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2月も後半になった。クロ釣りも後半戦に突入。大雑把に状況をまとめると、今年は九州地方では、東シナ海側よりも太平洋側が好調のよう。
離島の尾長釣りに行きたいところだったが、土日に休みがとれず硫黄島行きを断念。休日出勤の代休となった20日に門川に行くことにした。
このところ門川では例年になく、ビロウ周りを中心にデカバンの口太が釣れ続いていた。もう数はいらない。大きいサイズが1匹あればいい。
そんな思いを磯バッグに詰めて門川に向けて車を走らせた。
今回お世話になる渡船は功丸。今年の初釣りで爆風の中の釣りを演出してくれた。そして、バッカンを流された時、粘って取ってくれたとても親切な渡船屋さんである。
アマチュア写真家としてもかなりの腕前のインテリ船長に予約を入れる。
「6時出港やから、5時半にきちょって」
やさしい宮崎弁が帰ってきた。今回の予報は、前回の爆風とは大違い、凪、微風と願ってもないベストコンディション。
すれ違う自動車が極端に少ない夜の宮崎自動車道から東九州自動車道に入り、国道10号線を北上するといういつものルート。3時間ちょいで門川町庵川西にある功丸の駐車場にやってきたのだ。
梅の花が咲いたとはいえ、まだ2月の夜は寒かった。気温2度だ。時計を見ると、午前1時過ぎ。駐車場にはだれもいない。
「船長、ビロウ周りにのれますかねえ」
デカバンのクロの一発狙いということで、ねらいの磯に乗りたいという意思を電話口で届けたが、船長の返答は釣り人を安心させるものだった。
「平日だから、大丈夫でしょ。」
この言葉から、釣れているポイントに乗せてもらえそうな釣り人の人数であることを予想しながら、コンビニでそろえた自分流居酒屋セットで落ち着き、車の中で仮眠をとることにした。
静かな港近くの駐車場は、ねぐらとして悪くない場所だ。そんなことを考えているといつの間にか睡魔が襲ってきて、眠りについていた。
どれくらい時間がたっただろうか。人の話し声で目が覚めた。
窓から外の様子をのぞくと予想とは違う光景が目に飛び込んできた。短時間の間に次々に釣り人の車が駐車場に入ってくるではありませんか。
1台、また1台。次々に宮崎ナンバーの車が駐車場に入ってくる。そうか、そうなんだ。離島の釣りに慣れている自分にとってこれはなれない光景だ。
なぜなら、離島釣り師は、遠方から来る輩が多い。だから集合時間に1,2時間前から来るのは当たり前のこと。速く集まれば、早めの出向になることもあるから、釣り師の間では早めに集まるというのが無言の掟だ。
しかし、ここは宮崎県門川。瀬渡し時間は決まっているので、その時間に間に合えばいいということ。沿岸の磯だから、地元の釣り師が多い。
だから、時間ぎりぎりにやってくるもの当然の結果と言える。
それにしても多いなあ。今日は平日なのにどうなっているのさ。あっという間に駐車場は満員近くになっていた。
この門川では、有難いサービスがある。それは荷物を軽トラックで運んでくれるというサービスだ。
それでも小心者の自分は全部軽トラに乗せてもらうのは申し訳ないと、竿ケ−スだけは自分で担いで港へ向かった。
港では早くも明るいサーチライトを伴った瀬渡し船がやってきた。功丸だ。
荷物を積んでキャビン内に入る。午前6時過ぎに船は港を離れた。夜明けの門川の沖磯群に向けて快調に船は海面を滑っている。実にゆっくりした出船だ。
しかし、ゆっくりしているのは午前6時半までで、この船は数分後に豹変するのだ。
午前6時半になると、5つの船が一斉に瀬つけを始める。そして、最初の渡礁が終わると恐ろしスピードで、突然暴走族のような走りになるから面白い。
船はまず、ハチガササレかコタツに瀬付けしたかと思うとあり得ないスピードで次の渡礁場所を探し、釣り人を乗せる。
ビロウ島の東向きはややうねりが残って船が傾くくらいにかっ飛ばしている。まるでボートレースのようだ。
1人のおいらは、やはり最後の方になった。あと2組と言うところで船長から声がかかる。
「kamataさん、ブリバエ行こうか。この前も結構釣れてたよ。」「わかりました。」
門川にはあまり精通していない自分は船長に従うのみだ。ビロウ島の隣にある比較的大きな瀬「ブリバエ」に無事に渡礁を完了。船長からのアドバイスを待った。
「ここ(足下)もいいし、その向こう側(西向きの先端)もいいよ。」
こうアドバイスして船は去っていった。
この磯はかなり広範囲に釣ることができる。撒き餌を作り、仕掛けを作りながら撒き餌を間断なく始めた。
今日のタックルは、ダイワメガドライ1.5−53。道糸2号にハリス1.75号(ただし、朝マズメ以降は1.5号に落とした)。
ウキは、潮が速く、うねりも残って海面もざわついているので、3Bの半誘導とした。タナは2ヒロから始めることに。
ブリバエのビロウ向きには馬の瀬という低い瀬があり水道になっている。根も点在していていかにも釣れそうなポイントだ。
撒き餌も30分ほどしたので、第1投。ウキが海中に突き刺さり、いよいよ門川での釣りが始まった。
いきなり潮が速いではないか。目の前をなぜかウキが通過していく。東向きの先端の釣り師が流した仕掛けがここまでやってきている。
これでは、撒き餌は効かないし、魚は口を使わないしこまった。流れのできるだけ緩いところに仕掛けを入れてアタリを待つが、時々餌を取られる程度。
今日も厳しい立ち上がりだ。そのうち手前に当たってくる潮になり、魚を喰わせられず時間だけが過ぎていく。
そのうち、隣の釣り人が9時ごろからぽつぽつとクロを釣り始めた。下にクロがいる気配はするのだが、どうしても喰わせきれない。
潮が少しずつ緩んできたので、ウキを3BからG2に落とす。また、ハリスを1.5号。ハリは4号からついに2号にまで落とした。刺しアミをつけるための専用小バリだ。
今日は中潮。満潮に近かった潮位もだんだん下がって潮も緩やかになってきた。するとだんだん魚の活性があがってきた。今までウキに反応がでなかったが、明らかにクロのアタリと思われるウキの消し込みが見られるようになってきた。
餌を撒いて、高い段から海の中を覗くと、ちらちらとクロらしき魚影も確認できた。
何かが起こると思った午前9時過ぎ、海中を漂っていたウキを見つけて道糸を張ったりゆるめたりしていたら、何の前触れもなく道糸が引きこまれた。
反射的に竿を立てやり取りに入る。よしっ、魚の疾走を止めた。取れるはずだ。ギラリと生命反応を届けてくれる魚が反転するのが見えた。
あちゃー、イスだ。どうりで竿を叩くと思った。一気にやる気がなくなった。都合のいいことに、ハリスを切ってイスは去っていった。
魚は期待外れだったが、魚からの反応があるということは、今後に期待が持てた。
しかし、ふがいないことに、その後2回ほど本命らしきアタリをとらえたが、両方ともハリ外れで魚を見ることもできずにバラしてしまう。2号のハリを使っているから仕方がない。
その後、4号に上げると喰いが悪くなる。3号に落として様子を見るが、やはり魚からシカトされた。
そうこうしているうちに弁当が届く。しかたがない。弁当でも食べて一息入れるか。磯釣りの楽しみの一つに磯弁がある。
北浦などは、できたての弁当を届けてくれるので、港から近い磯にいる時は、あたたかい弁当をもらって感激することもある。
ここ門川では、ほか弁を船長の好みで買って届けてくれる。何弁でも500円というからこのいい加減なところが面白い。
もちろん、弁当の種類を予め伝えておくこともできる。潮風に当たりながら食べる弁当は格別だ。
11時を過ぎて未だに魚を見ることさえできないでいる。隣の釣り師は2,3枚はクロを手にしたもよう。焦る気持ちもあるが、せっかくの磯釣りだ。ゆっくり楽しもうではないか。
別に釣れなくてもいいではないか。磯風にあたり海を見つめて時を過ごすのもいいものだ。こんな贅沢な時間がどこにあるというのだ。こちらがいくら焦ったところで、魚がやる気になってくれなくては始まらないではないか。
こんなあきらめにも満ちた気持ちでウキフカセ釣りを楽しんでいると、いつものようにウキがゆっくりとシモり始める。どうせまたお化けだろうと思うが、できるだけ魚のアタリは味わいたいとウキが動く方向とは反作用の方向に道糸を操作してアタリを待つと、わずかに道糸に変化が現れたように感じた。
軽く竿先を動かしてみると、竿先に生命反応を感じた。軽くあわせるとこんこんと魚の重量感を感じた。気が付いたら魚とのやり取りを始めていた。
あまり引かないが、中々重々しい引きだ。魚が左からぬうっと現れた。おっ、でかい。タモ、タモ。だれもいないのに叫んでしまった。慎重に一発で玉網をかけて手前に引き寄せる。
魚を確認すると、明らかに今年釣った中で最大サイズだ。魚のサイズが知りたくて、クーラーの蓋についているメジャーにあてていると47cmのうれしいサイズ。
あきらめかけていただけにこの1尾はとてもうれしかった。エメラルドグリーンの瞳と端正な顔つき、見事なプロポーション。この魚ほど美しい生き物はいないのではないかと思うほどうれしかった。
感激にふるえていたころ事件は起こった。それまでおとなしく横たわっていたクロが突然暴れ出し、信じられないほどの跳躍力を見せ、クーラーのふたから飛び出した。
そしてその下の海中へ真っ逆さまに落ちていった。まるでスローモーションのように魚が躍動しながら落ちていく。五輪のあの逆飛び込みのように。
どぼん。
にぶい水音とともにクロは命からがら逃げたと思った。
ところが、長い間地上にいたため酸欠状態になったためか、脳震盪を起こしたのかわからないが、逃げるチャンスだったのに。しばらく水面に浮いたままになっていた。
しまった。釣り人はすぐさま玉網を取り出し、魚を掬いにかかろうとした。魚が落ちてからここまで、2,3秒しかたっていないと思うが、とても長い時間のように感じた。
う〜むどうしよう。せっかく釣れたのに逃がしてなるものか、家に帰ってから白子の刺身を喰うんだ。
早く、玉網をいれろよ。逃げてしまうぞ。心の中でこんな声が聞こえたかと思えば。
おいっ、釣りを楽しんだんだし、その魚の跳躍力に免じて逃がしてやったら。リリースもかっこいいぜ。もう一方の自分がささやいている。
一瞬このような葛藤があったが、そこは、縄文人の遺伝子が勝ってしまった。
すばやい動作でもう一度魚を玉網ですくい今度は確実に魚をキャッチする。
ここではもはや世界の共通語になってしまった「もったいない」の心が、逆の意味で自分の心を支配してしまった。本能も赴くままに魚をクーラーに入れた。
それから、ここブリバエはバリを2匹釣って一瞬バリ島となったが、30ちょいのクロを1枚追加して釣りを終えた。
回収間際に潮が速くなり、西向きの先端付近で潮が回り込むところで魚を喰わせたが、その2回とも根ズレを起こし取れなかったことが悔やまれた。
しかし、回収の5時までの1日、さわやかなそよ風に吹かれながら磯釣りができたことは、どんなレジャーもかなわない喜びをもたらしてくれた。
もう一度、この門川のそよ風に1日中当たっていたいと願いながら港に上がるのであった。
釣った魚を再び海に落として、また玉網をかけたことは、もちろんだれにも話さなかった。
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