7/14 シブダイは寝て待て 鹿児島県伊座敷



鹿児島県 伊座敷 シビ瀬のシブダイ釣り

シブダイは寝て待て

 

今年もこの時期がやってきた。7月の海の日を含めた3連休が。

 

硫黄島では、シブダイの群れが本格的に瀬につく時期。南九州の磯では、シブダイの声が聞こえ始める時期。そして、未だ憧憬でしかないトカラ列島では、6kgを超える青シブ(ナミフエダイ)が乱舞するという。さあ、この7月最大のイベントをスルーすることはないだろう。この日のために、激務の中仕事のやりくりをして釣行日に臨んだ。

 

さて、今回の行き先は昨年良い思いをした鹿児島県大隅半島伊座敷。かご釣りでもフカセ釣りでもシブダイの引きを味わわせてくれたこのポテンシャルは、わが脳にはっきりと好印象を記憶させた。

 

伊座敷では、魚種が豊富で、シブダイだけでなく、もうひとつのメインターゲットである旬のイサキや、オオモンハタ、クロ、尾長、真鯛、タバメ、青物と多種多様な魚が竿を絞り込んでくれる。さらに、かご釣りができる場所としても申し分ない。

 

あの妖艶にうごめくウキが一気に消し込み、やりとりに入る豪快な釣りは、かご釣りをやったことのある人ならその面白さがわかるはず。この麻薬のような醍醐味を味わったM中さんもかご釣りにハマった一人だ。

 

例年より早い梅雨明けから、地球温暖化を心配するような灼熱の晴天が1週間ほど続いた3連休。ポセイドンから釣行許可を得た。数日間吹いていた謎の時化も収まった。伊座敷の磯に誘う海希丸さんに当日の朝8時に連絡をとる。

 

「出ます。2時半に来てください。」

 

M中さんと自宅で9時半に待ち合わせ、荷物を載せていざ鹿児島県大隅半島へ。

 

九州自動車道を南へ下り、加治木JCTで東へ。隼人東ICで一旦一般道へ降りて永友釣り具で買い物を。

オキアミ生3角、ボイル1角、夜釣りに抜群の効果がある赤アミ半角をゲット。

 

さらに、高速道路を経て鹿屋へ、そこから1時間半で伊座敷漁港へ到着したのが午後2時を回ったところだった。

 

車から降りるとねっとりとした湿気を含んだ熱風に包まれた。汗が次々に噴き出てくる。岸壁はコンクリートだから、まるでフライパンの上にいるようだ。出航時間が近づいているだけに急いで荷物を渡船近くに運ぶ。

 

本日の釣り人は、自分たちを含めて4組。「あまり多くないよ」と船長が行っていたとおりだ。それに、今回は1週間前の予約でもう人気瀬は空いていないと諦めていたが、前回よい思いをさせてもらったシビ瀬が空いていたという幸運も。

 

しかし、一番釣り人が多いと思われた時期に、この少ない人数は一体どう考えたらいいのだろう。そんな不安材料も釣りの期待を高めるスパイスとなっているから不思議だ。

 

「ぶるん、ぶるん」

 

エンジンが始動。海希丸はゆっくりと港を離れ、ゆっくりと沖へと向かった。堤防の隣にあるまるでプライベートビーチのような小さな砂浜にいる子どもたちに見送られ外海へ。ここはいわゆる錦江湾口と呼ばれる地点だが、海の色は黒潮の影響を受けた色をしている。

 

沖へ出るとねっとりした空気がそよ風に変わった。左を見ると大隅半島西岸の断崖が続いている。今日は春のような霞空で、対岸の薩摩半島は開聞岳がぼんやりと見える程度。

 

しばらく走ると、前方にやや鋭角的な形をした磯群が見えてきた。夜釣りの目印として、釣り人から信頼されている立目崎灯台も見えてきた。久しぶりの沖磯。何度訪れても渡礁はドキドキするものだ。船の後部座席の板を強く握りしめそのときを待った。やがて、エンジンがスローに。

 

kamataさん」

 

一番初めに名前が呼ばれた。そうだった。ぼくらはシビ瀬を予約してたっけ。前回良い思いをしたシビ瀬南向きと思いきや、予想に反して船はその反対側に着けた。

 

不規則に階段状になった狭い磯場に飛び移る。荷物を受け取る。同時に荷物をおけるところを探して置く。

 

そうだ、ここは初めての場所だ。情報を得なくては。船長に合図を送る。

 

「ポイントは?」

 

「船着けとその上の方ね。裏もいいよ。シブが来る。」

 

と、船長はぶっきらぼうに言い残すと、次なる渡礁場所へ船を反転させた。

 

とにかく、荷物を高い位置に上げなくては。M中さんと2人でヒイヒイ言いながら、すべての荷物を裏の安全な場所に運んだ。

 

気温34度。肌にまとわりつくような湿気が、熱中症の危険を高めている。吹き出してくる汗を拭い水分を補給。その後、磯の全体像をつかむ作業に入った。

 

裏側のポイントは、正面に地磯が見える。根が点在していそうで、いかにも魚影が濃い感じがする。しかし、足場が不安定。

 

反対側の斜面を上っていくと、頂上は平らになっていた。ピトンを打った跡がある。ここなら沖向きでも地磯向きでも釣りができる。ということは上げ下げどちらでも対応できるポイントと言えるだろう。一目してここが本命釣り場であることが分かった。

 

しかし、「シブが来る。」、の言葉が、体を支配し始め、思わず裏の足場が不安定な場所にピトンを打ってしまった。M中さんは、本命ポイントでの竿出しのようだ。

 

本日のタックル。竿は、ダイワメガドライ遠投4号-53。4000番のリールに道糸8号を。ウキは15号の遠投ウキ。仕掛けは12号のおもり付きの天秤かごにハリス8号で1ヒロ半。鉤はシブダイでもイサキでも対応できるタイ鉤12号、ヒラマサ11号をチョイス。

 

「魚がいっぱいいるね。なんやろ、あれ。石鯛の子?」

 

M中さんが大きな声で注意喚起。観るとおびただしい数のオヤビッチャ軍団がいた。7月中旬のこの時期なら、この餌取りの状況もよくわかる。魚が何にも見えないという最悪の状況ではなさそう。

 

仕掛けをセットすると、水深を測る作業に入った。大体どこも竿2本というところだ。かご釣りの準備はできた。

 

次はフカセタックルだ。がま磯アテンダー2.5号―53。道糸6号にハリス8号。1.5号の電気ウキ。さて試しにフカセ釣りでもやるとするか。さすがに、昼釣りでハリス8号はないだろうと、2号ハリスを結んだ。遊び釣りでクロでもつれたら良いなという気軽な気持ちだった。

 

「何かおるよ。青物かも。60cmくらい。」

 

スルスルスルー釣りに興じていたM中さんから突然こんな情報をもらった。

 

確かに、さっきからベイトが水面をばしゃばしゃさせていたっけ。青物がいるならキビナゴだね。フカセ竿を持ち出しキビナゴつけて投入。おっ、いるいる。尻尾の黄色い輩が。単独行動のようだ。見たところヤズらしい。

 

しかし、ここで私は重大なミスを犯していた。ハリス2号のままだったのだ。これじゃ青物とれるわけないっす。

 

「バチッ」

 

ほら、いわんこっちゃない。謎の青物はキビナゴに食いついたものの、一気に針ごと持って行ってしまった。

 

その後、ルアーを投げたりしたが反応がなく、青物の時合いは終わりを告げた。キビナゴに反応するくらいだから、イワシカラーでないとだめなのかな。

 

青物の反応がなくなったので、かご釣りの試し釣りを始めた。今夜は闇夜の大潮。上げ潮の時間帯だが、潮は下げの方向につまり立目崎灯台方面へと流れている。

 

仕掛けを何度か投げて気づいたことがあった。それは、釣り座から正面向きにやや流れが緩くなる地点があるということだ。あそこは何か変化のある場所ではないかという仮説が浮かび上がった。

 

案の定、その地点でベラ、オコゼなどの根魚が釣れた。やはりその正面向きの地点に根があるようだ。つまり、シブダイのポイントではないかと考えられる。もう一つ気になったのは、足下の左側のワンド。ここはフカセ釣りで狙うことにしよう。

 

ようやくしのぎやすくなってきた。時計を見ると、午後7時を回ったところだった。明るいうちに食事を取っておこうと、ソーメンとバナナの軽い食事をとった。人間の餌はこれだけだが、魚の餌は、オキアミ生、オキアミボイル、赤アミの豪華なラインナップだ。

 

食事後、午後7時半になり薄暗くなったので、ケミホタルを装着し、第1投。仕掛けがなじんだところで正面の根に到達するようにねらった。

 

相変わらず、上げ潮なのに右へと流れていく。潮がごいごい流れていく。魚が食らいつくとは思えない速さだ。この潮じゃ釣れないね。45投したところで竿を休ませた。

 

潮が緩くなってから仕掛けを入れるか。いやいやそれじゃ時間がもったいない。えいっやあと仕掛けを投げた。1回しゃくって餌を出し、道糸を張り気味にしてアタリを待つ。いつ消えるかもしれないウキを見つめるドキドキ感はこの釣りをしたことのない人には分からないだろう。

 

あれっ、潮が緩くなっているぞ。そう感じたときだった。ゆらゆらと漂っていた緑色の灯火が突然視界から消えた。道糸が走った。竿を反射的に立ててやりとりが始まった。

 

まずまずの手応え。本命では。第1関門である底を切ることに成功。取れた!そう確信して全力でゴリ巻きする。

 

途中で魚の引きが弱くなった。何が釣れたかな。期待を込めて抜き上げた。磯のくぼみの水たまりに落ちた魚にキャップライトを当てる。緊張の瞬間。

 

なんとそこには、意外な魚40cm級の本命シブダイがいたのだ。狙って中々釣れないこともあるが、釣れるときはなんとあっさり釣れるものなのだろう。まだ、少し明るい時間帯にもかかわらず釣れたこの1尾は、釣り人の心をポジティヴにしてくれた。

 

仮説を立てて実行したら、仮説通りに結果が出た。その喜びは言葉にできないほどうれしいものだ。

 

数投目にして今回のパターンを見つけたのは大きい。更なる獲物を求めて同じところを攻める。すると、またウキが視界から消えた。竿を立ててやつの疾走を止める。さっきと同じようなアタリだ。シブダイを確信。ゴリ巻き体制に入った。

 

ところが、残念ながらふうっと竿が軽くなってしまっていた。ハリ外れだった。せっかく喰わせたのに。こんなことばかりやっていると、チャンスを逃してしまうぞ。やはり同じところを攻める。

 

またまたウキが視界から消えた。これで3連チャン。今度は取るぞ。あれっ、今度はあまり引かないな。あがっていた魚は40cmクラスのイサキ。イサキは本命の一つだからほっとした。

 

イサキを釣った時はもう陽はどっぷりと暮れていた。イサキの登場で本格的な夜釣りが始まった気がした。時期的にイサキの群れが瀬に付く時期だ。これからイサキの連発が始まるかもしれない。

 

再びウキが消し込んだ。軽い。今度もイサキだろうと思いきや、抜き揚げた魚はシブダイ30cmを少し超えたサイズ。

 

シブダイと思ったらイサキ。イサキと思ったらシブダイ。気まぐれな魚たちの訪問に困惑気味だが、魚からの反応があるのはうれしいものだ。

 

2発ほどとんでもないアタリがあり、2発目では魚に根に入られた。10分間ほど格闘したが、魚に逃げられてしまっていた。根の向こう側で喰わせたが、やはり取り込むには高度な技術が必要のよう。

 

仕掛けを作り直して、再びシブダイ・イサキを求めて幸せのロケットを飛ばす。また、あの根の周辺でウキが消し込んだ。

 

今度は、いつまでも抵抗するね。引くなあ、こりゃシブやイサキじゃないな。抜き上げると、鯛系の魚体のシルエットが見えた。やりい~、真鯛だ。どうりで竿をたたくはずだ。しかし、キャップライト当ててずっこけた。し、し、白い。それは真鯛ではなく、1.5kgのへダイだったのだ。

 

君はだれだい!へダイ!こんなだじゃれを思わず言ってしまうほど、この魚の登場で力が抜けてしまった。ブロ友さんにSNSで尋ねると、フライや天ぷらでおいしいとのこと。刺身でもいけるようなのでキープすることにした。

 

へダイを釣った直後、また、同じようなアタリが。竿をたたくので、またへダイだろうと思い抜き上げると、今度はタバメ(ハマフエフキ)の2kg弱がお目見え。今日は、不思議なことに悉く予想とは違う魚が釣れるものだ。シビ瀬はこの裏側も大変魚影が濃いことがわかった。

 

更なる獲物を求めて、縄文人と化した姿で釣りを続けたが、このタバメを最後に魚からの交信は途絶えてしまった。潮が激流に変わり、釣りにならない時間帯がやってきた。

 

ここは無理せずにお食事タイムかな。

 

M中さん、飯にしましょう」

 

M中さんは、魚との交信を求めて頑張っているものの、まだ魚のアタリすらない状態が続いていた。そこのポイントなら、この潮じゃ沖向きの水道で釣るしかないが、魚の反応が感じられないようだ。

 

今夜のメニューはカップラーメンとウインナーのソテー。やはりこれも冷たいビールで流し込んだ。磯で食べる食べ物はなんでもうまい。いつのまにか我々は椎名誠のあやしい探検隊と化していた。

 

食事を終えて釣りに戻ったが、今度は潮が緩くなったものの魚からの返信は全く途絶えてしまった。アタリが遠のくと反作用的に睡魔が襲ってくる。人間の3大欲求である睡眠欲には勝てない。また、翌日に古楽アンサンブルの練習を控えている者としては、ここは帰りの安全運転のために睡眠欲を優先しよう。仮眠を取ってからでもシブダイは釣れないことはないはずだ。「シブダイは寝て待て」の心境だ。

 

午後11時半頃、M中さんの釣り座方面に移動し、天然の磯ベッドで波の音を子守歌にいつの間にか深い眠りについていた。M中さんもその後眠りについたようだ。

 

深い眠りから覚め、携帯の時間をみると、2時半を指していた。干潮を迎える頃だ。今日はずっと下げの片潮だった。上げ潮に期待しよう。

 

最後のオキアミ生を取り出して、餌を作り直し、3時頃再び竿を握った。潮はやはり右方向に動いている。1時間ほど何もない時間が続いた。午前4時頃餌がとられ出した。タナをこまめに調整して投げた仕掛けについに魚が食いついた。

 

強烈な引きだが、4号竿の力にモノを言わせ抜き上げる。また、へダイだ。外道だが魚からの久しぶりの反応はうれしいもの。この次のアタリは30cmクラスのシブダイだ。夜明けまであと1時間と少し。朝まず目はシブダイ釣りの絶好のチャンスだ。

 

M中さん、こっち来て釣りませんか」

 

潮が引いているので、おいらの釣り座の右が空いている。ようやく眠りから覚めたM中さん。今までアタリすらないM中さんになんとか釣ってもらおう。

 

ここで、今回初めてのことが起きた。潮が本命の上げ潮の方向に流れ出したのだ。この潮だ。最初にアタリはイチノジだったが、次にへダイをゲット。今度こそシブダイと力を込めたところで、M中さんに待望のアタリが。

 

M中さん、巻いて巻いて。」

 

釣りをやめて思わず応援する自分がいた。M中さんがかけた魚を抜き上げた。ライトを当てたその先に42cmクラスのシブダイがはねていた。

 

「おめでとうございます。」

 

「ありがとうござんす」

 

M中さん、もってる。最後の最後に本命を釣るなんて。釣りは最後まで諦めてはいけないね。やっぱり、「シブダイは寝て待て」だね。

 

夜が明けてしまい、最後に黒点と言われやや外道的な扱いを受けているクロホシフエダイを釣って納竿することにした。

 

水平線を彩るオレンジ色のグラデーションを堪能しながら、朝の爽やかな空気を全身に浴び、この時期の貴重な夜明けの時間を楽しんだ。

 

回収の船がやってきた。

 

「どうでしたか。」

 

「シブが4枚。あとはぽつぽつでした」

 

「シブが釣れた?よかなあ。こっちはサバがわいてどうにもならんだったよ。最後に良い潮が来たけどね。」

 

この会話からわかるように、今日は、瀬ムラがあり、場所によってはサバが居着いて釣りにならなかったようだ。

 

こんな状況でシブダイは「寝て待っていました」とは言えず、シブダイは正面の根で喰いましたよ。(シブダイは根で待て)と言うほかなかったのだった。

 

夜釣り明けの朝はなんとも言えない清々しさ。釣れても釣れなくてもこの素晴らしい朝を体験するために、しばらくこの時期は夜釣りに没頭しよう。そう考えながら、伊座敷港を後にした。






気温35℃ 伊座敷漁港





土日なのに お客さん少なかったです










前回と反対側のシビ瀬に渡礁






M中さん一番上の釣り座で勝負するようです





いよいよ夜釣りスタート




夜釣りにはいっていきなり釣れちゃいました






うれしいおみやげ イサキ


















へダイがわいておりました






磯で食べるカップ麺はなぜかうまい



























クロホシフエダイ



















楽しかった釣りもあっという間に終了





ありがとう シビ瀬





今回の釣果


へダイのニラ天


へダイとタバメの刺身





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