宇治群島の最高峰 鮫島
どこまでも続く水平線。眼下に透き通ったコバルトブルーの海。さわやかな磯風。GWの休日としては最高のスチューエイション。しかし、一緒に過ごしているuenoさんと目の前にひろがる光景にアテンダーをにぎりながらぼくは茫然と立ち尽くしていた。
2012年5月5日子どもの日、ぼくは宇治の海にいた。宇治の中でも一番南に位置する鮫島に。対馬暖流の影響を初めに受けるこの島は、その名の通りサメの多いことで有名だ。 宇治群島は、磯師の間では言わずと知れた垂涎の地。上物底物ともにこの5月は尾長グレに石鯛が乱舞する絶好の季節だ。その宇治にuenoさんが触手をのばすのも十分理解できた。 「kamataさん、宇治に行こい。尾長ば釣ろい。」 数年前、甑鹿島の灯台下に偶然乗ることになったuenoさん。その時に、遭遇した尾長グレのアタックにすっかりハマってしまったそうな。だから、尾長グレシーズンの締めくくりとなるこの時期に、何としても尾長グレとのコンタクトを取りたいと願っていた。5月5日に宇治に出航するのが、串木野発のサザンクロスと聞いて、早速予約を完了。天候の条件をクリアした我々の頭の中にはすでに、宇治の海に潜む尾長グレが泳いでいた。 「kamataさん、おらボイルば買うたバイ。ボイルがよかって(それはあくまでもネットの情報にすぎないのだが・・・。)いいよったもん。」 こうuenoさんから釣行の数日前連絡が入る。我々の居住区には大きな釣り具店がなく、ボイルを手に入れるには高速道路を飛ばして、買いに行かなければならないことを気づかったuenoさんが、わざわざパートナーの私にそのやや不確かな情報を教えてくれたのだった。隣の釣り人がもしボイルで釣れ始めたら。こんな妄想が頭をよぎると、いてもたってもいられずボイルを買いに走った。 そして、今回はあっさりとポセイドンからの許可が下りたのだった。 「出るげな。11時集合だって。8時出発でよかな。」 釣り道具を車に積み込み、ルンルン気分でueno宅に午後8時過ぎに集合。今回はueno号で無事宇治への出撃とあいなった。 5月5日、大潮の2日目。大きな満月が東の空を陣取っている。その満月の光を左側から浴びながら、今回の釣りは尾長ねらい1本で行くというuenoさんの決意を一方的に聞きながら、串木野港に到着したのが午後10時20分頃。港はGWということもあり、底物上物半々の磯師でごったがえしてた。 しばらくすると船長が登場。なにやらバインダーをもって釣り師の前に現れた。「○○さん2名、uenoさん2名・・・」釣り師の人数を確認しているようだ。そして、おもむろに乗る瀬の確認作業が始まった。この作業は通常船長の一方的な通告によることが一般的だが、この船長は限りなく平等に釣り人の要求に応えようとしているようだ。 「鮫島に乗りたい方?」 船長が釣り師に向かって一言。これは迷う一言だ。「kamataさん、どうする?鮫島はよかとこな。」 そんなこと言われたって、一度も言ったことのない瀬がいいかどうか、それがたとえよい瀬であっても最近の情報がどうなのか、まったくわからない状況に判断を迷うところ。しばらくの間沈黙が続く。釣り師の心理戦に業を煮やした船長がこうきりだした。 「ハナレ、三段、ヒナダンのどこがいいですか?」そんなこと言われてもわからない。しかし、野球で「いい球は初球から打ちに行け」と高校野球で頑張っている息子にアドバイスしている自分は、余裕のないポジティブ思考で、「uenoさん、いい瀬だと思いますよ。行きましょう。」と言ってしまった。 サザンクロスはとにかく大きくて速い船だ。釣り師の夢とロマンを乗せた高速船は、3時間かからないところでエンジンをスローにした。もうついたのか。そんな動きを見せた釣り師たちがおもむろにライジャケを羽織ってデッキの外に出ていく。威圧感のある明るい赤みがかった月が、漆黒の水面をやわらかく照らしている。センバ鼻あたりからの渡礁か。 「○○さん、準備してください。」 1組ずつ、ゆっくりと名前が呼ばれる。半島周りにはない実にゆったりとした離島ならでは渡礁現場だ。 「右のワンドのところの壁際をねらってください。昨日も2発はハリ外れ、合計4回(尾長が)当たってきましたよ。6時ごろには満潮で潮位が高くなるので荷物は上の段にあげといてください。」 渡船屋の船長としては、十分すぎるくらいのアドバイス。客の要望を最大限に聞き、ていねいな釣り方を含めた解説。この船長も海を、釣りを愛する人らしい。 渡礁も終盤戦になり、鮫島組だけが残された。まず、鮫島のハナレに3人組が渡礁。更に、がまかつ系のクラブに在籍していそうな2人組がヒナダンに。そして、最後の渡礁が我々となった。切り立った鮫島の壁のようなところに乗せられた。 「uenoさん、ポイントは右のかどと左のかどです。瀬際ぎりぎりをねらってください。1号か2号くらいの重い仕掛けで。瀬変わりはありませんからここでねばってください。」満潮近くになると、波が上がってくるかもしれないですから気をつけて。」 我々が乗せられたポイントは、底物や尾長グレで定評のある鮫島の三段というところだった。午前4時前に渡礁。夜明けにはまだ時間がある。 @ 尾長が当たってくる時間帯は夜が明けて明るくなってからが多いこと A 瀬際を重い仕掛けでねらうこと B サメがいるときはサメに喰われる前に釣りあげること C タナは竿1本〜2本くらいであること Bにおいては、自分にはとても出来そうもない課題だったがとりあえずやる気を見せて周囲の状況の確認作業に入る。 さあ、尾長釣りでは魅惑のゴールデンタイム。明るくなったが、ハリスはそのままの8号。ハリも大きめの夜釣り王。何かが起こるかもと期待を寄せて竿1本半あたりを探っていた仕掛けに何者かが触れた感じがした。竿先で軽くきいてみると、やつは一気に引きこんできた。3号竿が容赦なく根元から曲がった。こちらもあわてて応戦。そいつはぐんぐん引きこむ。左手前にある根の出っ張りに何とか逃れようとしている。こちらも8号ハリスに3号竿だ。負けるはずがない。竿を海面を平行に立て直すと、奴の疾走は止まった。次の突っ込みに備えて、魚を左の根から引き離す。 ところがそんな釣り師の期待とは裏腹に、磯はムロアジの来襲を受けていた。いるはいるは、ムロアジばかりが縦横無尽に餌を拾っている。ムロアジの浅い層を突破して、尾長グレのタナらしきところを探るものの、ムロアジに攻撃に苦戦を強いられていた。 時折、魚が口を全く使わない時間帯があり、首をかしげていると、目の前の光景に唖然とした。2mはあろうかという尾長グレが悠々と泳いでいたからだ。いや尾長グレではなく、尾長サメだった。アテンダーの竿先には2mをこえる。鮫島の用心棒が警備をしていた。 「このサメは太かなあ。」uenoさんもややあきらめ気味につぶやいた。今日は大潮であるにもかかわらず潮がほとんど動かなかった。滑るのは上潮のみで、仕掛けを修正している間にムロアジが喰いつくというパターンで8本のムロアジを仕方なく抜きあげる。 口太も釣れない、尾長グレ1本に絞った釣りはあっという間に回収時間を迎えた。宇治群島に来て、またもややってしまったボウズ。しかし、心はGWの空のように晴れ晴れしかった。「kamataさん。おらイサキが喰いたくなってきたバイ。」 |
スポットライトで主役の船長がタクトをにぎる 鮫島のハナレに渡礁準備 鮫島の三段に上礁 この時点ではまだやる気モードのuenoさん 無念のバラシ ここで喰いました これがめっちゃわいてました 君はお呼びでないよ ワイヤーハリス咬み切られ こんなんばっかりですわ 釣っても 釣っても〜〜 こればっかり(泣) 今日は瀬変わりはなしね 磯の用心棒がうろうろ これだけが楽しみでした はよ 迎えに来てくれ〜〜 久しぶりの撃沈ポーズ 足上げ 本日の釣果 食べる分だけお持ち帰り |