慎重に浮かせて一気に抜きあげる。暴れる魚にライトを当てて確かめる。本命か?それとも外道か?

 ピチピチはねていた魚は、準本命というか微妙な魚だった。お魚図鑑では、シガテラ毒魚として知られているバラフエダイだった。図鑑の上では、危険極まりない魚というレッテルを張られているが、こちらの釣り師の間では普通に食べられている魚である。食物連鎖の低位にいるとみらる40cmほどのサイズで危険ではなさそうなので、当然キープである。


夜釣り最初の訪問者はバラフエダイくんだ 

 さあ幸先いいぞ!やる気になったものの。釣れたあとは魚からの反応が途絶えた。足下のポイントに見切りをつけて上げ潮のポイントに仕掛けを入れた。さっき反応があった地点を攻めてみるが、中々喰いこみには至らない。

 つけ餌はサンマの頭では柔らかいところだけ喰われてしまう。ならば胴体だけと思いきやこれでも中々走らない。今度はサンマを3枚におろして鈎の周りにサンマの身を巻きつけてみる。これもすぐに餌をとられて話にならない。

 そこで、1か月前にスーパーで買い占めておいた小イカを使うことにした。シブダイはイカが大好物である。しかもイカの目に食欲をそそられるらしく、ハリのつけ方がポイントだ。目が目立つようにつけなければならない。

 小イカをつけて早速トライ。まずは足元のポイントから様子を見ることにした。予想通りコンコンとアタリが出る。さあ餌とりなのか、お化けなのか。竿先を凝視していると、竿先が一気に海中にお辞儀した。

「よっしゃあ」

 竿を立てて即座に応戦。底を切ればこっちのもの。あっさりと水面を割ったので一気に抜きあげる。抜きあげた先には、黄金に輝くヒレを持ち、ピンク色に輝く魚体をした今回の大本命シブダイがいた。


今シーズン第1号のシブ

 今回は厳しいのではと思っていたところにあっさりと釣れた。本当に釣りは不思議だ。釣れるときは本当に簡単に釣れるものだ。このくらいのシブダイは、群れで活動することが多く、潮も動いているから今がチャンスだ。

 今度は、小イカとこっそり持ってきていた秘密の餌を取り付けた。見事に連続で同じサイズのシブダイが釣れた。このまま入れ食いと思いきや、この後魚は中々走ってくれなくなった。時計を見ると午後9時半を過ぎていた。いい感じで潮が流れたのであろう。しかし、時合いは短くあっという間に沈黙の海へと変わっていったのだった。(硫黄島の虻 その3へ続く)


今シーズン第2号のシブ

期待の上げ潮が流れたのはここまでだった。今日は小潮の初日。沖磯なら激流が流れる硫黄島では、帰って大潮よりも小潮の方に分があることが多い。このコウカイトウは地磯でしかも湾奥にあるため潮が入りにくいという弱点がある。
 
 ブッコミを一休みして、気分転換に電気ウキをつけたウキフカセ釣りを試す。マズ目にあれだけの青物がわいたんだもの。もしかすると、ヒラマサが湧いているかもしれない。夕マズ目だって、あのツムブリはたまたま釣れただけで、あの中にヒラマサがいたかもしれない。いや、ヒラマサどころかギンガメアジやカスミアジなどのデカ版もアタックしてくるかもしれない。事実今までも青物がまわってきて大変だったなどといった話を聞くではないか。

 妄想は膨らむばかり。早速電気ウキでのウキフカセ釣りを始めた。しかし、釣り人の淡い期待があっさりとしぼんでいくのにそう時間はかからなかった。釣っても釣っても磯夜釣り師の敵、「レッドデビル」ことアカマツカサがアタックしてくる。

 昨年、黒島の赤鼻でアカマツカサの来襲を受け、手の施しようのない事態に見舞われたことがある。あれほどではなかったものの、ものすごい数のマツカサがいるのは間違いない。さすがにこうマツカサが多くては釣りにならない。1時間ほどで上物釣りをあきらめた。お土産用に3匹マツカサを捕獲して休憩タイムとした。

 時計を見るとやがて11時になろうとしていた。缶ビールにさつま揚げという遅い夕食の後、当然のごとく睡魔が襲ってきた。満潮時刻は、夜中の0時半だ。上げ潮がうまく流れない中、ここで仮眠して下げ潮に期待することにした。狭い場所だが体を折り曲げれば何とか寝ることはできる。

 満天の星空の観ながら横になってみる。流れ星が突然現れ消えて行った。この宇宙の長い歴史の中では、自分が生きている時間はあの流れ星のようにほんの一瞬に過ぎない。しかし、その牛にとまった虻のような存在の自分も釣りという素晴らしい業を覚えたことで永遠の喜びを得たような気がする。

 映画「スターウオーズ」でダースベーダーにわざとライトセーバーでうたれ、永遠の力となるフォースとなったオビ=ワン・ケノービ。フォースになって体は消えても永遠に愛する者の力になることができた。

 だから、「一生幸せになりたかったら」ではなく、「永遠に幸せになりたかった」から私は釣りを選んだ。この一瞬の釣りは永遠の楽しみを私に与えてくれる。そして、こうして横になっていると自分が正に断崖絶壁の岩になったような錯覚を起こす。自分が硫黄島の一部にいや地球の一部になっているのだ。

 磯釣りの魅力は、こんなところにある。船釣りでは決して味わうことのできない魅力なのだ。体が動く間は磯に立ち続けたい。できるだけたくさんの足跡を硫黄島に残していきたい。そう、確かに自分という人間がこの地に足を踏み入れたということを。

 1学期の疲れがどっと押し寄せていつの間にか眠ってしまい。気がつくと時計の針は午前2時を回っていた。下げ潮がいい感じで流れる時間帯のはずだ。いかんいかん、寝坊した。あわてて仕掛けを交換し、釣りを再開することにした。

 表層の潮を確かめるべく、上物の仕掛けを流してみる。どうやら、下げ潮が予定通り、沖に向かって右に流れているようだ。足下で餌盗りのアタリしかないことを確かめたうえで、狙いを本命の磯壁に近いところに仕掛けを「えいっ、やあ」と投げる。リールカウンターが25mのところで仕掛けが落ち着く。 


第3号 下げ潮が流れてから喰いつきました 

3,4m引いては、アタリを待ち、またひいては待ちを繰り返す。そうしているうちに、どうもこのポイントは20m前後のところでアタリが多いことがわかった。アタリのあるところで釣れの鉄則通り、小イカとサンマの胴体のコラボ餌で勝負すると、竿先の本命と知らせるアタリが。
 
 よっしゃあ、腰を低くして戦闘態勢に入るが、やり取りをする中で、「軽い」ということがわかる。一気に抜きあげると、2匹目と同じサイズのシブダイがあがってきた。時計を見ると午前3時前。

 ハリをはずし魚を締めて、第2投。これも本命らしきアタリ。今度はかなり軽い。30cmくらいの小シブだ。


今回のトリを飾ってくれた 5匹目

 それから、3時半までの間に、バラフエダイ、竿先を叩く魚のバラシ(おそらくフエフキダイと思われる)、そして、本日最後となるシブダイをゲットして、潮が止まったのか再び沈黙の海となった。

 明け方は、デカ版がアタックしてくる可能性が高いので、最大級の集中力で魚を待っていたものの、最後までつきあってくれたのはレッドでビルだけだった。こうして、魅惑の夜釣りの夢のような時間は終わりを告げるのだった。


まもなく夜があけます


5時ごろになると本当に明るくなりますね

 さあ、朝マズ目のアカジョウねらいだ。仕掛けをワイヤーハリスに変え、下げ潮のポイントに入れた。しかし、夜が明けても動かない潮は相変わらずで、いくら仕掛けを打ち返してもそれらしきアタリは全く捕えられず納竿の時間となった。

 ここは最後の回収地点となるので、迎えの船が来たのは遅い時間の午前7時過ぎだった。最干潮のため、荷物の受け渡しが難しい。何とか全部受け渡し、今度は自分をと船の船首部分に飛び降りた。
 
「カマタさん、あんたが竿頭じゃかい。」

 N村さんが呟く。他のポイントは南東の強風が西磯まで回り込み、釣りにならないほどの条件だったとのこと。名礁と言われる西磯だが、魚のアタリは少なくベテランの黒潮塾のメンバーでさえ苦戦を強いられたようだ。自分は、風裏の別天地。自分が結果的に一番恵まれたポイントに乗せられたようだった。


ここがアタリの多かった下げ潮のポイント


こちらが今回沈黙していた上げ潮のポイント


背中はこのような断崖絶壁が迫ります


遊んだ後はきれいにお片づけ


今回の釣果


ありがとう コウカイトウ また来るよ!

 港へ帰って、早速反省会だ。やはり、南東の強風でどこもあまり釣れていないかった。ただ、さすがにN村さんはしっかりと3kg近い脂シブをゲットされていた。さすがだ。私は、数はいらないから、こんな型がほしかったんやけど・・・。

 今日は全体的に小ぶりの魚が多く、残念ながらアカジョウは磯では出なかったようだ。表層の水温が高く、底潮とのギャップが大きく、天候の悪条件も重なり予想通釣りはできなかったようだ。

 私は、N村さんが硫黄島欠航の日あきらめきれず枕崎の沖堤防でアラを釣ったという話を聞いていた。そこで、N村さんは、

「アラが喰いついたのは午前3時ごろだったなあ。それまでほとんどあたりがなかったよ。大きなサイズの魚はいつ来るかわからない。いつ来てもいいようにちゃんと準備していなければ大きいのはとれないよ」

とおっしゃっていた。堤防でアラを釣ったからこそ言える言葉だ。自分はデカ版を目指すと言いながら、緊張感が持続しきれなかった。早速、反省だ。

 船長に氷を入れてもらいながら、今シーズンはまだ始まったばかり、そろそろ水温も安定するので狙い目だということを船長から聞き、早くも次回の釣りへと心は動いていた。今度はいつ行けるかわからないが、しっかりと準備をして釣りに臨みたい。

 南東の強風が吹き荒れる枕崎港で、おさかなセンターのカツオくんの表情がやわらかいく見えているのが印象的だった。


意外にうまい アカマツカサのから揚げ


バラフエダイのてこね寿司 まいう〜〜〜♪


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