11/25 場所じゃありませんよ 瀬々野浦


鹿児島県 瀬々野浦のシンボル ナポレオン 

ようやく釣りに行ける。
  813日に野間池に半夜釣りに行って惨敗を喰らって以来、3カ月後の1125日にようやく磯に立てる日がやってきたのだ。
  息子の高校野球応援と学校行事などのオンパレードで土日は全くふさがってしまっていた。HGの硫黄島の夜釣りもここ7年間で初めて出撃さえできなかった。野球と釣りへの情熱を両立することがこれほど難しいとは思わなかった。また、11月の天候も不安定で、週末の度に時化るという釣り師にとってはじりじりする展開。しかし、11月終盤の3連休の最終日は天候が落ち着き、どうやらポセイドンからの許可が下りるようだ。
早速、uenoさんに探りを入れることにした。
 「おら先週釣りに行ったばっかりタイなあ。」
Uenoさんは、行事の代休で1週間前に釣りに行ったばかりだった。これは、やばい。何とか説得しなければ。
「ぜんぜん、釣れんやったバイ。」
しかし、説得しやすい状況があった。先週の釣りは、去年までよく釣れていた宮崎県北の門川で、有名ポイントに乗せてもらったものの、クロは釣れず、1.3kgの石鯛のみの釣果だったそうだ。そんな残念な話の一部始終を聞いていると、案の定、
「でどこに行こうと思っとっとね。」
そら、少しやる気になったぞ。そこで、とどめの一撃だ。
「硫黄島は、青物がいいかもしれませんけど、クロならそろそろ甑島、う〜〜〜ん、瀬々野浦辺りがいいかと思うんですけど。」
「瀬々野浦な、そらよかかもなあ。あんまり釣れよらんみたいやし、客も少なかけんよかところに乗らるっかもなあ。」
やっぱり、uenoさんはおいらの作戦に引っ掛かった。Uenoさんにとって甑島の中で最も相性のいい瀬々野浦の名前を出せば、おそらくやる気になるに違いないと踏んでいたが予想通りだ。
4時出航げな。1時ごろ出発しょい。まき餌はパン粉がよかバイ。つけ餌は、刺しアミば持っていきない。」
いつの間にか永福丸に連絡をとったuenoさんはおいらよりやる気になっていた。やはり、釣りバカはこうでなくちゃ。こうして、人吉盆地の釣りバカ2人組は、瀬々野浦へと出撃することになったのだった。
Ueno宅に午前1時集合。九州自動車道を南へ下り、横川ICで降りて薩摩路を西へ西へと進み、2時間弱で川内港へ到着した。
いつも思うことだが、薩摩の道は本当に走りやすい。肥後の道とは大きな違いだ。

私が思うに、九州新幹線が開通して一番利を得ているのは薩摩藩であろう。鹿児島中央駅の開発に手掛けるのもかなり早かった。熊本肥後藩は駅前開発が遅れてしまい、結果として熊本は通過地点となり、鹿児島が九州方面の旅行の最終目的地としてこの地位を確立した。西南戦争では熊本城で西郷軍を苦しめた肥後も新幹線を中心とする開発に後れをとってしまい薩摩に負けている状況ではないだろうか。薩摩藩のしたたかさを感じながら、今回も薩摩藩管轄の甑島にお世話になる熊本県人は、永福丸の接岸する地点に荷物を置いた。
予約した時点では、数人規模という少なさだったようだが、港には13人の釣り人が集まっていた。23日はかろうじて出航した船も24日は船止めが多かった。そのためか、行けなかった釣り人が流れてきたと容易に想像できる。
暗闇の川内港に明らかに不釣り合いな閃光を伴った永福丸がどこからともなくやってきて接岸。いよいよ出航となった。キャビン内に入ると、ポーターさんがしきりに首をかしげている。
「おかしいなあ。予約より2人多いみたいだけど。」
「だれかな、予約もせんで乗りこんだ釣り人は。」
uenoさんもポーターさんの発言に同調していた。
しかし、この時まで我々は、ポーターさんを悩ませる予約をしていない客であったことはもちろん気づいていなかった。
永福丸は、ゆっくりと静寂の川内港を離れ、甑島瀬々浦へと向かった。波予想は2mのち1m。瀬々野浦期待の北エリアに行けるか微妙な情勢だ。川内沖堤防を抜けると漆黒の東シナ海が待っていた。今日の東シナ海は穏やかでまるでゆりかごのような波で釣り人を安らかな眠りにつかせた。快調に走り続ける永福丸は、1時間半で釣り人を瀬々野浦へ誘った。うねりは多少あるものの期待の北エリアからの渡礁のようだ。松島に2人、立髪に2人、堤防のように足場がよく波が襲ってきそうだった中の瀬戸に1人。そしてしばらく走って、斜面に2人を乗せナポレオン瀬の鼻にこの日唯一の底物師を乗せた。今日は、北エリアから東磯まで広範囲での展開となるようだ。
「なかなか出番のこんなあ。忘れられているんじゃあ。」楽観論者のuenoさんもさすがに心配になってきたようだ。
「○○さん、どうぞ。」瀬々浦港に近く、三角錐の形をした地よりのハナレ磯「コブ瀬」に渡礁。
あと3人だ。単独の上物師は希望通り鷹の巣に渡礁した後、ポーターさんから信じられない一言を。
「いつ予約されました?」
どうやら、我々二人組がポーターさんを困惑させる原因だったようだ。
「金曜日に予約しましたけど。」
まさか自分たちが架空の釣り人であったなんて。
uenoさんどうぞ。」バツが悪そうに船長が指示。我々は口太釣り場とし定評のあるタテビラ瀬に渡礁することになった。この磯は2回目である。渡礁を済ませ、uenoさんが早速この磯をこう表現していた。
「ここは足場がよかなあ。ばってん、ここは型の小さかもんなあ。」
いい磯に乗せられたのに、とりあえず不平をもらすのがueno流である。
「撒き餌バするけん、先に仕掛けば作りない。」uenoさんが早速今日の作戦を決行した。Uenoさんのこの日の作戦は甑島パン粉釣法だ。赤アミ1角にパン粉4kgを混ぜ合わせて撒き餌をつくる。つけ餌は刺しアミやパン粉ダンゴがメイン。この釣り方は、口太だけを釣りたい時は抜群の実績があるが、真鯛、イサキ、青物などのうれしい外道は期待できない。
時は11月後半。水温が下がってきたとはいえまだまだクロ釣りの本格シーズンには程遠い。この時期は、ボウズも覚悟しなければならないことも。そこで、そんな時期だからこそパン粉釣法が有効だとuenoさんは考えたのだろう。Uenoさんがそうしたいと言えば、先輩の言葉は絶対である。おいらも今回はパン粉釣法で頑張ることにしたのだった。
竿はメガドライM2の1.553。道糸2号にハリスは朝マズメだけ2号(その後1.7号をメインに)。朝方はうねりがあったが、夜が明けると波は収まりつつあるということで、G2のウキの半遊導タナは2ヒロで釣りをスタートさせた。潮は下げに入っており、この前と同じように地よりへ緩やかに動いている。
野球の投手は先頭打者に対する第1球でストライクを取る、最初の打者を打ち取る、そして、1イニング目を無得点に抑えるなどいくつかの関門がある。釣り師もこれと同じく最初の魚を手にするまでは、いくつかの関門があるものだ。自分の釣り方に強いこだわりを持つと同時に疑心暗鬼にもなる。果たして、このやり方でいいんだろうかと葛藤する。今は野球の試合で言えば、先発投手の心情と言ったところであろう
そんな中、いきなり結果を出した釣り師がいた。Uenoさんである。うお〜〜っと、雄叫びをあげながら魚とのやり取りに入っている。がまかつレセプターが見事な弧を描いている。
前回の瀬々瀬野浦でもuenoさんは第1投で釣ったような。どんだけ瀬々野浦に相性がいいのだろう。浮いてきた魚は白いしっぽでエメラルドグリーンの瞳を持つ恋人だった。
大騒ぎした割には小ぶりな30cmをチョイ超えたサイズ。
「これでボウズはのがれたバイ。」
uenoさんは小さいながらも本命を釣りあげたことでご機嫌である。
「ばってん、ここはサイズが小さかもんなあ。」
笑いながらもネガティブな一言を発しながら第2投。さあ、このまま大量得点なのか隅一(すみいち)なのか。
残念ながら返ってきた解答は、後者であった。「刺しアミで釣れたバイ。」といつものように情報を開示してくれたuenoさんだったが、後が続かなかった。底潮が動いていないみたいで、上潮だけが滑っていき中々魚を喰わせられない。
そのいら立ちをあざ笑うかのように、年中無休の訪問者がやってきてくれた。ギラギラとした魚影で釣り人の竿を叩き、ハリスを痛めるやっかいな外道。磯上物師が餌取りの代表格として親しんでいるイスズミである。また、そのイスズミがたまに木端メジナになったり、木端尾長になった。
釣ってはリリースを繰り返しながら、私は30cmチョイ超えのクロ、uenoさんは36cmのクロを1匹ずつ釣るのが精いっぱい。まだまだ水温が高いのかイスズミの活性が高いようだ。
餌取りの活性が高く、つけ餌がオキアミでは持たない。刺しアミも通用しないようだ。最終手段ということで自家製のアミ団子でようやく釣った魚だった。Uenoさんもハリを3号まで落としてようやく2匹目を手にしていた。
そうこうしているうちに、永福丸が見回りにやってきた。
uenoさん、瀬変わりしますか?」
さあ、いつもの葛藤場面がやってきた。時刻は9時前。2時間弱でのこの状況では、先行きに不安を覚えた。
uenoさん、どうします?」
「う〜〜ん、今まで変わってよかったためしがなかとバイなあ。」
わかる、わかるその気持ち。確かにその通りだ。永福丸の船長もこう声をかけてくる。
「(釣れない原因は)場所じゃありませんよ。人ですよ。」
うん、その通りだ。
でもね、折角ここまで来たんだから、いろいろと経験したいじゃないですか。こんなわけのわからぬ理屈をこねuenoさんを説得し、瀬変わりすることにした。
 船は、北向きに進路を変えた。隣の鷹の巣の釣り人は瀬変わりしないサイン。えっ、ここは釣れているのかな。更に水深は浅いが口太の実績が高いコブ瀬の釣り人はここで粘るというサイン。ここもかい。そして、先週1番よく釣れていた善吾郎の釣り人は、頭の上で○のサインを。どうやら瀬変わりするのは我々だけのようだ。焦るおいらたちはナポレオンと水道をはさんだ瀬「ヘタのウマ瀬」に渡礁。船長のアドバイスを待った。「ナポレオンとの水道をねらってください。回収は1時です。」永福丸は去っていった。
満潮付近はうねりもあったし背も低いので夜明けの渡礁は叶わなかったということなので、これ以上の瀬はありえない。何とかここで結果を出さなければ。二人とも無言だったが、そう意思統一していた。
ナポレオンとの水道をねらうというアドバイスは、わかる気がする。シズミ瀬が点在し、クロが潜んでいる雰囲気がムンムンだ。しばらく撒き餌をしてポイントを作ってから釣り始める。「潮の速かなあ。」丁度潮の動く時間帯だったのか、北向きにごいごい流れている。流れていく先に大きなシズミ瀬がありそこで魚が喰ってくるのではと思いきや。反応がない。「ぜんぜん釣れる気がせんバイ。瀬変わりせん方がよかったかもしれんバイ。」uenoさん早くも嘆き節が始まる。
確かに魚の気配がしない。ああこのまま終わってしまうのか。
待てば海路の日和あり。潮がだんだん緩くなってきた。渡礁して2時間ほどすると、魚の反応も出始めた。ウキを00号にしたいところだが、ダンゴ餌で勝負するため少し浮力のある0αにして道糸とハリスは直結とし、ハリは3号、ハリスは1.7号で挑んだ。水道で釣っていたが、午前11時ごろから一番反応がありそうな撒き餌がたまっているであろう南向きの釣り座に変更。後1時間半の釣りにかけることにした。
この釣り座では、はっきりと魚の反応が見られた。ウキがゆっくりと消し込まれていく。このスピードは本当にもどかしい。そして、その期待のウキは途中で止まってしまう。そこで合わせてもスバリの連続。早合わせでもはやりスバリ。一体どうすりゃいいんだ。
そのうち、撒き餌が効いてきたのか、ウキが途中でとまり更に海中の奥深くまでしもっていくようになった。そして、道糸にわずかな変化が。すかさず合わせを入れる。よしっ、喰った。慎重かつ強引に手前まで引き寄せ浮かせにかかる。ばしゃばしゃと魚が水面に現れた。期待された魚はイスズミだったがこれは大いに期待が持てた。イスズミの近くに必ずクロがいると確信できたからだ。このイスズミは大きなヒントをくれた。硫黄島ではイスズミが釣れるところで、ウキ下をやや深くしてみるとクロがよく釣れた経験が自分にはあった。すかさずウキ下を30cmほど深くして再び潮目に仕掛けを入れた。
さっきと同じく、ウキがゆっくりとしもっていく。今度もそのウキは海中奥深く沈んでいき釣り人からは見えなくなるまでになった。何かが起こるかもと道糸をややハリ気味にしながら待っていると、道糸が走った。「よしっ、来た!」やり取りが始まる。魚の引きからして、小さいサイズではない。また、このシャープな引きは外道ではない。案の定、浮いてきたのは、しっぽの白い恋人クロちゃんだったのだ。慎重に玉網を一発で決めて手前に引き寄せる。36cmのきれいなクロだった。3号バリが皮一枚かろうじてクロの唇をとらえていた。タナは2ヒロと少し、餌はアミダンゴだ。ようやくパターンをつかんだおいらは、この後、口切れと思われる数々のバラシとともに37cmの2枚のクロを追加するのが精いっぱい。回収30分前に喰わせた魚の引きが強烈だった。沖で喰わせたのにとてつもないスピードで手前にやってきて足下に強烈な突っ込み。5秒くらいでばらしてしまった。3号ハリで取れる相手ではなかった。ははは、これだから釣りはやめられないね。
このバラシを納竿の合図とし、磯場の片付けに入った。Uenoさんもここでは1匹を追加するにとどまり、悔いの残る釣りとなった。
この日は、1か所で2ケタ釣りを達成した場所があったらしいが、あとは1ケタの釣果だったらしい。「ボウズでなくてよかったバイ」uenoさんが今日の釣りの厳しさをこう表現していた。
でも、おいらは満足だった。久しぶりの釣りで中々勘がもどらなかったが、クロ釣りの醍醐味を十分に味わうことができた。クロは喰い渋るからこそ面白いのか。いや、腕が悪いからこそ面白いのではと思う。「場所じゃありませんよ。人ですよ。」HETAな釣り人ならわかりきっているセリフだ。そのセリフの内容は辛らつだが、今日はなぜかその言葉が自分には心地よく感じてしまうのだった。
さて身支度をするか
ありがとうナポレン
32cm〜37cm4枚


永福丸さんお世話になります


この日唯一の底物師 ナポレオンのハナに渡礁


もう目が見えんバイ


いかにもクロが潜んでいそうな


もちろん撒き餌はパン粉(集魚剤はいれません)


第1投で釣れたuenoさん


ようやく釣れた本命


今日はコッパが多かった


釣れんなあ


ありがとうタテビラ瀬


善吾郎はよく釣れているのかな


uenoさん、すでにあきらめモード


ここで喰いました


ようやく釣れた1尾にほっとしました


ハリをのばされました


りゅうきゅうをつくってみました


さあ帰り支度です


この日唯一の底物師


32cm〜37cm4枚


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