2/23 秋の海に産卵期のクロ 鹿児島県内之浦



鹿児島県内之浦青瀬のクロ釣り

秋のような海に産卵期のクロ釣り~内之浦釣行記~

 

「もう釣れる気がせんバイ。弁当はもう喰ってしもうた。」

 

Uenoさんが力なくつぶやいた。

 

ボクらは、鹿児島県大隅半島内之浦の磯に立っていた。ここに来るまで渡船で45分は走らなければならなかった。左は東シナ海の水平線。船の進行方向から右は、大隅半島独特の断崖が果てしなく続いている。その断崖の上部には、岩肌にしがみつくようにソテツが自生している。時折、V字谷になっているところからは、ちょろちょろと小さな滝がのぞいている。大理石を主な成分とする白い巌は、海のコバルトブルーとのコントラストが清々しい。釣り人のボクと師匠uenoさん、そして、医師M中さんの3人は、この時期上物でかなり実績のある「青瀬の地」という地磯にいた。

 

確かに実績のあるポイントらしくいい雰囲気は伝わるし、潮色も悪くない。しかし、年明けからこの磯だけでなく、内之浦の磯では、木っ端グロが磯を取り囲み、上物師は厳しい釣りを強いられていた。木っ端グロの活性の高さは、uenoさんに午前9時には弁当を食べさせたのだった。

 

2月23日、我々は甑島への釣りに照準を合わせていたが、21日に吹いた春一番は安定した天候のバイオリズムを狂わせた。22日は春一番のあとの時化に船止め。我々は、23日には海況は安定すると考えていた。

 

kamataさん、船長がやめたほうがいいって。風が強くて釣り大会のもんだけは乗せていくけど、それでも引き返すかもしれんげなで。」

 

と、uenoさんが、ため息交じりに甑島への挑戦がなくなったことをボクに伝えた。最近、ようやく渡りグロが確認されたのか、クロの釣果が上向きな甑島の各磯。白子を伴ったクロを数釣りできる状況になってきたかと喜んでいた矢先であった。

 

さあ、ぼやぼやしていられない。釣りに行く場所を探さなくてはいけない。24日も休みだが、この場に及んでは、好調の甑島に渡船の空きがあるとは思えない。(何せ1週間前に予約しようとしたがすでに満船だったという話を聞いた)かといって、風裏になる大分・宮崎側の磯つまり門川、北浦、米水津、鶴見などに目を向けても、今までの経験ではこんな滑り止めで向かった磯でよい思いをしたことは正直言ってなかった。こういうのをジレンマというのだろう。

 

ここで師匠uenoさんが意外な提案をし始めた。

 

kamataさん、内之浦はどがんやろか。風裏になるけん、船は出ると思うよ。」

 

内之浦は、鹿児島県大隅半島の一番東側の釣り場である。何年か前、uenoさんとともにここを訪れたが、11月ということもあり、釣れる魚は木っ端グロばかりだったと記憶している。

 

「前、内之浦で釣りしたら、8枚くらい釣ったったいなあ」

 

もう、uenoさんの魂胆は分かっている。Uenoさんの釣り場選びは、以前よい思いをしたところが中心である。鹿児島県三島村の離島竹島に数年通ったことがあった。尾長グレは釣れなかったが、良型のクロが瀬際でよく釣れたし、アカジョウも良型のイサキも釣れた。自分にとってはうれしい釣り場なのだが、そこでよい思いをしたことのないuenoさんは竹島に行くことに対してあまり気が進まないようだった。Uenoさんの海馬の記録は、新しい好釣果の情報を遮断してしまう傾向があるようだ。

 

「内之浦が空いとればよかなあ。空いとらんときは、美々津(宮崎県北)のアジ釣りに行こい!」

 

今シーズンの大隅半島は、船間、内之浦とあまりぱっとしない状況が続いていたので気が進まない。しかし、師匠の言葉は絶対だ。しかたない。ここは先輩の意に従おう。しばらくすると、

 

kamataさん、空いとったばい。五時半集合げな。」

 

と、上ずった声で連絡してくれた。よかった。良い釣りはできないかもしれないが、クロ釣りに行けることは間違いない。ありがたいことだ。

 

午前1時前にueno宅集合。八代からやってきたM中さんと自分を乗せたueno号は、九州自動車道を南へ下り、内之浦港に着いたのが、30分前。早くもたくさんの釣り人で港はごった返していた。お世話になる由佳丸は、それほど大きくない船だが、全員乗るのだろうか。

 

ぶるん、ぶるるん。

 

エンジンに火が灯され、荷物運びが始まった。

 

「おはようございます。クロはどがんですかね。」

 

「う~ん、調子悪いね。」

 

がくっと膝が折れる我々。いや、この船長正直でなかなかいいと思った。もう、くわしく何がどう調子悪いのか聞き出す気にもならなかった。

 

船は薄暗い港を離れ、湾内を沖へと走り始めた。まだ昨日からのうねりが残っており、船は慎重に沖へと進んでいる。大量の荷物と人だなあ。何人の客が乗っているのだろう。船床にへばりつきながら身を寄せ合って釣り人たちは目的地を目指した。

 

「〇〇さん、右におってやあ」

 

今日は満船の20人の釣り人を乗せた由佳丸は、若干うねりに翻弄されながら、左右のバランスに注意して東シナ海の海原に飛び出した。

 

灯台のある岬を回ると、いよいよ広大な大理石の巨像が現れ始めた。離島の雰囲気がムンムンするこの地で、釣り人は夢舞台へ駆け上がるのである。頭の中は、ワグナーの楽劇「さまよえるオランダ人」前奏曲が響いている。おそらくここからが釣り人が縄文人になる瞬間なんだろう。

 

「〇〇さ~~ん」

 

早くも最初の渡礁が始まった。うねりで成長した白波は、まるで生き物のように船の操縦を困難にさせた。門川や北浦のように、初めの磯は瀬割りであとは自由競争というボートレースのような鬼気迫る雰囲気はなかったが、比較的ゆっくりした渡礁にもかかわらず、釣り人にとってこの白波はやっかいな存在となっていた。

 

1組また1組と渡礁が速やかに進んでいる。ここの磯群は、「〇番」と番号で呼ばれていることが多い。

 

uenoさん」

 

ようやく我々の番になった。ロケット発射台が見える場所の手前の大きな地磯にサーチライトが当てられた。どうらや3人一緒の磯のようである。

 

無事に渡礁を済ませ、船長からのアドバイスを待った。

 

「奥の方で。船着けもいいよ。回収は3時ね。」

 

この磯は、地中深いところで冷え固まった大理石でできているが、地殻変動の際、斜めに傾いたようで、ところどころに水たまりができている。まずは、磯の全体像をつかむ作業に入った。

 

「おら、ここにすっでえ」

 

Uenoさんが、早くも本命とみられる奥の比較的高くなった平らな部分にバッカンを置いた。M中さんは、船付けのとなりに釣り座をゲット。自分は、とりあえずuenoさんの隣の斜めに傾いた釣り座で始めることにした。

 

本日のタックルは、竿ががま磯アテンダー1.253。道糸1.75号にハリス1.75号を2ヒロ。ウキはジャイロ0α号の全遊動仕掛け。針は、ひねくれぐれ4号ストレートを結ぶ。撒き餌は、パン粉2kg、集魚材1袋にオキアミ生1角を自宅で混ぜてきていた。

 

午前7時過ぎ、いよいよ第1投。ジャイロが紫紺の海に突き刺さる。数投試してみたが、どうもしっくりこない。この釣り座は手前に低い瀬(たぶん青瀬のハナレ?)があり、ポイントが限られてしまうことと、沖に流すにはuenoさんの仕掛けが邪魔になってしまうことが気になった。また、しばらくすると、

 

「こらアタリ潮ばい。釣りにならん」

 

uenoさんの嘆き節が始まっていた。大潮の初日、満潮は午前6時半頃。潮は下げに入ったところだが、石鯛によさそうな強烈なアタリ潮で瀬際を狙うしかない状況だった。

 

開始15分で釣り座の変更をすることにした。次の釣り座は、船着けに。Uenoさんは、おそらく潮がアタリ潮でなくなる潮変わりを待つ作戦のよう。自分は、せっかちなので潮変わりは待ってられない。少々足場は悪いが船長の言葉を信じ、船付けで勝負することにした。

 

釣り座を変更してみたが、非常に釣りにくい状況だった。右手にある浅い瀬にうねりでがっぱーんとサラシがやってくる。右の瀬の横に走っている海溝にねらいを定めても仕掛けがどか波で持って行かれる。しかも、潮が沖から当たってくるため左の地磯の壁に仕掛けが寄ってしまう。魚からの応答がないことから、その磯壁には魚はいないようだ。Uenoさんが嘆くのも分かる気がする。

 

さらに、悪いことに、

 

「でたあああ」

 

「また、こいつか」

 

「ちいさい!」

 

3人とも釣っても釣っても釣れてくるのは尾長の木っ端ばかり。そう言えば、さっきバケツに汲んだ水が生暖かかったっけ。どうやら我々3人は、木っ端グロに取り囲まれてしまったようだ。本来ならば、産卵期に入った食い渋りのクロ釣りになるはずだが、水温など様々な条件から海は秋磯のままのようだ。

 

まあ、そのうち本命は喰ってくるさ。焦りながらも気持ちを落ち着けて釣り続けるものの2時間たっても3時間経っても結果は同じだった。サラシと波で仕掛けが持って行かれるため遠投したり、超遠投してみたり、瀬際をやってみたりしてみたが、結果はやはり同じ。

 

「もう釣れる気がせんバイ。弁当はもう喰ってしもうた。」

 

Uenoさんも打開策のない状況にその場にへたり込んでしまった。

 

秋磯のような海に産卵期のクロ。こんな展開は全く予想していなかったし、自分たちには難しすぎる。あっという間に11時半の干潮を迎えてしまった。そのうち、一番感度がよいはずの環付きウキ仕掛けを使っているにもかかわらず、木っ端グロのアタリさえもなくなってしまった。

 

バナナを頬張りながら打開策を考える。何か策があるはずだ。さっき釣っていたポイントを見つめる。干潮から上げ潮の時間帯になって潮位が低くなり、海の底の形状があらわになってきた。さっきから気になっている右手前の根の横に走っている海溝がくっきり見えている。きっと、ここに魚がいるはずだ。

 

うねりや風が弱まり、どっかーんと白波もあまりやってこなくなってきた。錘を打たなくても仕掛けが入るようになってきたぞ。さらには、餌が囓られるようになってきた。もしかして、本命の口太かも。何となく魚の気配を感じることができるようになってきた。あのポイントが狙えるようなのでハリスを1.5号に落とし、右の根の際へ仕掛けを入れて流してみた。

 

仕掛けが馴染むと、ウキが少しずつシモっていくように調整。しばらくウキが水面からかろうじて視認できる状態で道糸の変化に細心の注意を払いながら魚のアタリを待つ。午前中ならウキはみるみるうちに左へ流されてしまうところだが、ウキはまだ海溝付近の真上を漂っている。上げ潮になって潮が落ち着いたようだ。

 

そのとき、道糸に変化が見られた気がした。竿先をあげてきいてみる。

 

ぐぐっ、ギューン。

 

反射的に竿を立てて応戦。喰った、喰った。魚が喰った。シャープな引きとこの左手の手応えから口太グロを確信。しかもさっきまでの木っ端とはサイズが違う。やつは一気に手前にやってきた。そして左の張り出し根に一直線。強引に竿を倒して応戦。やがて、尻尾の白い愛くるしい魚体がぬうっと現れた。

 

「よっしゃあ、クロや」

 

興奮して思わず関西人でもないのに最後に「や」を付けてしまった。玉網を慎重にかけて手元に引き寄せる。35cmくらいの体高のあるメスの魚体だった。

 

kamataさん、よう釣ったな」

 

Uenoさんからすかさず賞賛の声が。こんなにうれしい1尾は久しぶり。甑島で10匹釣るよりうれしい気持ちだ。思わず右手でガッツポーズをしてしまった。エメラルドグリーンの瞳を持つ恋人を優しく締めて血抜きをする。あんなに重苦しい雰囲気が磯に蔓延していたのだが、この1尾がその靄を一掃してくれた。時計を見ると午後1時半。納竿1時間前の出来事だった。上を見上げると見事な青空が広がっていた。

 

この1尾で磯は一瞬活気付いたが、それはほんのひとときで、その後はまたいつものどんよりとした雰囲気が磯を支配した。魚の活性の低さは、3人に魚の干し物を作らせることになった。

 

船は、3時納竿のはずなのに30分早く迎えにやってきた。船長はuenoさん以上にせっかちなようである。

 

回収の船に乗り込み、釣り人の回収を手伝ったり、情景を楽しんだりしながら、内之浦のクルーズを楽しんだ。そうやって、釣り人たちはだんだんと縄文人から現代人に戻っていった。

 

港に帰って、釣況を聞いてみたが、何カ所で石鯛のよいサイズが釣れていた以外は、あまりぱっとしないようだった。特に、上物はこのところ厳しい釣果が続いていて、どこも木っ端グロに悩まされたとのこと。

 

秋のような海に産卵期のクロという難しい釣りとなった今回の釣行。たくさん釣ることよりも、釣れないときの1匹の方がはるかに面白いということを改めて感じさせてもらった。その内之浦の海に感謝しつつも、あの磯でもう一度勝負したいと強く願いながら季節外れの穏やかな2月の内之浦を後にするのだった。



















由佳丸さん お世話になります































こら ここで すっでえとuenoさん
















M中さんの釣り座














最初の釣り座





















釣りスタート






























































木っ端に包囲されていました











































暇だと干し物を作りたくなります





右前方の根回りで喰いました







ありがとう 青瀬


ラーメン秀 最高です!


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