12/29 青年は荒野をめざす  北浦

風雲児九州遠征編パート2

「こんな年末は記憶になかなあ。」
 
uenoさんが吐き捨てるようにつぶやく。
 
「こんな時化続きの年末は記憶にないですわ。仕事にならんね。」
 
やはり、黒潮丸の船長も同様だ。
 
釣りというレジャーは天気次第。そんなことは百も承知。わかってはいてもどうしても納得がいかない釣り関係者が日本全国で多数いるに違いない。
 
1年間仕事を頑張ってきて、家族を拝み倒して年末に休みを取り、年末の釣り納めを計画したというのに。体を3日間開けていたというのに。
 
いわゆるクリスマス寒波に大みそか正月寒波。その間に、29日という晴れマークのオアシスを釣り師ならだれもが希望の泉に思えたであろう。
 
ところがお天気おねえさんの言葉は容姿とは裏腹に残酷極まりない。
 
「29日は、西風が強く、海上は荒れ模様。船舶は十分ご注意ください。」
 
波高4mのち2.5m。クリスマス寒波の後、間髪いれずにやってきた寒波のなごりで西からのうねりが日本列島を襲うらしい。こんな予報で黒潮丸が船を出すはずがない。
 
ああ、1年で最も楽しみにしていた釣り納めに行けない。1泊瀬どまりのために新調した寝袋が笑っていた。
 
延岡の釣具店 とても親切でした
 
ところが、私たちよりもっと辛酸をなめている男がいた。Webサイト「GURESUMMT」管理人の風雲児さんである。兵庫県在住である彼は、日本全国に釣り友を持ち、海水だけでなく淡水、そして、磯上物がメインだが、あらゆる釣りを体得しているマルチアングラーである。
 
ホームグラウンドは四国の沖磯だが、興味があれば日本全国津々浦々その土地の釣りを経験してまわるという、連続転勤ドラマ顔負けの釣り師なのだ。
 
その彼が、愛してやまない釣り場がある。それが、私のホームグラウンドである薩摩硫黄島である。私が発信した情報に触手をのばし、何とはるばる関西からフェリーで九州へ上陸。硫黄島に1人で乗り込み、見事平瀬で57cmの尾長グレを仕留めている。
 
今回もぜひ硫黄島で釣りがしたいとフェリーで宮崎から九州へと上陸を果たしたのだった。その彼が、今回の時化のオンパレードを一番嘆いていたのは言うまでもない。
 
「どないしましょう。釣りができるところはありますかね。」
 
電話口の向こうから、半分泣きがはいったような声で、話をする彼。
 
彼は歴史に造型が深く、歴史探訪の旅に切り替えることはできるのだが、硫黄島に行けないだけでなく、釣りをさせてもらえないという状況は笑うしかない。大量に積み込んできた釣り道具が軽自動車の中で泣いているだろう。正に、風雲児ならぬ不運児というほかない。
 
とりあえずやる気を見せて 餌を混ぜます
 
そんな彼のために何とか釣りができないところはないだろうかと、ありとあらゆる可能性を探った。すると、大分か宮崎県北の磯ならできると結論をだした。結果、宮崎県北の雄「北浦」に行くことにした。27日は好調だったと聞く。早速、あゆ丸の船長に予約を入れる。
 
「う〜ン、朝5時にきちょってね。」
 
29日からは出港がフリーになるので、他の釣り客が出発する時刻に合わせることにしたのだ。
 
29日小潮まわり。午後8時過ぎに再開した風雲児さんと合流し、彼を乗せて南へ下った。宮崎県延岡に入ったころには下弦の月が東の空にくっきりと現れていた。
 
10号線沿いにある釣具店「釣りタイム」で餌を購入。一路北浦へと向かった。
 
午前5時まで仮眠をとり、船長も登場。我々は船に乗り込みいよいよ北浦古江港から出船とあいなった。
 
鹿児島では4mの波だが、ここは別天地。うねりはあるものの風は時折強く吹く程度。釣りができない状況ではなかった。釣り師の夢とロマンを乗せた船は沖テトラを過ぎると舵を右へときって行った。
 
今回は沖の高バエで勝負 横バエが見えます
 
名礁「沖の二つ」や地の二つをスルー。船は横バエの近くでスローダウン。サーチライトを当てて、状況を確認している。横バエはうねりで波をかぶっている。
 
船長はすぐに横バエの先にある地磯に向けて舵を取った。
 
「kamataさん」
 
1番目に名前が呼ばれた。荷物を船首部分に出し、渡礁の体制にしてその時を待つ。不本意な釣りとは言え、この時ばかりはテンションが上がる。あゆ丸が磯壁にぶつかる。がっぷり四つになる間にすばやく渡礁。荷物を高い段にあげた。
 
高い段は足場がよいようです
 
風が結構吹いている。そして、ここはまるで底物のポイントのような高さのあるポイントだ。我々が釣り納めの主戦場となるのは、沖の高バエというそうだ。
 
風雲児さん 自称ボウズロッドを準備中
 
船つけで早速第1投
 
我々は、夜が明けると早速仕掛け作りに入った。風雲児さんは、自称ボウズロッドのダイワの1.65号。私は、ダイワメガドライ1.5号。
 
「どこで釣られます。」
 
彼が釣り座の選択について提案してくる。今日は君がビジターだ。お好きな所にどうぞ。
 
船つけに釣り座を決めた彼は、朝焼けに向かって第1投。潮はあまり動いていない。
 
ここは、北浦でいういわゆる上り潮の時が実績が高く。潮が沖に向かって左に動いた時がいい。今のところ潮はその逆に動いているようだ。
第3投ではやくもクロをキャッチ
 
わては足裏サイズが・・・
 
ゆっくり仕掛けを作って風雲児さんの右の高場にバッカンを持って行った時だった。彼はいきなりやり取りを始めていた。
 
1.65号の先調子がわかる程度の曲がりだが、その引き方からして本命魚のよう。ばしゃばしゃと魚が浮いた。彼に笑みがもれる。早くも35cmクラスのクロをゲット。よかった、よかった。遠方から来た客人に九州のクロは早くもプレゼントを届けてくれたようだ。
 
「浅いですよ。1ヒロ半」
 
自然と情報提供してくれる。
 
ほどなく、自分にもアタリがあったが、コッパばかり。何とか足裏サイズをとりあえずキープする。
 
魚の活性は高そうなのだが、中々喰わせられない。風雲児さんが1枚クロを追加し、私が小イサキを追加して小休止した。
 
深く入れるとイサキが当たってきました
 
魚を釣るがアイゴちゃんでした
 
10時ごろに弁当便がやってきました
 
足下の根回りがポイントのようです
 
大平バエも波をかぶり乗れません
 
10時前に弁当便がやってきた。横バエに乗せていた釣り師たちはうねりのために満潮近くなった釣りが不可能となってきたので撤収。状況を船長に尋ねるが、状況はよくないらしい。いつもの「昨日までは釣れていたんですけどねえ」のパターンのようだ。このままこの場所でねばることに。
 
その後、一向に本命潮にならない中、私が裏の本命本カワハギ。風雲児さんがアイゴとご推奨のカゴカキダイをそれぞれキープして満潮潮止まりを迎えた。
 
「シブいですねえ」
 
お互いに弁当を食べながら、今までの釣りとこれからの釣りについて語り合った。
 
本カワハギゲット うれしい外道です
 
 
シブいですねえ
 
シブい中アタリをとらえる風雲児
 
これはうまいですよ アイゴは兵庫でも人気だそうです
 
磯弁はなぜかウマイですなあ
 
どうも水温が下がったらしく、下げ潮になるとますます魚の活性がひくくなった。うねりは相変わらずで左のワンドに当たって波しぶきがまるでシャワーのように降ってくる。そんな中、何とか2枚のクロをひきずり出した風雲児さんはさすがだ。天候不順な中でもフェリーで九州遠征を敢行。硫黄島に行けないことが分かっても前向きに気持ちをかえ、目の前の釣りに集中する。この釣り魂は大いに学びたいものだ。
 
回収の時間が迫ってきた。夕まず目のドラマは最後までなかったが、すがすがしい気持ちで磯の清掃を済ませ、沖の高バエを後にした。
 
本日の竿頭でした
 
ぼくはやる気なし
 
ありがとう 沖の高バエ
 
2010年 安全に釣りができたことを海に感謝です
今回は本当に残念だった釣り納めだが、彼はくやしいそぶりも見せずに気持ちを切り替えていた。
 
「かまちゃんがいなかったら、釣りができまへんでした。ありがとうございました。また、2,3年後になるかもしれませんが、また硫黄島へチャレンジします。」
 
「今回うまくいかなかったけど、そのことでまた次につながるよ。うまくいきすぎたらかえって魅力がなくなるかも。また、連絡してくださいな」
 
こうして、硫黄島バカの2人はまた合うことを約束して別れた。
 
彼はこの後兵庫まで自動車で帰るという。順調にいって7時間のドライブという強行スケジュールだ。彼が無事に自宅へたどりつくことを祈りつつ、彼の置き土産である神戸定番のお菓子「鶯ボール」が輝いて見えた。そして、そのけばけばしいパッケージを見ながらこんな釣行記のタイトルが浮かんだのであった。
 
「青年は荒野を目指す」と
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