朝日に輝く 硫黄島
12月の22日からの3連休、おいらは職場の旅行で山口県下関市にいた。場所は、巌流島。宮本武蔵と佐々木小次郎がかつて決闘を演じたというこの島は今では観光地として、門司と下関の港からたくさんの観光客を呑みこんでいる。 毎年、この時期にやってくる憎たらしいクリスマス寒波の前兆で冷たい北風が頬をかすめていく。この風では、離島はおろか沖磯の渡礁もかなわないはず。 そんな船を見つめていたときだった。いきなり携帯がその平和な日常を切り裂いた。 携帯をみると確かにuenoさんからの着信が連続で入っている。何か重要な案件なのだろか。心配になってuenoさんに電話した。 「kamataさん、今釣具店に来とっとばってん。寝袋のよかとがあったバイ。マイナス17度でも大丈夫げな。Kamataさんの分も買っとこうかとおもうてなあ。」 このuenoさんのテンションの高さに思わずめまいがした。そんな用件で電話ですか。南極でも行くつもりですかいな。 ようやく釣りに行ける。しかも、毎年恒例の硫黄島釣行だ。今年のメンバーは、おいらにuenoさん、そして、最近硫黄島の常連になりつつある兵庫県からの刺客「風雲児」氏の3名。残念ながらゆかいな医師M中さんは当直で不参加だったが、昨年のあの楽しかったよい釣り納めのイメージが頭から離れない。 しか〜〜し、不安定な今年の年末の天気。12月の週末をことごとく時化させたポセイドンは、確実に離島の渡船業界の体力を奪ってゆく。 「kamataさん、12月に入ってねほとんど出てないんですわ。29日は多分時化だろうねえ。30日の1日釣りになるかもしれないね。」 28日に九州地方にまとまった雨が降り、その影響で29日は時化、そして、30日は凪、31日からは再び年の瀬寒波が気象庁から情報発信されていた。 28日の低気圧の勢力が思いのほか強く、東シナ海にうねりが残り、29日の波予想3mのち1.5m。30日1.5m〜3mと出た。こりゃ両日ともに釣りは無理かも。そう落胆していると、携帯が鳴った。 この船長の申し出に異を唱える釣り師は皆無だと思う。「よろしくお願いします。」少々咬みながら船長に返事をし、右手で小さくガッツポーズ。 29日の午前2時過ぎに人吉を出発。九州自動車道を南へ下り、枕崎港に着いたのが、午前5時前。年末の釣りをということで、本当なら最も釣り人が多いはずの時期だが、あまりにもさびしい港だった。止まっている自動車はわずかに4台。おいらが釣りを始めたころからすると信じられない光景だ。 戦闘服に着替えて荷物を岸壁に運ぼうとしていると、どこかで見たことのある1人の若者が登場。 兵庫県から参戦の風雲児氏であった。学生時代から磯釣りの技術を学び、卒業しても四国をホームグラウンドにして、磯釣りの研績を積み、硫黄島では57cmの尾長グレを仕留めるなどテスター並の活躍をしているアングラーである。 実は、彼はここに来るまでの道中のフェリーで滑って肘を強打。大きくはれ上がったその腕を見せてもらった。 せっかく予約がなかなか取れないフェリーで九州へ上陸を果たしながら、戦いの舞台に立つことなく帰らなければならない彼の心情は予想するに難くない。 大尾長とのバトルを夢見ていると、突然エンジン音がスローになった。いつもは、暗闇の中での渡礁となるのだが、今回は違う。さわやかな朝日に迎えられながらの渡礁だ。3mの予報に反して海は凪だった。 その後、船は西磯に向かい、双子瀬、大瀬、2番瀬と渡礁させ、最後の底物師をヒレ瀬に乗せた。いよいよ最後の我々の番だ。ヒレ瀬の奥にある硫黄島きっての上物ポイント「みゆき」に渡礁を済ませた。 うれしさをかみしめながら、撒き餌と仕掛けづくりを始めた。 竿はがま磯アテンダー2.5号−53、道糸4号にハリス3号。ウキはとりあえずがちゃがちゃしているので3Bの半遊導でタナは1ヒロ半に。タックルの準備はできた。 ウキ釣りポイントに行くためには、まず巌と巌のすき間を通らなければならない。2.5mほどある崖を降りて足下が割れ目になっているところを歩く。そして、次の関門は、潮だまりを超えて壁をよじ上ることである。 ある登山家は次のように言う。 「頂上には、何もないんですよ。登山は、頂上を目指していくものですが、実はその過程を楽しむものなんです。」 この考えには大いに共感することがあった。釣り人は、確かに数型ともによい釣果に恵まれたいと願って釣りに行く。しかし、釣りの楽しさはクーラーに入る魚の数で決まるのではない。 さあ、釣るぞ。早くもuenoさんは撒き餌もそこそこに仕掛けを入れた。このみゆきのウキ釣りポイントの釣り方は分かりやすい。ワンドになっているところにいるクロを撒き餌でおびき出して釣るだけだ。 魚は見えているのだが、中々餌に食いつかない。お互いに仕掛けを変えながら試行錯誤を繰り返した。そのうちに、朝日が高くなり、東側が永良部崎にかくれているこのポイントにも太陽の光がサンサンと差し込むようになった。 草垣群島であれ宇治群島であれ、離島では陽が高くなってくるとどうしても餌取りが活発になってくる。ここ硫黄島においても、みゆきを守る歩兵部隊が眠りから覚めて活発に活動を始めた。「うお〜〜、またイスばい。」uenoさんはこの餌取りに敬意をこめて「イス」と愛称で呼ぶ。喰わせるととりあえずギラリと光る彼らは厄介な存在だ。ハリスをザラザラにし、「ぎんぎらぎんにさりげなく〜〜〜♪」と釣り人のやる気を失わせる。今日の魚で型がいいのはクロだけではなかった。苦しみながらも何とかぶりあげてuenoさんは、「今年のイスは太かなあ」と困惑気味だ。 しかし、イスズミの活性が高いときにクロを釣ると喜びは2倍になる。イスズミも硫黄島では代表的な餌取りとしてその地位を確立していた。やはり、硫黄島にイスズミがいないと始まらない。 そうこうしていると、2mはあろうかという白くてとても魚族とは思えない生物が近づいてきた。磯釣り師のだれもが嫌うサメである。中華の食材として、また、オーストラリアでは最高の釣りのメインターゲットとして君臨しているサメだが、ここ硫黄島ではやはり嫌われ者である。黒島のそれのように、獰猛ではないが、明らかに釣り人が喰わせた魚を(もちろん魚種は問わないからイスズミでもお構いなしなのだが)ねらって、あわよくば昼食のメインディッシュとしたい意図がありありだった。 サメに喰わせてなるものか。あらたな釣りの課題が生まれ、二人とも釣り始めた。魚を喰わせる。サメが近づいてくる。それをかわす。そんなサメの餌付けショーが繰り広げられた。これも釣りの醍醐味だ。ただ、uenoさんが勝負ウキを高切れで流してしまい、サメがいるにもめげずに転落の危険もなんのその、玉網でウキを救おうと何度もトライしていた情景は、みているのはちょっとつらかった。 さて、uenoさんは、試行錯誤の結果0号の固定仕掛けで、おいらは、G2の半遊導シブシブ釣りでと二人とも本日のアタリ仕掛けを見つけ、魚からの応答もまずまずの楽しい釣りとなった。おいらが45〜35cmを10枚、uenoさんが43〜34cmを11枚だった。残念ながらサメの影響か、密かに期待していたヒラマサの来襲はなかった。 使わなかった餌を船つけにおいていて心配していたが、みゆき名物のデカカラスに少し喰われてしまったもののほとんど無事で瀬変わりの船に乗り込んだ。めざすは鵜瀬。はやる気持ちを抑えながら慎重に鵜瀬への渡礁を済ませた。 「7時半から8時にかけて、うねりでそこの低いところは被るから荷物を上にあげて、上げ潮が当たってくるからたくさん撒き餌して瀬際をねらってな。11時に迎えにきます。」 「さあ、口太はそこそこ釣ったことだし、あとは尾長だけですね。」 Uenoさんもやる気モード全開だ。数日前、マイナス17度に耐えうるコールマンのシュラフを見つけて喜んでいたuenoさんだったが、この日の天候は、低気圧がやってくる前の日ということもあって、冬とは思えないほど日中は暑かった。 尾長のタックルは、石鯛竿での宙釣りと4号や5号のウキ釣り仕掛けを二人とも用意していた。風雲児氏が置いていった餌もあるので、船長からもとくかく撒き餌をたくさんするように言われていたこともあって、夜釣りになるまでとにかく撒き餌をたっぷり続けた。午後5時を回ると暗くなってきた。Uenoさんの「もう釣ろい」の合図で夜釣りがスタート。おいらは2号の電気ウキ仕掛け。瀬際に仕掛けを入れて当たりを待った。満潮の7時半までが最大のチャンスだ。 何としても釣らなければ、もうすっかり暗くなったところでおいらに残された時間はあと4時間であった。ところが、期待された夜釣りも満潮の7時半をすぎるとイスズミやナミマツカサの活性が高くなり、どうしても本命を喰わせることができなかった。必死の形相で釣るものの、34cmの小長と37cmの口太を釣るのが精いっぱい。あっという間に、納竿前の午後10時過ぎを迎えた。「もう釣れる気せんバイ」とuenoさんは片付けに入った。おいらも後ろ髪を引かれる思いで片付けをすることに。 片付けをしていると不思議と尾長グレを手にできなかったくやしさを忘れている自分に気がついた。今年も尾長グレを手にできなかったとダメを押した今回の釣行。本気で釣ると思うならば、仕掛けのチェックを怠らないことを何度も繰り返してきた失敗の教訓としていきたいと思った。そうして、釣りの時にはそのことはもう忘れているのだ。でもそれでいいのだ。なぜなら釣りは楽しむものだからだ。魚を手にできなかったこそまた釣りに行きたくなる。釣りから帰るときもそれはもう次の釣行の過程であることを確認して回収に来た黒潮丸に乗り込んだ。 帰りの船はほとんど揺れることなく、気持ちよく眠ることができた。船長の言うとおり、港に帰ってから2時間後に雨が降り出した。そう今回の釣りをサポートしてくれた船長の計らいこそ釣りを楽しくする必須アイテムだと考えた。 今年1年、安全に楽しく釣りができたことをいろんな人に感謝をしながら、雨の高速道路を走りながら、早くも年明けの宇治群島への釣りに照準を合わせているのだった。果たして、uenoさんの勧めで買ったコールマンのシュラフを使う状況がやってくるのだろうか。そう考えるだけでも釣りは楽しくなる。来年も楽しく安全な釣りをモットーに情報発信していきたいと思う。 |
久しぶりの黒潮丸で 風雲児氏無念のリタイア 何度来てもHGはいいですね 新島から浅瀬に 西磯も波は穏やかでした 2番瀬にも1人渡礁 上げ潮になったら瀬変わりね みゆきは苦手といいながらも 巌と巌のすき間を進みます 釣り座はもうすぐです みゆき奥のウキ釣りポイント ヒレ瀬には底物師が1人 1匹目は43cmの口太 2匹目は小ぶりでした 3匹目は40オーバー 4匹目 5枚目は最大魚45cm ここが釣り座です さあ鵜瀬へレッツラゴ− 久しぶりの鵜瀬 歓迎の噴煙です 北からのうねりが激しく 一番右を釣り座に 今回もイスばかり釣りました 途中でレッドデビルがアタック あんまりうれしくなかったナンヨウカイワリ 尾長だけど小さいっす 地グロはもういいのに 気合がはいっているuenoさん ようやく喰わせたとおもったらメアジちゃん uenoさん おめでとうございます 午後11時に回収で〜〜〜す 今回の釣果 45〜34cm12枚 まだ 本格シーズンではなかったけれど 甘くておいしかった |