2/5   郷に入れば郷に従え  硫黄島

2月5日(土)下り中潮初日。暦の上ではすでに春を迎えた硫黄島に向かうため、10名の戦士たちが枕崎港に集結した。彼らの狙いは、黒潮に乗って産卵のためにやってくるワカナ(尾長グレ)である。2004年から2005年にかけて、空前の尾長グレラッシュに沸いた硫黄島。おごれるものも久しからず。2kg〜3kg越えの尾長グレがバンバン釣れていたころが懐かしい。

「kamataさん、硫黄島なら尾長が釣れるところに乗せてもらおい(乗せてもらおう)」

どうせ離島に行くなら、尾長グレを狙えるところにというのは釣り師としては大いに理解できる。暦も節分から立春となり、そろそろ梅の花が咲き始める。そのころ、南海の尾長グレ釣りはピークを迎える。ここ数年不調だった硫黄島の尾長グレも、先々週の釣行では回復の兆しが見えたのか、尾長が各所で釣れたらしい。

その話を10倍くらいにふくらませて伝えたものだから、uenoさんはたまったものではない。何としても硫黄島に行きたいと、いつの間にか戦闘態勢に入っていた。

「鵜瀬や平瀬あたりに乗せてほしかなあ。ばってん、新島はいやばい。釣れる気のせんもん。みゆきも釣るっとかなあ。」

uenoさんは、新島やみゆきでいい思いをしたことがなく、逆に新島やみゆきが大好きなおいらに対して明らかに牽制球を投げてきている。釣行予定の2月5日の潮周りは中潮で、干潮が午前2時16分、満潮が午前8時36分。上げ潮で尾長をねらい、下げ潮で口太を狙うという攻め方になる。

難しい選択だが、今までの経験では、下げ潮のポイントに上がった方に分があるように思える。そうならば、上げ下げ両方狙える新島や下げ潮で口太の乱舞が期待できるみゆきがベストではないかと思うのだが、何せuenoさんは頑固だ。言い出したら自分の主張を中々曲げない人だ。ここは師匠の顔を立てて、師匠の気に入る磯に上げてもらおうと船長に、

「尾長の釣れるところに乗せてください。」

と一応こちらの希望を伝えた。でも、よく考えると、この時期、尾長グレを狙わない釣り人は皆無だ。考えようによっては、硫黄島のどの磯でも尾長が狙えるとも考えられなくはない。このアバウトな希望を船長はどのようにかなえてくれるのだろう。不安と期待が交錯する中で、ueno宅に午後11時前に集合。人吉ICから九州自動車道を南へ下り、一路枕崎港を目指した。

磯釣りで、いつも迷うことがある。それは、仕掛けの選択だ。ウキの浮力は?半誘導か全遊動か、固定か。ハリスの号数は?

行きの車の中で、uenoさんとの間でそのことが話題となった。

「kamataさんは、どがん仕掛けで尾長ば狙うとな」

uenoさんが、おいらにリサーチを試みる。硫黄島における尾長グレ釣りでは、石鯛竿を使った宙釣りが一般的である。5〜10号くらいの錘をつけて、闇夜ならハリスはワイヤーや16号、月夜でも12号より落とすなと船長は言う。男女群島でも6〜8号で釣るというのに、硫黄島ではこのような太仕掛けが主流である。自分は本当は、石鯛竿による宙釣り仕掛けでと思うのだが、石鯛竿は12月に海中に沈ませてしまったので、5号竿によるウキフカセ釣りをやると伝えた。

「おら、石鯛竿の宙釣りバするつもりバイ」

最近手に入れた石鯛竿を使いたくて仕方がないuenoさんは迷わず硫黄島で生まれた釣り方で勝負するという。宇治群島や男女群島では全く邪道なこの釣り方も硫黄島では王道を行く。郷に入れば郷に従えだ。無理やりにでも宙釣りの仕掛けを持ってこなかったことを自分は大いに後悔し始めた。

こんな話をしていると、指宿スカイラインに入り、いつの間にか枕崎港の近くに来ていた。2時半集合だが、2時前には到着。今回は車が結構止まっているぞと数えてみたが、結局5台。しばらくすると車の数が少し増えたが、それでも今回の客は10名。やはり下げ潮がメインということで底物師はわずかであとはすべて上物師だった。

メンバーを見ていると、何と相性のよい謎の爆釣釣り師に、みゆき専門釣り師のHさんなどが名を連ねていた。今回は期待できるかも。ひそかにほくそ笑みながら荷物を船の前に運んだ。

船長の軽トラックが登場。にわかに釣り師の動きが早くなる。続いてチャールズ=ブロンソン似のポーターさんも到着。やがて

ぶるんぶるん

と黒潮丸に命の鼓動がふきこまれる。ライトが点灯され、釣り師の動きも最高潮に。みんなで協力して手際よく荷物を収納し、キャビン内の毛布にくるまる。いつもの何気ない動作だが、この瞬間はとても幸せな瞬間だ。魚の夢を見ながら毛布にくるまるというのは実に楽しい。ほとんど一睡もしていない体は自然と毛布をほしがっているのだ。

やがて3時前になると、さっきまで騒がしかった船内も静かになってきた。キャビン内のライトが消される。いよいよ出航の時だ。船はゆっくりと右90度の方向に旋回し、枕崎港内を滑っていく。
 


今回も10名というこの時期としては少ない人数で

沖堤防を過ぎるとエンジンは一気に高速回転になる。ここで今回の海の状況を推し量ることにしている。ドスンドスンと船体は波の振幅に呼応するように揺れている。4日の夜半から気圧の谷が九州の南岸を通過するようで、朝方まで雨が残るかもしれないという微妙な予報。よって、夜から朝方にかけては1.5mという造作もない予報で、雨が上がってから2mとなっているので北西が吹くのであろう。いずれにせよ出航には問題ないだろう。

クロ釣りは確かに時化気味の方がいい。全くのべた凪では、サラシをメインに釣る硫黄島の各フィールドでは苦戦を強いられるからだ。しかし、それにしてもゆれてるなあ。これからの釣りに若干の不安を感じながらも、いつの間にか深い眠りに落ち、いつものように目が覚めた時は、エンジンがスローになっていた。

結構揺れているね。起き上がっていると、気持ち悪くなるほど揺れている。結構風も強いようだ。いつもは、船長がピンマイクで釣り人を呼び出し、渡礁体制に入るところだが。しばらく船はエンジンをスローにして同じ場所にとどまっていた。いてもたってもいられない気の早い釣り師たちは、気が気でない。キャビンの外に出て状況を確認している。

おかしいな。鵜瀬か平瀬かのどちらかに来ているはずだが・・・。やがて船は、エンジンを高速にし、しばらく走った後、渡礁に入った。「×★○▼・・・、新島」船長がマイクで何か言っているようだが、どこに渡礁させているのかわからない。おそらく新島であろう。波高1.5m〜2mの予報だったが、さすが自分。時化模様は相変わらずで、渡礁場所が限られる厳しいスタートとなったようだ。

またしばらく走ると今度は船長がキャビン内に入ってきた。

「kamataさん、行くよ。Hさんといっしょで3人だけどみゆきでいいな。」

よっしゃあ、テンションがあがる。アドレナリンが全身を高速で駆け巡る。前頭前野の血流がほとばしる。もう無意識のうちに体が船首部分に動いていく。かなりの風だ。びゅんびゅん吹いているし、結構な時化具合だ。雨も小雨ながら断続的に降っている。戦いの舞台は整った。後は渡礁するのみ。自分たちの前の2組の釣り人の渡礁を見守ることにした。


さあ 尾長グレねらいだ

まずは、三段への渡礁だ。三段は永良部崎半島の西側の根元付近にある磯で、底物がメイン。もちろん尾長も狙える好磯だ。その磯にピン底物師が渡礁体制に。揺れる船内でフラフラになりながら、かろうじて荷物を船首部分に運び姿勢を低くして身構える。

「すべるから気をつけて」

丁度潮位が低い時間帯で、駆け上がり状の船着けからの渡礁は大変危険だ。しかし、その底物師は、見事な下半身の強さで難なく渡礁を済ませた。荷物を受け取り手を振る底物師。

「○○さん、荷物を高いところにあげて、しばらくライトをあてておくから」

釣り人の安全を確認した後、今度は三段とみゆきの間のワンドの奥の地磯に船はつけた。その無名瀬にやはりピン底物師が無事に渡礁。今度は我々だ。みゆきは渡礁場所が2か所ある。潮位が上がっているときは、尾長の釣り座から渡礁できるが、今日は潮位が下がっているので夏のシブダイポイントに近いところからの渡礁だ。

まずは、Hさんが渡礁。「すべるから気をつけて」とポーターさんが言うやいなや、ホースヘッドが接岸した瞬間岩に飛び移った。さすがベテランと思いきやその瞬間滑って転倒。緊張が走る。心配したが、Hさんはさすがだ。すかさず2本ずつの手足を岩肌に張り付かせ、海に転落するという最悪のシナリオを防いだ。

このところの連続する寒波の影響で予想以上に岩ノリが付着し、釣り師の渡礁を阻むかのような状態だったのだ。Hさんに促されおいら、そして、uenoさんとすばやく渡礁。荷物を慎重に受け取った。風はますます激しさを増し、雨は容赦なく釣り人の体を叩いている。

「早く荷物を高いところに上げて」

船長が、大声で指示してくる。波が足下まで迫っている。急いで荷物をまずは上の段に上げることにした。しばらく、黒潮丸がライトをあててくれている。気圧の谷の影響で、風はまともに正面吹きだ。みゆきは沖側にヒレ瀬があるため、うねりをある程度避けることができる。バロメーターとして、ヒレ瀬がどうなっているかがポイントだが、潮位が低い今の時間でさえ、波を被っている。これはかなりの時化具合だ。

今回の黒潮丸の布陣は、新島と硫黄島本島の南西側の地磯付近での布陣となった。いずれも北西風に強いところだ。おそらく、雨が止んだら北西の強い風が吹くとの予想で、それに対応できる場所を選択したようだ。


55cmのワカナを手にしたHさん

Hさんと簡単な挨拶を交わした後、荷物を運んで早速仕掛け作りに入った。竿は、ダイワブレイゾン遠投5号のケミホタル装着のドングリウキ1号。道糸10号、ハリス12号で、タナは2ヒロから始めた。午前5時半ごろから釣り開始。

「船長の話だと、6時ごろにバタバタと尾長が喰ってきたげな」

uenoさんがさりげない一言を。uenoさんは早くも石鯛竿宙釣り仕掛けを準備して真ん中の釣り座で釣り始める。私は左、Hさんは右に釣り座を構えた。うねりは収まる気配はなく、波しぶきがあがってくる。風と雨はさっきより幾分収まってきたが、かなりのサラシが釣り座をダイナミックに洗っている。

「マツカサばっかりバイ」

uenoさんは、アカマツカサに手を焼いている。おいらも餌が持たずに苦戦。しかし、潮は結構いい感じで動いている。魚の活性も悪くない。これは期待できるのではないか。その時だった。

「餌の残ったバイ」

uenoさんが意味深な言葉を放つ。こちらのさし餌も残りだした。これはチャンスかも。三人とも俄然やる気モードに。息を殺して仕掛けを操った。
その時、uenoさんの鋭い合わせが入った。竿が曲がっている。もしかして、尾長?しかし、一旦は歓喜の声をあげたuenoさんだったが、その声が落胆の色となるのにそう時間はかからなかった。

「なんやこれ?軽い!うん?赤い!」

このタイミングで釣れる赤い魚はオジサンしか思いつかなかった。釣りあげた獲物にライトをあててずっこけるuenoさん。あ〜〜あと声を上げながら髭の生えたお友達を海に帰した。最大級の集中力で釣っていたというのに。このタイミングでのオジサンは、2人の釣り師のテンションを一気に下げた。

ところが、ここで他の2人との違いを見せつけたHさん。いきなり、魚とのやり取りに入っている。竿を叩いているが、5号竿のこの曲がりからしてかなりの大物であることには間違いない。魚を浮かせると、uenoさんにヘルプを求める。

「尾長じゃ、網ですくってくれんか。」

すかさず、uenoさんが玉網係となり、無事に獲物を納めて釣り座まで引き上げた。Hさんがその獲物にライトをあてると、そこに横たわっている魚からとんでもないパワーのオーラを感じた。エメラルドグリーンの瞳、緑茶色のボディー。トレードマークの鋭角的な尾ヒレ。大きな特徴であるえらの黒い縁。しばらくの間、それが我々が常に追い求め中々姿を見せてくれない尾長グレであることに気づかないでいた。

55cmの尾長グレは3人の釣り人の前で神々しい光を放っていた。Hさんにとってもこれは久しぶりの尾長であったらしい。一言声をかける。

「おめでとうございます。よく釣れましたね」

この日、実はこの尾長が船中唯一の釣果となったのだ。

「まだおるはずバイ。釣ろい」

uenoさんは、俄然やる気モードに。タナは2ヒロ弱くらいとのこと。すかさず、ぼくらもタナを浅くした。離島の尾長は群れで行動することが多く、まだ他の尾長グレが回遊しているはずだ。しかし、すぐに、気を取り直して釣り始めるも、魚の明確なアタリを拾うことができず、夜が明けてしまったので、尾長釣りをあきらめることにした。


みゆき奥 口太ポイント

実は、早めに尾長釣りを終えたのにはわけがある。このみゆきの奥のポイントに行くためには、潮位が上がると向こう側に渡るのが難しくなる。できれば早めに渡っておきたいところ。満潮が8時半ごろだから、あと1時間足らずで満潮だ。ぼやぼやしていると渡れなくなる。竿はまだ準備せずに、飲み物や餌をバッカンに詰め込み移動を始める。uenoさんをみるとのんびり仕掛けを作っているではないか。おいおい。

「uenoさん、早く行かないと渡れませんよ〜〜〜」

「おらっ、向こうで仕掛けバ作りきらんとタイなあ」

uenoさんはこんなわけのわからぬ理由で竿を伸ばし仕掛けを作りに夢中だ。竿を伸ばしたままだと益々移動が困難になるのに。仕方がないので、自分だけ移動を敢行。波の振幅を見ながら何とか向こう側に渡り、移動成功。釣り座まで道具と餌を運び出した。

さあ、仕掛けを作ろうと思ったところ、uenoさんが気になり、渡る地点まで戻ってみた。すると、案の定渡るのを苦戦していた。

「あ〜〜〜〜っ」

しかたがない。uenoさんの竿を受け取り、

「そこに足をかけてください。」

さっきまで少し見えていた足場になる岩の位置を指示する。バッカンを受け取り磯の割れ目から時折やってくる一発波に注意しながら何とかuenoさんも移動成功。2人で釣り座に到着した。

釣り座につくと仕掛けを作っているuenoさんは早くも釣り開始。おいらはまだ仕掛けをこれから作るところ。uenoさんの釣りを見せつけながらの仕掛け作りはつらかった。悪いことに、中通し竿の先端の部品が取れて道糸がからまり、最初から仕掛けづくりをやり直す羽目に。いつもの倍の時間をかけてようやく仕掛けが完成した。


この時点ではやる気モードのuenoさん

竿はダイワマークドライ遠投3号。道糸3号ハリス3号でウキは始め2Bだったが、仕掛けが落ち着かないためいつもの3Bに戻す。ここは経験上3Bのウキ一番が合っている。郷に入れば郷に従えだ。3Bの半遊導でタナは1ヒロから始めた。

uenoさんの釣りを見学していたが、本命でない上げ潮の時間帯であることもあってか、魚の活性は思わしくない。時折、要塞みゆきの守衛隊である離島の白ちゃんことイスズミが餌をついばむのみである。しかし、それでも800gほどのクロを1枚ゲットしていた。

また、uenoさんはムロアジを2匹ゲットしていた。ムロアジが釣れるというのは、磯上物師にとってあまり歓迎するものではない。潮が今一で水温が高いときでも彼らは釣れてくるからだ。ここは潮が行けば、カンパチやヒラマサなどの青物も侵入するというポイントだ。ムロアジの釣れ方に不安を覚えながら釣りを始めた。

第1投から竿を絞り込んだ奴がいた。彼は、とにかく引きが強い。ガンガン竿を叩く。離島で最も数釣れる外道イスズミだ。彼らはクロと同じような場所で餌を拾ってくる。クロと釣りわけるのは非常に難しい。下げ潮が入ってくれば、自然とクロの活性が上がるからそれまで待つしかないのか。時計を見るとすでに7時半を過ぎていた。満潮まで後1時間だ。


潮が流れず 水温も高め イスが元気でした

潮が変われば釣れるさ。こんな楽観的な考えで、のんびりイスズミと遊んだ。1投ごとに必ずと言っていいほどアタリがあるが、そのすべてがイスズミのアタリだった。竿を叩くし、途中からぎらりと光るのですぐにそれとわかってしまう。イスとわかると、自然にバレテくれないかなと竿をわざと下に向けてみたりして遊んだ。

そろそろ満潮だ。もうイスズミとの遊びに飽きたころだった。ウキが例によってゆっくりとシモっていき、道糸を張り気味にしながら、魚との交信を探っていると道糸が走った。竿をたてて応戦。おやっ、竿を叩かない明らかにイスとは違うシャープな引きが竿を伝って手元に来た。3号竿の剛力にものを言わせて、浮かせにかかると群青色の海の中からしっぽの白い灰青色の魚がこちらに向かっていた。

ばしゃばしゃと水面に現れたのは、待ちに待った本命の口太ちゃんだったのだ。

「おっつ、釣れたバイな。タナはどれくらいね。ハリは何号使いよっと。」

「1ヒロです。ハリは尾長の7号。」

「えっ、そら太かな。」

硫黄島みゆきの常連であるHさんは、ここでは小バリはいらないと言う。グレバリ10号くらいがいいという。甑島などでは、uenoさんなどは4号、5号をメインに使うのに、ここでは10号。なぜこんなにハリが太い方がいいのかはわからないが、10号はさすがに選択しきれないのでせめてそれに近い大きさの尾長7号を使っていたのだ。


君はバラより美しい

確かに喰い渋っているならハリを落とすことも大切だが、ここ硫黄島ではそれは当てはまらない。だから普段よりも大きめのハリで勝負することにしている。uenoさんは甑島で釣るときと同じように5号をメインで使っていたようだ。案の定バラシ劇を多数演じることになった。

「やっぱ、ハリば太うせんばんとかなあ」

uenoさんは、甑島での釣りがお好みで、00などの全遊動で小さい軽いハリを使ってゆっくりタナを探っている釣りを得意としている。サラシもなく穏流場の方が釣りやすいという。サラシ場はあまり好きではないようだ。だから、ハリを太くするということが中々できない。しかし、郷に入れば郷に従えだ。ハリのサイズをあげると不思議なことにバラシは減った。

私もあまりにも魚の活性が上がらないため、出来心でハリをサイズダウンしてしまったが、案の定、この時もバラシを演じてしまった。また、10号などというハリは持ってきていなかったのだ。クロを3匹ほど損したような気がする。


Hさん溝を攻めてます

この日は、残念なことに一向に下げ潮がポイントに入ってこない。9時になっても10時になっても魚の活性は上がらなかった。1尾追加したにとどまった。uenoさんは1尾。名人Hさんも溝を丹念に攻めているが、釣果に結びついていないようだ。


おいおい イスの元気かなあ

メインの下げ潮の時間帯というのに、一向に魚の活性が上がる気配がない。この時化具合ならもう少しサラシがあってもよさそうなのに。サラシもあまり発生しないということはフレッシュな下げ潮が流れてきていないことを裏付けている。このまま終わってしまうのか。弱気になってきた午前11時過ぎ、いつものようにウキが見えなくなるまで待っていると、今までになく道糸が高速で走った。どうせイスだろうと浮かせると、浮いてきたのは再びクロちゃんだった。これでやっと3枚目。ふと眼を沖向きに向けると、Hさんが魚とのやり取りを初めていた。抜きあげたのは、これもクロだった。Hさんの方でもイスズミからクロに変わりつつあった。


この溝も有望なポイントです


ここが渡りきった場所


Hさん途中からクロ入れ食いに13枚ゲット

この後、入れ食いを期待したが、またイスズミが竿を絞り込んだ。ようやく下げが入ってきたようだが、まだまだ本来の調子ではないようだ。こんな調子でイスズミを5.6枚釣ってクロを1枚釣るというペースで11時代を過ごし、魚の数が7枚を数えたところで納竿とすることにした。uenoさんはあきらめきれず中々竿をたたもうとはしなかったが、12時半ごろようやく観念して3枚という結果で釣りを終えるのだった。二人とも甑島のスタイルでハリの大きいサイズのものを持ってきていなかったことが悔やまれた。やっぱ郷に入れば郷に従えだ。


このお魚さんはだれ?



あきらめきれないuenoさん


ようやく納竿

Hさんも12時半ごろ納竿とした。13枚釣ったが納得いく釣りではなかったようだ。

「去年の正月は30枚釣ったけどなあ。今日はサラシがなかったで苦しかった。下げも入ってこんやったでなあ」

今日のみゆきは、期待の下げ潮が動かず苦戦を強いられた。しかし、これも自然相手。しかたのないこと。岩ノリのべっとり付いた船着けで黒潮丸の回収をまった。渡礁の際はあれほど時化ていた海もいつのまにか穏やかになっていた。


釣れましたかあ


瀬泊まりは一番奥の無名瀬で


惨敗に肩を落とすuenoさん



硫黄島よありがとう

回収されるとしばらく黒潮丸のクルージングを楽しむことにした。朝方雨が降っていたとは到底思えないような青い空が広がっていた。気温も上昇して風が肌に心地よい。みゆきを過ぎて、永良部崎半島の先端部にやってきた。かつてのクロの好ポイント「洞窟」に2人の他船の上物師が渡礁していた。あの磯におろすということは、今日の風向きでは、西磯も鵜瀬、平瀬あたりも乗っていないのかも。硫黄島の港を過ぎ、温泉通にはタマラナイ東温泉を過ぎ、天狗鼻へやってきた。ここはシマアジの好磯タジロのある場所だが、タジロには誰も乗っていなかった。クルージングを楽しんだのはここまでだった。

反対方向にある浅瀬を見てみた。硫黄島が誇る上物の名礁浅瀬のハナレは波の下だ。風裏なのにこの波は一体どういうわけ?答えはすぐに分かった。いつもは外に出ているポーターさんがキャビン内に入るのをボーっと見ていると、硫黄島本島の東側を過ぎたあたりから、突然風が吹き出していた。波もウサギが飛び跳ねる状態だった。飛沫が船全体を覆う。こりゃたまらんと船内に避難する。

「こっら時化とんなあ。」

uenoさん、全身に飛沫を浴びて吐き捨てるようにつぶやく。これなら乗れる磯と言えば、新島くらいしかないはずだ。黒潮丸は新島での客を回収し枕崎へと急いだ。

どすん、どすん。

帰りも行きと同じいやそれ以上に時化ていた。横になっていても気持ち悪くなるくらいの揺れを1時間40分ほど楽しんだ後、午後3時過ぎ、黒潮丸はようやく枕崎港に到着した。


32cm〜37cmを7枚 ムロアジ1本(微妙)

今日は、全体で尾長1枚、石鯛が1枚とデカバンは数が出なかったが、新島の釣り人は型には恵まれなかったものの、クーラーをおかわりするほど釣っていた。

「kamataさん、新島は尾長が釣れるよ。撒き餌をたくさんして、タナは1ヒロ半でいいよ。クロも小さいけど数釣れるから。」

港で釣り談義をしていると、船長は早くも次回へと気持ちを切り替えろと言っているようだった。船長の話から、上物は今年は新島が好調らしいということがわかった。やはり、硫黄島には硫黄島の釣り方がある。自分のスタイルを持つのも大切だが、硫黄島で釣りをするなら、そこで生まれた釣り文化を尊重しないといけないんだなと学ばされた。硫黄島に行くならグレバリは10号くらいのを用意しておくべきだ。そして、そのとんでもなく大きなハリを使う勇気も持っていくべきなんだね。

と、ふとそんなことを考えていたが、折角考えた釣りの反省点はいつの間にか忘れてしまい、また、ハリが小さかったと嘆く釣りをしてしまうんだろうなと考えるとおかしくて苦笑してしまうのだった。今日のお魚センターのカツオくんは、そんな自分を温かく見守ってくれたように感じるのだった。


意外にうまい ムロアジの刺


クロは刺身で


クロのカルパッチョもいけますな


クロのもやしあんかけ

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