7/25  夏磯という蜃気楼で   鷹島&津倉瀬

日本列島にかつてないほどの大雨を降らせた梅雨前線は、驚くほどあっけなく日本列島から去って行った。中学野球でお世話になっている息子yasushiとの中体連の挑戦は2回戦敗退とこれもあっけなく終わった。時は過ぎゆくもの。おごれるものも久しからず。釣りを封印していた自分にいよいよ釣り師としての再スタートのチャンスが訪れたのだ。1学期の迫りくる校務の大うねりの攻撃を何とかかわしながら夏季休業日を迎えた。さあ硫黄島の夜釣りだ。

 ところが、今年はどうしても土日に休みがとれず、離島の夜釣りの成就は大変困難となっていた。また、平日でも2日間体を空けることは難しく、7月の釣行は無理と思われた。
 失意のうちにネットサーフィンしていると、注目すべき記事を見つけた。今冬にあっけなく船を沈めてしまったフリースタイル翔さんのブログだ。6月より新たな船を購入し、営業を再開されたという。失意のどん底にいたはずの三角船長だが、復活も実に早いものだった。その三角船長が発する言葉が、PC液晶画面から立ち上がり自分に迫ってきたのだった。

「平日でも走ります。1人からでも予約してください」

 離島の釣りは、時間とお金がかかるため敷居が高く、お世辞にもお手軽な釣りとは言えない。そんな中で自分の思いで、離島の釣りとお手軽さというミスマッチを演出してくれるこの三角船長の提案は、恐るべしである。丁度身体を空けることができる日に予約電話を入れるのにそう時間はかからなかった。

「いいですよ〜〜。鷹島では結構釣れてましたね。釣りすぎてリリースされてましたよ。」

梅雨空けがあまりにも早かったせいだろうかどうかはわからないが、鷹島では7月に入っても依然として梅雨グロならぬ夏グロがコンスタントに釣れているという。7月になれば、沖磯では餌盗りの猛攻で本命の口元にえさを届けるのが難しいことになるというのに。まるで口太が餌盗りのように釣れるというのだ。もうこれは行くしかないではないか。久しぶりに釣り道具をそろえるという至福の時を楽しみ釣行日を待った。


 7月25日、長潮。鷹島は午前7時ごろが干潮という決していいとは言えない潮回り。しかし、サラリーマン釣り師に潮を選ぶ権利はない。オキアミ生2角と集魚剤2袋とつけ餌を買って九州自動車道を南へ下った。

 午後11時過ぎに串木野港に到着。三角船長と再会した。

「お久しぶりです。今度はこちらから握手させてください。」

 船長は本当に笑顔の似合う人だ。この笑顔には、幾たびの苦境を乗り越え、真面目に自然を愛し、釣りを愛する真心が見え隠れする。
「昨日は、(鷹島)全く潮が動かなかったんですよ。底物の方は何とか釣れたんですけど、上物はボウズでした。始め(夜釣り)はシブダイ狙いの浅い所で釣ってもらいますから。明るくなったら、「シズミ」といういいところがあるんですよ。そこに乗って釣ってもらいます。」

昨日のボウズは全く気にしないというこのプラス思考。これが釣りを楽しむ上で大切なことではないか。そう思いながらのんびりと荷物を積み込み、出発を待った。新しい船は、離島便としては小さいものの、12名しか客を取らないというので、十分すぎるほどの休むスペースが確保できる。
 午後11時半、「ぶるん、ぶるん」とエンジンが命の鼓動を始め、ゆっくりと岸壁を離れた。船は漆黒の東シナ海を滑っている。シブダイ狙いには絶好の凪だ。久しぶりの釣行ということで興奮冷めやらぬ中、一睡もできないうちに船は2時間かけて鷹島に到着した。
「恵比寿丸が来てますね。でも船釣りでしょう。」
 サーチライトを当てた先に見事な自然の造形物である鷹島の島影が映し出された。天空に突き出されたごつごつした岩の槍は男性的でまるで鬼が島にいるような気にさえしてくれる。現実と非現実とが交錯した世界にいるような感じだ。船はライトで渡礁ポイントを探りながら慎重に前へ進んでいる。どうやら4番にはすでに夜釣り客がいるもよう。4番の水道の反対側にある最も大きな巌の足下にライトを当てながら更に島に近づいた。

「kamataさん、ここは5番です。手前が浅くなっていてシブダイが釣れますよ。6時には回収に来ます。頑張ってください。」

 こう励まされ、難なく渡礁を済ませた。足場は沖に向かって右へなだらかにかけ上がりとなっているものの、足場がよく夜釣りにはもってこいの場所だ。時計を見ると午前3時前。これから夜明けまでブッコミでシブダイを狙うことにした。


最近復活を果たしたフリースタイル翔さん


鷹島5番でシブダイねらい

竿は弁慶石鯛竿MH−545.道糸とハリスはともに20号。30号の丸玉おもりに鋼タルメ23号を取り付けた。サンマのぶつ切りを撒き餌にした後、サンマの頭をつけ餌にして、午前3時半に記念すべき第1投。

 潮はほとんど動いていない。たまにウツボの当たりがある程度。手前は竿1本程度だが、竿2本先からなめらかにかけ下がっており、15,6メートルの水深がありそう。風は時折吹いて涼しい。対流圏の空気は程よく動いていたが、肝心の潮流は全くと言っていいほど動いていなかった。これでは魚の活性は上がるまい。「ぎゃー、ぎゃー、きゃー」と活性が高いのは唯一鷹島の名を彷彿させるやかましい鳥たちだった。

 あっけなく夜明けを迎えてしまった。湖のようなべた凪の中、フリースタイル翔が回収にやってきた。

鷹島5番北向き
「kamataさんどうでした。」

「だめでした。ウツボの当たりのみ。」

「kamataさん、相談なんですけど、鷹島は潮が動いていないんですよ。昨日と同じです。このままここで瀬変わりしても100パーセントボウズです。そこで、kamataさんがよければ、津倉瀬に走りたいと思うんですよ。そこなら間違いはありません。」

 鷹島から津倉瀬の瀬変わり?私は耳を疑った。こんな贅沢をしていいのだろうか。このありがたい申し出を私が断る理由は一つもなかった。

「津倉瀬でお願いします。」

鷹島4番 ここはクロの好ポイントだが、昨日はイスズミだらけだったそうな
ここが当初乗る予定だった「シズミ」
 あこがれの蜃気楼「津倉瀬」に行けるこの事実を知るだけで、体中をアドレナリンが高速で悪玉コレステロールを削りながら駆け巡っている。ここから更に1時間南へ走ることに何の躊躇もなかった。

 この三角船長の提案。どちらが釣り人かわからなくなる。それくらい船長の提案は限りなく釣り人の心そのものだった。まだ、一睡もしていないというのに、目はさえわたり、あっという間に船は真夏の蜃気楼の前でエンジンをスローにした。

「kamataさん、3番にのりましょう。必ずクロが釣れますよ。」

 三角船長の計らいであこがれの津倉瀬に1人貸し切り。そして、一生に一度あるかないかという競争率の高い3番をなんなくゲット。

 この3番の鼻は左は4番との水道から沖への潮が流れ、右は2番との水道からの潮が沖へと流れている。手前には程よいサラシもあり、いかにも釣れそうな雰囲気。早速、撒き餌を作り、仕掛けの準備を急ぐ。

乗れました 憧れの津倉瀬3番の鼻
3番から2番を臨む
絵の具をこぼしたようなコバルトブルーの海 左のワンド
 竿はがま磯アテンダー2.25−53.道糸4号、ハリス2.5号。ウキが3Bの半遊動でタナを1ヒロとって、午前7時に第1投。右手前から走る潮に乗せて仕掛けを流していくと、竿1本先を漂っていたウキが一気に弾丸のごとく紫紺の海中深く消えて行った。道糸が走り、反射的に竿を立てると、アテンダーが美しい弧を描いていた。コンコンと竿先に伝わる律動を伴いながら、白く広い尾ヒレを持った灰青色の美しい魚体が私の足下に泳いでくるのが見えた。

 バシャバシャと水面を割って勢いよく跳ねまわるかわいらしい姿はまぎれもなく本命のクロちゃんだった。コバルトブルーの海から慎重に抜けあげたエメラルドグリーンの瞳を持つ恋人をこの手にした。長かった。4ヵ月半ぶりに手にした魚の命の鼓動の感触を味わいながら、しばらくはその余韻を楽しんだ。

第1投で釣れました♪
君はお呼びでないよ
 それからというもの、夏磯の蜃気楼が次々に私に海の恵みを届けてくれた。朝方が勝負で陽が高くなれば、イスズミを中心とした餌取りの猛攻を受けることを覚悟していたが、8時なっても、9時になってもクロの活性は衰えることを知らなかった。

 タナを変えたり、ガン玉で浮力調整をしたり、ウキを全遊動にしたりと魚の状況に合わせて仕掛けを変えて行く。何匹かは強い当たりで先手を取られ、鼻の先端から走る根にもぐりこまれハリス切れのバラシを演じてしまったのが心残り。

餌取りのように喰ってくれるクロちゃん
意外と存在感を見せつけていたミニイシガキフグ

夏グロはよく引きますね
 型はすべて33〜37cmサイズとやや小ぶりな夏グロだったが、みんな元気いっぱいだった。まるでイスズミのように縦横無尽に暴れまわってくれる。この夏グロの元気をたくさんもらい続けた。釣れたクロが20枚を数えたころから、そろそろ脳内モルヒネのドーパミンが絞りつくされるところで、うまい具合に激流が流れるようになり、それから回収までの2時間は魚が口を使わなくなった。
釣り座右の根回りもポイントのようです
 ここれが潮時だな。これまで楽しませてくれてありがとう。釣りを止め、磯場をきれいにして回収を待った。


 津倉瀬よ夏磯の蜃気楼よ私を歓迎してくれてありがとう。この素晴らしいフィールドに感謝と畏敬の念を持って回収の船に乗り込み、最後に津倉瀬を見送った。


 4か月半ぶりの釣行で、磯に立てるだけで満足しようと思っていた今回の釣行。三角船長のあたたかい釣り師としての真心に触れながら、津倉瀬のお魚さんに4ヵ月半分の長い時間で疲れた心をいやしてもらった。

ありがとう 津倉瀬3番
 あまりにすがすがしい気分にさせられた私は、最後に串木野港に大切な竿ケースを置き忘れるという失態を演じてしまった。この失態は、私にフリースタイル翔であのすばらしいフィールドに再び立つことを約束させたのだった。

クロ 33〜37cm 20尾

夏磯を満喫できました
三角船長ありがとう〜〜

夏グロはまずは定番の刺身に

エリンギが魚のエキスを 魚がエリンギのだしを吸い 見事な味のコラボに
船長からもらったアカハタは・・・
皮の湯引きに
刺身に
味噌汁でいただきました
どれもまいう〜〜〜w

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