12/12 世界遺産での釣り  屋久島

世の中はいつの間にか師走に入っていた。12月4日に、今シーズン初の磯出撃を予定していたものの今はやりの爆弾低気圧で沖磯は大波。

師匠uenoさんは、それでも我慢できずに翌5日に片野浦へ出撃したものの、35cmクラスを1枚に足裏サイズを4枚という不本意な釣り終わったとのこと。

甑島もまだまだ本来の実力には程遠いらしい。

さて、開幕戦を時化で落としたもののおいらには次があった。それは、11日〜12日にかけての職員旅行での釣りの計画だ。世界自然遺産として世界にその名をとどろかせている屋久島での釣りだ。

屋久島といえば、口白の島として、また、尾長グレの楽園として釣り師の間では、昔からよく知られている。周囲132kmの大きな島は、九州の最高峰である宮之浦岳を擁し、登山者のあこがれの場所でもある。

頂上付近は北日本の気候、麓付近は南国の気候と、島全体が日本列島の気候を内包しているといっていい。

こんな屋久島だから海の中も当然魚の宝庫であることは間違いないはず。職員旅行という限られた条件の中でも何としても釣りをしたいという願いを叶える気持ちはここから生まれた。職場の先生方は、もちろん釣りは素人だから、いきなり磯という選択肢は難しい。そこで宮之浦港を基地としている岩川釣具店のあゆみ丸に船釣りの手配をしてもらうことにした。


午前6時40分宮之浦港を出港

トッピーで屋久島に渡り、初日は屋久杉ランドで観光。明日の予報はまずまずだったものの、夕方からかなりの風が吹いてきた。

屋久島は日本でもトップクラスの降水量を誇る場所。当然天候は変わりやすい。明日は大丈夫だろうか。

船長に電話を入れる。

「予報は2mと言っているんですけど、風が北東の予報なんですよ。明日(沖に)出てみないとわからないですねえ。」

何ということだ。ここまで来て、まさかの中止か。でも心配しても仕方がない。とりあえず、明日の朝に、宮之浦港に行ってみるしかない。


  真ん中の一番奥に宮之浦岳の頂上が見えています

午前5時半に、安房のホテルを5人のにわか釣り師が出発。宮之浦港を目指した。

港に着くと、心配していた風はほとんどない。だいじょうぶかも。明かりのついているところに近づくと、早くもあゆみ丸が出船を始めていた。

「たぶん大丈夫でしょう。今準備をしていますからもう少し待ってください。」

こうして、我々5人のにわか船釣り師は、午前6時40分ごろ宮之浦港を離れた。

宮之浦港の堤防を離れると、こんどはフェリー乗り場の堤防が見えてきた。更に進んで次は巨大な沖堤防が2つ出迎えてくれた。この三重の堤防は台風の進路にあたる屋久島ならではのものなんだろう。

北東の風という宮之浦港にまともに正面吹きという最悪のシナリオを思い描いていたが、沖に出ると若干昨日の波気は残っているものの釣りができない状況ではなさそうだ。

「何が釣れるんですか」

と軽く出港前に船長にジャブを入れていたが、帰ってきた返答はあまり芳しいものではなかった。

「黄ホタ(ウメイロ)とか、カワハギ(ウマヅラハギ)、クロ(尾長グレ)が釣れますよ。」

同僚から絶大なる人気を誇っていた首折れサバは、

「サバは不漁で釣れないんですよ。サバ10切れくらいで1800円くらししますよ」

という船長の返答でどうも期待薄のようだ。

しかし、ホタの味をしっているおいらは、サバよりもホタ狙いで心の準備を整えた。


今回は釣り道具一式レンタルだから楽々

出港して10分ほどして、エンジンがスローになった。ポイントに着いたらしい。正確な位置取りをするために船はしばらく洋上を旋回する。

船の一番後ろを若手にゆずり、早速、仕掛けを準備してもらい、船長の合図を待った。後で聞いたが、この一帯はテイミツ瀬といって屋久島ではかなり実績のあるポイントらしい。

「はいっ、始めてください。タナは55mです。」

船長の合図で世界遺産での釣りが始まった。竿は100号クラス、PEの5号に、おもりは80〜100号、L天秤かごでハリス6号の2本バリ仕掛け。鈎は大きめの鯛鈎10号あたりのようだ。仕掛けを57mまで落として、しゃくりを4,5回入れて55mまで巻きあげて当たりを待った。

潮はあまり動いていないようだ。第1投で当たりがなかったので巻きあげてみる。餌盗りがいるようで、餌がない。魚の活性はあるようだが、まだ本命の気配がない。小魚が餌をつついている模様。


初めての獲物に興奮気味のI先生

今日は我慢の釣りになりそうだ。4,5回トライした後、突然、船長のマイクを通した声が聞こえてきた。「前の人当たっているよ」今日、初めて釣りをするという若手のI先生の竿に当たりが来ているではないか。あわてて電動リールを巻き上げるI先生。

上がってきた魚は40オーバーの黄ホタだ。「よかったね。おめでとう。」初めて魚を釣りあげて興奮気味のI先生。「これは何という魚ですか」「食べられるんですか」と矢継ぎ早に質問してくる。よかった。これで彼の釣り人生に記念すべき1ページが刻まれることになった。

ってこちらの本心は気が気でなかった。全くの初心者に先を越されるのは気分のいいものではない。彼に続けとばかりに仕掛けを打ち返した。

すると、こちらの願いが通じたのか、すぐに私にも当たりを知らせる竿先のお辞儀が始まった。「おっ、釣れましたね」若手の乗務員さんが声をかけてくれる。この竿の曲がりからして、それほど小さなサイズではなさそう。さあ魚が浮いてきた。

初めての訪問客はだれとゴムクッションをひきあげて魚を浮かせようとすると、思いのほか突っ込んでくる。懐かしい引きだなあ。そうこの感触は最近味わっていないものだった。これからの磯上物のメインターゲットの尾長グレだったのだ。

「あっ、クロだ。玉網ですくいますから」

乗務員さんは、浮いてきた意外な魚を掬いにかかってくれた。船上であばれているのは、鰓蓋の黒いしるし、うろこが小さめ、そして、尾っぽがとがっている、まぎれもない尾長グレだった。50cmクラスの本命を手にし、とりあえずほっと胸をなでおろす。

「よかったですね。ここは、あまりクロは釣れないんですよ。いい時でも、私らでも1人で2匹ぐらい釣ればよいほうですよ。」


こんな尾長グレが立て続けに・・・

磯でも船でもそうだが、魚釣りというものは不思議なものでだれかが釣れれば、その同じ時間に他の釣り師に当たりがあるものである。ということは時合い到来か。

案の定、他の人にも魚からの反応が見られた。ウマヅラハギ、ムロアジ、ゴマテングハギモドキなどが船をにぎやかにしてくれた。

この後も、こうした短い時合いの時間帯ときどきやってきては、短時間で終わり静かな時がやってくる。そういう調子で1人2〜3匹の釣果が出ていた。この時は同サイズ尾長を1枚追加し、ウメイロ1枚をようやく釣りあげたところだった。みんなに一応釣果が出ていたので、自分の釣りに集中することにした。

そして、その時はやってきた。いい感じの底潮が流れていることを示すPEラインの角度が最高の状態になった時、いきなり竿先にぐっと今までにないような強烈な当たりが襲った。これは只者ではない。とっさにそう思ったおいらは慎重にリールを巻き上げた。しかし、あと15mというところで痛恨のバラシ。仕掛けを回収すると、するどい歯のようなものでハリス切られた跡があった。

くやしいバラシだったが、チャンス到来とすばやくさっき当たりのあった50.2mのタナを直撃することにした。案の定、魚からの交信があり、魚が浮いてきた。「おーっ、クロだ、クロ!」一番喜んでいるのは、船長さんのようだ。浮いてきたのは今日3枚目の尾長50cmクラスだった。

更に、仕掛けを入れる。再び当たり。これも50cm近いグッドサイズの尾長グレだ。「こんなにクロが釣れるとは思いませんでしたよ」やはり乗務員さんが驚いている。今日はかなりラッキーな状況らしい。

更に連続で50cmクラスの尾長グレを追加し、合計5枚となった。他の人もポツリポツリ尾長グレをあげて、結局尾長グレ船中11匹の大漁となった。

更なる獲物と頑張るものの、最後の仕掛けで2.5kgのデカ版ゴマテングハギモドキを釣ったところで今回の釣りを終えることにした。船釣りだが、こんなに尾長グレを釣ったのは初めてだ。世界遺産での夢のような釣りはあっという間に11時45分に納竿となったのだった。


宮之浦沖堤防 ここもクロがよく釣れるそうです


フェリーが出迎えてくれました


  本日の釣果 尾長グレ50cmクラス5枚 黄ホタ1枚他


船中11枚の尾長グレ 黄ホタ7枚がでました

いろいろと微妙にポイントを変えて、苦労したが、終わってみれば、尾長グレ1.5〜2.5kgを11枚。黄ホタ40cmクラス7枚、ゴマテングハギモドキを3枚、そして、ムロアジを2枚という大漁となった。持ってきていたイグロークーラーは満タンでおかわりまでしてしまったのだった。


あゆみ丸さんお世話になりました


安房港にある人工漁礁


尾長グレ、黄ホタのしゃぶしゃぶ


黄ホタの皮は絶品でした

世界遺産屋久島の海よありがとう。今度来た時も、我々を歓迎しておくれ。こんな独り言をつぶやきながら、トッピーの窓から屋久島の山肌に別れを告げるのだった。


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