「残念ですが、ここであきらめますわ。迷惑かけますんで。」
風雲児氏は釣り人の熱気うずまく港で静かにしかしきっぱりと撤退することを決めた。兵庫県からフェリーを乗りついで硫黄島へ挑戦するために、この枕崎港にやってきた彼は、年末寒波の中のようやく落ち着いた天候というわずかな可能性の中での磯釣りへの執念を燃やしていた。
年末にフェリーを予約するということは、彼が予定した3日間の滞在期間すべて時化にみまわれてもとりあえず九州に上陸しなければならないことを意味している。何が彼をそうさせるのか。それは、ひとつには、ある魚の説明をしなくてはならない。
「尾長グレ」という言葉を耳にして、テンションが上がらない西日本の磯釣り師はいないだろう。クロメジナとメジナは、釣り師の間では尾長グレと口太の間に大きな認識の違いがみられる。
氷河期が終わり、大陸と陸続きだった日本列島がモンスーン気候となるころからすでにメジナとクロメジナが生きていたといわれる。
日本列島が形成された時期に、メジナは、日本海側から太平洋へと生息圏を広げ、日本列島に広く分布した。水温5度でも衰弱しない低水温に強いと同時に、温暖な海に生息するこの魚だからこそなし得たと言える。
それに対して、クロメジナは近似種ではあり、見た目もよく似ているが、メジナに比べるとより温暖な海を好み、水温10度で衰弱してしまう。そんな理由からか、太平洋側に多く生息している。釣り人以外の目からは、この2つの魚の違いが大きな違いがあるとは思えない。
では、釣り人がなぜ尾長グレに魅了されてしまうのか。それはその大型の魚を釣りあげることが、磯釣り師としての心・技・体の度量を示すステータスシンボルになるからと考える。
口太よりも眼がよく見え賢いこの魚は、まるで釣り人を翻弄するかのような動きをする。甲殻類を捕食するために形成された頑丈な歯は、釣り人のタナが正確でないならば、簡単にハリスを噛み切ってしまう。
更に、潮流の速い環境で暮らしているやつは、潮流に鍛えられた筋肉質の体を持ち、深く切れ込んだ尾ヒレは、口太とは違う圧倒的なパワーの引き味を見せてくれる。
アタリがあると手前に突っ込んできては何度も足下に突っ込む。その引きに、釣り人の脳内モルヒネのドーパミンは出しつくされ、強烈な習慣性を伴った釣り依存症へと駆り立てる。彼を仕留めるために太仕掛けで臨むものの中々太仕掛けには喰いつかない。喰わないからハリスを落とすと今度は切られる。
この釣り人のジレンマは釣り人の釣技向上と釣り具の技術革新をもたらした。いつしか、この魚を釣りあげることが釣り人の技量を量るようになってきたのだ。
ところがこの魚を昼釣りよりも簡単に釣る方法がある。それは、夜釣りでねらう方法だ。これが、風雲児氏を硫黄島へと向かわせるもう一つの理由である。
毎年、厳寒期になると、潮流の本流に乗って大型の尾長グレが九州の離島に接岸を始める。彼らの目的は産卵のためであり、群れをなして比較的浅く潮流穏やかな瀬際にやってくるのだ。その彼らを撒き餌で足止めをし、夜釣りで可能な太ハリスで釣るのだ。
硫黄島では、闇夜で12号ハリス、月夜で16号からワイヤーを使う釣り師もいる。その大型の尾長グレの第1便が接岸するのが硫黄島なのだ。この釣りができる場所が九州の離島だけということで、はるばる兵庫県から参戦するというわけだ。
何だ、それなら男女群島に行けば、いいじゃないかという話だが、3つ目の理由は、彼の性格にあると言える。三宅島、口永良部島など日本でも数少ない活火山を見ながらの磯釣りができるのがこの硫黄島だと彼は言っている。
魚釣りと火山は全く異次元の世界のようだが、彼にとってはそのコラボレーションが磯釣りの醍醐味となっているのだ。また、硫黄島に魅了された釣り人は、個性的な人が多い。
無類の釣り好きの船長。硫黄島に通って40年の匠、謎の時化男、謎の爆釣釣り師、イスズミばかりをクーラーに入れる謎の男、レジャークーラーで釣りに来るこまったさんなど、この島に魅せられこの島を愛する釣り人たちも硫黄島の釣りを彩る必須アイテムなのだ。
しかし、陸路で往復800キロ離れたこの地まで磯釣り目的でやってくる彼の思いは並々ならぬものがあったに違いない。彼の体は重度の釣り依存症に冒されもはや再起不能となっていた。その彼が釣りを断念せざるを得ないとは。さぞかし無念の思いだろう。フェリーの甲板で滑ってコケなければ。
その彼が近々リベンジに来るという。2月の3連休で硫黄島に再挑戦したいそうなのだ。1日2日釣りなら2人で釣るより3,4人で釣った方が楽しい。そこで、同じく釣り依存症にあえぐ医師M中さんに連絡をとってみることにした。
「はっ、わかりました。努力します。」
申し出を受諾したのかよくわからない回答だったが、これで3人での釣行が確定した。
そこで、問題なのは天気。2月上旬は、厳寒期とは思えない春の陽気だったが、釣行予定の週明けから最大級の寒波がやってきた。外海は大時化。8日にはようやく波も収まり、9日からの釣りには問題ないと思われていたが、黒潮丸の船長からの返答は意外なものだった。
「kamataさん、明日は時化ていることもあって出ないんですよ。10日の1日釣りにしませんか。」
後で聞いたが、9日は、5人ぎりぎりの予約だったそうで、そのうち一人は1日釣りの希望だったそうだ。1人だけを乗せて一旦10日の日帰り客のために港に帰らなければならないという航程では、商売にならない。丁度その電話の頃、こちらに向かっている風雲児さんから連絡が。
「雪のため山口付近で渋滞に巻き込まれて、9日の釣行出発には間に合いそうもない。」という連絡だった。いずれにせよ、2日釣りはできなかった。これも運命、天の神様の言うとおり。我々3人の釣り依存症は、私の自宅で合流し、10日の釣行に向けて出発した。
九州自動車道を南へ下り、枕崎港に到着したのが午前1時ごろ。港では、草垣群島行きの第八美和丸の客の自動車がならんでいた。しかし、離島の尾長グレ最盛期としてはあまりにも少ない人数。経済復興は地方にはまだまだ先の話のようだ。
港で見慣れた釣り人を発見。いつもお世話になっている黒潮塾の関ちゃんさんだ。「かまちゃん、わたしたいものがあるんだけど。」といつものようにあいさつ代わりにプレゼントをいただく。「尾長仕掛けと、ウツボ仕掛け。」
関ちゃんさんの話だと、先週の硫黄島では、かなりよい状況だったそうな。2キロクラスの尾長グレが全体で5匹。口白が出て、ヒラマサも活発に喰っていたそうだ。
ほどなく、船長がいつもの軽トラックで登場。ぶるんぶるん。黒潮丸が1週間の眠りから目覚めた。「kamataさん、ミジメも結構瀬際を流すと尾長が喰うから」と前もって3人一緒の磯でというこちらの希望を受けてくれていた。今回は初めてのミジメ瀬での尾長釣りができるようだ。
午前2時半、釣り客18人を乗せた黒潮丸は、大潮の速い潮流をものともせずに大隅海峡を突き進み、90分で予定通り硫黄島周辺に到着。始めは凪だと思ったが、硫黄島に近づくにつれて船が揺れ始め、渡礁時にはかなりのうねりになっていた。
北西風が結構吹いているではありませんか。今日はどうらや平瀬からの渡礁のようだ。今日の瀬割は、平瀬、ミジメ瀬、浅瀬、タジロというのが主な布陣のようだ。大潮でしかもこの風で平瀬で釣りができるのだろうか。
揺れる船内で自分たちの出番を心を落ち着けて待っていた。無事に平瀬に渡礁させた黒潮丸は再び速度を速め、しばらく走ってエンジンをスローに。デッキに出て状況を確認。真っ暗な中あまり見慣れないきりたった断崖が目の前に見えていた。
「ここはどこあたりね。」期待をこめてM中さんが尋ねてきた。磯の形状から2番瀬であると伝えた。2番瀬は瀬際で尾長が当たってくる。口太も同じ場所で釣れるから上物師にとっては瀬変わりしなくてもいいお得な1級ポイントだ。
そこに4人組を渡礁させて船は反転。今度は、口太の実績も高い中の瀬に2人組を渡礁。「kamataさん準備して」ここで船長から声がかかる。しばらく、船長はサーチライトをあてて波を確認している。冷たい強風が頬をかすめる中、しばらく波の振幅を味わいながら待っていた。すると、
「kamataさん、尾長釣りたい?」
という当たり前体操のような質問が。船長はどうやらミジメ瀬をあきらめたらしく、船を反転させて地磯へと向かったようだ。すぐに、この磯の名前を察した。2番瀬ほどの実績はないものの夜尾長の時期によく使われる1番瀬だ。
ゆっくり船首部分を1番瀬の下の段につける。素早く渡礁を済ませ、荷物を高台にあげた。「瀬際を流してください。クロはまた瀬変わりに来るから。」 黒潮丸は大急ぎで永良部崎方面へと走りさっていった。
さあ、尾長釣りだ。風雲児さんは早くも撒き餌を調合し、仕掛けを作り始めている。離島の1日釣りの時間は濃密だ。時間がない。時計を見ると5時前になっていた。これから夜明けの6時45分頃までとそれから1時間くらいまでが尾長グレとの勝負になる。
本日のタックルは、磯竿5号に道糸10号ハリス12号の夜尾長バージョン。風雲児さんは4号竿。M中さんは、なぜかタマン竿という夏の夜釣り用に買ったものを準備。今回が磯釣り3回目というM中さん。もともと渓流釣りの経験があり、アウトドアに通じている。準備は万全だ。ただ、経験が不足しているだけだ。
それぞれ、仕掛けを作り終えていざ戦闘開始。高台に私とM中さんが。下の段の船つけに風雲児さんが入る。夜尾長釣りはとにかく撒き餌が勝負。赤アミ1角とオキアミ1角とパン粉で調合したこの撒き餌を夜尾長釣りに使いきる作戦だ。
楽しいはずの釣りだが、夜尾長釣りの緊張感から3人とも始め全く会話がなかった。潮は、ゆっくりと右手の中の瀬方面へと流れている。こちらが一番潮上だが気にせずどかどか撒き餌した。
瀬際をねらうが、西から来るうねりで足下はサラシでもみくちゃだ。1号ウキでやっているのに、仕掛けがまったくなじまない。これでは話にならないと10号の錘をとりつけて宙釣りをすることにした。これで仕掛けもなじみ、魚のアタリも拾えるようになった。
イスズミが釣れるようになる。しかし、私の釣り座の足下には根が張り出していて、サラシや潮流の条件に気をつけていないと根がかりをやらかしてしまう。難しい釣りが続いた。「餌盗られますか。」「アタリありますか」こんな会話だけが暗闇の硫黄島に繰り広げられた。風雲児さんもイスズミを釣り、悪戦苦闘中。
午前6時を過ぎた。そろそろ夜明けが近い。いよいよゴールデンタイム突入だ。潮位が上がり、サラシがやや収まり始めたころ、道糸にプルプルっと小さいあたりが。少し送って合わせると、まずまずの手ごたえ。5号竿で強引に浮かせかかる。
大した引きじゃないな。イスズミだろう。浮かせると、意外や意外。抜きあげた魚はクロのようだった。キャップライトをあてて確認。35cmほどの口太が跳ねていた。
硫黄島のクロは潮流にもまれているからか引きが強い。尾長ではないがこれはキープとクーラーに入れた。「いいなあ。よしっ、釣るぞ。」風雲児さんはなんだ口太かと思ったと思うが、M中さんは尾長と口太のこだわりはあまり見られない。
だから、むしろこのやや残念な釣果を見て、俄然やる気になったようだ。最近購入した5Bの白く光るウキを沈める作戦に出た。後で聞いたが、私の仕掛けの様子を見てまねをしたという。
尾長釣りでは、極力光の弱い電気ウキやケミホタルで釣るのだが、M中さんのウキは冬の大三角のシリウスのように圧倒的に明るかった。これを沈め気味にするからたまったものではない。そのLEDライトは、海中を明るくてらし続けていた。
隣で釣っている釣り人の灯りをおさえた電気ウキはあまり意味をなさないように感じられた。しかたがない。磯釣り3回目なんだから。
そんな中、いきなり信じられない光景が目に飛び込んできた。白のダイワのロゴ入りウエアを着ている磯釣り3回目の男は、魚とのやり取りを始めていた。ようやく喰わせられましたね。でもどうせイスズミでしょうけど。へっぴり腰で魚の引きに耐えている。
「M中さん、早めに巻かないと潜られますよ。」
声をかけても反応が返ってこない。魚とのやり取りに夢中になっているようだ。浮かせたようだ。
すると、風雲児さんが叫ぶように「タモ、タモ」と声をかけているではありませんか。夜明けが近い状態でもはっきりわかるほどその魚はあこがれの尾長グレに似ていた。
振り上げはむずかしい模様。そこで、特に玉網かけをすることにした。暴れる魚は2キロを超えているようだ。何とか玉網に納め手元に引き寄せると、そこには、茶灰色の神々しい光を放った2キロクラスの尾長グレが収まっていた。
見事な大高、鰓蓋の黒い縁、小さく整然と並んだうろこ、切り立った尾ヒレに、愛くるしいエメラルドグリーンの瞳。産卵前の見事なお腹周り、そのどれも持ち合わせている磯釣り師の最大のステータスシンボル尾長グレが磯釣り3回目の彼の頭上に輝いたのだ。
「やりましたね。M中さん、尾長ですよ。おめでとございます。」突然のことで何が起こったのかわからないよう口数が少なくなったM中さん。「ありがとうござんす。」の返答を返すのが精いっぱいのようだ。
さあ、ここで心中おだやかでないのが、残りの2人の釣り師だ。磯釣り3回目の釣り師に尾長を先に釣られてしまうなんて。必死の形相で釣り続けるが、釣れてくるのはイスズミばかりであった。
夜が明けるころ、突然とんでもないアタリがM中さんを襲った。「すごいアタリがきたよ。」ぶち切られたハリスを見せてもらった。また、近くに尾長がいるはず、何とか喰わせるぞ。
その数分後、こちらにも待望のアタリがやってきた。そいつは、ものすごい引きで5号竿が一気にのされかかった。こら大変とすささず応戦したが、ふっと軽くなった。あれっと思うとまた魚が食いついてきた?いや初めからこいつが喰っていたのか?抜きあげると、そこに、細長い恐るべき形状をした魚がうごめいていた。コバンザメである。
なんやそれ気持ちわるっ。すると、風雲児さんがうらやましそうに。「これもらっていいですか。」えっ、もちかえるつもりだろうか。「これうまいという話なんで。」コバンザメが食べられるとは知らなかった。さすが風雲児と思うと同時に。
このポイントのこれからの運命に付いて案じてしまった。太刀打ちできない強烈なあたりの後に釣れたコバンザメ。その悪い予感は次にM中さんがイスズミをかけたことで明らかとなった。
イスズミとやり取りをしているとき、右の方から水面が盛り上がってきて、3mはあろうかという巨大なサメがイスズミに突進し始めたのである。「出た〜〜サメじゃあ。」私は悲しい声をあげてしまった。つまり、尾長グレのゴールデンタイムとサメのお食事時間とが重なってしまったわけだ。
サメの壮絶な餌付けショーを見ながら、肩を落とす我々。おそらく硫黄島で最大であろうこの餌盗りは、尾長を散らし、釣り人を落胆させたのだった。その後はイスズミと風雲児さんがサイズダウンしたコバンザメを釣るのが精いっぱい。もちろん、自分で釣ったコバンザメは彼のクーラーに納められたのは言うまでもない。
すっかり明るくなり午前8時を過ぎたので、瀬変わりの準備をすることにした。夜釣り用の仕掛けを片付け、荷物をまとめた。8時半前、黒潮丸は永良部崎方面からやってきた。
潮が上がっていたので高い段から荷物を受け渡し無事に船に乗り込んだ。その足で、西磯の状況をリサーチする。2番瀬の4人組は、10枚ほど口太が釣れているそうだ。中の瀬では本来のポイントである2番瀬との水道ではなく船着けで釣りをしていたため釣果なし。さて、どこへ行こうか。
「kamataさん、浅瀬のハナレはねえ。このうねりなら無理かもしれないよ。」
別に、浅瀬のハナレを希望しているわけではないが、船長のシュミレーションでは、硫黄島口太釣り場のベスト3の一角浅瀬のハナレに我々のだれかを乗せたかったようだ。
しかし、3人一緒となると、選択が難しい。そこで、「ミジメ瀬はどうですか。あそこなら、潮も引いているから3人で釣りができると思うけど。」ミジメは底物のポイントというイメージがあるが、上物でもいいらしい。
「どうします。ミジメ行きますか。」2人とも考えている。すると、風雲児氏が「変色域を見てみたいですねえ。」でたっ。さすがに風雲児。釣れている場所ではなく、変色域つまり活火山での磯釣りを体験したいようなのだ。
「タジロはどうですか。」「タジロは空いてるよ。シマアジ釣りたいの。あそこは最近調子がよくないけど。下げ潮も通すし行ってみようか。」この言葉のやり取りで、我々3人は釣果よりも3人で楽しく活火山のもとでの磯釣り体験という目的のためタジロに直行することにしたのだった。
永良部崎を過ぎると、島では3000年前に活動を休止した緑色をした小さな稲村岳が立ち、その後ろに山肌から絶えず煙をあげている勇壮な硫黄岳が鎮座していた。
標高707mのこの山は喜界カルデラの北壁を成しており、現在も絶えず活動を続けている。山から噴出される亜硫酸ガスは、酢の雨を降らせ農作物に被害をもたらしているそうだ。そんなことからこの島は古くは平安時代から記述がみられ、流刑地として歴史上に登場している。
活発な火山活動から出る硫黄のために周囲の海底が変色する現象がみられ、その色から「黄海ヶ島」と言われそれが鬼界ヶ島となったといわれている。その硫黄岳の南東側の足下の硫黄壁からせり出しているタジロは、青物の1級ポイントである。
特に、冬期のシマアジの魚影の濃さは特筆すべきものがある。変色域の濁りと温泉地特有の安定した水温で、魚の種類が豊富である。硫黄島全体に冷水魂が入ってもここだけは魚が釣れたということもあった。
しかし、クロ釣り場としては、あまり期待しない方がいいだろう。過去何度もタジロを訪れ、話を聞いてきたが、ここでクロの大釣りがあったという情報はほとんどなかった。クロよりもまず、このまわりで護衛している大量のイスズミが先に餌を食べてしまうと思われる。
さて、タジロに着いて、3人での楽しい釣りが再開した。この場所が初めての2人に、タジロのポイントを解説。どんな潮の時釣れたのか経験を交えて話した。こんな解説をしているときは大抵自分は釣れないものだ。
ここで釣りをしていい思いをして経験が固定概念として釣りの引き出しに鍵をかけてしまうからだ。釣り始めたから、ずっとアタリ潮が続いた。確か大潮でここに乗った時ことごとくアタリ潮になっていたことを思い出した。しまった。浅
瀬のハナレかミジメ瀬にすればよかったか。アタリ潮だとシマアジを撒き餌で呼ぶのは難しい。3人ともいやというほどイスズミの波状攻撃にさらされ続けた。実は船長から渡礁の時、「イスズミ釣ったらもって帰りたいという人がいるからリリースしないでもって帰ってきて。」という魚の注文を受けてけていたのだった。
どうやら、今回はあの謎のイスズミ師がいるらしい。しかし、釣っても釣ってもイスズミのサイズが大きくならず、リリースを繰り返した。
それにしても、どうなっているのだろう。期待の下げ潮なのに、潮は相変わらず手前にあたってくる。仕掛けを遠投しても見る見るうちに足下に戻ってきた。
中盤から私の方に潮が正面から当たってきて左右に分かれる潮になった。そこから、M中さんが突然アタリをとらえ始め出した。2回ばらした後に、釣りあげた魚は60オーバーのヒラゴだった。慎重に玉網ですくう。
再び、磯釣り3回目のM中さんに先攻されるという苦しいスタートだった。潮が手前にアタリ、シズミ瀬が左側にある関係で餌がそこにたまりやすく、そのポイントに入ったM中さんが次々にあたりをとらえるのだった。
しばらくすると、風雲児氏がぽつぽつあたりを拾い始めた。まずは、35cmほどの尾長グレを釣りあげる。アタリ潮ということで、瀬際をねらい続けて釣れるパターンを見つけたようだ。その後に、手の平のシマアジ、口太、ナンヨウカイワリと釣る。もちろんイスズミもたくさん釣ったが。
納竿前に、M中さんがクロを釣り、最後にはサプライズの40弱のサンバソウを釣って大満足の納竿となった。おいらは、相変わらず、最後までシマアジにこだわり続け、釣れたのはイスズミのみ。最後に、M中さんが釣っているポイントに仕掛けを入れさせてもらい何とか口太を釣るという情けない納竿となった。硫黄島での釣り経験にものを言わせて2人を案内したが、見事に弟子のM中さんから下剋上を喰らうことになってしまったのだった。
しかし、釣果としては惨敗だったが、みんなで楽しく釣りができてよかった。また、磯釣り3回目のM中さんが、喜んでくれたし、風雲児氏も念願の変色域を見ることができてよかった。帰りの船ではかなりの時化気味で船が減速を余儀なくされていたが、3mくらいの波と思われる揺れも心地よく感じるのだった。
今日は、あまり良くなかったらしく、洞窟で20枚釣ったのが竿頭。2番瀬では4人で20枚。尾長グレはM中さんのが唯一の釣果だった。
「まあ魚もバラエティーにとんでよかったね。サメが来たのは残念やったねえ。尾長は群れで来る(回遊する)からね、尾長が釣れたら、すぐにだれかが撒き餌して魚を足止めにしないとつれなくなるからね。」
船長からこうねぎらいとアドバイスをいただいた。これはいい話を聞いたと思うが、おそらく次の尾長釣りの時には、そのことは忘れているだろうなと考えながら、3人で冬とは思えない穏やかな枕崎港を後にするのだった。
風雲児さん、お疲れさまでした。また、これにこりずに硫黄島で釣りをしましょう。そして、ぜひコバンザメの味を紹介してくださいね。
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