津倉瀬3番と4番 ウィキぺディアより所収
対馬海流の届く磯釣り師垂涎の地。九州の磯釣り師ならだれもが男女群島、草垣群島、宇治群島などを思い出すことだろう。しかし、この10月という時期に上物での実績がどうかと言えば、疑問府を持たざるを得ない。まだまだ水温が高い中、いかに離島とはいえどもクロの釣果を臨むのは難しい。底物師は水温高いこの時期だからこそ秋石やアラをねらいに離島に出かけるのだが。 これらの離島が真価を発揮するのは、少なくとも12月に入ってからだろう。上物師は、この時期、堤防や半島周りの磯でクロ釣りの練習に励み、寒の入りが入りだし、徐々に水温が下がり出してからクロ釣り師はようやく重い腰を上げるのが常となっている。 ところが、この常識を根底から覆すとんでもない釣り場が自分の前に現れた。その場所は、島と呼ぶにはあまりにも小さい4つの独立礁からなり、瀬と呼ばれるにふさわしい。本流が流れる場所だけに、時化やすく、中々釣り人の渡礁を許さない。凪の予報で出かけたが、その瀬に近づくと突然時化始め、その地からの撤退を余儀なくされた話は数知れず。駆け上がり状の地形が多いためか、気の遠くなるほどの長い間に何層にも重なって磯海苔がびっしりと磯を覆っており、大変滑りやすく容易に釣り人の渡礁を許さない。眼前には見えてもその地を踏むことが中々できないまるで蜃気楼のような磯。この蜃気楼の名を津倉瀬という。 今年の津倉瀬ではありえない異変が起こっていた。それは、クロが真夏だというのに爆釣しているという事実だ。その情報元は串木野港発の渡船「フリースタイル翔」の三角船長からだった。三角船長は津倉瀬を「クロの養殖場」と呼ぶ。これまでの自分の常識では、クロは真夏には釣れない。というより餌取りが多くクロの口に餌が届かないと言った方が適切かな。10月は、九州屈指のクロの魚影を誇る甑島でさえ、木端グロしか釣れない。だから、上物師はこの時期は、クロ釣り師を封印して他の釣りに没頭する輩が多い。 真夏や秋は水温が高く餌取りの動きが活発でクロは釣れないということが常識なら、この時期に上物釣りで離島に出撃することは非常識と言えるだろう。ところが、この非常識を反常識に変えたのが津倉瀬の夏グロ釣りを開拓した三角船長だ。彼が運営するWebサイトでは、反常識な離島の釣りが配信されていた。寒の時期でもないのにクロが秋磯となった今でも驚くほど釣れているという。三角船長曰く、津倉瀬は現在日本一クロが釣れる釣り場と言ってもいい。 こんな時、師匠であり釣友のuenoさんが電話をかけてきた。内容は、釣りに行きたいけど、どこかいいところはないかという内容だった。飛んで火に入る何とかで、私はこの話を8倍くらいに膨らませて聞かせたものだから、磯フカセ釣り命のuenoさんはたまったものではない。 「そがん釣るっとな。なら津倉瀬に行こい。」 Uenoさんがやる気モードになるのに10秒もかからなかった。早速、二人は10月の3連休の中日9日に津倉瀬への予約を済ませたのだった。 そこで、いつも気になるのは天気。あれほど日本列島を震撼させた台風の週末攻撃は10月に入ると急激に衰え、統計的にも晴れの日が多いという体育の日の前日の天候は問題なく晴天の予報。波は1mというおまけまでついた。 8日の昼ごろ三角キャプテンから吉報が届く。 「kamataさん、やりましたね。凪ですよw。クロの養殖場へ行きましょうか。連れの人もラッキーでしたね。」 こころなしか、船長の声も上ずり気味だ。やはり、元釣り師の船長は、釣り人の気持ちをだれよりもよく理解してくれる。また、津倉瀬に挑んだが、時化のため何度も計画を断念され続けた経験が脳を支配しているのか。 「kamataさん、3番の南向きは乗ったことがありますか。」 三角船長の唐突な質問。だが、この質問は、ロト6をあてるより難しい津倉瀬きっての人気瀬3番への渡礁を決定づける甘美なコトバだったのだ。このニンジンに飛びつかない馬はいないだろう。 かくして人吉盆地の釣りバカ2人は、弾む心と釣り道具を車に積み、九州自動車道を南下した。車中では、uenoさんから津倉瀬についての質問攻めにあう。そのたびに、話を10倍、20倍に膨張させて話すものだから、uenoさんの興奮のボルテージも最高潮に。思わずアクセルを踏む足に力が入っていた。 午後11時20分ごろ串木野港に到着。船長が笑顔で迎えてくれた。今回の釣り人は7名。離島に行くには寂しい人数だが、熱い思いは大人数並だ。どうやら我々が最後の組らしく、11時30分にフリースタイル翔は静寂の串木野港をゆっくりと離れた。途中堤防で釣りをしていた組を乗せて、いよいよ船は東シナ海の対馬暖流に逆らうように気持ちよく漆黒の海を滑っていった。 今回の津倉瀬は一体どんなドラマを我々に用意してくれているのか。まだ一睡もしていないので、昼釣りの体力温存のため一刻も早く眠りたいのだが、こんな時に限って中々眠れないものだ。羊が1匹、クロが1匹、とわけのわからない自己暗示をかけているとあっという間に3時間がたち、いよいよ津倉瀬に近づいてきた。こんな時なぜかわからないが、エンジンがスローとなる時に意識がはっきりするものだ。自分の体内時計はすでに釣りバカモードになっている。暗闇の中からあともう少しで満月となる月がやさしく海原を照らしている。船に揺られること3時間15分で、フリースタイル翔はそのエンジンをスローにした。 「よっしゃあ、来た!」 ライフジャケットを羽織り、ふるえる手で磯靴をはきデッキへ出てみる。ゆらゆらと波の振幅に合わせるように目の前に見える巌も揺れていた。月明かりに照らされ銀白色に鈍く光る4つの岩礁が忽然と釣り人の前に現れた。ホースヘッドは、前回乗せてもらった津倉瀬3番北向きを向いている。いよいよ渡礁だ。まず、3名の釣り師たちが身構えた。凪の予報だったが、風もあり波も結構あるようだ。無事に3名は渡礁を終え、船は向きを変える。 「kamataさん、行きましょう。」 体中をアドレナリンが駆け巡っている。先週の運動会で肉離れを起こした右足が自分のものではないかのように躍動しながら重い荷物をホースヘッドへと運んでいる。我ながら信じられないパフォーマンスだ。船長の声が後ろから飛んできた。 「kamataさん、3番の南向きは初めてですか。」 うなづくと、船長はアドバイスを。 「ポイントは(2番との)水道とそこの先端部分です。ピトンの跡があるからわかると思います。kamataさんは釣り過ぎるからこれも持っていってください。」 と撒き餌を混ぜる船を持たせようとする冗談も飛び出す。渡礁の際の緊張を程よくほぐしてくれる有難い一言だ。 船はホースヘッドのタイヤが一度巌にぶつかったかと思うと再び上昇し、安定した場所に見事に接岸した。 「今だ。」 私とuenoさんは素早く磯に飛び移る。相変わらず滑りやすい磯だ。慎重に荷物を受け取る。3番北向きに比べると、足場がでこぼこだ。肉離れの足には堪える。この夜釣りも無理は出来まい。安全な釣り座から釣ることにしよう。 渡礁してしばらくの間、暗闇の大海原を見つめ続けた。そして、大きく深呼吸をしてその実感を確かめる。来たぞ、来たんだ、津倉瀬に。もうここに来るだけで満足だ。魚なんか釣れなくてもいいじゃないか。この場所に、ただぼうっといるだけでもお金をかけた意味がある。釣り人と津倉瀬との相関関係は、ただの岩が憧れの釣り場に変身したり、釣り人に信じられないフォーマンスをもたらすから不思議だ。 二人は早速、夜釣りの準備に取り掛かった。タックルの準備ができた。uenoさんに2番との水道を譲り、自分は一番足場が良さそうな4番とのワンドで釣りを始めた。船長も依然コメントしていたように、夜の津倉瀬は沈黙し続けた。沈黙の理由の原因は、マツカサの猛襲によるものだった。夜尾長は喰わないだろうから、まちがってシブダイでも喰わないかなという淡い期待は期待のままで終わった。 はるか水平線の彼方が白々とし始めた。夜明けだ。寒の時期なら尾長のゴールデンタイムだが、早々と夜釣りをあきらめた私は、昼間の釣りのために餌を少しずつ間断なく撒いた。 昼釣りのタックルは、竿ががま磯アテンダー2.25−53。道糸4号にハリスは3号。ハリは朝マズメということで、尾長7号。波が結構ありサラシもできているので、ウキは3Bの半遊導、2ヒロにタナを設定した。 釣り座は、夜釣りと同じく4番とのワンド。Uenoさんは本命の2番との水道で釣りを開始。さあ、これからここで一体どんなドラマが生まれるのだろう。 朝日がまだ顔を出す前、紫だちたる水平線から波の振幅を伴った紫紺のカーペットが津倉瀬まで続いている。そのざわついた波間に、蛍光朱色の鮮やかなウキが、突き刺さる。ウキが小さいながらも圧倒的な存在感を見せながら、紫紺のフィールドを漂っている。丁度満潮を過ぎたころだが、まだ上げ潮が残っているのか、4番とのワンドを3番の北向きに向かってゆっくりと流れている。しばらくして、仕掛けを回収する。餌が盗られている。タナが浅いな。タナを1ヒロ半に浅くして第2投。 なぜ、4番との水道をねらったかというと、脚の肉離れのために足場重視ということもあるが、潮が何となく生きているような気がしたからだ。こちらが生きているということは、2番は・・・。 背中にオーラを感じたので、振り向くと、何とuenoさんが魚とのやり取りをしているではありませんか。朝焼けに鮮やかなエメラルドグリーンのクロが津倉瀬3番に舞った。uenoさん、早くも本命ゲットである。 「uenoさん、やりましたね。」 「もう釣れたバイ。今日は期待できるかもなあ。」 と上機嫌だ。やはり、本命は向こうの釣り座だな。船長の言うことを聞いておけばよかったかな。 そんな疑心暗鬼な気持ちはすぐに消え去った。ゆらゆらと前アタリを知らせるウキが、ゆっくりと加速しながら紫紺の海中に消えていった。間違いなくアタリだ。しかもクロの。 案の定、道糸が走り、反射的に竿は立てられた。左腕に心地よいトルクがかかる。アテンダーは、朝日を受けながら見事な放物線を描いている。クロは手前に突っ込む。張り出し根があるため、強引に浮かせると、しっぽの白い愛くるしい恋人が水面で跳ねていた。 「よっしゃあ、本命だ。」 クロを抜きあげる。津倉瀬のことだ。釣り座が一か所だけしか釣れないなんてありえないのでは。 それから、タカベに邪魔されながらも、何とか14枚まで裏のワンドでクロを抜きあげた。型は、すべて37cm〜34cmくらい。 午前9時過ぎになると、今度は魚の反応が鈍くなった。釣れない時間帯が続く。uenoさんも苦戦しいていて、本命釣り座だったにも関わらず4,5枚という苦しいスタートだ。どうもここは上げ潮の方が釣れるのかも。下げに入ると活性が低くなってしまった。 また、クロの姿が見えなくなったのは、他に原因があるような気がした。何か9時過ぎから、キビナゴかイワシゴらしき小魚の群れが水面でばしゃばしゃとやりだしたからだ。それは、フィッシュイーターの出現を意味していた。一体何がいるのだろう。 正体がわかったのはその30分後だった。ウキが久しぶりに一気に海中に消えた。合わせを入れると、今までにない強い引き。そいつは、喰うなり横走りを始めた。青物だ。とっさにそう思ったのだが、でかいやつならとても勝負にならなかっただろう。幸いその青物は、それほど大きくない美味しいおみやげだった。 抜きあげた魚は、シマアジの次にうれしい外道40cm級のスマガツオ(ヤイト)だったのだ。 「ヒャッホー」 この外道は食べておいしく、自分にとっては本命と呼ぶにふさわしい価値ある対象魚だ。磯の上で思わずガッツポーズをしてしまった。 その後、その外道が散々横走りして暴れたので、小魚もそれを追うイーターたちもいなくなってしまったようだ。 しばらくすると、フリースタイル翔が見回りにやってきた。 「kamataさんどうですか。時化てきたので、回収は1時にしました。」 了解の合図を送って船を見送る。 「もっと早う迎えに来てもらってもよかばってんなあ。」 Uenoさんは、ここまで納得できる結果を残していないようだった。気持ちはわかるが、折角来たのだから、時間いっぱいまで釣りを楽しんでほしい。なぜって、この島は、いつ消えてしまうかもしれない蜃気楼なんだから。 魚も結構釣ったし、私ももう何だか津倉瀬での密度の濃い時間のおかげでおかないっぱいになってきた感じがする。大好きなスマガツオも釣ったし、たくさん釣っても処理に困るだけだ。そんなことを考えながら、磯の上に横になる。 秋の香しいそよ風が心地よい。Uenoさんの釣りを見学しながら、津倉瀬の今を楽しむ。どこまでも青い海を眺めていると、改めて自分はなんでこんなところにいるのだろうと考えてしまう。魚釣りが好きだから。それもそうだが、もっと他に理由があるのでは。 自分が好き好んで行くというよりも、何かの力が働いて自分が無意識のうちに釣りという業に勤しんでいるように思えるのだ。誰かが自分を呼んでいるような不思議な感覚。魚釣りを自分が求めているように海原も自分を求めている。そして、確かなことは、ここにいる時、自分が生きているということを実感できることだ。地球の歴史から言えば、正に一瞬の出来事でしかないが、自分にとっては永遠にここにいられるような気さえする。自分が自分らしく生きていることを演じることのできるのがこの離島の夢ステージなのだと。 2番の南東向きで竿を何度も曲げていた釣り師はいつの間にかいなくなっていた。南からの風と波で釣りができなくなったのだろう。瀬際ではさっきよりかなり白波が立っている。 風と波が出てきたがどうやら何とか最後まで釣りをさせてもらえそうだ。 干潮は11時半ごろだったと思う。干潮を知らせる潮どまりがやってくる前。これまで沈黙していたUenoさんの竿が曲がりだした。そして、11時過ぎに本日最大魚となる45cmのクロをゲット。ご満悦のuenoさん。Uenoさんも釣れてよかったと思いきや、今度は自分に再び闘志がわきあがってきた。折角来たんだもの、時間いっぱいクロ釣りを楽しもうではないか。 2番との水道で自分も釣り始めることにした。偏光グラスで海の中をのぞくとおびただしい数の餌取りがいるわいるわ。おやっ、これらのしっぽの白い餌取りは何という魚かな。って、しっぽの白い魚はクロしか思いつかなかった。餌取りと思っていた魚はすべてクロだったとは。さすが、恐るべし津倉瀬。 干潮に近づくにつれて魚の活性が上がってきた。撒き餌を追う動きをするようになってきた。ただ、ウキを消し込むアタリはなくなってきた。そこで、前アタリを取る方法で、魚を食わせることにした。ウキに反応が出る。間髪いれずに合わせを入れる。魚を喰わせる。やり取りをする。抜きあげる。餌をつける。撒き餌を打つ。仕掛けを入れる。前アタリが出る。まるでロールプレーイングゲームのような動きで魚をかける。これが見事的中し、再び入れ食いモードに。 回収時間が近づき焦る中、前回よりも1匹多い合計21匹釣ったところで、竿をたたむことにした。 脳内モルヒネのドーパミンを出しつくされて、まるで麻薬常習者のようにふらふらになりながら片付けを始める。 「おらもう満足バイ。この時期にこれだけ釣れれば御の字バイ。こがん(こんなに)太かとが釣れるとは思わんかったもんなあ。」 よかった。Uenoさんは津倉瀬の釣りに満足してくれたようだ。滑りやすい駆け上がりの磯に慎重に荷物をかためて回収を待つ。あまり待つこともなく、船はやってきた。 何とか回収の船に乗り込んで、磯を改めて眺めてみる。 津倉瀬3番よ、海の恵みをありがとう。地球からいればちっぽけな人間のために、釣りを楽しませてくれたね。これからも、時々立ち寄らせてもらうけど、その時はよろしくね。 串木野港に向けて、走りだしたフリースタイル翔。だんだん小さくなっていく津倉瀬を見ながら、近いうちに再びこの地に立ちたいと強く思うのだった。 今度は、寒グロの時期に行こう。海の命の恵みを頂くために。自分が今生きているということを実感するために。そして、自分が地球に抱かれていることを味わうために。 今回の釣りでポーター役をしていただいた方、荷物の受け渡しをしてくださった方、一緒に話をしてくださった方々、そして、今回の夢舞台をナビゲートしてくれた三角船長、本当にお世話になりました。いろんな人との出会いがあって釣りができる喜びをこれからも大切にしていきたいと思います。 |
離島の夢舞台への入り口 久しぶりの釣りにuenoさんの心は萌える 期待の夜釣りはお化けに 1匹目のクロ 今回も入れ食いの予感 2番との水道で竿を出すuenoさん 今回の釣り座 こちらは先端の釣り座 2番が見えます このがけをよじ登れば 3番北向きへ 4番とのワンド uenoさんも釣りを満喫しています まずまずの型のクロをゲット 入れ食いを味わいます うれしい外道 食べておいしいスマガツオ 本日の最大魚を釣るuenoさん 後半は2番との水道で勝負 回収を待つuenoさん クロ21枚 スマ1枚 タカベ1枚 ありがとう 津倉瀬3番南向き 津倉瀬を堪能できました |