「だから わるい」
オセーエワ 作
一ぴきの犬が、体をまえにかがめて、はげしくほえたてています。そのすぐはなさきに、かきねにぴったりと体をよせて、一ぴきの子ねこが毛をさかだててふるえています。かーっと口をあけ、ニャーオ、ニャーオとないています。
すぐそばに、ふたりの男の子が立って、なりゆきをみていました。
まどから、それをのぞいていた女の人が、とぶようにして、かいだんからかけおりてきました。女の人は、犬をおっぱらうと、男の子たちをしかりつけました。
「あんたたち、はずかしくないの!」
「どうして、はずかしいの?ぼくたち、なにもしてないよ!」
男の子たちは、びっくりしたように、いいました。
「だから、わるいのですよ!」
女の人は、まっかにおこっていいました。
これはオセーエワの童話「だからわるい」だ。「ぼくたち、なにもしてないよ!」と男の子たちは、主張しているが、女の人から「だからわるいのですよ」とおこられてしまう。男の子たちの行為は何もしてないようにみえるが、実は弱い者いじめを受けている者を傍観している、つまりはいじめを黙認している行為となるのだ。
この行為を弁証法的に意味づけるならば、「何もしていないことは何かしていること」ということになるであろう。
面白いことに、釣りの世界にもこのようなことが存在することに気づかされた。
釣りは、言わば人間と魚との知恵比べの歴史が繰り返されてきた。古くは縄文の昔から、動物の骨を改良して釣り針を作り、掛かると容易に抜けないようにいわゆる「かえし」がこのころからすでにつけられていた。現代の釣り具メーカーが釣り針に施しているアシストバーブの発祥がすでに縄文時代に見られたということだ。
釣り具は、生活のためからレジャーのためになっても釣り具の進化は続き、最近では電動リールでシャクリを自動的にやってくれる機能までついた。それだけ、魚も個体数の減少とともに警戒心が強くなり、工夫しなければ中々釣れない時代になってきたということだろう。
しかし、そんな中でも、なんの工夫をしなくても−いや正確にいうと工夫をしない方が釣れる−釣れる釣りがある。つまり、それは「何も工夫しないことは何かしていること」という弁証法的な釣りとでも言えようか。今回の釣行では、そんな不思議な釣りに出逢ったのだ。
その釣りを「タイラバ」という。タイラバとは簡単に言えばルアーのことで、真鯛漁の鯛鏑(タイカブラ)からその名がきているようだ。釣り方はいたって簡単。底に落として、ただ撒くだけというものだった。
普通、ルアーならば、シャクリなどのアクションをつけることが一般的だが、タイラバは底に落としたらすぐに糸を巻くだけという何の工夫もしない釣りなのだ。しいて言えば、巻くスピードや、ルアーの形や色に関係があるかもしれないが・・・。
11月23日中潮。前々から楽しみにしていた津倉瀬釣行の夢は、突然発生した低気圧の影響であえなく潰えた。雨も降る予報だが、その中止を決定的にしたのが波高1mのち3mというとんでもない予報だった。
22日、仕事に没頭していると、案の定、フリースタイル翔三角船長から津倉瀬中止のメールが入る。「やっぱり」
しかし、落胆する間もなく、メールの続きの文章を読んで、アドレナリンが大量に分泌され始めるのを感じた。
「kamataさん、船釣りしませんか?」
このまま厳しい予報の中、磯に行くよりも、船釣りでもしていたほうが幸せなのかも。そんな浮気心が体を支配し始め、思わず
「お願いします」
と言ってしまった。前から興味があって、一応道具やタイラバは揃えてはいたのだが、こんなに早くも出番が来るとは思っていなかった。
「竿はエギングロッドでいいですよ。タイラバは80グラム以上が使いやすいですね。」
そして、三角船長の殺し文句で会話は締めくくられた。
「落としてただ巻くだけですよ。」
「だれでも釣れますよ」
「乱獲しないでくださいね」
船長のこの巧みな甘い言葉で、今回初めてであるタイラバ釣りのモチベーションは激上がりとなったのだった。
「6時出港です。」の船長の言葉で、自宅を午前3時過ぎに出発。3日前に購入した30Lのクーラーを車に積んで九州自動車道を南へ下り、南九州自動車道を経て串木野港に到着したのが5時過ぎだった。
早くも5,6台の車が止まっている。堤防組が5人、船釣りが2人という布陣だ。人数がそろったということで、早くもフリースタイル翔の船の灯りがつけられている。
午前6時前静寂に包まれた串木野港をフリースタイル翔は静かに航行を始めた。まず初めに、串木野沖堤防への案内だ。2名の底物師と2名のフカセ部隊アンド青物襲撃部隊の合計4名が無事にコンクリートの延べ棒に乗った。
船は反転し、逆方向へと進んでいる。フリースタイル翔の客の中で、「時化時化大魔王」「時化大明神」「時化時化大魔神」など有難くない名でよばれている釣り人を照島堤防に乗せた。
さあ、今度は我々の番だ。
「まだ暗いので、明るくなるまでいか狙いましようか。」
早くもうれしい言葉だ。客の思いを汲み取り、最大限まで釣り人に寄り添いながら営業を行う。この三角船長の行動は正に釣り人そのものだった。この三角船長と同じような営業を以前受けたことがある。
数年前、北海道に旅行した時のことだった。若い女性の添乗員だったが、旅行客に気配りはもちろんのこと、客と一緒になって雪の北海道の大地でのスノーボードを楽しんでいた。「いかにも仕事してます」という接遇ではなく、自分もお客さまと一緒に旅を楽しむんだという彼女の姿勢には大いに心をうたれたものだった。そして、その旅行は本当に楽しく思い出深いものになった。
自分も今の仕事で子どもとともに汗をかく教師でありたいと改めて考えさせられたのだった。客と一緒に本気で釣りを楽しみ三角船長の営業哲学は、正にそのスタイルだ。つまり、それがフリースタイルなのだと。
そんなことをあれこれ考えていると、道糸の糸電話がイカのアタリを知らせた。瞬時に合わせたつもりだったが、逃げられてしまった。餌木をチェックするとイカにかじられた跡がある。まだシャクってもいないのに。このポイントはかなり好調なポイントかもしれない。ただ潮が速くて釣りが中々難しい。すると、船長が
「オオモンハタのポイントに行きましょうかね。」
と提案。イカにも未練があったが、すぐに気持ちを切り替えて、船の移動中、タイラバの準備を始めた。しかし、私は、ルアー釣りを全くしたことがない。道糸にリーダーを結ぶのも四苦八苦。気がつくと5cmほどになっていた。まあこれでも大丈夫ではと、釣りを始めた。
最初のポイントでは、早速、オオモンハタらしきアタリが。となりのbabaさんも初めてらしいが、磯では百戦錬磨の釣り人らしい。早くもオオモンハタを釣られていた。ほどなく私にもアタリがあり、1匹目をゲット。驚いたことに、本当にただ巻くだけで釣れるから不思議だ。アタリがなくなると、次のポイントへ移動。
「ここは、型はそれほどでもないですけど、数釣れるポイントです。」
ここでは、アタリがたくさんあったものの、いい加減な結びをしていたためか、バラシの連続。ここで、三角船長のお助けが入る。FGノットという結びと6号ハリスの1ヒロのリーダーで再挑戦。ここでも1匹ゲット。その後、
「大物のポイントに行きましょう。」
の声で、場所移動。ここは潮が速く、120gのタイラバでも流されている。しかし、潮が少しゆるむといきなりヒット。やたら思いなあと浮かせにかかると、「でかい。」50cmをゆうに超えるサイズ。タイラバの色はオレンジだった。時合いかも。
再び強いあたり。これも同じサイズのオオモンハタ。更に、ポイントを変えて1匹加えて今日の釣りを終えた。この日は、ゆっくり巻くのとオレンジ色のタイラバがよかったようだ。釣り具店に行けば、いろんな種類を売っているので、いくつかそろえてみたいと思う。
何も工夫しない釣りは、工夫しないことで工夫している釣りなんだなと改めて気付かされた。離島の磯に行けなくてもこの釣りがあれば楽しい。磯釣りのスベリ止めとしては、もったいない釣りだ。
釣った魚が小型のタコを吐き出しているのを見て、タイラバの有効性を改めて確認して今回の釣りを終えたのだった。
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