8/19 天然サウナ 8月の一辺島  一辺島

8月は釣り師にとって大変厳しい時期である。硫黄島などの離島のでは海水温がともすれば30度を超え、餌取り天国となり、サンマなどの通常のつけ餌では到底本命の口に餌は通らない。かといって、昼釣りでは猛暑で倒れてしまう。釣りを覚えるまではこの地球上でもっとも暑い場所は直射日光と海面からの照り返しを同時に受ける磯場であると確信を持って言えるようになった。だから、この時期は、夜釣りもしくは堤防などで暑くなったらすぐに避難できる釣りを展開していることにしている。

ところが、今シーズンは、夏季休業中様々な要因で釣りに行く予定が立たない。夜釣りでは基本的に2日間体を空けなければならないため、厳しい。近場の錦江湾でも例年なら船からのタチウオが好調になる時期だが、今年は全くその声は聞かれない。釣りに行く条件が整わないまま8月も終盤を迎えた。

このままでは・・・夏は終われない。釣り依存症の私が選んだ釣りは、最も過酷と言われる8月の昼釣りだった。連日猛暑日を記録している九州地方の磯場で釣りをすることは、海水浴以上に体を焼くことができる。熱中症との戦いも待っている。しかし、肝心の対象魚は・・・・・。

いろいろ考えた挙句選んだ釣り場は、錦江湾奥に浮かぶ一辺島だ。この磯は巨ヂヌランドとして地元では大変人気がある。デカチヌにマダイ、クロ、秋になれば青物の回遊も聞かれるこのポイントは、どう考えても9月〜10月にかけてがお勧めの釣り場だ。8月の一辺島はどうなんだろう。こんな今一歩やる気のない好奇心で、一辺島周辺を誘ってくれる「ふくよし丸」に連絡をとってみた。

「いいですよ。5時に来てください」で交渉成立だ。


さやかな朝 モチベーションは最高潮

1人でもよいというから仕方がない。やる気のない中でも釣り道具を準備し、朝3時に起床して九州自動車道を南へ下り、隼人東ICで降りる。永友釣具店で注文しておいたオキアミ生を受け取り、集魚剤を買ってふくよし丸が待つ隼人港へと急いだ。

隼人港は高速のICを出てすぐのところにあるドライバーにとっては大変便利な場所にある。港についたが、人影が見えない。赤い自転車が高い縁石に立てかけられているだけである。ふくよし丸の船頭はどこに?今日はキャップライトを持参していおらず、暗闇の中から船を探すのも大変だ。しばらく探していると、海の中から声がした。

「おーい!」

その声は船頭のものだった。今日は長潮という潮回りだが、潮位がかなり下がっていて赤い自転車の持ち主の存在に気がつかなかったんだ。

「おはようございます。今日はお世話になります」

いつものように挨拶をすませ、荷物を船に積む。ふくよし丸は釣り客が3人のれば満員というような小さな船だ。最近の状況を船頭にたずねようにも操舵席と私が居る場所の間には通路がなく、コミュニケーションをとることが難しい。仕方がないので一辺島までの船旅を楽しむことにした。

船はゆっくりと歩くような速さで隼人港を離れていく。黒潮丸のような高速船ならものの2,3分で着いてしまいそうな距離だが、ここは錦江湾内。周りは白々と夜明けを迎えて明るくなり始めていたが、小さな航海灯しかないこの船でスピードをだしての航海は危険とゆっくりとべた凪の錦江湾を滑っていく。朝のさわやかな風が頬を伝う。これから始まる「猛暑我慢大会」が全くうそのような状況だ。

しばらく走ると、大きな島「辺田小島」に守られるようにちょこんと浮かんでいる小磯を発見。今まで撃沈と恵みをもたらしてくれた一辺島が今しがた現れた朝焼けの空に対峙するように黒く色づいて海の中に立っている。


辺田小島の緑も朝焼けに輝く

この船のエンジンの出力が小さいので、磯から比較的離れた地点からスローダウンしなければならない。あと6〜70mというところでエンジンがスローになった。渡礁準備をしようと立ち上がると後ろから鹿児島弁が飛んできた。

「○★▼・・・・・」

よく聞き取れなかったが、おそらく「船首部分が見えないから姿勢を低くしろ」ということだろう。指示通りにして船の接岸を待った。一辺島は当然この季節ということでだれもいない。接岸するとゆっくりとした動作で荷物を磯に乗せ、自分ものった。

「迎えは12時にお願いします」

こう船頭に伝えると、船頭は手をあげて去っていった。


釣り筏に夏休みの親子連れ

気持ちのいい朝だ。港の右方向の空から色づいて見える雲は紫色にそまり、まもなく朝日が顔を出す時刻が迫っていることを知らせていた。「けっこう涼しいじゃん」こう独り言を言いながら撒き餌の調合と仕掛け作りに入った。

一辺島は、足下張り出し根がきついところで水深があり、ちょっと先は竿3本、遠投すると竿5本までになる。ここで釣果をあげるためには、深いタナをしっかりととることが必要。または、難しいがつけ餌と撒き餌をしっかりと合わせることが大切のようだ。更に、この磯場にはたくさんの餌取りが居付いている。手前にいるネンブツダイはそれほどでもないが、アジゴや子グロがたくさん湧いていると手がつけられなくなる。この餌取りをいかにかわして本命に喰わせるかがカギになると思われる。


本日の撒き餌 日本海とチヌパワームギ

撒き餌は、深い水深でも対応できる重めの「日本海」と集魚力をかって「マルキューのチヌパワームギ」をオキアミ生1角と粘りが出るように手でしっかりと固めに混ぜ込んだ。餌取りの状況によっては遠投しなければならないからだ。つけ餌は、一辺島では標準餌のオキアミボイル。それでも餌が通らないときを考えてダンゴも準備した。

竿は、久しぶりのダイワメガドライM2・1.5−53.道糸2号にハリスはデカ版対応の1.75号で。ウキはキザクラクジラBのLサイズで全遊動。JクッションJ3におもりを段打ちして仕掛けがスムーズに入るようにセット。


竿は久々の登場 メガドライM2 1.5−53

6時半ごろ仕掛けが完成。いつもの船着け、隼人港向きの釣り座で勝負することにした。撒き餌ダンゴを6個ほどチヌの本命ポイントに入れて、手前に撒き餌をし、餌取りの状況と潮の動きをみる。相変わらず居付きのネンブツダイ君が縦横無尽に餌を追っている。潮はほとんど動いていないようだ。

このポイントでは竿2本先からがチヌのポイント。更に遠投すればマダイが喰ってくるというところ。この時期は、特に朝まず目が勝負。日が高くなれば餌取りが活発になることは容易に予想できる。朝の涼しいうちに釣果をあげなければならない。さあぼやぼやしていられないぞ。

さっき撒き餌を入れていた竿3本先のチヌのポイントに仕掛けを入れた。ある程度仕掛けがなじんでしばらくして仕掛けを回収。回収の仕方からどうやら上潮だけが滑って底潮はほとんど動いていないようだ。帰ってきた付け餌の状況は餌盗りらしき小魚が喰っていることを釣り人に伝えてくれた。

小グロだろうか。仕掛けを打ち返し、何投目かに小さな魚信をとらえた。上がってきた魚はアジゴだった。おいおい、君がたくさんいると今日は厳しい釣りになるんだよ。苦笑いしながら海にお帰り願った。


本日の餌取りは君か これは手ごわいかも

しばらくそのポイントで釣りを続けるが、どうしても餌が通らない。ダンゴに変えても結果は同じだった。そのポイントに見切りをつけて、遠投することにした。ここなら餌が通るかも。仕掛けが馴染み、タナまで到達したと思った瞬間、道糸が一気に走りやり取りとなった。道糸の勢いはすごかったが、メガドライの曲がりから30cm前後の魚と感じた。

さあ何が喰ってくれたのか。浮いてきたのはピンク色のおめでたい魚「マダイ」だった。ピンク色の魚体、ブルーのアイシャドウ、天然もののそれとわかるヒレ形は一辺島まで飛んできてくれた。


30cmクラスのマダイゲット

順本命が釣れてほっとする。潮は本命潮である隼人港向きに緩やかに流れている。これは釣れる潮だ。長潮、そして真夏という厳しい状況の中での釣果だけにうれしさもひとしおだ。これは美味しいので絞めてクーラーに。ここで釣れるこれくらいのサイズは、群れで回遊していることが多く、続けて釣れることが多い。少しやる気になり、仕掛けを再び打ち返す。

しかし、時間がたつにつれこの場所でも餌盗りが猛威をふるい出した。餌が持たない。たまに餌が通ることはあってもチヌ特有の餌の咬み後など本命の気配がしない。遠投にも見切りをつけ、今度は比較的近い過去に釣れたチヌのポイントを探ってみる。これも餌が持たない。仕方がないので、ダンゴ中心のつけ餌にし、撒き餌と餌を合わさないようにして何とか本命のチヌをと思いきや、その後釣れてくれたのは30cmクラスの高級魚のゴマアラ(オオモンハタ)だけだった。



やったー 高級魚ゴマアラゲット 

9時ごろから、暑さは最高潮に達し、とても釣りができる状況でなくなってきた。竿も途中で折ってしまったこともあり、集中力も切れかかり、いかに魚を釣るかではなく、いかに熱中症にならないかという目標に切り替わっていた。当然、撒き餌をする元気もなくなり、休憩が多くなってきた。弁天島向きの日陰で休むことが多くなり、その後はひたすら帰りの船を待つだけとなった。回収の船が見えたときは本当にうれしかった。


メガドライ負傷 涙で目がドライに


暑くてたまりません 日陰に逃げ込みます


ありがとう 一辺島


ふくよし丸さんお世話になりました

「アジゴが多かったろ」

開口一番、こう船長に言われた。

「ですねえ。餌が持ちませんでした」

「クロはつれんやったね」

「釣れたけど、小さいから逃がしました」

「おーっ、もったいない」

木端グロは釣り師にとっては邪魔者なのだが、船頭さんにとっては価値ある1尾らしい。

「8月は、陽が出れば、釣れんもんなあ。やっぱり9月にならなくちゃ」

多分、鹿児島弁でこのように言われたと思う。なにせ、熊本県の南の人吉盆地に住んでいる自分でも鹿児島弁はあまりわからない。でも、

「マダイとゴマアラが釣れましたよ」
と言うと、

「そりゃあ、よかったなあ」

とねぎらってくれた。言葉はあまり通じなくても海が好きな仲間としてしっかりと気持ちを伝えあったと思った。8月の釣りは厳しい自然条件を体験させてくれたが、同時に貴重な錦江湾の恵みを少し頂いた。家に帰って、さばいて食べたゴマアラの刺身はこの時期に食べる魚としてはトップクラスの味がした。厳しい条件だからこそ釣れた時の喜びは大きい。再び、その厳しさと喜びを体験したくて早くも次回の釣りをイメージトレーニングするのだった。


マダイの造りあっさりしてウマい


ゴマアラ あまーい ウマすぎです


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